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我が征く道は36

ギルガメッシュは、紅い、蛇のような目で、じ、と凪子を見ていた。
見透かされるような目だ。ただ見ているだけなのに凪子をも圧倒してくる威圧感がある。
凪子は臆することなくその目を見返した。圧倒して来はするが、そのまま圧倒されるほど柔でもない。
ぎし、と音をさせて、ギルガメッシュが立ち上がった。
「……貴様、どちらかというと善人であろう」
「?さぁ…善人であるなら、もっと聖杯戦争の邪魔をしてしかるべきじゃない?何が目的かは知らないけど、10年前の災害以上の被害をもたらす可能性が高いものを放置して我欲に走ってる時点で、善人じゃあないでしょ」
「なにも欲に走ることそれだけが悪とはなるまい。かつての言峰のようなことを言うのだな」
「あー、あんまり時間もないんで用件は手早くお願いできますかね?」
ギルガメッシュから視線をそらし、部屋の外の気配を探る。まだ言峰は聖堂にいるようだ。
と。
「…っ」
その間に距離を詰めて前に立っていたギルガメッシュが、だん、と、凪子の顔のとなりに手をついた。
ぐ、と顔が近くなり、横に手をおかれた事で片方の逃げ道が塞がれる。どこか楽しげに口角をあげているギルガメッシュに対し、凪子はげんなりした表情を浮かべた。
「…なんですか〜?近いんですけど」
「善人でないと言うのであれば、なぜ中立者の立場をとる?こちらに来ればよいではないか、言峰の心配もせず存分に観戦できるぞ?」
「あら随分気に入っていただけたようで?」
「たわけ、物珍しいだけのことよ。我が言峰を生かしているのと同義。貴様の場合は、見世物小屋に見物料を支払うのと同じことだ」
「ワァ失礼な。それ最後は殺処分されるんじゃなくて?」
「ククッ、それは貴様次第であろうよ。そもそも不死なのだろう?ならば殺したところで死なんではないか」
つつ、とギルガメッシュの指が凪子の左腕をなぞりあげる。その触り方はやけに艶かしく、この時ばかりは左腕が死んでいてよかったと呪いに感謝した凪子であった。
そんな凪子の気持ちはよそに、ギルガメッシュはその指を首まで持ってきた。
「それに言ったであろう、興が乗ったとな。…神の系譜でないにもかかわらず、神殺しの呪いを受けておきながら死なん奴は初めて見た」
「!!」
「我は気紛れだからな。いつ気が変わらんとも分からんぞ?」
「………、いいや、遠慮しておきますよ」
暗に、さっさと答えを出さねば気が変わるぞ、というギルガメッシュに、凪子は恐れもせずにNOを返した。僅かに苛立ったように眉間をよせたギルガメッシュの、その眉間をとんとんと人差し指で叩き、にぃ、と笑う。

「だってアンタ、手に入れたら飽きるタイプでしょ?」

「…っふ、くはは!!我が貴様にそれほどの価値を見出だしているとでも?」
「まぁそこまで驕るほど間抜けじゃないさ。でも、おまえさんにとって、私を一番楽しめるのは今のスタンスだと思うよ?」
「ふん、よくもまぁベラベラとのたまうものよな。まぁよい。また相手をせよ、それで許してやろう」
「はいはい、ありがたく。失礼しますよ」
す、とギルガメッシュが凪子の前から離れ、またソファへと戻った。
どうやら気が済んだらしい。ギルガメッシュの気が変わらないうちにと、さっさと凪子は部屋の外へとでた。

 言峰がいつやってくるかも分からない。凪子は中庭に出ると同時に跳躍し、教会を飛び出した。
「…っはぁ、疲れた……まさか第4次のサーヴァント、それも時臣が喚んだのが残ってるとはなぁ……ギルガメッシュがどうかは知らんけど、あの慎重of慎重ただし詰めは甘い男が喚んだサーヴァントとなると強いんだろうなぁ…」
面倒になったなぁ、と呟きながら、凪子はぴょんぴょんと木々や電灯を足場に、さっさと寝ようと新都へと向かった。
だが。
「んん!?」
帰り道にバーサーカーの姿が見えたものだから、凪子は慌てて地面に降りた。

我が征く道は35

かつん、と、男が凪子が差し出したグラスに自身のグラスを合わせてきた。
「っははは!!大したものではないか雑種!」
「正解してたのなら何より」
ほっ、と凪子は内心胸を撫で下ろした。先程からやけに上機嫌な男だが、ふとしたところで随分冷たい殺気を見せる。気紛れに人を殺す、殺せるタイプなのだろう。人が小さな虫を躊躇いなく叩き潰せるように。
下手を打てば、簡単に戦闘になるだろう。どうやら今までの会話を思うに、調子に乗っている様子の時は乗らせておくのが吉なようだ。凪子は適当に話を合わせることにした。
「しっかし、真名バレしたのに随分のんきなもんだね」
「知れたところで何ができるという話よ」
「まぁ、確かにこれといった弱点は思い付かないかな」
「そもそも貴様はサーヴァントでなければマスターでもない。我も表立って動くことはしばらくないであろうしな、貴様一人に名が知れたところで困ることなどないだろうよ。そうさな…我の存在を他の陣営に教えるだとか、邪魔をしようというのならそのうち殺す日が来るかもしれんがな?」
「あー、お互いラッキーなことにそういう気は一切ないですよ」
「フン、であろうな」
ぐい、と男、ギルガメッシュはグラスをあおった。随分と飲むペースが早いが、元がサーヴァントであるなら酔うことも早々無いのだろう。
凪子もそれなりに酒には耐性がついているので、どうせならとギルガメッシュにペースを合わせることにした。早い遅いと下手にいちゃもんをつけられても困る。
「…、聖杯戦争で誰が勝ち残るか、そして聖杯をどう使うか、とか、口出すつもりはないけどさ。おたくの神父さん、何がしたいの?なかなか姑息じゃない?そういう典型的な悪役ひっさびさに見たから面白いけど」
「ふふん。教えてやってもいいが…いまはまだ早かろうよ」
「むう。お楽しみか」
「我のことをこれだけ話してやったのだ、少しは貴様の話もしてみせよ」
不意にギルガメッシュが話題を変えてきた。どうやらこれ以上、彼から情報を引き出すのは難しそうだ。魔力溜まりと不審人物の正体が分かっただけ、よしとするしかない。
あとはいかに無事に帰るか、だ。話をしろ、というのなら、それに答え、かつ、面白い話をしなければなるまい。
「えー私の話?でもギルガメッシュってことは前27世紀くらいの人でしょ?私せいぜい前1、2世紀だけど」
「…まさか、それからずっと生きているとでも?」
「ウン」
「……よくもまぁ飽きぬものよな」
ギルガメッシュは凪子の言葉に呆れたようにそう言った。不死をつまらないと言ってのけただけのことはあるということか。
凪子もその言葉に肩をすくめる。
「いやーそれでも結構飽きは来てたみたいで、この前ランサーとライダーの戦い観戦したときはなかなか興奮しましたよ?」
「観戦ときたか!貴様の目的はまさかそれか?」
「観戦することと、それを楽しむための情報を集めること以外に、聖杯戦争に興味はないですよん。…アインツベルンの聖杯が汚れてることとか、大聖杯のこととか?」
さりげなく、敵対する意思がないことをアピールする。無論二人の目的次第では絶対にない、とは言い切れないところなのだが。
ギルガメッシュは楽しげに目を細める。
「それまで知っているか、大したものよ。それは確かに、言峰には知られたくないであろうなァ。アレにとって貴様は厄介なものこの上ないからな」
「おやおや他人事な。アンタ自身にとってはそうじゃない?」
「吠えるなよ雑種。まぁ、我が言峰に全面協力をしているわけでないのは確かだ。我はあやつの演じる道化を見てやっているにすぎん」
「…なるほど、まぁ、そういうことにしておきましょかね」
短い会話の間に、早くも二人のワインボトルが中身をなくした。それに気が付いたギルガメッシュは、ぽい、と空のワインボトルを放った。
「酒が尽きたな。まぁいくらでも貯蔵はあるが…言峰の方も話が済んだようだな」
「あら、そういや声が聞こえなくなってる。……、お暇いただいても?」
「我を興じさせるにしては足りんな。とはいえ言峰に貴様の存在が知られるのも、それはそれで面倒だな。よい、今宵のところは許す」
「光栄なことで。ありがたく頂戴しますよ」
「雑種」
「あれー、名乗ってませんでしたっけ?凪子です凪子」
言峰が来る前に、と手早く帰り支度を済ませ、扉に手をかけた凪子をギルガメッシュが呼び止めた。

我が征く道は34

連れてこられたのはシンプルな部屋だった。この部屋はとうやら聖堂の声が筒抜けになるらしく、低い男の声に加え、凛や士郎の声も聞こえていた。
「こちらの声は届かん」
「!それはなによりで」
ここで会話をしたら向こうにばれるのでは?と、気にする素振りがバレたのか、男は楽しそうにそう言ってきた。察されたことが若干癪にさわったが、そうも言っていられない。
男はぼすん、とソファーに身を投げ、隣接した一人がけソファーに座るよう、凪子に促した。一応室内なので、凪子はコート脱ぎ、促されたままにそちらへ座った。
「…さて、それにしても、時臣、とはな。随分と懐かしい名前を聞いたものよ」
男は、ひょい、とどこからかだしたグラスを凪子に投げて渡した。どうやら付き合えというのは、酒らしい。
凪子は渡されるままにそれをキャッチし、同じく放り渡されたワインボトルも受け取って、手酌でワインをグラスに注いだ。
「ちょいとその娘さん、あァ今ここに来てる子ね、に最近会ったもんでね。彼、私のお得意さんだったから」
「ほう?」
「と、いっても12、3年くらい前の話ですけどねー。…あ、おいしい」
「お得意さん、というわりには随分つれない態度ではないか。裏切った等ということまで知っているのなら、言峰に殺されたことも知っていように」
そう言いながらも口ぶりは楽しげだ。早々にグラス一杯を飲み干した男は、次杯をすでに注いでいる。んー、と凪子は小さく唸った。
「いやー、お得意さんといってもしょせんお得意さんだから…お前さんみたいなタイプを使役するのには向いてないキャラしてたしねぇ、時臣は」
「そうさな。確かに、あれは随分と退屈な男であった」
「だったら、神父なんて仕事してるくせにあんなえげつないもん作る男の方があんたにはよっぽど合ってたろ。相性ばっかりは仕方がないという話さぁ」
「あれは中々に面白い男だぞ?」
「あーのろけは勘弁してくれ、そこまで個人としての興味はないよ」
「クッ、のろけときたか。そういえば、貴様オレの真名までは察したか?」
むくり、と、男は寝転がっていた身体を起こした。値踏みするように、楽しそうに凪子を見ている。

恐らく、これを外せば彼は凪子に対する興味を無くし、身の安全の保障はなくなるだろう。

凪子は本能的にそう感じ、うーむ、とまた唸った。
「……時臣がチョイスした英雄、と思えばいくつか候補はある、けども…なんか聖杯戦争のアーチャーって別に弓で名をはせたんじゃなくてもいいみたいだから、ちょっと特定にはまだ欠けてるかなぁ」
「ほう?候補はあると?」
「まぁ、それなりに」
「ふふん。ならば3つ、オレに問いを投げることを許してやろう」
「3つぅ?そうだなぁ……触媒とか聞くのアウト?」
「時臣がオレを呼び出したときの触媒か?そんなもの知ったことか」
「知らないのかよ。えーうーん…じゃあ、さっき使ってた鎖。あれ、神様用の武器?」
「気付いたか。その通りだ、天の鎖。神性が高まるほど食い込み、逃れることなど許さん代物だ。そういう意味では貴様には神性の欠片もないな。貴様何者だ?」
ふ、と途中で思い出したようにそう男は不躾に尋ねる。凪子は遠慮なくワインをいただきながら、肩をすくめた。
「神様ではないけど不死な何か、かな。とりあえず凪子と名乗ってはいるよ」
「不死、ときたか。またつまらんものよなぁ」
「ほぉ、つまらんときたか。…あぁ、なんとなく分かった気がする、お前さんの真名」
「ほう?」
不死をつまらない、と言ったことが決め手になるとは思わなかったか、男は意外そうに凪子を見た。手に持ったワイングラスが揺らされ、部屋の淡い光が反射される。
凪子は男に向けてグラスを差し出した。
「時臣は慎重な男だ。まぁ、詰めが甘いんだけど。となれば、武器だとかで名前がバレるようなのは選ばない。かといって弱すぎても使い物にならないから、喚ぶとしたら超有名級のはず。さっき私を攻撃したときの武器、あれは全部それなりの宝具級ランクの武器だった。そしてアーチャーということは、お前さんの武器の特徴は単一にではなく大量さにある。つまり、お前さんはたくさんの、でも所有者が特定できないような宝具レベルの武器を持つ者。さすがにそんな英雄はいない。可能とするならば、それぞれが伝承されていく前、無名の時代のそれらを持っていた者、と時臣なら考えるだろう。その上で、不死に興味がない者、となれば可能性がひとつ出てくる。――じゃない?最古の王、ギルガメッシュ」
男の口許が、大きく弧を描いた。

我が征く道は33

「ッ!」
突如空間が金色に光って歪み、鎖が凪子めがけて飛び出した。あまりにも唐突だった上に、避ければ壁に当たり、音がして監督役にバレかねないと思ってしまった為に、咄嗟にそれを避けることが出来なかった。
ぎゃらら、と鎖が四肢に絡み付き、凪子を拘束する。凪子の体が中空に浮く羽目になった。
「(いっ――、あでもこれ、神性持ちに強い鎖だけどそれ以外にはただの鎖だな!助かった、なら今の状態でも壊すことも出来るか。にしてもこの男……なるほど、そういうことか)」
「意外だな、避けんのか?」
どうやら男は凪子が攻撃を避けると思っていたらしい、腕を組んで拍子抜けしたようにそう言った。
凪子は拘束されたまま抵抗らしい抵抗もせず、肩を竦める。
「面倒ごとは避けたい主義なもんで。ここの神父さんに私の存在知られたくないんだよねぇ。一応ここに来たかった目的は大方果たせたわけだし」
「地下のアレに興味でもあったのか?随分と悪趣味ではないか」
「…それを食ってる人に言われたくないなぁ」
ぴくり、と。組んだ腕の指が小さく跳ねた。
すぅ、と男の目が細められる。
そう。凪子はこの男から、地下の魔力溜まりと似た魔力を感じていた。あの魔力は、このサーヴァントを生かすために用意してあるもののようだった。魂喰らいは、サーヴァントへの魔力供給の手段としては、コスパは最悪だが最上のものだろう。
「………ほう。オレを見ているだけというのに随分察しのいいことだな」
「察したことなら他にもあるぞぉ。まず君だが、サーヴァントといっても今開催されている第5次聖杯戦争のサーヴァントじゃあない。そのサーヴァントはすでに七騎揃っているし、何よりサーヴァントとはいえお前さんは生身だ。となれば考えられる可能性はひとつ、前回の聖杯戦争でどうやったかは知らんが肉を得たサーヴァントってことになる。どうかな?」
「フン、当たりだ。興が乗ったぞ女、続けるがいい」
男は凪子の言葉に、細めた目を楽しそうに歪めた。コツコツ、と凪子との距離を詰め、笑いながら視線を凪子にあわせる。
綺麗な男だ。しっかりと筋肉のついた引き締まった肉体と、すらりと伸び、均整のとれた長い手足、整った顔立ち、見るものを魅了させる金糸のような髪と深淵を覗き込むかのような紅い目、透き通った白い肌。さぞかし女性には、あるいは男性にも、その姿は魅力的に映ることだろう。
まぁその程度の美丈夫は凪子には見慣れたものであったのだが。えぇー、とでも言いたげに凪子は彼を見る。
「続きぃ?そうだなぁ…あぁ、確か、第4次聖杯戦争は、最後にセイバーとアーチャー、バーサーカーが残ってたらしいねぇ。その後の大火災で勝者は不明、とあったけど…おまえさんはその中のアーチャーでしょ?」
「ほう?なぜそう思う?」
「簡単さぁ。ここの神父さんは、第4次でアサシンのマスターだった。そして、アーチャーのマスターの弟子だった。そんな人間の元にいる君はつまり、時臣を彼と一緒に裏切ったサーヴァントってことだ」
「…!っ、ははは!!言うではないか!随分と物知りなことよなァ!」
「まぁ、情報収集が趣味なもんでね」
「いいだろう、気に入った」
「へ?」
ふっ、と不意に鎖が消え、凪子は慌てて着地した。何が気に入ったのか分からないが、拘束を解いてくれたらしい。
がっ、と顎を男に掴まれる。
「いや痛い痛い痛い」
「同伴を許す。一時付き合うがいい、女」
「えぇ……?」
「ほう、拒むか?ならば今ここで言峰を呼んでやっても構わんが?」
「………付き合ったら黙っててくれんの?」
「貴様がオレを楽しませればな?」
にやにや、と男は楽しそうに笑っている。意外なことに、嘘を言っている様子はない。どうやら彼を満足させたなら、本当に黙っていてくれるらしい。
あるいは、そうして黙っていた方が彼にとっても都合がいいのか。
少し考えたのち、はぁ、と凪子はため息をついた。
「……まぁいいか、承知いたしました、光栄ですよ見知らぬオウサマ」
「フン、王様ときたか。物分かりのいい女は嫌いではないぞ?もう少し見目がよければなおよいのだがなァ」
「うわぁ、何ロリコン?」
「たわけ。オレが好むのは初物よ」
「あぁなんだ処女厨か」
「言葉を選べよ雑種」
「わんわん。ぐえぇ」
男は凪子の顎から手を離すと、ぐいとマフラーを掴んで歩きだした。

我が征く道は32

それからどれくらい経ったろうか。
ようやく凛と士郎が教会に姿を見せたのを確認し、諸々準備を整えておいた凪子は中庭から教会に侵入した。
「…さて、誰のマスターかというのは分かっているから…一先ず、この気色の悪い魔力の塊の元を辿るかね。気になってしゃーないし」
凪子はそう小さく呟くと、前々から感じていた吐き気をもよおす魔力の塊、その位置を探ることにした。といっても、中庭にはすでにそれの魔力がただもれで、位置を探るのは簡単だった。
「…うぇー地下……」
嫌だなァと思いつつ、凪子は階段を降りていった。

 階段を降りた先には、小さな祭壇があった。地下祭壇のようだ。その奥から、魔力の気配は流れてくる。
「(………うわー…予想通りっちゃあ……)」
遠慮なく祭壇に踏み込んだその奥にあったものに、凪子は眉間を寄せ、表情を歪めた。
なんとなく予感はしていた。身寄りのない子ども。心配する者のいない、一人ぼっちの子ども。

そんな、“使い勝手のいい素材”は、そうそう手に入らない。

――そこに並べられていたのは、子どもたちの“残骸”。生きながらえさせられ、魔力として生命力を吸われている“何か”があった。何のために子どもたちをそう利用しているのかは知りようもないが、とにもかくにも、不快な魔力源はこれで、監督役の神父がそれをしでかしているであろうことは確かだった。

不快感を覚えた凪子は早々そこから出て、中庭に戻った。
助けようとか終わらせてやろうとか、そういうことはしなかった。むしろ、凪子の手にかかれば、それらを人間に戻すことは、出来なくはない。出来なくは、ないのだが。
「(…なんだって神父がそんなもんを必要と…?確かにあの神父、遠目には人間とは言い難い気配だったけど、あの神父自体からもサーヴァントからもあれの気配は感じなかった。だとしたら何に使って…)」

「誰だ貴様は?」

凪子の思考に割り込むように、中庭の静寂を裂くように、そんな声が響いた。
ぞわり、と感じた殺気に凪子は反射的に自分にかけていた結界を解いて右手に集約し、声のした方向へと展開させた。
気配を消す結界は、言い換えれば存在をその世界に認識させないための消去の魔術。凪子めがけて放たれた数振りの剣や槍は、その結界にぶつかり、音もなく消滅した。
「…ッ!」
とはいえどもとっさに展開し直した結界にはぼろがあり、衝撃だけは消去されずに残った。凪子は音のないその衝撃に弾かれ、中庭の端へと飛ばされた。
「ほう?姿を見せんのはサーヴァントだからかと思ったが、貴様サーヴァントではないな?」
「…」
辛うじて壁への衝突は避けられたが、凪子は軽く頭を振って声の主の方を見た。

そこには、金色の髪と赤い眼を持つ、教会にいるには随分不釣り合いな雰囲気の男がいた。ポケットに手を突っ込み、余裕をたたえた様子だ。
人間では、ない。
どうやら、もうひとつ気になっていた“何か”の方にも早々に出くわしてしまったようだ。
「…運がいいんだか悪いんだか…」
凪子は小さく毒づき、立ち上がった。彼の放つ殺気は止んでいない。
「教会に侵入するとは不届きものよなァ?…で?誰だ、貴様は?」
下手に発言は出来ない。凪子は慎重に相手の正体を探る。
「さぁて、ね…。そういう君は…。………、サーヴァントだな、おまえ?」
相手の身体をじっくりと“視て”、凪子はそれに気が付いた。身体の構造は、どう見てもサーヴァントのそれだったのだ。
凪子自身もそれは意外だったのだが、相手の顔も意外そうに変わった。
「…ほう?霊体化ではないというのに随分巧みに姿を隠していたものだとは思ったが……」
す、と男が手をポケットから出し、ぱちん、と指をならした。
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