※女体注意!サンジは19設定です。







「お届けもので〜〜す!!」

そう言ってチャイムも鳴らさず、我家にでも帰ってきたかのように家に上がってきたのは、家が隣のエース。
目下、姉の恋人の座を狙い奮闘中…だそうだが、当の本人は全く気付いてない。
報われない恋をもう長いこと。本人曰く「初めて会った時から、ずっと好き」ということらしいので、少なく見積もっても10年だ。(1の単

位は切捨てだ。)


「お、エースか。なんだなんだ?」

そう言って、晩御飯の食器を洗っていた手を止めて、リビングの扉を開いて出迎える。
ピンクのエプロンが、きれいなハニーブロンドと白い肌に良く似合う姉は、現在キャミソールと惜しげもないほど太腿を晒しているショートパンツを着用している。

あ、やばい。と思ったが時既に遅し。
「え、ちょ、何、どーしたの!?えっ!?」と焦ったエースのうろたえた声が聞こえたので、おおかた裸エプロンだとでも思たのだろう。
そんなエースに全く気付く様子もなく、
「おぉリンゴかぁ〜。」という嬉しそうな姉の声が聞こえたので、恐らくエースには見向きもせず、
お土産のリンゴに夢中になっているのだろう。


「隼人〜!エース、りんご持って来てくれたぞ!」

という姉の声につられて目をやれば、
耳まで真っ赤にしたエースが、姉の後ろをバツが悪そうに歩いてきた。

姉が両手に抱えるように持っているリンゴの箱。
女性に対して甘いエースが、決して軽くはないであろうダンボールを姉に持たせているこの状況を見ても、
もはやエースに冷静な判断ができていないことが見て取れる。

というか、エースの両手は自分の顔を押さえている。


姉に重い物を持たせるなんて、使えない奴。
と罵りながらも、正直哀れでならない。


「まずは生で食べたいよな!」

と意気揚々と台所に引っ込んで行った姉を確認し、
へなへなと、腰砕け状態で座り込んだエースに近寄る。

「ドンマイ」
「……俺、男として意識されてないわけ?」
「ドンマイ。」


…まず、生で頂きたいのはリンゴじゃねーよ…
とボソボソ聞こえてきたが敢えて無視。

正直、自分もエースは好きだし。将来兄として迎えてやってもいいとは思っているが、なにぶん相手があの鈍感な姉だ。
もうちょっと押してみろよ。と助言でもしてやりたいところではあるが、面倒なのでやめておく。


「隼人ー、リンゴ切ったぞー。」
「いま行く。……ほら、エース」


立ち上がれそうもないエースの手を引っ張って行くと、いつの間に切ったのか。大量のうさぎリンゴ。



「お、お前らそうしてると本当兄妹みてぇだな。」

屈託なく笑い、エースにしてみればとんでもない爆弾発言をかましたのにもかかわらず、

「見てみろ。すげぇ蜜だろ、食べ頃だ。」


サラリと流し、リンゴの話に戻る姉。
確信犯ならとんでもない小悪魔だ。


きっと隣で固まっているエースは、「俺を本当の兄妹にしてくれ」とか「食べ頃なのはサンジだ」とかいろいろ頭の中を駆け巡ったんだろうけど、結局1つも口にはしなかった。

もうちょっと押せよ。とも思ったが、
どうせ言ったところで通じねーから意味ないか。


それにしても、
「量、多くね?」

いくらエースが良く食べるほうだからといって、切り過ぎではないだろうか?

「ん?あまりにも美味しそうだったから、つい切っちまった。恭弥でも呼んでやれよ。」
「あ、バカっ!」
「……恭弥?」

誰だソイツ。
と言わんばかりの目で見てる。


「エース、隼人のこと大好きだもんな。このシスコン野郎。
恭弥は最近できた隼人の彼氏だよ。」

「ふーん、なんで教えてくんなかったの?」

「や、別に意味は……」

いつもニコニコしてるエースがちょっと意地悪そうに覗き込んでくる。
ちょっと拗ねてる顔だ。


すぐ言っても良かったんだけど、世間一般の父親張りに反対とかしてきそうで言い出しづらかったんだよ!
なんて言ったら本当にやりそうだから言えないけど!

「あぁ、そっかエースはまだ会ったことねぇもんな。ついでだし紹介してやれよ。『お兄ちゃんです。』って。」
「や、それ……」
どういう意味を込めて言ったらいいんだよ。誤解生むぞ。
っていうかこれ以上余計なこと言うんじゃねぇ!!

「…どんなやつ?」

あ、ちょっとエースの機嫌がよくなった。


「普通だよ。普通。」

っていうかあんまり会わせたくない。アイツ愛想とか良くねぇから、親への挨拶とかには絶対向いてねぇ。
……エースは親じゃねぇけど。

「普通って?」

俺に聞いても無駄だと、長年の付き合いで分かったのか、
代わり姉に説明しろ。と目で訴える。

「あー、…俺は結構気に入ってるぞ。
なんつーかそうだな、目が鋭くて隼人以外の前だとかなり殺気だってんだ。
例えると、昔のゾロみたいだな!」

「へぇー……ゾロ、ね。」

ぎゃぁぁもうやめて!
気に入ってるとか言ったあとにゾロの名前とか出すんじゃねぇ!
エースの目、据わってるから!

「あれだ。愛嬌とかなくて愛想も悪ぃな。エースとは正反対だな。」

「俺と正反対で、サンジは気に入ってるんだ。」


地雷だ。
もう怒りと嫉妬で口だけが笑ってる。

大好きな姉が、今日は憎い。


「隼人、彼氏さん呼んでくれる?俺、見てみたい。」


ニコリともしない顔で言われれば、頷かざるおえない。
縦に首が千切れるんじゃないかってくらい振る。

つーか、エースが怖い。

「なーに怒ってんだエース。そんなに隼人に彼氏ができたのが悔しいか。」

そう言ってカラカラ笑う姉に、本物の殺意を覚える。
いつもは姉が笑っていると、柔らかい顔して見つめているエースも顔が強張っている。


「恭弥、可愛いんだぜ〜」

そんなエースの様子に気付くことなく、ニコニコと喋りかける姉は、
肝が据わっているというか、神経が図太いというか、馬鹿というか……


雲雀を褒める=ゾロを褒める
みたいな図式がおそらくエースの中に成立しているのだろう。

こんな状態で紹介される雲雀の身にもなってほしい。
なんていうかもう、最悪の事態しか予想できない。



そうこうしているうちに、玄関のチャイムが鳴る。
雲雀だ。

とうとう来てしまった…
けど今はやばい、なにがやばいってエースの目が据わってて、
徐に玄関に向かいだしたのがヤバイ。

「ちょ、エース待って俺が出るから!!」


急いで大きな背中を追い越して扉をあける。
ゾンビみたいに歩くエースを追い越すなんて造作もない。


「雲雀っ!」
「こんばんは。どうしたの血相変えて?」

どうしたもこうしたもねぇ!
最悪の場合、お前殴られるぞ!あの太い筋肉付の腕で殴られたら、いくら雲雀でも意識飛んじまう!!
つーか顔が変形する!!

この事態を理解しておらず、冷静な雲雀が今はちょっと羨ましい。


「よっ、恭弥久しぶり。」

そんな俺の心も知らず、暢気に顔を出す姉。
一瞬、雲雀の顔がぎょっとしたが、すぐいつもの顔に戻った。
……そーいやぁ、前から見たら裸エプロンみたいな格好だったな。


「夜遅くにすみません。リンゴ頂きにきました。」
「いや、こっちこそ呼びつけて悪かったな。」

姉の格好には特に触れず、丁寧に挨拶する。
猫被りもいいとこだ。


「……こいつが彼氏?」
ゾロ似の?と聞こえてきそうな怪訝な台詞。


確かに目付きとか喰えねぇ態度とか、猫被りなところ(なんで分かった)は似てねぇこともねぇな…。
でも、アイツの中学時代はもっとゴツくてこんなひょろくなかったし、色白すぎじゃねぇか。

とか、いろいろ聞こえてくる。
エース、大人気ねぇ……。

自分で言うのもなんだが、エースにとって俺は可愛い妹みたいなモンだ。
やっぱりゾロ似だろうがなかろうが、俺に手をつけたって時点で処刑レベルの大罪人にみえるんだろう。

だが、手ぇまでだしてこないところをみると、
ゾロとあまり似てなかったのが良かったのだろう。
(というか、俺から言わせればゾロと雲雀は全く似てない。)


「悪ぃな恭弥。
コイツ、隼人のこと妹みたいに可愛がってるから、隼人に彼氏ができて面白くねぇんだ。」

「そうですか。ということは、お姉さんの恋人?」

姉はエースの態度に一応フォローをいれている。すこし感謝。
エースもエースで、雲雀の恋人発言に、少し気分がよくなったみたいだ。

しかし、
「コイツ、エースってんだ。家が隣なだけで恋人じゃねー。
今日はエースがたくさんリンゴ持ってきてくれて美味しそうだったから、恭弥も呼んだってわけ。」

「そうでしたか。」

あっさり恋人の部分を否定した姉に、項垂れるエース。
どんまい。と心の中で合掌して雲雀を見ると、
「なんだ、恋人じゃないなら猫被る必要もないな。むしろこの家に頻繁に出入りしていて『兄』という家族のような称号を得ている男……邪魔だな」
と顔に書いてある。
というかそう思っているのが分かるほど悪い笑み。
それに、先ほどのエースの先制攻撃(主にひょろいと言われたあたりだろう)よほど堪えているのだろう。


あ、ちょっとまずいかな。と思っているとリンゴを取りに姉が台所に戻って行ってしまった。


「アナタ、お姉さんの恋人じゃないんだね。
そういう目でアナタが見てるから、てっきりそうなのかと思ったよ。
まぁお姉さんはそんな目でアナタのこと見てないようだったけど。」

「ちょ、雲雀…!!」

何、藪から棒に喧嘩売ってんの!?

「ま、お姉さんそういうことに疎そうだし、
何より、妹の恋人…仮にも血縁関係でない男が家まで来るのに、あんな格好で出向かせるなんて男として失格だよ近所のお兄さん。」

「……なかなかいい性格してんじゃねーか。」


ちょっとやばいってこの空気。
リンゴなんかいいから戻ってきて!!


「てっきり前回会った緑頭の人が彼氏だと思ってたよ。お似合いだったし。」
「よし、表出ろクソガキ。」


エースの殺気に気付いた姉が、台所から飛んできたが時既に遅し。二人とも庭に出て行った。


派手な乱闘音と罵りあう声が聞こえる。
素手のエースが雲雀のトンファーを受け流す。

「あー…あぁやって喧嘩してると、本当ゾロと被るなぁ。
恭弥の本性が見てみたくてエースに吹っ掛けさせたけど、恭弥も大概短気だよな。」


全部わざとだったのか……
姉の計算高さに驚きつつ、そのせいで争う羽目になった二人が哀れに思う。

何はともあれ姉のせいで、
雲雀がエースに認めてもらえる日は、恐らく一生来ないだろう。



END