良くもまぁ飽きないものだと思う。
もしかしたらホントは仲が良いのかも、なんて思ってしまう。
でなければ、こう毎日毎日顔を合わせるものだろうか。
ぼんやりと、どうでも良いような事を考えながら賑やかな彼らを眺めていた。
今日はティキ先輩まで加わって喧しい事この上無い。
今回の口論の発端な何だったかもう分からないが、大抵はロードやティキ先輩が面白半分で喧嘩を売っているような気がする。
相手を煽るだけ煽り、相手の反応を見て面白がっては飽きたらさっさと帰る。
同じ美術科ながらホントに質が悪い。
そしてなぜ自分はいつも彼らに付き合わされるのだろう。
おかげで僕まで普通科の生徒に睨まれているのだからたまったもんじゃない。
「おい」
「……あ、神田」
「何ボーっとしてんだ」
「いえ、ちょっと考え事してただけです……」
知らぬ間に傍に来ていた神田に驚いて、反応が遅れてしまった。
考え事をしていたのは事実だが、神田が僕に話しかけてくるとは思わなかったから余計に驚いたのだ。
「しっかし……毎日毎日飽きませんよねー」
「あぁ」
「付き合わされる僕らの身にもなってほしいですよね」
「あぁ」
「ロードと先輩がからかうのも悪いですけど、ラビ達も相手しなければいいのに」
「あぁ」
「……神田」
「何だ」
「……いえ」
なんとなく神田が上の空のような気がしたが、人の話を聞いていないわけでは無いらしい。
たいして彼の事を知らないが、日頃から話さないタイプなのだろうか。
(だとしたらあまり話しかけない方がいいのかな)
しかし話しかけて来たのは神田なわけだし、日常化した普通科vs美術科の言い合いはまだ終わりそうにない。
かと言って黙ったとしても、今さらの沈黙は痛い。
(どうしよ……、せめて神田から一言でも話をふってくれたら話しやすいんだけど……)
「お前、ウサギが好きか」
「えっ! はい、あの……えーっと」
あまりのタイミングの良さに声が裏返ってしまい、変なヤツだと思われただろうかと、神田の顔を除き見たが、神田は僕を見てなくて……と言うよりわざと顔をそらしているようで、神田の方がよっぽど挙動不審のように見えた。
「神田?」
「ウサギは好きか」
「えぇ、まぁ」
「……………。やる」
「はい?」
『やる』と胸に押し付けられたのはウサギの小さなぬいぐるみのストラップだった。
「ゲーセンでとった」
「僕がもらっていいんですか?」
「……俺がこんなもん持っててもしょうがねぇだろ」
確かに、神田と言う人間には似合わない。
が、僕だって男なんだからこんなファンシーな小物を持っていたら違和感があるんじゃないだろうか。
しかし、
「……かわいい」
恥ずかしながら、僕は男ながらかわいい物が好きだった。
とくにウサギは本物に初めて触ったときからマイブームが続いていたから、余計にそう思ってしまう。
「ふわふわしてて本物のウサギみたいですね」
「………」
「……ありがとう」
「……っ」
僕が照れと嬉しさで小さく礼を言うと、神田は僕の頭をクシャリの撫でた。
少し乱暴なようで、だけど優しい手のひら。
「そんなに好きならまたやる」
相変わらず僕の顔を見ようとしない神田だったが、大きな手はいつまでも僕の頭を撫でていて、恥ずかしいような嬉しいような、ただ、とても心地好かった。