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シェイドはサワサワと夜風に揺れる木々のあいだを枝伝いに音もなく進んだ。
あたりが暗い中、それをたいして苦にせず移動する彼自身が、いつしか宵闇と一体化した影のようだ。
月の国で育ったプリンスは、生まれつき宵闇を好み、そこに落ち着きをみいだす。
普通の者より闇夜を移動することが楽にできるのだ。
シェイドはとうとう、目星をつけた人影に追いついた。
相手の姿をよくみようと、木の枝のひとつにジッとうずくまり下の方に視線を落とす。
猫の目のように抜け目なく、闇を通して相手をとらえたとき、彼はハッとして瞳を大きく開いた。
「ファイン?」
シェイドのこぼしたつぶやきに、地面の上を進む人影が足をとめた。
「シェイド、いるの…?」
少女の澄んだ声が暗闇に問いかけた。