2016-6-4 15:30
かつん、と、男が凪子が差し出したグラスに自身のグラスを合わせてきた。
「っははは!!大したものではないか雑種!」
「正解してたのなら何より」
ほっ、と凪子は内心胸を撫で下ろした。先程からやけに上機嫌な男だが、ふとしたところで随分冷たい殺気を見せる。気紛れに人を殺す、殺せるタイプなのだろう。人が小さな虫を躊躇いなく叩き潰せるように。
下手を打てば、簡単に戦闘になるだろう。どうやら今までの会話を思うに、調子に乗っている様子の時は乗らせておくのが吉なようだ。凪子は適当に話を合わせることにした。
「しっかし、真名バレしたのに随分のんきなもんだね」
「知れたところで何ができるという話よ」
「まぁ、確かにこれといった弱点は思い付かないかな」
「そもそも貴様はサーヴァントでなければマスターでもない。我も表立って動くことはしばらくないであろうしな、貴様一人に名が知れたところで困ることなどないだろうよ。そうさな…我の存在を他の陣営に教えるだとか、邪魔をしようというのならそのうち殺す日が来るかもしれんがな?」
「あー、お互いラッキーなことにそういう気は一切ないですよ」
「フン、であろうな」
ぐい、と男、ギルガメッシュはグラスをあおった。随分と飲むペースが早いが、元がサーヴァントであるなら酔うことも早々無いのだろう。
凪子もそれなりに酒には耐性がついているので、どうせならとギルガメッシュにペースを合わせることにした。早い遅いと下手にいちゃもんをつけられても困る。
「…、聖杯戦争で誰が勝ち残るか、そして聖杯をどう使うか、とか、口出すつもりはないけどさ。おたくの神父さん、何がしたいの?なかなか姑息じゃない?そういう典型的な悪役ひっさびさに見たから面白いけど」
「ふふん。教えてやってもいいが…いまはまだ早かろうよ」
「むう。お楽しみか」
「我のことをこれだけ話してやったのだ、少しは貴様の話もしてみせよ」
不意にギルガメッシュが話題を変えてきた。どうやらこれ以上、彼から情報を引き出すのは難しそうだ。魔力溜まりと不審人物の正体が分かっただけ、よしとするしかない。
あとはいかに無事に帰るか、だ。話をしろ、というのなら、それに答え、かつ、面白い話をしなければなるまい。
「えー私の話?でもギルガメッシュってことは前27世紀くらいの人でしょ?私せいぜい前1、2世紀だけど」
「…まさか、それからずっと生きているとでも?」
「ウン」
「……よくもまぁ飽きぬものよな」
ギルガメッシュは凪子の言葉に呆れたようにそう言った。不死をつまらないと言ってのけただけのことはあるということか。
凪子もその言葉に肩をすくめる。
「いやーそれでも結構飽きは来てたみたいで、この前ランサーとライダーの戦い観戦したときはなかなか興奮しましたよ?」
「観戦ときたか!貴様の目的はまさかそれか?」
「観戦することと、それを楽しむための情報を集めること以外に、聖杯戦争に興味はないですよん。…アインツベルンの聖杯が汚れてることとか、大聖杯のこととか?」
さりげなく、敵対する意思がないことをアピールする。無論二人の目的次第では絶対にない、とは言い切れないところなのだが。
ギルガメッシュは楽しげに目を細める。
「それまで知っているか、大したものよ。それは確かに、言峰には知られたくないであろうなァ。アレにとって貴様は厄介なものこの上ないからな」
「おやおや他人事な。アンタ自身にとってはそうじゃない?」
「吠えるなよ雑種。まぁ、我が言峰に全面協力をしているわけでないのは確かだ。我はあやつの演じる道化を見てやっているにすぎん」
「…なるほど、まぁ、そういうことにしておきましょかね」
短い会話の間に、早くも二人のワインボトルが中身をなくした。それに気が付いたギルガメッシュは、ぽい、と空のワインボトルを放った。
「酒が尽きたな。まぁいくらでも貯蔵はあるが…言峰の方も話が済んだようだな」
「あら、そういや声が聞こえなくなってる。……、お暇いただいても?」
「我を興じさせるにしては足りんな。とはいえ言峰に貴様の存在が知られるのも、それはそれで面倒だな。よい、今宵のところは許す」
「光栄なことで。ありがたく頂戴しますよ」
「雑種」
「あれー、名乗ってませんでしたっけ?凪子です凪子」
言峰が来る前に、と手早く帰り支度を済ませ、扉に手をかけた凪子をギルガメッシュが呼び止めた。