「Trick or Treat 」

放課後、一文前の台詞を雲雀に言われても問題ないように、いつもはボムが入っている場所にもありとあらゆるお菓子を詰め込んできた獄寺が、
応接室に普段どおり乗り込んで逆光を浴びる雲雀に先程の台詞を投げつけた。


「僕が何か用意してると思う?」

突然の獄寺の訪問にも余裕且つ自信満々に答える雲雀に、「いいや、絶対に用意してねぇだろ。」と確信を持った笑みを貼り付けて近付く。ハロウィンという一年に一度の行事に託つけて、堂々と雲雀に悪戯できるチャンスに胸を踊らせ、どういたぶってやろうかと思考を巡らせる。

いつも自分に無体を強いる雲雀を同じ目に合わせてやろう、よし、決まりだ。と雲雀を正面から見れば、腕を組んだ体制のまま、偉そうに冷蔵庫を顎で杓られた。


はぁ?何だその態度。俺に冷蔵庫開けろってか?自分で開けやがれ!と長くはない獄寺の気がキレそうになったが、普段使われている様子のない冷蔵庫の中身が気になったのが半分、もう半分はまさか何か用意してたのか?という薄い期待で、怒りを押し込める。

恐らく後者はないだろうと高を括り、まぁいいか。強がってられんのも今のうちだぜ。と、豪快に扉を開ければ、案の定ほぼ何も入っておらず、普段から使われた形跡のない閑散とした冷蔵庫の中央に、皿の上に乗っかっているタルトらしき不恰好なモノが、一切れ置かれていた。


いやいやまさか、クリスマスや自分の誕生日でさえ忘れる雲雀がハロウィンなんか覚えてるハズがない。万が一、この異常気象によって頭が多少沸騰して覚えていたとしても、態々お菓子を用意しておくとは思えない。それにまさか自分用に冷蔵庫に入れておいたなど……いやいや、ないない。

半ば無理矢理結論付けるが、かといって、他に思い当たる節もないのだけれど。


「悪戯したかった?」


ニヤリと意地の悪い笑みを浮かべながら、暗に自分の為に用意しておいたのだと告げる雲雀にカッと頬に熱が走る。

「ーーー馬鹿野郎、」

悪戯ならしたかった。したかったけど、こんなもの用意されて、菓子はいらねぇから悪戯させろなんて言えやしねぇ。だってコレ、どっからどう見たって雲雀の手作りじゃねぇか。

なんつーもん用意してんだバカ。という気持ちを込めて、悪戯が成功した子供のように優しい笑みを向けてくる雲雀の目を見つめたまま、気恥ずかしさと嬉しさを込めて、がぶりと一口齧りついた。


何故かボソボソしているクリームと、もはや原型が分からないペースト、とてもタルトだと思えない程固いクッキーに(もしかしたら、タルトじゃないのかもしれない。だって噛みきれない)前歯が持っていかれそうになるのを必死で堪える。とてもプロが作ったものには及ばないけど、ふわりと口に広がったパンプキン独特の甘さは、丁度いい。

「旨いよ」
「そう。」

もうあとは興味がない、といった様子で視線を反らした雲雀の横顔を見ながら、残りのタルトを口に放り込む。…………固ぇ。

容赦のないトンファーを繰り出す狂暴なその手で、案外細かいことが苦手なその性格で、一体どんな顔してコレを作ったのだろう。米ですら、研げないくせに。


でも、旨ぇよ。

成功してんだか失敗作なのかわかんねぇ物体ごときにときめいちまうなんて。ちくしょう、俺の馬鹿!


「ねぇ、ちなみに悪戯は何しようと思ってたの?」
「…襲ってやろうかと思ってた。勿論、お前が下で。」

「へぇ、」
一瞬驚いた顔をして、面白そうに頬を歪めた。


へぇ、じゃねぇよ。もっとビビれよ。お前の貞操の危機だったんだぞ。あ、まさかコイツ、俺がお前のこと抱きたいとか、欲求不満ですとか、そう勘違いしてないよな?第一俺に男を好んで抱く趣味はねぇぞ?!全然違う意味……はぁ、もう言わなきゃ良かった。


「ねぇ獄寺。」
「あ?」
「Trick yet Treat 」
「ーーー、」


驚いた。
いきなり言われたことにもだが、堅物の雲雀の口から英語が出てきたことに。それはもう、内容なんて頭に入ってこないほど。

「お菓子はいらないから悪戯させて」
「……よく知ってたな。」
「跳ね馬に聞いた。たまには使えるよね、あの人」

余計なこと教えやがって、使えねぇ野郎だな。
しかも、寄りによって何でそーゆうしょうもねぇヤツ教えるんだよ。

「……俺、お前に悪戯されないために菓子大量に持ってきたんだけど。」
「いつもの玩具の変わりに持ってきた安そうなモノなんて、興味ないよ。」

うわっ、ダイナマイトの変わりに持ってきたのバレてんのかよ。ってか玩具っていうな!

「お菓子はキミの大切な草食動物にでもあるだけやりなよ。だから僕には悪戯させて?」

なっ、誰が草食動物だ!10代目の偉大さをお前は一ミリも分かってねぇ!!よく聞け、10代目の素晴らしさを俺がお前に伝授してやる!と、憤慨した獄寺の口が、そう叫ぶ直前、

「話してると、口に詰まるよ。」

言うが早いか、動くが早いか。
獄寺の優秀な頭の処理速度を遥かに上回るスピードで、黄色いクリームをボウルごと投げ付けられた。

「っぶあ、いってぇ!!っなにすんだてめぇ!!」


顔面に掛けられたクリームと同時にガツンと頭に響くボウルの鈍痛。
クリームから香る甘い匂いは、先程の食べたパンプキンと同じやさしい匂い。ーーーーって、香りには騙されねぇぞ!!

全身クリームまみれじゃねーか気持ち悪ぃ!

「ワォ、思った以上にそそられるね。……んー、でも黄色いクリームにしたのは間違いだったな、白のが良かった。」
ーーーーーガシャン、

なに、考えてんだコイツ!
白のが良かったって……この変態野郎、許せねぇ!ちょっとでもときめいた、さっきまでの俺の心を返せ!

……ってかガシャンなんだガシャンて、

「……っ、なんで手錠なんかかけてんだ!馬鹿かお前!!」
「そうしないとキミ暴れるじゃない。」
あたりまえ、みたいに言うな!そりゃ暴れるだろ!

「ちなみに抵抗したら手錠増やすから。……よし、じゃぁ、頂きます。」

よし、じゃねぇよボンゴレリングまで装着しやがって…
今日に限って用意良すぎだろ、バカっ!



Treat×3

「うわ、このクリーム思った以上に甘いね。」
「っ、」
(〜〜〜っ胸元で喋るな!!)


end



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遅刻しましたハロウィン遅刻しました。
携帯で書くと想像異常に時間かかりますわ……


2012/11/1 夕菜