もうすぐクリスマスという頃、鈴が相談があるというので試しに話を聞いたみると、鈴から意外な言葉が飛び足していた。
「サンタになりたい?」
夏実は思わず聞き返して、まじまじと鈴を見やる。鈴は至って真面目な表情で頷いていた。
「どうしてまた?」
今、自分がどういう顔をしているかと問われたら上手く答えることは出来ないであろう複雑な表情を浮かべて夏実は聞き返す。
「なーちゃ、あのね、おねいちゃんはサンタさんがいることを信じていないんだって。
でも、鈴はサンタさんがいることを証明したいんだけど、どうやってサンタさんに会いに行けばいいのかわからないから、だったら鈴がサンタさんになればいいよねって」
言っていることは無茶苦茶だが、鈴の気持ちななんとなく伝わってくる。
と同時に、何かが夏実の中でひらめいて、鈴に耳打ちするように自分の顔を近づけていった。
「それなら鈴ちゃん、こういうのはどうかしら?」
悪戯をする子供のような晴れやかな笑顔で夏実はこそこそと鈴に伝えていく。
鈴は頷きながら、じっと夏実の提案を聞いていたが、やがてぱあっと表情を輝かせると夏実の手を握り締める。
それもつかの間のことで、鈴は夏実の手を放すとすぐさま駆け出していっていた。
「なーちゃありがと!鈴、おねいちゃんのためにがんばってくるね!」
元気よく手を振っていく鈴を見送って、夏実は一息ついて表情を綻ばせる。
見守るような、どこかもの寂しげな様子はどこかしら姉や母親を思い浮かばせていた。
「せっかくの二人の時間だから、大切にするのよ」
誰にも聞こえないように呟いて、夏実は消え去るようにその場から立ち去っていく。
クリスマスの夜に鈴はこっそりと自分達の部屋から脱け出すと、母親に作ってもらったサンタの衣装に身を包んで、鈴は眠っているはずの楓の部屋に舞い戻っていく。
案の定、楓はすやすやと寝息を立てていて、鈴はこの日のために用意しておいたプレゼントを楓の枕元にそっと置く。
「おねいちゃん、メリークリスマス」
去り際に、楓の耳元で呟いて、楓の頬に触れるくらいに軽く口づける。
そのまま部屋から出ていこうとしたが、なにかに自分の腕を捕まれていた。
鈴はいきなりのことに驚いてびくっと身体を震わせると、おそるおそる振り返っていく。
そこには表情は読み取れないものの、楓がゆらゆらと起き上がってこちらを見てきていた。
あまりの出来事に、鈴は目を白黒させて固まってしまう。
「妙にそわそわしてると思ったら、なにやっているのよ鈴?」
どことなく呆れた口調で楓は鈴を見据えてきていた。
別に怒っているように感じられるわけではないが、あっさりと鈴の名前が出たことに、鈴の頭の中は真っ白になってしまっていた。
「鈴は鈴という名前じゃないよ。鈴はれっきとしたサンタクロースだよ」
明らかに自爆をしていることに気付かずに、鈴はなんとかその場を誤魔化そうとしている。
思わず楓は苦笑いを浮かべてしまい、掴んでいた鈴の腕をゆっくりと放した。
「はいはい、わかったからもう寝ようね、鈴?」
とにかく鈴を落ち着かせようとあやしていると、鈴が突然ぽろぽろと大粒の涙を流し始めて、楓はわたわたと思い切り慌ててしまい、泣き止むように鈴の背中をさすっていく。
「ああ、ごめんね鈴。お願いだからこれ以上泣かないで」
「違うもん。鈴は鈴じゃなくてサンタさんだもん。
おねいちゃんのためにやってきたサンタさんだもん」
「鈴…」
鈴の気持ちが嬉しくて、気づけば楓はそっと鈴を抱き締めていた。
そこでようやく鈴は泣き止んで、ゆっくりと楓に向かって振り返る。
「…おねいちゃん?」
「ありがとね、鈴。…じゃなくてサンタさん。とっても嬉しかったよ」
楓は我ながら甘いと思っていたが、すぐに鈴がぱあっと表情を輝かせるものだから、些細なことと思うことにした。
「ま、たまにはいいか」
肩をすくめて一息つくと、鈴が思い出したように身を震わせる。
「…鈴?」
「そうでした。鈴は他の子供達にプレゼントを配らないといけません。
ずっとおねいちゃんと一緒にいたかったけど、ここは我慢して子供達に会いに行くね」
そう言うなり、鈴は部屋から飛び出していき、部屋に静寂が訪れる。
いきなりの展開に、楓はポカンと呆気にとられていた。
「…一体、これは何だったの?」
よくわからなくて混乱したまま途方に暮れていると、いつの間にか着替えてきた鈴が何事もなかったように戻ってきた。
「鈴!これはどういうこと!?」
「ええと、おねいちゃんどうしたの?」
どういうことかと問い詰めようとすれど、鈴はとぼけて答えようとしない。
あくまでもさっきの人物とは別人と言い張る鈴に半ば感心して、楓は苦笑いを浮かべながらも質問の仕方を変えることにした。
「鈴、さっきまでここにサンタさんがいたんだけど、どういうことなのか鈴はわからない?」
すると、「サンタさん」がいることを信じてくれたと鈴は満面の笑みを浮かべながら、事の顛末をしゃべり出していく。
「あのね、おねいちゃんにサンタさんがいることを信じてもらうには、なーちゃがこうしたらいいって教えてくれたからだと思うの」
予想はしていたが、想像通りの展開に楓は思い切りうなだれてしまう。
「もし、私がサンタを信じなかったら、サンタさんはどうするつもりだったと思う?」
「ええとね、なーちゃはそういう時は黒いサンタになってサンタさんを信じない悪いおねいちゃんをお持ち帰りすればいいって言っていたと思うの」
(とりあえず、信じておいてよかった…)
後日、今回の計画を持ち出してきた人物に文句を言いに行くとして、なんだか疲れた気分になってしまった。
「鈴、とりあえず寝ようか?
サンタさんが持ってきてくれたプレゼントを開けてみたいし」
プレゼントはクリスマスの朝に開けるのが正しいクリスマスの楽しみ方と説明して、楓はベッドに潜り込む。
鈴も嬉しそうに楓に倣ってベッドに潜り込んでいった。
「うん!明日が楽しみだね。おねいちゃん」
そう言うと、二人は身を寄せ合って睡魔に身を委ねていく。
明日の朝を笑顔で迎えるのを楽しみにしながら、二人は指を優しく絡み合わせながら心地よく微睡んでいった。
…ええ、なんだかわけのわからない文章になってしまいましたが一応、クリスマスに鈴が楓にサンタクロースを信じてもらうためにいろいろと頑張る話です
クリスマスまでに間に合いませんでしたがまた来年のクリスマスにでも読んでください
orz