スポンサーサイト



この広告は30日以上更新がないブログに表示されます。

広大無辺に迷惑

 

「じゅぅぅぅぅだいめぇぇぇぇぇぇ!!!」
「わっどうしたの獄寺くん!」

ノックもせず、ましてや当人の許可もなく他人の部屋に入ることなんて絶対にない獄寺が、
敬愛する10代目の執務室を通り越し、秘密の地下室(拷問部屋)へとノック等一切なしで泣きながら駆け込んできた。

「ご、獄寺くん、落ち着いて…」

沢田の懐にタックルする勢いで抱きついてきた獄寺に困惑する沢田。
普段の冷静な彼ならば、10代目に抱きつくなんてコト、絶対にしない。

「どうしてしまったんですか、隼人君は……」

普段ではありえない彼の様子に、多少のことでは驚きも関心も示さない六道でさえも唖然としている。
まぁ、獄寺への関心は元から異常にあるのだが。


卑猥な玩具が点在する拷問室には、
泣き喚く獄寺、困惑する沢田、成り行きを見ている六道、
お仕置きが終わり開放された山本の4人がいた。

「雲雀さんと、うまくいかなかったの?」

優しく慰めるような沢田の言葉に、時間をおいてコクリと小さく頷いた。

それを見た山本は沢田の後ろでガッツポーズ。
その山本を骸が膝で蹴り上げる。

(うまくいかなかったって…
事情は知りませんが、両思いなんでしょう?)

他人が見ても相思相愛の二人。まだくっついていないのかと、何年もどかしい気持ちで二人を見てきたことか。

(……本当に甲斐性なしですね、雲雀くんは。)

「いてっ、いてぇ!」

いらいらする気持ちを、目の前の山本に何度かぶつけた六道は、
最近ずっと調子の悪そうだった獄寺と、必死で慰める沢田を見て、なんとなく状況を理解する。

「ね、獄寺君。
雲雀さんに何言われたか、細かく教えてくれる?」

泣いてばかりの今の獄寺じゃ、何も把握できない。とやさしく沢田が宥めていると、
突如、顔を上げた涙目の獄寺に、さすがの沢田もクラリとくる。

「ひっく、じゅぅだいめぇ、むくろ…」
「な、なに…」
「どうしたんですか…」

切羽詰ったような声色に「あ、いやな予感がする。」と思ったが、時既に遅し。

「誰でもいいから俺とセックスしてくれ!!!」


「「はぁぁぁ!!!?」」
「よろこんで!!!」


baby baby baby

突如の獄寺の告白に、目玉が飛び出るかと思うほど驚いた沢田と六道。
獄寺の言葉をもっとも早く理解し、受諾する返事を出した山本は、
素早い六道の対応によって、山本が獄寺に飛び掛る前に、
開口された触手ボックスにて締め上げられている。


「く、るし……!!」
「隼人君、滅多なこと口にしてはいけませんよ。」
「そ、そうだよ獄寺くん!」

歯切れの悪い沢田は、容赦のない力で触手に締め上げられる山本を見上げ、肝を冷やしている。
(良かった……骸がいて。あやうく、ヤっちゃうところだったよ。)

本当、危ない奴らである。

「据え膳喰わぬは男の恥って言うしね。」
「……何、仰っているんですかボンゴレ。」

恐ろしいほど冷酷な目で見下ろされて、
あ、やべ声に出てたか…と思ったが、まぁ良い。どうせ骸しか聞いていない。


「とりあえず、雲雀くんとのやりとりを教えていただけませんか?」

軽蔑された眼差しを沢田に向けたまま、腕の中の獄寺を自分の方に引き寄せ、話をさせる。

(くっそ、似非紳士め……!!)

獄寺を腕から取られた沢田。
六道を心の中で罵倒しまくるが、実際現時点での安全牌は六道一人である。


六道の膝に座りながら、ぼそぼそと雲雀との遣り取りを事細かに説明する獄寺。
六道に正面から抱きつくような格好になっているが、切羽詰っている獄寺本人は、そんな構図に全く気付いていない。
六道は持ち前のポーカーフェイスで誤魔化してはいるが、獄寺に正面から抱きつかれるという状態が心なしか嬉しそうだ。

「兎に角、雲雀さんのところに言って話したは良いけど…
かくかくしかじかなわけか……。」

六道の話術でこれまでの流れを聞き出した。
沢田は心底、雲雀のその対応に呆れ返ったようだ。
絶対的なチャンスを棒に振ったその男に殺意すら沸く。
(俺の獄寺くんを孕ませといて…!!もう、なんで獄寺くんはあんなDV男がいいんだろ!)

ちゃっかりと自分のものにしている厚かましさも、
先程の必殺☆涙目&上目遣いをモロに喰らった沢田は、ほぼ正常な思考回路が作動しておらず気付きもしない。


そんな状態の沢田はさておき、
「だからってセックスしてくれって……それはないでしょう。」
六道は意外とマトモだった。

「いいですか隼人君、男というものはですね……」

普段ド変態で通っている六道とは思えない紳士っぷりを発揮し、先程の「セックスしてくれ」発言を咎める。

「だって、雲雀が…」
「わかっていますが、そんなことしたって貴女にはなんの利益もないでしょう?」

六道に静かに叱られて半泣き状態の獄寺だが、そんな彼女に心を乱されることもなく、淡々と話す。

(骸のやつ……今まで、ただの変態とか思っててごめん。)

六道のあまりに完璧な対応に、自分の心がどれだけ汚れているかを思い知らされる沢田。
そして完全に忘れられているが、依然として締め上げられている山本。

「理解していただけましたか?」
「ぅ、ん……」

もう完全に泣いてしまっている獄寺の頭を、自分の肩口に預けさせ、
綺麗な銀髪を手に絡めながら頭を撫でる六道。

「骸……変態だと思っててごめん。」
「……全くですよ。
まぁこの部屋に貴方達がいなかったら、流石の僕でも頂いてますよ。」
「おい。」
やはり、六道も同類であった。

「それよりも、話を聞いた限りだともうすぐ雲雀君も隼人君を追ってこの部屋に入ってきそうな気がしますが……」

六道のその発言にビクリと身体を強張らせた獄寺。
大丈夫ですよ。と優しく背を摩る六道に、
とりあえず膝の上から獄寺君おろせよ…と思ったが、それを口にするより先に

「獄寺っ!!」

図ったかのようなタイミングで拷問室の扉を蹴破り登場した雲雀。
驚いて顔を六道の肩口から顔をあげた獄寺が見た雲雀は、
息を切らし、汗までかいている。どうやら全力でアジト内を探し回っていたらしい。

「なに、その体勢……」

蹴破って入った部屋の中央に、雲雀にとって宿敵である六道の膝の上に獄寺が乗り、
腕の中にすっぽりと納まっているのだ。
眉間に皺がよるのも頷ける。

(あーぁ、一番面倒なときに来ちゃったよ。)

「おい、獄寺から離れろ。」

面倒そうな沢田は無視し、
殺気を振り撒き、六道を睨みつける雲雀。

「おやおやおや、」

そんな雲雀の様子にニヤニヤしながら、わざと獄寺の頭を引き寄せる。

「っおい…!!」
「ちょ、むくろ…!!」

やめてくれ!と慌てる獄寺に気付かれないように、そして雲雀に見せ付けるように頭部に口付けを落とす。


「っ、やめろ!!」

素早く、予想以上に強い力で獄寺を奪い返すと、自分の胸に獄寺の顔を押し付け、
獄寺から見えないよう、そのままの体勢で六道の顔面に回し蹴りを喰らわす。

「ぐっ…!」
「わっ、ちょ、ひばり…!!」

状況を理解していない獄寺は、雲雀に抱きしめられていることに驚き声を上げるが、
そんなことはお構いなしな雲雀は、ぎゅう、と獄寺を抱きしめ、六道が口付けた場所を袖で拭う。

「今回は、僕が悪いから大目に見るけど……」
「ひ、ばり?」

恐る恐る見る獄寺の顔を乱暴に両手で挟むと、そのまま引き寄せ、
見せ付けるように、思い切り口付ける。

「ん、んむぅーーーー!!」

「うわぁぁぁぁ!!雲雀やめてくれ!俺の獄寺になんてことするのなー!!」

触手ボックスに絡まれたまま、ジタバタ暴れる山本に、
蹴られた頬を押さえ、目が据わっている六道。

「っはぁ、…なに、すんだ馬鹿っ!」

真っ赤な目で睨み上げる獄寺を優しく見つめた後、自分の腕の中に戻し、

「次、僕の女に手ぇ出したら殺す。」

暴れる獄寺を抱え上げ、一切振り返ることなく拷問室を後にした。


広大無辺に迷惑
(これでようやく、くっつくのかな。)
「……略奪愛って燃えますよね。」

「やめろよ、頼むから。」

 

 

END

 

 

more...!

予想以上に最悪

本当の父親は雲雀さんだけど、
日本の血をひいているから、山本が父親でも大丈夫。

だなんて、どうしたらそんな飛びぬけた回答がでてくるんだろう。

山本に頼むくらいなら雲雀さんに直接話したほうが簡単かつ適当だ。


獄寺くんの気持ちも分からなくもないけれど、
やっぱり頭、おかしいよ。

「オレ……獄寺と夫婦になれるのは正直嬉しいけど、
雲雀と獄寺の子供を育てるのは、複雑だ…」

お前もお前だ!悩まず断れ!!

baby baby baby

「あ、ちょっ、10代目!!」

山本に頼みに行ったところ、明確な返事を貰う前に
たまたまその場に居合わせた10代目に、
「バカに頭を下げる前に、雲雀さんに報告してきなさい。ボス命令です。」と冷たく言い放たれ、
部屋を追い出されてしまった。

それができないから、下げたくもない頭を下げて
山本なんかに頼んだというのに。……ん?バカって誰だろう。

まぁいいか。
それよりも、こうなったらもうシングルマザーしかない。
きっと父親は誰だと問いただされる機会が増えるだろうけど、この際それは我慢しよう。
行きずりの相手との子供だから相手なんかいない。とでも言っておけば丸く済む。

良くも悪くも、真実を知っているのはヴァリアーの一部と、10代目と山本だけだ。

(よし、この作戦で行こう。)

きっと相手がいないなんて言ったら、シャマルは怒り狂うと思うけど、背に腹はかえられない。
そうと決まれば出産のいろはを、姉貴に聞くのみ!(姉に出産経験はない)
そう思い、とりあえず姉貴のところにでも行くか。と踵を返すと、

「獄寺くん、雲雀さんに言いに行かなかったら右腕からおろすから。」

俺の考えを見抜いたかのようなタイミングで扉が開き、一言だけ告げると
また部屋に入っていかれてしまった。

流石、ブラッド・オブ・ボンゴレ。
俺が一生ついていくと決めただけのことはある。
扉越しでも相手の考えが分かるなんて、恐ろしい御方だ。

10代目の素晴らしさは重々良く知っている。
そんな10代目の右腕という有難いポジションを俺は恐れ多くも頂いている。

しかし今回の一件で、俺の「右腕」という称号が剥奪されてしまいそうになっている。となると
………言いに行くしかないのか。

「はぁ、」

雲雀に言おうがどうしようが、どうせシングルマザーとしてやっていかなくてはいけないのだから、
わざわざ報告しに行く必要なんて微塵もないのに。

雲雀に直に「一人で育てろ」とでも言われたら余計惨めだ。
それに自分の子供が出来たなんて知ったら、もし次セックスする機会があったら、
きっともうあんなに激しく抱いたり、ナマのまましたりなんてしなくなるに決まってる。
他の、子供ができない女のところに行ってしまうかもしれない。

………行ってしまうかもしれないって何だ。
別に良いだろ他の女のところに行ったって。てゆーか、何考えてるんだ俺。

もやもやした気持ちをそのままに、とりあえず10代目からの命令を破る訳にも行かず、
姉貴の部屋に行くのは諦め、財団へと続く道を歩く。

 

どうせ子供ができたと一言いうだけなのだからと、ごちゃごちゃと考えるのをやめるために、
先ほど10代目が扉を開けた時、秘密の地下室と呼ばれている拷問室に何故か引き摺られて行く山本を思い出し、
拷問室に常備されている玩具のリストを頭の中に羅列する。

(バイブ、手錠、足枷、口枷、指錠、前立腺刺激具、とあとは普通の拷問具…
アイツ、よくあの部屋に連れて行かれるからなぁ……あんなとこでアイツ、ナニされてんだろ。
10代目とあの部屋で楽しむ…なんてことは考えられないし、
また仕事でなんかやらかしたのか?一緒に任務に行く時は、ヘマなんて一度だってしねぇのに。)

よくわかんねぇなー、男の世界は。
なんて適当に自分の中で消化した獄寺だが、
本当は仕事ではなく、獄寺絡みのことでその部屋は使われているだとか、
今回は、獄寺の誘いを断らなかったというだけで、拷問室行きとなったことは、
当の本人は全く気付いていない。

 

 

 

 

 

 

 

 

+++++++++++++++

 

「草壁」

「おや獄寺さん、こちらに来るなんて珍しいですね。」


財団へと続く道を遮るように立っていたのは、雲雀の右腕(?)の強面草壁だ。
相変わらず厳つい容姿をしてやがる……


なんとなく、俺と草壁は右腕同士、どうも馬が合うらしく、
雲雀が留守でいない間、よく一緒に食事をしたりする。(本当は雲雀の命令で、獄寺に悪い虫がつかないか見張らされているだけ)

「雲雀、いるか?」

「恭さんなら中にいらっしゃいます。どうぞ」


誰も通さないように立たせているハズなのに、俺は顔パスで通れるなんて…
そうか、雲雀にとって都合の良い時に気軽にヤれる女だって知ってるのか。
そりゃ知ってるか。飯食ってる時に、何回か相談したもんな。エッチがねちっこいって。
…いや、でもその時もいろいろ知ってたよな。ってことはやっぱり雲雀が逐一報告でもしてるんだろうな。

なんとなく苦しいような悲しいような気持ちになったが、
情緒不安定なのは妊娠のせいだ。

別に雲雀が公言しようがしてまいが、アイツにとって俺はその程度の存在だろうし
気にする理由なんてない。


むしろ面白可笑しく話されていた方が、こちらとしても気が楽だ。怒れるし。


今は雲雀が俺のことをどう財団で話しているかなんて関係ない。
兎にも角にも、子供ができた。と、10代目命令なので言わなくてはならない。
言いたいような、言いたくないような。
拒絶、されるだろうな。でも、もしかしたらほんの少しでも良いから喜んでくれると良いんだけどな。

……ま、喜ぶだなんてそんなことありえねーよな。
やっぱり、言いたくねぇ。

「……雲雀、入るぞー?」
「どうぞ。」

ボンゴレアジトと財団を隔てる扉を静かに空けながら掛けた言葉。
その返事が思ったよりも近い位置からで多少驚くが、
おおかた草壁から連絡でも入っていて入口付近で待っていたのだろう。


「着物に着替える?」
「いや、少し話しがあるだけだからやめとく。」
「分かった。」
本当は着物以外の入室は拒否してるんだけどね、キミは特別だ。
と言われたけれど、
(あぁ、ヤるのに着物は脱がすのが手間なんだろうな。)
それなら俺だけじゃなく、財団に来た女全員が特別の間違いだ。
というか、ただのタラシなのか。
自分の欲求に従順というか…。

こうやってたいていの女はコイツに堕ちるんだろうな。俺然り。
……俺然りってなんだ。別に俺はコイツに惚れてるわけじゃねぇ。


「っち、今日はヤるために来たんじゃねぇぞ。」
「はぁ?」

あまりにも間抜けな返事と自分の考えに、
なんとなく恥ずかしいような、悔しい気持ちになって見上げるが、

「いや、睨まれても意味分からないんだけど。」

睨んだわけじゃねーよ馬鹿。

「今日は、セックスしに来たんじゃ、」
「もういい、それは分かったから。
とにかくそこ座って。お茶の準備してあるから。」

なんだ、「はぁ?」なんて言うから、ヤるって意味でも分からないのかと思ったのだが、
何か間違えたのだろうか?

とりあえず言われたとおり客間に通ると、
お茶とお菓子の用意がしてあった。


「……お前、甘いもの食べたっけ?」
「食べないよ。獄寺専用。
最近キミ、苛ついてるみたいだったから用意しておいただけ。」

「…ふーん、」

やけに今日は甘いこと言うんだな。と思ったけど口に出すのはやめておく。
どうせ、この甘い菓子も今の言葉も、数ある女に使ったうちの1つに過ぎない。

俺だけが、雲雀の一言一言に反応しているみたいで悔しいからな。


「草壁に用意させたのか?」
「違うよ。」

じゃぁ草壁以外の部下か。

「僕が買ってきたんだよ。」
「………そうか。」

なんとなく、居心地が悪い。
雲雀が選んだというだけで、少なからず喜んでしまった自分を悟られていないか心配になる。

それに先ほどから、甘い和菓子を租借する俺を、
普段よりも幾分と柔らかい目で見ていることにコイツは気が付いているのだろうか。

「……うまい」
「表情見てれば分かるよ。」
「……そうかよ。」
じっと見られてるのが気まずいんだよ!

なんだ?まさか俺の腹に自分の子が出来たことでもバレてるんじゃないのか?
それとももしくは、本命の女に見立ててんのか?

「お前、そういう目で見るな。」
「そういう目って?」

「だから…なんつーか、嬉しそうな目」
「…分かるの?」

「分かるよ。何年一緒にいると思ってるんだ。」
「そう。」

短い返事だけして、また嬉しそうな目で見てくる。
こっちは話が途切れて気まずいというのに。

確かにコイツは表情が少なくて、分かりづらい部分もあるけれど、
中学からの付き合いだ。流石に少しは分かるし、コイツも随分丸くなった。

……けど、
「そんな目で見られたって、今日はヤらねーぞ。」
「……そんなに釘刺して、キミは一体僕をなんだと思ってるの。」


呆れたように、俺から視線を外した雲雀は
少し機嫌が悪そうな目をしている。いつもの雲雀になった。

つーか、機嫌悪くするなんて、
やっぱりヤりたかったんじゃねーか。

ま、雲雀だって男だし、セフレみたいな関係になってる奴が尋ねてきたら、
そういう気分にだってなるよな。

「いつも俺のトコ来る時は、セックスしかしねぇだろ?」
「もういい。それより話って何?見たところ仕事のことではなさそうだけど。」

あ、完全に機嫌が悪くなっちまった。なんだよ、本当のコト言っただけなのに。
まぁどのタイミングで話したって結果は変わらないから、どうでもいいけど。

「あのなぁ、実はお前のこ…………」
「…僕の何?」


「いや、だから、こ……………あのなんだいわゆるアレだ。うん。」
「……なにも分からないんだけど。」

あれ?意外と、なんか……

軽ーく、「お前の子供できたみてぇ」とでも言うつもりだったのに、
いざとなると、言えねぇ!

顔から火が出る程熱い。それに心臓バクバク言ってやがる。
仕事中でもこんなに緊張することなかなかねぇぞ!


「……なに、その表情。」

そんなこと言われたって恥ずかしいんだよ!
悪かったな真っ赤な顔してて!!

「……もしかして『僕のこと好き』とか?」
「違う!」
「………そう。」

分かれよバカ!「こ」まで言ってるんだからその後は予測変換でなんとか出来るだろ!!

……ちくしょう。雲雀は悪くねえ。
一番悪いのは俺だ。子どもが出来たのはきっとあの日のせいなんだ。
毎回コイツがナカ出ししたやつ、しっかり掻き出してたのに、
たった一回、一回忘れただけでこんなコトになっちまうだなんて…。

それにしても、こんな言いにくいなんて計算外だった。
こんなことなら雲雀の機嫌が良い内に、話しておくべきだった。

……あれ?さっきより更に機嫌悪くなってねぇ?


「で、何早く言いなよ。」
「え、ちょ、時間くれ……案外言い難い。
ていうか、何でお前機嫌悪くなってんの?」

「うるさい。僕の気が短いの知ってるでしょ。」
「っ分かってるから待て!」

なんなんだこの威圧感!
言いにくい交渉だって、クソジジィの機嫌取りの言葉だって言えるだろ!?俺!!


子供ができた、子供ができた、子供ができた、
よし、言える!!

「っこ、子供が、で……」
「なんだって?」

「こ…………」
「………」

「………」
「―――できたの?」


「…ぉぅ、」


腹を押さえていた俺に気が付いたのだろう。
………雲雀の驚いている顔なんて、初めて見た。


「な、子供…?冗談でしょ。」
「悪ぃ、冗談じゃ…」


そこまで聞くと、困ったように頭に手を当て顔を伏せた。
不機嫌だった空気はなくなったが、これはこれで……

「ひばり……」

困るっていうのは分かっていたけど、まさか顔を伏せられる程だとは…
そんな態度をさせるくらいなら、堕ろせと言われたほうがまだマシだった。

「ひ、ばりごめん…」


そのまま、黙り込んでしまった雲雀。
なんと声をかけるのが正解なのか分からない。

さっきまで菓子を食べる俺を嬉しそうに見ていた雲雀とは全然違う。
纏う空気も、なんだか話しかけるな。と言われているようで、とてもじゃないが何も言えない。

早くこの場から逃げてしまいたい。
それよりも、こういう反応されるなんて分かりきっていたはずなのに、
実際、目の当たりにすると、思った以上に辛い。

逃げたいというよりは、むしろ消えてなくなりたい。


あまりの重たい空気に、微動だにできない獄寺。
沈黙の中、先に口を開いたのは雲雀だった。

「……どうするの、その子供。産むの?」
「え?」

「産むの?」
「あ、あぁ…10代目がおろすのは許さないって。」
「そうだろうね。」


また黙り込んだ雲雀は、一切顔をあげようとしない。
「最悪」と身体全体で伝えられているようで、居心地が悪い。


「俺、ちゃんと一人で育てるし、お前に迷惑掛けたりしねぇから。
……第一、子供ができたのは俺のミスなんだ。ちゃんと、後始末しなかった俺が悪ぃ。
10代目が仰ったからとかじゃなく、……俺は今、コイツを産みたいと思ってる。
半分、俺のじゃない血が流れてるんだ。俺の手では殺せねぇ。
本当は少しでも喜んでもらえたら…なんて甘い考えで言った俺が悪かったんだ。
ははっ、拒絶されるなんて分かってたのに。ちゃんと一人で育てるから。」

そこまで一気に捲くし立てる。もう、コイツと顔合わせてるの、辛い。

「悪かったな、時間とらせて。帰るわ」

居た堪れなくなり、腰を上げると、
俯いた表情のまま手を取られる。

「雲雀、」
「……誰の子?」

「あぁ?」

何、言ってんだコイツ。

俺に答えを施すように、
ゆっくりと顔を上げた雲雀の目には、怒りの色が含まれている。

「許せない。」
「なに…?」

「キミがどれだけその男が好きなのかなんて知らないし、興味もない。
それに僕とキミは付き合っている訳でもないけど、
少なくとも僕はこの十年間、キミだけを見て生きてきたんだ。
キミにそんな台詞を言わせるだなんて……その男、一発くらい殴らせてもらわないと気が済まない。」

……何言ってんだこいつ?
確かに付き合ってもないし、十年間一緒にいたけど
今、俺すごいこと言われなかったか…!?


「――――っ、」
「赤くなってないで答えなよ。」
「ばっ、ばかお前…っ!」

赤くなってないでって、無理だろ!
俺になんて言えっていうんだよ……!

「今までお前そんなこと一言も…!!」
「今はそんなこと関係ないでしょ。それに、今言ったってもう手遅れだ。」

「馬鹿か!」
「そうだね。僕の知らない間に、大事な女を他の男に取られてるんだから、そのとおりだ。」


違うだろ!そうじゃなくて…!!
なんでこんなにコイツ鈍感なんだ!!
今までの流れで、どうして相手=自分っていう式が成りたたねぇんだよ!

「で、相手誰なの。」
「〜〜〜っ、テメェだアホ!!」

自分が今、真っ赤な顔してるのは分かる。
叫ぶように言った答えに、不機嫌そうだった眉間の皺が取れ、
本日2回目となる驚いた顔で、俺を見ている。

「ぼ、く…?」
「他に誰がいんだよ。」

緩んだ手の拘束。
雲雀がまた黙り込み、何かを考えていて時間がかかりそうなので、とりあえずその場に座る。
顔を俯かせていないのが、先程と違う唯一の希望だ。

「…………それ、本当に僕の子なの?」

(考えて出した言葉がそれかよ。)

ドラマでこの台詞が出たら、間違いなく平手が飛んでくるであろう台詞。
でもコイツがいうと、妙にしっくりくる。

「お前以外誰がいるっているんだよ。」

なんとなく、伺うようなその台詞に可愛ささえ感じる…が、次の一言で獄寺はキレた。

「今まで10年間一切できなかったのに、そんな急にできるわけないじゃない。
……僕じゃない男の子供だよ、絶対。」

「っなんだよその言い方!!ふざけんな!
お前だって言ってるだろ!!」

まるでどこぞの男に責任転嫁するような言い分に、堪忍袋の緒が切れる。(もともと気は長くないが)

「どうして怒るの。第一どうして僕って決め付けるの。他にも男、いるんでしょ?」
「っもういい!!」

信じらんねぇ、信じらんねぇ!!
まるで俺が、誰にでも股開くみてぇな言い方じゃねぇか!!
みてぇじゃねぇ。そう言ってるんだこの男は!!

「誰とでも寝れるのはお前だろ!!一緒にするんじゃねぇ!!
俺は、お前としかシたことねぇのに!!」

「え、な……そうなの…?」
「うるせぇ!馬鹿にすんな!!
お前が、俺のこと少しでも好きかもしれないなんて思ったのが馬鹿だった!!」

「は…?」
「だから言いたくなかったんだ!!」


「ちょ、待ちなよ獄寺!」

もう知らない!絶対知らない!!
あんなに甘い言葉はいといて、
結局相手が自分だと知ったとたん、手の平かえすような奴なんだ!!


「獄寺!帰るな!!っていうか走るな!!」

うるせー馬鹿!!
やっぱり言わずに一人で育てればよかった。

他にも女なんてたくさんいるのに、
ちょっとでも、一瞬でもコイツに期待した俺が馬鹿だった!!


予想以上に最悪
(うわぁぁぁん、じゅうだいめぇぇぇぇ!!!)
「草壁止めて!!」
「へ、へい恭さ……ぐふっ!!!」

 

END

 

more...!
prev next