人差し指と中指の二本を、小さくて暖かいモノに包まれる感触に視線を落とすと、

花びらのように可憐なその手の持ち主の、綺麗な瞳と視線が絡む。



(嗚呼、愛しい。)



俺には、一生掛かっても手に入らないと思っていた宝物とこの感情。

小さな彼女にふわりと微笑まれて、つられるように頬が緩むのが分かる。



俺の腰よりも低い身長の彼女は、誰が見ても明らかなほど、俺の容姿とは似ても似つかない。
当然自分が産んだわけでも、血の繋がりがあるわけでもないが、
だとしても、自分の大切な娘であることにはかわりがない。

「Ti voglio bene.」

こんな言葉を使う日がくるなんて、考えた日もなかった。

そんなふうに思いをはせる俺に、それでも

"大好き。"

と全身で伝えてくれる、彼女の表情と仕草に癒される。

今までの自分では考えもつかないほど、いろいろな感情を彼女には教えてもらった。



たとえば、今ここがボンゴレのアジトであり、部下達に俺のこの緩みきった姿を見られていると分かっていても、

ボンゴレの右腕としての、威厳を保った表情を維持できなくても構わないと思えているこの状況ですら、彼女から与えられた幸せの一つであると考れるようになったところもだ。



手を繋ぐために書類を見ながら歩くことがなくなったのも、一日3食必ず食べるようになったのも、身体が傷つくような無茶をしなくなったのだって、

10代目に何度言われても取り繕うことしかできず、直らなかった悪い癖がなくなったのも、全て彼女のおかげだ。



「―――今夜は雲雀も一緒に食べるって言ってたから、ハルに可愛い服着せてもらおうな。」



その一言で、花が咲いたように笑顔になる、彼女の綺麗なハニーブロンドの頭を撫で、

口煩いくせにやたらと手先の器用なアホ女の部屋に向かう。





そんな、今や10代目に匹敵するほど大切だと思っている彼女と出逢ったのは、ほんの3ヶ月前のことだ―――。





桜のキセキ、永久に共に





事件はとあるマフィアのアジトを訪問したときに突如起こった。

もともと悪い噂のあるファミリーではなかったので、今回の訪問で同盟を結べれば安泰だ。と、交渉ごとの得意な骸を連れ、相手アジトの応接間に通された。



「ボスが来るまで少々お待ちください。」



この組織のNo.2がいつものように仰々しく頭を下げ、部屋を出て行く。

何度も訪れたことのある部屋。ソファーの位置も、おいてある高級な家具も、アンティーク調の小物達も、出されたティーカップもいつもと同じ。

出されたお茶菓子でさえも、俺たちの好む、いつもの日本の店のものだった。封が開いていれば、安全のため手をつけない俺達を考慮して、開封していないことが分かるよう箱のまま。



「―――骸、」

「えぇ。」



でも、違う。

それは骸も気付いていたようで、お茶にも菓子にも手をつけず、注意深く気配を読み取る。お互いソファーにさえ座らなかった。



敵意を感じるわけではない。

ただ、微かだが、血の匂いがする。



ここのボスは抗争は好まなかった筈だ。血を流すような何かがあったのか?

だが、この部屋で血が流れるような争いがあったとするならば、家具が無傷なのはおかしい。



それに、この部屋、

「―――何か、いますね。」

「…あの箱だな。」



生のあるナニか。
気配がする、この大きくはない宝箱のような物の中から。

ここのボスは、こんな不気味なものを応接間に置いておくような男だっただろうか。



「敵意はなさそうですね…まぁ、この箱に閉じ込められているくらいですからねぇ。中、確認します?」



人か、人でないのか。敵か、敵でないのか。

今から同盟を組もうとしているマフィアの所有物をを勝手に見るのは気が引ける。

それに、そのことが原因で破談にでもなったら、10代目になんて説明したらいいか……、



けれど、

「開けてくれ。お前手癖悪ぃから得意だろ、ピッキング。」

「こんな南京錠開けるのは大したことありませんが、一言余分です。」



俺のカンが、箱を開けろと言っている気がした。




俺に確認すると同時に開錠し終えた骸を横目に、

万が一の為懐の銃に手を掛けて、足で箱の蓋を蹴り上げた。



「………マジかよ」



派手な音を立てて開いた箱の中身、
それは、綺麗なブロンドと、真夏の青空のような瞳を持った、両手足を縛られた状態の幼女と、

1枚の紙切れだった。





―――それが、彼女と俺の、最初の出会いだ。






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たんなる序章ですね^^;
長くなりそうですががんばります。
続きます。