こんな日こそ思い出すのです。
ルースベン卿。
詩人がモデルの、乙女を狙うバンパイア。
女性の日の終わり頃になると彼らが恋しくなります。
今日は彼のおかげで「seduce」という単語を知りました。
誘惑するとのことですが、要はたらす、こます、というほうがニュアンスが伝わり易いのかもしれません。
無防備なところを、彼みたいに優しくて人智を越えて綺麗で、しかし危険な人に襲われてみたいものです。(笑)
それが叶わない今となれば、可愛い乙女をお持ち帰りさせてちゅっちゅさせたい……。死
何故、中国まで羽根を伸ばした際に日本へは立ち寄らなかったのだろう……?
年若い、それでいて操の固い女性がまだこんなにいるとは。
当分飢えには困るまい。といって、派手な行動も出来ない。糸を張る蜘蛛と同じように待つしかないのだ、この琴線にかかる乙女が見つかるまでは。
つい遠出をした日、陽の光にやられてベンチでしなだれていた自分に、そっと日傘を差し掛けてくれた女の子。
或いは熱中症患者とでも思ってか。
彼が目を開くなり、傘を置いて逃げ去っていった。異国人の姿が珍しかったか、それとも魔眼に恐れをなしたか。何の可愛らしいことに、傘の柄に名前まで書いてある。
人ならざるものである彼には、名前を知ればこちらのものなのであった。彼女の部屋を訪れることも、反対に彼女を邸の、あやしい薔薇の咲き乱れる庭園にそれと知らせず誘うことも。
滑らかな黒髪。不安げな大きい瞳。優しそうな面持ち。一見して化粧気がなくとも目立つほうではないが、可愛らしい。彼は見立てに自信がある。強いて難点を挙げるなら、笑えばきっともっと可愛らしいであろう口許と、怯えた表情か。
地味な格好と、忙しなく動く視線が痛々しい程だった。間違いなく処女だ。
彼女のような可愛らしい女性は、素直に悦びを表現し、元気なのが一番だ。
それでこそ、愛しがいがある。
興味が湧いた。食べたいということなのか、反対に親交を結びたいのかよく分からない。
だが彼は少し時代遅れの服で身支度をして―、黒い霧となって夜風に溶けた。