凍える日々に訪れた小春日和。
窓から流れる風を、久しぶりに心地よいと感じた。
こんな日は外に出てみようか、なんて考えが浮かんだから、さっそく本を本まみれの部屋に置き去りにしてちょっとだけ寒い廊下に出る。
背伸びをしたら、まずどこに行こうか。
ポケットに手を突っ込んですれ違う顔見知りに愛想良く挨拶を交わす。
なんとなく、親しい仲間を探してみるが、真っ白い年下の少年も、だいぶ綺麗な髪が伸びてきた彼女も、いつも不機嫌な顔をした青年も見つからない。
つまらないな。
こんなに良い天気なのに、任務や修練に忙しいのだろうか。
ブラリブラリ、だいぶ人気の薄れてきた最上階のちょっと手前を歩いていたら、ゴーレムがスイッと通り過ぎる。
金と黒の小さな二匹のゴーレムはクルクル回ったかと思えば、時たまコツンと軽くぶつかってまた回る。
まるで春空でじゃれ合う小鳥みたいだ。
「仲良しさんさねー」
小さくつぶやいて横目で通り過ぎる。
つい顔が笑ってしまうけれど、誰も見ていないから、まぁいいか。
屋上でも行ってみようかな、そう思った時、すぐそばの扉が開いているのに気づく。
たしかここは資料室、と言うより倉庫に近い。
頻繁に使われる資料室に入りきれなくなった古いデータがここに持ってこられるのだ。
あまり人が使っている所を見たことがないのだけど、誰かいるのだろうか。
ヒョイと扉の隙間から顔をのぞかせてみたら、親しい仲間がそこに居た。
真っ白い年下の少年と、いつも不機嫌な青年だ。
二人とも俺には気づいていない。
二人って言っても一人は寝ちゃっているけれど。
棚の向こう側、埃っぽいその部屋で、曇った窓からこぼれた日の光を浴びて眠る真っ白い年下の少年。
ソファーに膝を抱えるように、そして頭だけはいつも不機嫌な青年に寄りかかって。
そして、そんな少年を見つめるいつも不機嫌な青年。
しかし、まいった。
いつも不機嫌な青年を、今日はそう呼べそうにない。
なんて穏やかな顔してるんだ。
いつも眉間に付けていたシワは、今日はどこに落として来たのだろう。
手に持った数枚の資料の存在なんて、きっと彼は忘れてる。
凶暴凶悪、泣く子も黙る教団の歩く凶器は、今、ただただ黙って微笑む。
きっと本人も、笑っている事に気づいていないだろうな。
しかし、真っ白い年下の少年が目を覚ませば、彼はまた、いつも不機嫌な青年に戻る。
『何勝手に寄りかかってんだ』『サボってねーでテメェも調べろ』などと喧嘩腰にまくし立てるんだろうな。
そんな光景が簡単に想像出来て、声を潜め笑う。
いいんだ、それで。
それが二人らしいから。
それが俺の知ってる二人だから。
明日はまた寒くなると誰かが言ってた。
冬はまだまだ滞在中らしいよ。
だけどたまには、小さな嘘つきに騙されてみるのも、いいかもしれない。
世界なんて、忘れてみようか。
end