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実兄義兄

「なぁ…兄貴にお前のこと紹介したいんだけど。」

学校からの帰り道。意を決したように早口で話す彼を見れば、真っ赤な顔を俯かせていて表情は読めない。
しかしその言葉に、相当な勇気が込められていることは容易に想像がつく。

「…いいんですか?」
確か、お兄さんは隼人君のことを溺愛していて、彼に近づく男は完膚なきまでに叩きのめされる……という話を聞いたことがある。


「骸がよければ…だけど。」
「もちろん。むしろお願いしたいくらいです。」

上目遣いで伺われてしまえば、当然、断るなんてできるはずもない。

それに、「帰りが遅いと怒られる。」という理由で毎日6時には隼人君を家に送り届けている。
この面会で、僕のことを少しでも信用してもらえれば、隼人君に課せられた家庭内規則が軽くなるかもしれない。


「でも、兄貴おっかねぇから…。」
「大丈夫ですよ。」


さすがに弟が連れてきた恋人を、(親でもあるまいに)いきなり殴りつけるなんてことはないだろう。
それに隼人君の兄ということは、きっと彼に似てとてつもない美人だろう。

(むしろ、会ってみたい。)

―――――そんな淡い期待は、見事打ち砕かれることとなる。








+++++++++++++








「お帰り隼人。
隣のは……当然友達だろうな?」

ただいまー。と扉を開けた玄関で待っていたのは、
スラリと伸びた高い背に、きゅっと締まった細い腰、かわいいピンクのエプロンと、白い肌。
口にはタバコ、綺麗な金髪、見事なまでの青い瞳、
そして何故か巻いた眉に、きっちり着込んだ黒いスーツ、額に浮き出た青い筋。


とても美しい…という点ではイメージどおりではあるが、纏う空気が
(とてもカタギには見えませんね…)

どこぞのマフィアのボスよりよっぽど怖い。
二、三人…いや、確実にもっと殺っているオーラがでている。
本当に血が繋がっているのか……否、同じ空間で生活していることすら疑わしい。

「あ、兄貴…
今日は、こ、恋人連れてくるって言っただろ。友達じゃ、ねぇよ。」

そんな兄に、たじろぎながらも説明する隼人君は、
いつものツンケンした態度とは打って変わって、大人しい。

極度のブラコン兄弟だ。とは聞いてはいたがここまでとは。
…正直先が思いやられる。


「恋人?
………はっ、冗談だろ。」

吐き捨てるような物言いが勘に触るが、ここでキレたらこちらの負け。
どうにかして僕自身を気に入ってもらわなければいけない。

「初めまして。隼人君とお付き合いさせて頂いております、六道骸と申します。」

丁寧に頭を下げる。恋人の家族に対しては最大の敬意を払わなくては。

「おい隼人。」

「なんだよ。」

(…完全に無視ですか。)
僕には目を向けず、依然厳しい態度で隼人くんへ問いかける。



「お前、今日恋人連れてくるっつってたよな。」

「言った。だからこうして、
「何で男だよ!普通可愛いレディーだろ?」

「女とは言ってないだろ!」

「普通、弟の恋人って言ったら女だと思うだろーがよ!
そう思って、おもてなしの料理まで準備しちまったじゃねーか!」

え、男が相手だってことも伝えてなかったんですか!
隼人くん…そこは事前に説明しておいてくださいよ。


「でも、兄貴の恋人だって男じゃねーか!!」

(お兄さんの恋人も男!?)
…そういうことなら、まだハードルは低いか。


「そうだけど、こんな優男じゃねぇよ。」


や、さおとこ…
この兄弟喧嘩ともいえる状況で、兄から浴びせられる僕への罵倒でだんだんとHPが削られていく。

「だいたいなぁ…おいっ、てめぇちょっとツラ見せてみろ!!」

そういうや否や前髪を掴まれ、強引に上を向かされる。


「っ、」
「やめろ兄貴!!」

掴まれ、引き上げられる髪が痛く、暴力ともなんとも言える状況。
それなのに、至近距離で見つめられたコバルトブルーに僕自身が引き込まれていく。

「……まぁ、ツラ構えは悪くねぇな。」

自分自身でも、顔に関しては自信があるが
金髪碧眼のこうも整った顔に見つめられてしまえば、自信喪失もいいところだ。

「兄貴!離せよ!!」


必死に僕の髪から手を引かせようとする隼人君の行動も虚しく、じっと見つめる余裕の表情。


「ふーん。まぁ、顔については次第点ってとこか…」

お気に召したのか、召さないのか。どちらともとれる言葉を残して掴んでいた前髪を離した。

「骸!わ、悪い大丈夫か!?」
「…えぇ。」


唖然と立ち尽くす僕に、心配そうに寄り添う隼人君。
なに、兄弟でこうも違うものなんですか…?

「こんなモヤシのどこがいいんだか。」
とまだ、僕を罵りながら優雅にタバコに火をつける男に、若干…いや、殺意が沸く。

しかし、僕を心配そうに見つめる隼人君の緊張を少しでも和らげようとそっと微笑むと、
少しの間大人しくしていた天使の容姿をした悪魔(もはや骸には悪魔にしか見えない)からとんでもない爆弾が投下された。

「ところでお前ら、どっちがネコなの?」

「「は!?」」


次はセクハラですか!?
と叫び出したいのを抑えながら、チラリと隼人君の方を見れば、
真っ赤な顔して口をパクパクしている。

可愛い…ですが、その反応で一目瞭然ですよね。



「ふーん、なるほど。…ってことは六道、お前がタチか。」

「そうなりますね…」


あー、このパターンはなんとなく「ウチの娘を傷物にしやがって!」的な制裁でもくるんでしょうか。
そりゃ、この溺愛加減から言うと間違いなく殴られるでしょうね…、まぁ僕も男ですし殴られるくらいで許してもらえるのなら安いものです。

そう思い覚悟を決めていると、意外にも構えていた衝撃はこず、
「ちょっとこいよ。」
そういって強引に手を引かれ、部屋の中に通された。

「ちょ、兄貴どうしたんだよ!?」


突然の兄の行動に驚いているのだろう。
何がなんだかわからない様子の隼人君が、僕と兄を追って後ろから小走りについてくる。


「えっと…お兄さん?」
「お前が二度と隼人を抱けねぇように、今から開発してやる。」
「?…それはどういう……?」


「俺が、お前を掘ってやるっつってんだよ。」
(………ほる。っっ掘る!!?)

「え、ちょっ…はぁ!?は、隼人君!!」
「あ、兄貴冗談だろやめてくれ!!」


「ははっ、冗談じゃねぇよ。おら、来い。」

慌てる僕たち二人を完全に無視。
振りほどこうにも、引かれる腕が異常に強く、全く歯が立つ様子もない。
(こんな細い身体のどこにこんな力が…!!)


「よっと、」

ボスンと振り投げられたソファに倒れこむと、上から圧し掛かる愛しい人の兄。

「ちょっ…!!」

「振りほどけるモンならやってみろよ。
ま、無理だと思うけどね。」

俺の方が強いし。

ニヤリと笑い、豪快にジャケットとエプロンを脱ぎ捨てた兄の妖艶な笑みに、必死で抵抗したが全く歯が立たず
ぴくりとも動かない押さえつけられた自分の身体に舌打ちをしたと同時に、首筋に落ちてきた、兄の暖かい舌の感触に、
(本当に喰われる…!!)
と背筋が凍りつき顔面を蒼白にした僕を助けたのは、

隼人君が泣きながら電話した為にすっ飛んできた、兄の恋人らしき人だった。





end


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