『
くだらないと私は笑った』とリンクしてます
空を見上げる僕の髪を風が弄ぶ。
点々と光る星を、時折雲が覆い隠しながら流れていく。
「星なんか見ていて楽しいですか?」
フェンスに寄り掛かる僕の後ろで、リンクが問う。
「星を見ているんじゃありませんよ。雲を見ているんです」
そう答えたが、リンクにしてみれば星だろうが雲だろうがどうでもいいだろう。
その証拠に、僅かなため息が背後から聞こえた。
「いつまでそうしているつもりですか」
少し諦めたような声が再び問い掛けるが、僕は返事を返さない。
否、返せない。
いつまで、と聞かれても、分からないからだ。
いつまでもこうしているわけにもいかないが、いつまでもこうしていたかった。
名もない小さな田舎街は、静かな時間が流れていて、僕らからしたら非現実的に見えた。
イノセンス情報がガセだと分かったのは日も暮れてからだが、張り詰めたものが解けると戦争と無縁の田舎街はとても優しい時間が流れているように感じたのだ。
「風邪をひきますよ」
焦れたようなリンクの声が、僕にいい加減寝ろと促す。
しかし、寝たら明日が来てしまう。
それはどうにも惜しい。
なんて言ったら、キミはどんな顔をするだろうか。
「‥‥もう少しだけ」
吹き付ける風は冷たいが、もう少しだけ付き合ってほしい。
終わりの見えない争いから少しだけ目を背けたいだけだから。
でも、
(争いが終わったら、キミはもう傍に居てくれないのかな)
戦争は嫌い。
終わりが見えなくて途方に暮れる。
だけど、最近は矛盾した考えばかり浮かんでくるのだ。
これを口に出したなら、キミはくだらないと笑うだろうか。
(もう少しだけ。もう少しだけ)
もし許されるなら、
エクソシストとしての使命が終えたその時も‥‥
end
フェンスに寄り掛かるキミの髪を風が弄ぶ。
空を見上げるキミの顔は私には見えない。
「星なんか見ていて楽しいですか?」
「星を見ているんじゃありませんよ。雲を見ているんです」
そう言うキミに習い、私も空を見上げれば、夜独特の黒い雲が少しずつ形を変えて移動していた。
なるほど、何度見上げても変わらない星よりは面白いかもしれない。
だが、
「いつまでそうしているつもりですか」
ホントに、いつからこうしているだろう。
名もない小さな田舎街に任務で駆り出されたものの、結局イノセンスもAKUMAにも出会わぬまま帰還命令が出された。
ひとまず夜が明けてから帰還する事になったが、この街には民宿すら無く、ファインダーが話を通し民家の一室を借りて今ここに居る。
「風邪をひきますよ」
「‥‥もう少しだけ」
コートを羽織っているものの、冬の夜空を吹き抜ける風には薄着過ぎる。
それでも動こうとしないキミに苛立ちが募った。
こういう時間は最近、苦手だ。
無意味な時間をキミと過ごすのは苦痛でしかたない。
自分でも呆れるほど、くだらない事を考えてしまうから。
その上、いつかそれを口に出してしまいそうで、自分が情けなくなる。
(キミが好きだ)
end