俺はたまにコイツの部下が羨ましくなる。

 

だって部下なら、
コイツに守られて、格好いい姿を見れて…

 

 


それに…3時間かけてデコレーションしたホールケーキをぶちまける…なんてこと、絶対しないだろ?

 

 

 

 

部下の前ではしっかりしてて、
恋人の前ではへなちょこって、どういうことか説明しやがれ!!!!!!

 

 




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「…隼人、本当悪りィ」

 


今日はこの馬鹿の誕生日とあって、
「隼人の手料理が食べたい」だなんて言ったコイツの為に、学校を休んで朝からコイツが到着するギリギリまでかかって作った料理とケーキ。
俺にしちゃ珍しくおとなしくその要望を聞き入れた。
(だって喜んで欲しいじゃねーか、)

 

何回も焦がしたし、爆発もした。(俺じゃなくてレシピが悪りぃ、)
作り直すこと数十回。漸く普通のものが出来た。
…といってもパスタとピザとサラダ、それに苺がたくさん乗ったホールケーキ。


パスタやピザは3回目くらいで成功したが、このケーキには苦労させられた。


なんてったって、こいつの爆発のせいで、オーブンレンジが2つも死んだ。

 


まぁそれはあとでコイツに買わせれば良いとして、


そのやっと焼き上げたケーキに、デコレーションすること3時間。

 

やっと出来た…と思っていた頃にタイミングよくやってきた馬鹿。

 

俺の手料理を見るなり、目を輝かせながら俺に抱きついてきた。

 

どうやら作ってもらえるとは思ってなかったみたいだ。(心外だ。俺を何だと思ってるんだ、どっかの鬼畜ツンデレじゃあるまいし、)

 


「俺だってやる時はやる」
そう言えば、嬉しそうに眉を垂らして頬を赤らめ、俺の頭を撫でてくる。


こんなことで喜ぶなんて安い奴。


「お前の気持ちがこもってる。安くない、嬉しい。」だそうだ。(俺を喜ばせてどうする。)

 

 

そんな馬鹿と数分いちゃいちゃして、そろそろご飯にしようと、台所からリビングテーブルに料理を運ぼうとしたところで馬鹿がやらしやがった。

 


「…隼人、本当に悪りぃ。」


この馬鹿は部下がいないここぞとばかりに、へなちょこさを発揮した。

 

 

おれが何時間もかけて作ったケーキをものの見事にぶちまけやがった。

もちろん他の料理の上にだ。

 

俺にぶちまけたのなら、「悪りぃ、綺麗にしてやるな」とかなんとか言って、棚から牡丹餅的な状況だったって言うのに、よりによって他の料理の上かよ…、

 


でも怒ったらダメだ。
今日はコイツの誕生日。俺だってたまには優しくしてやりたい。


「……別にいい。何か食べに行こうぜ。」

 


「いや、これ食べよう。」
「は?やめとけよ…、」

「隼人が一生懸命作ったんだ。食べる」

「そ、そんなの…また作ってやるから…」

 

言ってるのに、何の迷いもなく、ぶちまけた料理を口に運ぶ。


「あ、おい!やめろって…、」

「ん、うまいよ。」

「……、」

そう言われ、自分も一口、口に含む。

 

(…………しょっぱい、)


塩の味がする。
食べたのはパスタでもピザでも無く、ケーキのクリームなのに。


(砂糖と塩間違えたのか、)

 


あれだけ作り直してコレか、


「…ディーノ、もう食べなくて良い。」


「ん?」


「食うなって、」


お前の大事な誕生日にこんな不味いもの食わせられるかよ。

 

「ごめん、不味いから食わなくて良い。」

 

「?そんなの関係ねぇよ、隼人が作ってくれた事が嬉しいんだ。」


こんな不味いもの誕生日に食べさせて、「嬉しい」訳ないだろう。


今日は俺がお前を甘やかしてやりたかったのに、

「ディーノ、本当に…」


「…おい、泣くなよ。余計しょっぱくなるだろ。」

 

いつ流れ始めたのか分からない、勝手に出た涙を舐めとり、言われる。

 

なんだよ…結局俺が甘やかされてんじゃねーか。

 


…俺が恋人で本当に良いのかな。コイツにはもっとお似合いの良い女が…、

 

「ちょ、隼人っ!何でそうなるんだよ、」

 

「?」


「こんなに好きだって言ってんのに、他の女のとこなんて行くわけ無いだろ。」


「………………………え?」


「ん?…………あ、」

 

しまった。みたいな顔してるコイツは今、何て言った?


「あ〜〜〜、………隼人、実はな?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


「―――――ってな訳で、リボーンにもらったんだよ。」


誕生日だから、とリボーンさんから特殊薬をもらったらしく、どうやらディーノには、今日1日、俺の考えていることが筒抜けらしい。

 


「……ってことは、その…」


「ん?『俺にぶちまければ棚から牡丹餅』?」


「っぅわぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」


「わっ、隼人、恥ずかしがるなよ。」


「っ恥ずかしいわ馬鹿!」


「このケーキだって何回も作り直してくれたんだろ?超嬉しい。」


「ぁぁぁぁぁ、なんっで…」


「慣れない事しすぎてネガティブになるとか、どんだけ可愛いんだよ。」


「ちょっ、黙っ…」


「へへっ、俺に優しくしたかったんだろ?
甘やかしてくれよ隼人。」


「〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ、」
全部ばれてんじゃねーか!!!

 

「…隼人、明日オーブン買いに行こうな。」


「………ぉぅ、」

 

 

 

 


(あー、可愛い)
真っ赤になったまま俯いてしまった隼人。


今は隼人の考えが読めるから、恥ずかしがりながら嬉しがってるなんてすぐ分かる。

 


今日1日を、俺だけの為に使ってくれたなんて、本当に可愛い恋人。

 

 


まぁ明日は「学校休んで君の誕生日の用意なんて許せない」とか言われて、恭弥に殺されるだろうな俺…。

 

 

 

end