「モヤシ愛してる!」
「は?」
「愛してる!」
「え、何? 何事ですか?」
「白い髪も左腕も愛してる!」
「何!? 何なのいったい!!?」
「白い肌も大きな目も吸い込まれそうな瞳も俺より少し小さい体も押し倒したいといつも思ってる!」
「ち、近寄らないで下さい!」
「細い腰を引き寄せて反抗的なその口をふさいで腰抜けにさせてそのまま押し倒していつもキチンとアイロンがけしたシャツを乱して白い肌に赤い花をちらし――」
「黙れっつってんだろ変態ッ!!!」
「――………。
良い蹴りだ……モヤシ……」
「もぉ……何なんですかいったい」
「おい、なんでそんな距離をおいてんだ。何だこの5メートルの距離は……。心の距離か? 泣くぞ」
「イノセンス発動されたいか」
「スンマセン」
「……で? 何でいきなり暴走したんですか?」
「……テメェが悪い」
「はぃい?!」
「俺が今まで何回テメェに好きだと言った?」
「覚えてませんよ」
「覚えとけ! 俺の男気溢れる告白を何だと思ってるんだ! 76回だ」
「覚えれるか!」
「それを、だ。テメェはいつもいつも軽くあしらいやがって……。テメェは分かってないようだがな、俺は本来感情を表に出すのが苦手でましてや恋愛感情なんか皆無だった俺にとって『好きだ』と言葉に出すのがどれだけの決意がいると思ってンだ。毎回『白白白』と手のひらに書いて呑み込んで挑んでんだぞ」
「誰が白だ!」
「それをお前は毎回毎回食堂のパセリ並みにスルーしやがって」
「僕ちゃんとパセリも食べてますよ? 言うなれば神田はさしずめプチトマトのヘタですね」
「完全にゴミじゃねぇか!」
「ただのゴミじゃありません。生ゴミです。堆肥になります。役に立てますよ良かったですね」
「何だ? 何なんだコレは?
俺はこんなに愛情表現をしているってのに。
キサマ俺の男気溢れる告白を何だと思ってるんだ」
「それさっき聞きました」
「お前は『魚心あれば水心』と言う言葉を知っているか?」
「あぁ、えっと……。魚料理には水より白ワインが合うって意味でしたっけ?」
「違う!」
「ですよねぇ。僕もワイン飲むぐらいなら水の方が良いですし」
「だから全然違うっつってんだ! 魚料理から離れろ!」
「あっ!!」
「あ?」
「そう言えば今日ジェリーさんが幻の川魚で特別なメニューを出すって言ってたんでした!」
「は!?」
「ヤンガス河の主をジェリーさん捕獲したらしいんですよ!」
「知らねぇよ! いやスゲェけども! ジェリーマジ何やってんだよってぐらいスゲェけど! だが今そんな話してる場合じゃねぇだろうがッ!」
「では神田に問います。キミの聞きあきた暑苦しい告白と幻の魚料理、どっちが重要か聞くのもバカらしいですよアホかアンタは」
「あ、暑苦し……っ」
「では神田、僕忙しいのでまた!
半年後ぐらいに会いましょう!」
「ちょっ、待……」
「ユウ、あれはな……『半年ぐらいは会いたくない』って意味さ」
「それに神田の愛情表現は確かに暑苦しいわね」
「………。テメェら、いつから居た」
「『モヤシ愛してる!』ぐらいから」
「……最初っからじゃねぇか」
end
「もぉ! ちょっと聞いてよラビ!」
「んー? どしたんリナリーさん」
「駅のコンビニのソフトクリームが食べたくなったの。でも駅までちょっと遠いじゃない?」
「まぁ、歩いて15分ぐらいさね」
「でしょ!? 往復で30分かかるわけ!
それで、どうしようかなって思ってたら神田が通りかかったのよ」
「あー、何となく解ったさ。ユウチャリ通だもんな」
「そうなの! だから後ろに乗せてって頼んだのに神田ったら断ったのよ!? 逆方向だから無理だって……。
女の子が頼んでるのにあんなにケチな男だとは思わなかったわ」
「あはは……。まぁユウだもんな」
「ただいまー」
「あれ? アレン早かったさね」
「アレン君どこに行ってたの?」
「駅のコンビニにシャーペンの芯買いに行ってたんですよ。途中で神田が自転車に乗せてくれたんで早く着いちゃいました」
「え?」
「えっと……、ユウが乗せてくれたん?」
「はい、自分もコンビニに用があるからって。帰りも乗せてもらっちゃいました」
「………」
「あの……、リナリー?」
「大丈夫よ。死亡一歩手前でとどめておくから」
「何の話ですか?」
「いや、アレンは気にしないでいいさ!
つか気にしないほうがいいから!」
「?、 ……はぁ」
end