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あまい鎖(神アレSS)

 


相変わらず寒い日が続いていた。
ニュースでは、寒波は今週中日本を襲うそうだ。
外は昼に降った雪がまだ消える事なく屋根を白く染めている。
外気は身を刺すように冷たいのだろうが、俺の部屋は実に快適な温度を保っていた。

独り暮しの俺は、真夏も真冬もワンルームマンションに備え付けられていたエアコンを活用した事はなかったが、この冬はフル活用されている。
と言うのも、全てコイツのせいだ。

『神田見て! 雪が降ってますよ!』

昼間、そう言ってはしゃいでいたモヤシは、今は静かに眠っていた。
勝手に上がり込んで、勝手に飯を作って食って、勝手に寝ている。

なぜ俺の部屋に来るのか、と尋ねれば、エアコンがあるから、らしい。
極寒の野外ではあんなにはしゃいでいたくせに、部屋に入ったとたん、『寒い!』と文句を言っていた。
外はもっと寒かっただろうに‥‥。

すっかり暖まった部屋で、モヤシの髪に触れてみる。
日頃なら、出来ない事だ。
モヤシは自分の髪を嫌っているらしく、触ろうとすると怒るから。
馬鹿だと思う。
こんなに綺麗なのに。

そう言えば冷蔵庫の中身がそろそろ寂しくなっているはずだ。
アホみたいに食うコイツのせいで。
別に補充する義務は無い。
無ければコイツだって食わないだろう。
それでも、週末の特売日に大量に買い込む自分が居る。
自分じゃぜったい食わないプリンまで買って、アホは俺かもしれない。

飽きる事なくモヤシの髪を撫でていた手は、モヤシの寝返りによって止められた。
代わりに頬をそっと包めば柔らかくて温かい。
ずっと触っていられたなら、長い睫毛をずっと見ていられたなら、ずっとコイツが俺の傍らで泣いて怒って笑ってくれたなら‥‥。
そんな事を考える俺はやっぱりアホなのだろうか。

自分に苦笑を浮かべながらも、俺はエアコンをつけて、冷蔵庫を満タンにして、デザートを用意するだろう。
コイツを手放さない為に。

(我ながら、つくづくアホらしい‥‥)

それでも、きっと俺はなんだってする。
初めて自分から欲した人間だから。
手放しはしない。どんな手段を使ってでも。

「お前も厄介なのに惚れられたもんだな」

哀れみにも似た眼差しを向けながら、包んでいた柔らかな頬にキスを落として最後の明かりを消した。



真っ暗な部屋は、アレンの真っ赤な顔を隠した。




End

 
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