2010-7-1 18:36
この前の続き!
相変わらず甲斐の机の上には書類が山積みだが、今日は役員の殆どが生徒会室に集まっていた。といっても仕事をしているのは甲斐と円の2人だけなのだが、1人でするよりもずっと早く書類が片付き書類の山も三分の一まで減っていた。
そして今日もやはり数メートル先では騒がしい奴らがいた。他の役員と加悦だ。
大人数が集まれば騒がしくなるのは仕方がないと思う甲斐だが今回は違った。
昨日帰ってから須衣に何度か連絡をしたが結局連絡を取ることが出来なかったのだ。
これもそれも全て加悦のせいだと思うと同じ空間にいるだけでイライラが抑えれなかった。
それでも甲斐は加悦を怒鳴りつけたり追い出したりすることはしなかった。
「なぁ!2人ともこっち来いよ!土岐がお茶入れてくれたから休憩しろよ!」
そう、例えば甲斐の邪魔しかしてなかったとしても、だ。
「…甲斐、少し休憩しませんか?」
そう言った円の表情が心配を含んでいるのを見て、甲斐は一息ついた。
「そう、だな。少し休むか」
軽く伸びをして甲斐は立ち上がると開いているソファにどさっと座った。
「な、甲斐!これ食べてみろよ。めちゃ美味いからさ!」
加悦が差し出すどこか海外のお菓子は、甲斐が苦手とするクドいほどの甘さしかしないもので。甲斐はいらん、と一言言って紅茶に手を伸ばした。
「なんだよ。美味しいのに!円、食べてみろよ!」
「えぇ、ありがとうございます」
あぁ、こんな時須衣ならそっと隣に座って甲斐のために甘さ控えめのお茶請けを用意して疲れを癒してくれるはずなのに、と甲斐は思った。
「そーいえばさぁ。青の君が恋人と別れたらしいよー」
「ボクも聞いた!今日はその話題で持ちきりだったよね!」
「………は?」
ゆったりと須衣への思いを馳せて疲れを癒していた甲斐の耳に入ってきたのはとんでもない話しで。
「青の君?誰それ?」
「あぁ、加悦は知らないのですか。茶道部の部長で、とても穏やかな方ですよ。去年あたり恋人ができたらしいのですが…」
「ずっとしてた指輪を今日はしてなくて別れたんじゃないかって皆が言ってるんだよねぇ」
「ちょ、え……?」
円と土岐が加悦に青の君について説明しているのを遠くに聞きながら青の君とは確か須衣のことを示しているはずだ、と甲斐は頭の中で自分に問いかけていた。
「そいつ有名なのか?」
別れた?誰と誰が?
「そうですね。この学園では有名な方ですよ」
須衣が?俺と?
「名前は須衣って言って加悦と同じ2年生なんだよ」
俺が?須衣と?
「へぇ!!一回会ってみたいなぁ!」
いや、そんな筈はない。
疑問と答えがぐるぐると頭の中に渦巻く甲斐を現実に引き戻したのは加悦の馬鹿でかい声だった。
「あっ!お前!昨日のやつだな!また甲斐の邪魔しに、」
「須衣!」
「青の君!」
ハッと気が付けば生徒会室の入り口に青の君こと須衣が立っていた。
きゃんきゃん喚く加悦を押しのけ、逃がさないとでも言うかのように甲斐は須衣の肩を両手で掴んだ。
「須衣、昨日はどこに、いや!指輪はどうしたんだ?」
「指輪?」
「ちょっと待った!甲斐!酷いぞ!」
須衣の言葉を遮ったのはやはりと言うかなんと言うか加悦の馬鹿でかい声だった。
「は…?」
「こんな大勢の前で別れ話なんてソイツが可哀想だろ!ちゃんと2人きりでしろよ!その後で言うなら言えよ!じゃないと俺はお前に返事しないからな!」
分かったな!と言い捨てると加悦は颯爽と生徒会室を出て行った。
生徒会室に残された者達はただただ加悦の行動にポカーンと口を開けるだけだった。
そんな中いち早く立ち直ったのは甲斐だった。
「…よし、落ち着け。今俺は須衣に指輪の件について問いかけた。そうだな?」
「え、えぇ。青の君に話しかけましたね。加悦には一言も声はかけませんでした」
次いで復活したのは円で、甲斐の言葉にしっかりと返事をした。
「あぁ、そうだ。ちょっと待ってろ。まずは須衣。指輪はどうしたんだ?」
「えっと、今日は洗顔した時に外したまま忘れたんです」
すみません、と謝罪する須衣に噂はただの噂だったと心底ほっとする甲斐だったが此方を凝視する役員に気が付きはっとした。
「え、青の君と会長って…?」
「あー…、いつかは言うつもりだったんだが…。俺達付き合ってるんだ」
「「「えぇー!」」」
珍しく年相応な表情で照れながら言う甲斐に役員はまさに寝耳に水。驚きのあまり全員が全員、絶叫した。
青の君に恋人がいるのは有名な話だったが相手は全く謎で、校外の人だろうと思われていたのだが。
「いつからなのですか?」
「あー。もう二年になるかな」
まさか我が校の会長がその相手だったなんて。
そっと寄り添う2人は、あぁ、お互い想い合ってるんだなと微笑ましくなるぐらい柔らかな雰囲気を出していて驚愕よりも祝福の方が大きかった。
「長ーい。でもよくバレなかったなぁ。てかバレたら親衛隊とかヤバいんじゃないの?」
甲斐も須衣も学園内では非常に人気が高く、いわゆる親衛隊と呼ばれる組織がある。
もちろん生徒会役員それぞれに親衛隊はいるが甲斐と須衣に比べると絶対的な人数が違うのだ。
そんな人気者同士が付き合ってるなんて賛成派と反対派に二分され、学園を巻き込んだ一大事になるだろうことが簡単に想像できた。
「それなら問題ねぇよ。親衛隊には言ってあるから」
「……はぁぁぁぁ?」
「親衛隊に!?甲斐大好き人間達に青の君と付き合ってるって!?青の君大好き人間に甲斐と付き合ってるって!?」
丸い目をさらに丸くさせた安岐が信じらんない、とでも言うように叫んだのを他の役員がうんうんと頷き肯定した。
「別に問題なかったぜ。むしろ付き合うことに協力的だったし、なぁ。須衣?」
「はい、僕達がお付き合い出来ているのは親衛隊の皆様がいたお陰なんです」
ほんのり照れた表情の須衣になんだか親衛隊やら何やらその他のことを考えるのが馬鹿馬鹿しくなって4人はソファに深く身を沈めた。
「会長と青の君が幸せそうならいいや。おめでとう!」
「そうですね。むしろ青の君と甲斐なら皆納得でしょうし。おめでとうございます」
「ありがとうございます」
ぺこりと頭を下げる須衣に、そんな須衣を甘く見つめる甲斐。
どことなく他人と一線引いていた甲斐のそんな態度に驚きはありながらも、唯一の人を見つけたのだなと羨ましくも思う4人だった。
「てか、須衣ちゃんは何か用事があったんじゃないの?」
「おい、土岐!軽々しく呼ぶな!」
「そうです。部の予算概要についての書類を提出に来たんです。はい、お願い致します」
「わざわざありがとー!ね、須衣ちゃんお茶でも飲んで行きなよ!」
「安岐!触るんじゃねぇ!」
書類を手にする須衣を安岐がぐいぐい引っ張ってソファに座らせるとすぐさま円が新しいカップを用意して。
「はい、どうぞ。口に合うかわかりませんが」
「わざわざ、ありがとうございます。いただきます」
ぺこりとお辞儀をする須衣の隣にちゃっかり座った安岐と土岐を甲斐は怒鳴り散らし、それを見て須衣がクスクス笑えば甲斐がデレっと顔を崩す。
そしてそれを土岐と安岐がからかい、甲斐が怒鳴り、須衣が微笑み。
生徒会室には温かい笑いが渦巻いた。
えんど...?
いやいや。続きますとも!