「ウォーカー、そろそろ任務の時間なのではないですか」
賑やかな狭い部屋で、アレンにだけ聞こえる静かな声が発せられた。
誰かの誕生日らしく、親しい者だけで開かれていたバースデーパーティー。
たまたま通りかかったアレンも誘われ、「では少しだけ」と、嬉しそうに渡されたデザートを食べていた。
「もうそんな時間ですかぁ?」
すぐに任務が控えているのに呑気なものだと、最近では監視役ではなく世話役になりつつあるリンクはアレンの飲んでいたグラスをテーブルに置かせ部屋を出た。
「では行きましょーう!」
「その前に団服を着て下さい」
「あれ、僕私服ですねー」
「早く自室に帰って着替えなさい」
「はーい。ただいまアレン・ウォーカーは自室に戻り団服に着替えますです」
「‥‥‥‥ウォーカー」
「はい僕はウォーカーです」
「知ってます。ウォーカー、
まさかアルコールを飲んでませんか?」
明らかに様子のおかしいアレンに、眉をひそめうかがう。
だが、アレンはいたって陽気に答えた。
「お酒なんて飲んでませんよーぅ」
「‥‥ちょっと失礼」
ニコニコと否定するアレンの顎を指で固定し、顔を近づけてみる。
僅かにカシスの香り。
(カクテルを飲みましたね)
おそらく、酒だと言われなければ分からないほど、甘い物だったのだろう。
でなければお酒嫌いのアレンが口を付けるはずがない。
ジュースだと信じ込み飲んでいたのであれば、あの大食いで有名な人間の事だ、大量に飲んだに違いない。
(本当にこの人はッ)
あまりの事態に頭が痛くなる。
こんな状態で戦えるわけがない。
どうしたものか、頭をフル活動させていた、その時。
───チュッ
「ッッ!!?」
あろう事か、アレンが悩むリンクに口付けた。
「なっ‥‥!」
「だってリンクが顔を近づけたんじゃないですかぁ?」
珍しくポーカーフェイスを崩したリンクに、アレンは不思議そうに首をかしげる。
「あ、アナタは顔を近づけたら誰でもキスするのですか!?」
「さぁ任務にいきましょーぅ!」
「だから団服をっ‥‥て、その前に今のウォーカーに任務は無理です! AKUMAにもキスしかねない!」
「もう、さっきからキスキスって。僕をキス魔みたいに言わないで下さいよー」
「誰彼かまわずキスしてたら、そう言われてもしょうがないでしょう!」
「失礼な! 僕はリンクだからキスしたんですよーだ」
「ッ!!」
アレンの一言で、今度は完全にポーカーフェイスが壊れる。
(‥‥っ、しょせん酔っ払いの戯言だ!)
そうは思うも、なかなか動揺から抜け出せないでいるリンクをよそに、アレンは上機嫌で歩き出した。
気が付けばずいぶん遠くをフラつくアレンに、リンクは慌てて追いかけ腕を引く。
「とっ、とにかく部屋に戻りますよ!」
「あっ、そっか。団服に着替えないとですよねぇ」
「そうです、何でもいいのでとにかく部屋に行きますよ。今のウォーカーは‥‥‥危険すぎる」
足元のおぼつかないアレンの肩を抱くと、アレンは嬉しそうに笑いかけた。
「リンクが優しいです」
まだ日の高い教団の一角で。
満面の笑みを浮かべるアレンと、真っ赤な顔をアレンから背け、しかし肩はしっかり抱いたリンクの歩く姿があった。
そしてその50m後方に、
こめかみに青筋をたてリンクに切りかかろうとする神田と、命がけで止めるラビの姿があったとか‥‥。
end
もし監視官が神田だったら‥‥‥
ものすごくおいしいと思います!
もちろんリンクも素敵ですよVv