2010-6-29 18:54
最近流行り(?)の非王道を目指しました!目指しただけなのでそのあたりはご容赦を。
甲斐(かい)
生徒会長。どっちかと言えば王様気質。人の上に立つことに慣れている。
円(えん)
生徒会副会長。物腰柔らか敬語キャラ。
土岐(とき)
書記。チャラい系。喋り方も緩い。
奈津(なつ)
会計。双子兄。女の子みたいな容姿。
安岐(あき)
総務。双子弟。無口で強面。
加悦(かや)
王道的な転校生。転入して数日で生徒会の方々と仲良しに。
我が道をひたすら突き進む。
須衣(すい)
茶道部部長。通称、青の君。
甲斐はいつになくイライラしていた。彼のために特別に用意されたふわふわの椅子も香り豊かな紅茶も、甘さ控えめなお茶請けも全然甲斐に癒しを与えてくれなかった。
なぜならばほんの数メートル先の、同じ部屋の中で騒がしくする奴がいるせいだ。
騒がしいだけなら甲斐もこんなにイライラしない。高校生なんてまだまだ子供。大勢が集まれば知らず知らずに騒がしくなるものだ。
「甲斐!何やってんだよ!こっちに来いよ!そんなの後でできるだろ!」
そう。大勢ならば甲斐とて許せた。許容範囲だ。これほどの騒音(すでに甲斐には騒音以外の何物でもない)をたった1人で発しているのだから驚きだ。
喉が渇いたと喚き、給湯室にポットがないと喚き、ティーカップがないと喚き、茶葉がないと喚き、紅茶を煎れようとして零しては喚き、紅茶を飲んで美味しいと喚き。
ここまで騒がしくできるともう一種の才能ではないかと思った。
甲斐は右手首の腕時計を見て、そろそろ長針と短針が上下に真っ直ぐなりそうなのを確認すると眉間に皺を寄せた。
授業が終わり、生徒会室に来たのが4時過ぎ。
溜まる一方で減る気配のない書類にいい加減処理しなければならないと腰を上げたのは会長である甲斐だけだった。
他の役員は始めてくる春に浮かれて仕事を放り出し、きゃっきゃうふふと蝶々を追いかける乙女になり果てていた。
何を言っても聞きそうにない役員に、それならば自分1人でやってしまおうと考えたのだが。
何故にこいつがここにいる?
生徒会役員の心を射止め天真爛漫な美少年。
それが甲斐の目の前でギャーギャー騒いでいる加悦だった。
今日は役員の奴らと誰かの部屋で映画鑑賞だかお茶会だかを開くと聞いたから生徒会室に来たのに。なぜだ、と甲斐は呟いた。
「かーい!ほら、円に貰ったクッキーだってあるんだぜ!」
日頃から役員が生徒会室に加悦を引き入れるため、勝手知ったる何とやら。加悦は我が物顔でソファに腰掛けている。
確か生徒会室は部外者の立ち入りは禁止だったはずだ。いや、それよりもなぜ加悦は1人でここにいる?円や土岐はどうした!
ぐるぐる渦巻く疑問と、騒音からくるイライラに甲斐の手は止まったままでちっとも書類は減ってくれない。
もう一度右手首に目をやって、すでに6時を回ったことに気付いた甲斐は慌てて加悦を見た。
「もう遅いから帰れ」
「いいよ。甲斐が帰るまで待ってるし」
「いらん。さっさと帰れ」
スパン、と甲斐は一刀両断したつもりだったが加悦は大丈夫だって、と意味の分からない返事をしてきただけだった。
「誰か呼ぶから帰れ」
「だぁかーら!甲斐の事待ってるって。大丈夫!ずっと生徒会室にいるし!」
いや、むしろ生徒会室から出ていって欲しいのだ、とでかかった言葉は何とか飲み込んで。こうなれば実力行使。
甲斐はポケットから携帯を取り出すと円に電話をかけた。
『はい、』
「円、今すぐ生徒会室に来い。加悦がいるから」
「甲斐!良いってば!」
通話を阻止しようと飛びついてくる加悦をひらりと交わしたのは良いが、避けられると思っていなかったのか加悦の体はぐらりと傾いた。
『え、加悦そこにいるんですか?すぐに行きます!』
「あぁ。今すぐ来い」
何やら慌てた様子の円の声を聞きながら、倒れる前に受け止めた加悦の体を離そうとしたその時。
「失礼致します」
生徒会室の扉が開いた。
甲斐の腕にしがみついていた加悦はババッと体を離すとダッシュで扉に向かった。
「あ、おっ!お前なんだよ!こんな時間に来るなんて!どうせ甲斐目当てなんだろ!」
「いえ、僕は提出物を、」
「そんな見え透いた手に騙されるか!さっさと帰れ!」
バン!とデカい音を立てて扉をしめた加悦に甲斐はただ呆然とするだけだ。
今そこにいたのは誰だった?加悦が追い返したのは誰だった?
「す、い…?」
「ったく!甲斐の迷惑考えろっての!」
そうだ、あれは須衣だったはずだ。生徒会に提出する部の予算概要を今日の6時過ぎに提出して欲しいと言ったのは甲斐だ。
甲斐の大切な、大切な恋人の須衣。
6時には仕事を終えて、一緒に夕食を取る予定だったのだ。
それなのに、だ。
目の前の男は何をした?
あまりにも一瞬の出来事に甲斐は先ほどの体勢で固まったままだったがすぐさま携帯で須衣に電話をかけた。
「な、甲斐。もう今日は帰ろうぜ。おれ腹減ったし」
くいっと裾を引っ張る加悦の手を払い落としながら甲斐はコール音に集中した。
数秒してプッとコール音が切れた瞬間甲斐は間髪入れずに須衣を呼んだ。
「須衣!今どこに…!」
だが、帰ってきたのは無機質な機械音。現在電波の届かないところにいるか電源が…とアナウンスされ甲斐にしては珍しく声を出して悔しがった。
「あーっ!くそっ!」
あまり携帯電話を携帯しない須衣のことだから、もう一度かけたところで同じ事になるだろうことが予想できて甲斐は携帯をポケットにしまった。
「甲斐?どうしたんだよ?疲れてんのか?今日は早く帰ろうぜ!なっ?」
横でピーチクパーチク騒ぐ加悦をまるまる無視して甲斐はこれ以上仕事を続ける気にもなれず帰る準備を始めた。
「加悦!ここにいたのですか!」
「円!!来なくて良いって言っただろ!」
「円、遅い。さっさと連れて帰れ」
鞄片手に甲斐が帰ろうとしたその時生徒会室に呼び出した円・副会長が入ってきた。
息を切らし、髪の毛を乱しているところを見れば走ってきたことが分かったがあと5分早く来てくれれば今頃須衣と一緒に帰ることができたはずなのに。
はぁぁ、と甲斐は重たいため息を漏らした。
「甲斐は何故こんな時間まで生徒会室に…?」
「あ?仕事が溜まってんだよ。でも今日はやる気ないから帰る」
「そう、でしたか…」
円は会長の机の上に山積みになっている書類を見て複雑な顔を見せた。
「な、もう今日は終わったんだろ?帰ろうぜ!」
甲斐の腕に纏わりつく加悦を振り払うことさえめんどくさく、甲斐は円と共に3人帰路についた。
続く事になりました。