年の離れた大好きな兄。
いつもは大人の余裕で僕を翻弄し、上から見下ろし可愛い可愛いと子供扱いしてくる。


だけど、今日の僕は違う…!!

なんとリビングの掃除中、ソファーの下からいかがわしい雑誌を発見してしまったのだ。

僕の物でないので、持ち主は兄唯一人。


(やっぱり隼人もこーゆうの読むんだ。)


なんだか若干複雑な気持ちではあるが、
大人の男である以上、エロい本の一冊や二冊くらい読んで当然だろう。


しかし、だからと言ってこの状況を見逃すことはない。
普段僕に対しては冷静な兄を、少しからかって遊んでやろう……、



お兄ちゃんと僕



「お〜い、恭……………うわ、」

リビングでお茶を飲む僕の元へ来た兄。
そして僕の目の前、リビング中央のテーブルに置かれた雑誌に、兄の反応。


ここまでは作戦どおり。


「掃除してたら出てきた。ソファーの下に落ちてたよ。」


何度も頭の中で練習した台詞を吐き出し、
チラリと兄を盗み見れば、案外焦ったような雰囲気が…無い。
………あれ?


「山本に借りたやつじゃねーか。
良かった、失したのかと思ってた。」


ほっとしたように息を吐く。
あぁ、せっかくからかってやろうと思ってたのに、こんな安心したような顔されたらもう何も言えないじゃない…!!


「そう、良かったね。」

「あぁ。なんでもこの雑誌に載ってる女が好みだとかでさー、」


そう言いながら、その女を説明しようとしているのか、ペラペラと雑誌のページをめくりだす。
ちらちらと見える雑誌中身は、僕が想像していたよりもずっと卑猥なモノで………高校生にはちょっと刺激が強すぎる。


「えーっと…あったあった。
ほら恭弥、この女らしいんだけどよ」

ああ見たくない……僕は兄にしか興味ないけど、健全な僕の雄としての本能が過剰反応してしまいそうで怖い…


「ほら、この女なんだけどよ。見た瞬間喧嘩売られてるのかと思ったぜ。」


その時のことを思い出したのかケラケラ笑う兄に、
内心、山本武の好みの女など見たくもなければ興味もないと思いつつ、
先ほどの兄の話の中にどうにも引っかかる箇所があったので確認がてら雑誌を見ると、



(やっぱり……!)


そこには、銀髪、碧眼、色白で細身の女が写っていた。
兄とは違い、全てが人工的なその女に、真似するな!と強い怒りが沸いてくる。……が、それ以前に…


(山本武……!)

許せない。何が好みの女だ。
この女に兄をかぶせて見てるだけじゃないか…!!

それに兄も兄だ!
何で笑ってるの!怒るところだよ!!
完全に山本武にロックオンされてるのにどうして気付けないのかな…!


「ちっ、」

「おいおい恭弥…、何怒ってんだよ。」

そりゃ怒りたくもなるよ!
こーやっていろいろ頭の中で考えてるのに、何一つ言葉に出せないからストレス溜まるよ!


それに君、無防備すぎ!危機感持たないといつかあの人の皮を被った悪魔に食べられちゃうよ…!!!!

あーもう弟って不便!
だけど……
「そこまで言っても気付いてもらえないなんて…本当不憫だよ。」

まぁ心の中では嘲笑ってるんだけどね。

「恭弥?」

「別になんでもないよ。」

不思議そうに見つめてくるけど、教えてやるつもりなんて全くない。
アイツの恋路を邪魔する理由はあっても、手助けする理由は無いからね。


「で、隼人はどーゆうのが好みなの?」

「え、は、…俺?」

「うん、例えばで良いよ。」


山本武と兄の好みが同じとはとても思えないし。兄がどういう女が良いかくらい聞いておきたいしね。


「んー……こういう雑誌には…いねぇかなぁー…」

「?」

「なんかこう……過激な感じが苦手というか…清楚っぽい方が良いかな。」


……意外だ。
兄の見た目が結構チャラチャラしてるから、好みな女もそんな感じなのかと思ってた。


「……でもそーゆう女、家に連れてきたことないよね。」

いつも真っ黒な目した軽そうな女か、男だ。

「ん?……確かにそうだな。」

「だからあーゆう強そうな外見の女が好みなんだと思ってた。金髪巻き髪…みたいな」

「は?いやいやないない。
どっちかって言うと、黒髪ストレートで華奢な感じが良いんだって。」

黒髪ストレート……

「あー…山本武が女だったらそんな感じかもね。」

「アイツはゴツい。違う。」

なんだ違うのか…良かった。
兄が連れてきた奴の中で黒髪ストレートって言ったらアイツくらいだったから…ホッとしたよ。


「っていうか隼人……恋人とかいるの?」


あんまり最近女連れてこないけど。

「……見りゃ分かんだろ。いねーよ。」

「そう。」

なんとなく、嬉しい。
やっぱり好きだから、兄が他の女のモノじゃないときは、限りなく僕が兄の一番で要られるから。


「でも隼人の昔の恋人で、清楚っぽい人なんていなかったよね?」

「え、あ、あぁ…。」

「もしかして……
黒髪ストレートで華奢な本命の女でもいるの?」

「へ?」

「だから、そーゆう女がいるのかって。」

だって、そうとしか考えられないだろ。
あんなにいろんな女侍らせといて、好みが全然違うだなんて。

「どーなの隼人。」

「あー…いるよ。黒髪ストレートで色白で華奢で…つり目で暴力的なのにすっげー可愛い奴…」

「ふーん、あっそ。」


やっぱいるんだ。
兄の一番大切な人。

……ムカつく。ずっと前からそーゆう奴が居たことが、その女が。

「…女に生まれたかった。」

「……。」

「外、出てくる。」

「…おう。」

女に生まれれば、
隼人のいう好みな女になれたかもしれないのに。


失恋ってきっとこういうことを言うんだろう。
きっと今、とてつもなく情けない顔してるはずだから…こんなの隼人に見せるわけにはいかない。



隼人にはずっと前から好きな女がいて、きっとこれからもその女の事が好きで、なかなか忘れるつもりなんてないんだろうけど…残念ながら、僕の方も、この気持ちは消せそうにない。









「……だから、女なんて一言も言ってねぇだろうが…。」


なんでここまで言って気付かねぇんだよ。

黒髪ストレートで色白で華奢で…つり目で暴力的なのにすっげー可愛い奴……なんて、

「お前意外誰がいるって言うんだ。」




不憫な男
(これだからガキは……早く大人になりやがれ!)


end