※ 雲獄で甘々です。
昼下がりで、空気が1番暖かい午後3時。
普段の休日ならば、朝…というよりも前日の夜から獄寺の家に泊まり、
共に休日を過ごすのだが、今週は風紀の仕事が多く、獄寺の家に泊まることができなかった。
やっと、仕事に区切りがつき、愛しい恋人と、残りの休日を過ごそうと、獄寺のマンションへと足を進める。
窓から入っても、インターホンを鳴らして出迎えてもらってもいいのだが、
せっかくなので、つい最近恥ずかしそうに手渡してきた合鍵を使って入ることにする。
その時の映像を頭の中でリピートし、緩んでしまいそうになる頬を、歯を食いしばって耐える。
鍵穴にソレを差し込み、静かにあける。
リビングにいると思っていた人影が、そこには無く、寝室の方から、かすかに人の気配がする。
(……まだ寝てるのか…?)
いや、だがもう3時を過ぎている。
普段の獄寺なら、少しでも時間があれば、ボンゴレの為とかなんとか言って、
パソコンで情報収集するなり、ダイナマイトの手入れをするなりしている時間だ。
たとえ昼寝をしているのだといても、リビングのソファーで寝る為、寝室に篭っているなんて、やはりおかしい。
少々不安になりつつも、寝室のドアを開けると、
「………ぅ、はぁっ…、」
「……隼人?」
ベットの上で、何かに苦しんで悶えている、
隼人が居た。
+++++++
「……38.5度。………何でもっと早く連絡してくれないの。」
苦しさで、ベッドで何度も寝返りを打つ獄寺に、無理矢理体温計を挟み込み、熱を測らせた結果がコレだ。
普段からそんなに体温が高くない獄寺にとっては38度越えはかなりキツイものがあるようだ。
「…薬は?」
「…の、んで…ない…、」
思った通りの言葉にため息が出る。
「…ご飯は食べたんだろうね?」
「……」
フイッと逸らされた視線に、またしてもため息が漏れる。
「…昨日の夜は食べた?」
「………」
……一体いつから食べてないんだ。
「そんなんだから体調崩すんだよ。ちょっと待ってて、何か作ってくるから。」
そう告げて、冷蔵庫を開けると。
(あれ……意外と入ってる…、)
いつもなら、ミネラルウォーターと、卵くらいしか入っていないのに、一通り食料が揃っている。
ということは、
(僕の分…かな、)
普段自分の為には料理をしない獄寺だが、雲雀が家に来るときは別。
ハンバーグを作ったり、魚を焼いたり…と、いろいろな物を作ってくれる。
その為に用意したのだと思われる、沢山の食材に、
折角用意していてくれたのに悪いことしたな、とか、
冷蔵庫の中身は沢山あるのに、何も食べてないということは、作るのが億劫なくらい、体調が悪いんだな、
とか、そんなことばかり。
とにかく、これだけあるんだから、雑炊くらいなら作れるだろうと入れられそうな具材を漁る。
「…卵、米、葱、…………よし。」
何が「よし」なのか、自分でも分からないが、これぐらい気合を入れないと、きっと多分できない。
(だって料理なんてしたことない。)
だが、愛する隼人のため、
失敗覚悟で、人生初の料理に挑んだ。
+++++
「隼人、できたよ。」
米は握り潰し。葱は何故か切れず。
卵なんて、冷蔵庫から出す時点で潰れたけど、
意外とまともにできた雑炊…のようなものを、寝室で待っている隼人の元へ持っていく。
「んっ、……ひば、り…俺、すげー寝てた…?」
「うん、多分ね。」
あれから1時間半ほどキッチンで米と格闘していた僕には、隼人が寝ていたかなんて知らないけれど、
僕の手料理から発生した爆発音を聞いて、飛び起きて来なかったところを見ると、多分ずっと寝ていたんだと思う。
「お前、……コレ作るのにどんだけ時間かかったんだよ…」
「………20分くらいだよ、」
コレに関してはね。
残りの時間はキッチンで無残にも異臭を放っているものに使われた。
「…熱いから、気をつけて食べなよ。」
「うん、いただきます。」
スプーンを手に取る隼人に、らしくもなく緊張する。
「………何、心配そうな顔で見てんだよ。普通にうめぇよ。」
そう言われ、ほっと一安心する。
「それ食べたら、ちゃんと薬も飲んでね。」
「おう、」
熱で苦しいはずなのに、ニコニコしながら食べる隼人を見て、
なんだかこっちまで、胸が温かくなる。
「雲雀、美味しかった。ごちそうさん。」
そう言って、薬を飲み、
再び布団に戻る隼人の頭を撫でる。
少し経ち、スヤスヤと寝息が経ち始めたのを確認して、
隼人が食べた食器と、キッチンで待機している異臭物を片付ける為に腰をあげる。
初めて作った料理は、全然楽しくなんて無くて、
自分でも驚くほど失敗したけど、
(隼人のあんな嬉しそうな顔が見られるなら、
また、作ってあげてもいいかな…、)
手料理
(どんなに面倒臭くても、キミの為ならなんでもするよ。)
End