「いきなり降ってきたわね」
「…はい。ミクさん大丈夫でしょうか?」
空を見上げれば雨がザアザアと降っている。
今日一日は雨が降らないだろうと思っていたが、その認識は甘かったようだ。
そんな中、傘を持たせずにミクを買い物に行かせたから、ルカと一緒に心配そうに外を見ていた。
「迎えに行った方がいいわよね?」
「…ですが、ミクさんがどこにいるか分かりません。すれ違ってしまえば、元も子もないですし」
時間的にはもう帰ってきてもよさそうなのだが、帰ってこない辺り、どこかで雨宿りをしているのだろう。
私達がどうしようかと話していると、メイコが私達の間に割り込んできた。
「迎えに行けばいいじゃないですか。わたしが留守番しますし、とっとと迎えに行かないとミクが大変なことになっちゃいますよ?」
確かにこのままここでまごついてるよりは、行動に移した方がまだましだと感づかされてしまう。
当たり前のことなのに気づかない辺り、まだまだマスターとしての自覚が足りない。
「ほら、落ち込んでいる暇なんてないですよ」
まるで私の心を見透かしているかのように、メイコは私達の背中を押してきた。
私達はお互いに顔を見合わせて、頷いていくと傘を持って玄関を開けていく。
「ありがとねメイコ。それじゃミクを迎えに行くから、お風呂を沸かしといてね」
「了解です。…ふと思ったんですけど、今ミクって携帯持っていないんですか?」
『…あ』
…雨にばかり気を取られていてすっかり大事なことを忘れていた。
「マスター!助かりましたー!」
後は簡単だった。慌てて携帯を取り出してミクに連絡を取り、メイコから傘を預かって迎えに行く。
後でミクに聞いてみたところ、ミクもそのことを忘れていたようで、自分達の間抜けさに思わず声に出して笑ってしまった。
「でも、困った時にマスターの声が聞こえたのはとても嬉しかったです」
私達の姿を見つけるなり、勢いよく抱きついてきたものだから、相当困っていたんだろうと思う。
とりあえずよかったとメイコに感謝して、メイコから預かった傘を開いていく。
「………ここまでくると、笑い話にもならないわね」
開いたビニール傘はところどころ破れており使えなくなっていた。
どうやら、私達の最後の砦もお間抜けさんだったらしい。
「ミク、ルカ、なんだか悪いわね」
「…マスター、気にしないでください」
結局、ルカの傘にミクが入る形で私達は家路へとついている。
ミクがとても機嫌良さそうにルカに寄り添っているのがせめてもの救いか。
「大丈夫ですよ。マスターにもメイコさんにも感謝で一杯です!」
ルカもミクとの相合い傘にまんざらでもない様子で、頬を染めているのがとても可愛らしい。
二人の様子がうらやましくて、なんとなくメイコのことを思い出してしまう。
「…その、私達ばかりすみません」
どうやら表情に出ていたらしく、ルカが丁寧に頭を下げてきた。
これ以上、二人に心配かけるのはまずいと、私はなんでもないと手を横に振っていく。
「気にすることないわよ。帰ったら、…そうね。たまには思い切りメイコに甘えるのも悪くないわ」
そう言うと、二人から感嘆の声が聞こえてくる。
冗談混じりに言ってみたけれど、こうしてまじまじと期待の込められた眼差しで見つめられると急に照れくさくなってしまった。
「そんなことより、二人して甘えていられるのも今のうちよ?だから、二人とも思いっきり甘えておきなさい」
とりあえず、照れ隠しのために傘で表情を見せないようにすると、ミクとルカの声を押し殺したような笑い声が聞こえてくる。
「…それではお言葉に甘えて」
そう言ってルカは、組み付いてきているミクの手を取ると包み込むように重ね合わせて一緒に傘を握り締めていった。
「ルカさんの手、ひんやりしててとても気持ちいいです」
なんだか見ていてこっちが恥ずかしくなってしまいそうな二人の甘えっぷりが微笑ましくて、ついつい口元が緩んでしまう。
改めて、この二人のマスターになれてよかったと思いながら、後でメイコに二人の真似をしてみようと考えていた。
雨宿りをしていて、ふと気がついたら傘を差し出して…
…なんて考えていたのにどうしてこうなった
なんとなく続きそうです