放課後、風紀委員として校内の巡回をする。
隼人は、何か用事があるけど、終わったら応接室に行くから一緒に帰ろう。と言っていた。
隼人が応接室に来たら連絡をするよう草壁に言ってある。
まだ連絡が来ないところを見ると、隼人の用事は終わっていないのであろう。
校内を巡回していると、2-Aの教室に近づくにつれ、だんだん人の声が聞こえてくる。
(…隼人?)
間違いない。否、毎日一緒にいるのだから、間違えるはずがない。
隼人の声に混じって聞こえるのは、誰か分からない男の声。
用事があるといっていたのは、この男のことなのだろうか。
胸にモヤモヤしたものがひっかかり気持ちが悪い。
このモヤモヤを解決しようと、歩く速度も自然と速まる。
すぐに2-Aにつき、手を扉に掛けると――――、
「獄寺さんって、本当にかわいいよね。」
「は?意味分かんねぇこと言ってんじゃねーぞ。しばくぞ、」
「いやいやマジで!足とか超細いし綺麗だし!」
「うるせえよ、早くやれよ終んねぇだろ。」
「獄寺さんと一緒にやれるんだったら、俺一生終らなくてもいいかも〜」
「俺はヤだ。」
「つれないねぇ〜、ねぇねぇ獄寺さんって彼氏とかいるの?」
「…うっせぇ。早くやれよ。」
「何?いないの?いないんならさ〜」
「いるよ!!黙ってやれよ!」
「え?…何、彼氏いんの?ふ〜ん。」
「…」
「顔、赤くしちゃって。ホント可愛いねぇ。」
「……」
「で、彼氏ってだれなの?このクラスの奴?」
「…」
「もしかしてツナ?いつも引っ付いてるもんな」
「…違ぇよ、10代目はそんなんじゃねぇ。」
「じゃあ山本だ。あいつ露骨にオーラ出してるもんな〜」
「は?野球馬鹿じゃねーよ。」
「え?違うの?ん〜じゃ、誰だろ…」
「……」
「ねぇ、教えてくれてもいいじゃん。」
「……」
「ねぇって、」
「っ!触んな、」
「うわ〜手首細ッ…これじゃあ、襲われたら抵抗できないね。」
「っ!おい!!」
ガタン!!
派手に机が倒れる音がして、慌てて扉を開けた。
「いって、…ぇ?ひばり…?」
「げっ、」
そこには床に押し倒されて、スカートがぎりぎりまで捲れあがっている隼人と、隼人に伸しかかるようにして上に乗っている、見たことない男がいた。
「君、なにしてくれてるの。早くどきなよ。」
近くにあった机を思い切り蹴飛ばしながら近づくと、男は隼人の上から飛びのいた。
「…隼人、」
腕をつかんで、隼人を無理矢理立たせる。
「っ!ひばり、」
怯えたような目をする隼人を思い切り引っ張り上げ、自分の胸に抱きこむ。
「隼人の恋人は僕だよ。
…二度と隼人に近づくな。」
そういうと、隼人の手を引き、教室を後にする。
応接室につくと、無言の威圧で草壁を廊下に追い出す。
「…隼人」
「っ!」
体を思い切り跳ね上がらせて、下を向き手を握り締めている。
「…隼人、キミあんな男に押し倒されて、僕がいなかったらどうするつもりだったの。」
「……」
「隼人」
「っ、ご…めんなさい…」
「謝ってほしいわけじゃない。」
「ご、ごめっ…」
「隼人」
ボロボロ泣く隼人を見て、今この子を泣かせているのは先ほどの男なのか、自分なのか分からない。
別に泣かせたいわけじゃない。優しくしてあげればいいのだが、あいにく僕も怒っている。優しくしてあげるなんてできない。
「隼人」
「ふっぅ…ごめ、」
「何回言わせれば分かるの。謝ればいいってもんじゃない。」
「っ、…」
「隼人、」
パシン、――――――
応接室に乾いた音が響く。
強くもなく、優しくもない程度に雲雀が獄寺の頬を叩いた。
「―――っ、」
いきなりの衝撃に目を見開く獄寺を、雲雀がそっと抱き込む。
一瞬体の緊張を強めた獄寺だったが、雲雀がそれ以上何もしてこないところを見て安心したのか、体の力を徐々に抜いていく。
「隼人、僕はね、キミのことが本当に大切なんだ。
他の男に触られるなんて嫌だし、もちろん押し倒されるなんて腸が煮えくり返るほどむかつくんだ。
キミだって、僕が他の女に触られてたり、押し倒されてたりしたら嫌だろう?
だから、ちゃんと自覚を持って警戒して。分かった?」
「うん。分かった。ひばり、ごめんなさい。」
「うん。もういいから。」
雲雀がぎゅっと強く抱きしめると、それに答えるかのように、獄寺も雲雀に回した手に力を込める。
「隼人、叩いてごめんね。」
「ううん、大丈夫。
雲雀、助けてくれてありがとう。一瞬だけだったけど、…凄い怖かった。」
「うん。」
キミのことは僕が必ず守るけど、いつか…いつか、僕が助けられなかった時に自分のことは自分で守れるようになっていなきゃいけないんだ。
その時が来てからでは遅いから、今のうちに少しずつ教えていくよ。
でも僕は独占欲が強いから、君に群れる男は全部咬み殺してあげるけどね。
(僕は隼人の傍にいたいから、あの男のこと潰しておいて。)
(へい、任せてください恭さん!)
end