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シェイドの手からぬくもりが伝わってくる。
ファインは頬に熱が集まってきた感じがしたが、この闇がそれを隠してくれることに嬉しくなった。
また、もう一度、彼とこうやって歩けることが幸せだった。
「……シェイド」
「なに?」
名前を呼べば声が返ってくる。
「ごめんね」
「なにが?」
「シェイドこと、避けてた」
相手から返事はなかったが、歩調は変わらなかった。
「一緒にあの花をみてから……帰って、しばらくはあの花がキレイだったなって、そんな気持ちでいっぱいだったんだけど……だんだん、ね」
ファインが言葉を濁らせる。
「だんだん、あの時のこと思いだしてきて……」
キュッとにぎった手に力がはいってしまう。
「なんか、どうしようかなって」
苦笑するような、困ったような声。だが、胸が勝手に速まってしまったのか、彼女の声は震えていた。
「シェイドの顔、どうやってみようかなって……」
ピタリ、とつないだ手の先が止まった。
「シェイド?」
ふいに立ち止まった相手は動かない。
けれど手を放す気はないようでファインはそのままシェイドと一緒に止まるしかなかった。
「どうしたの?」
「ファイン」
ようやく相手から言葉が返ってきた。
けれど、次の瞬間、そっとではあったがファインは抱きしめられたのに気づいた。
驚きながらも、そのままの姿勢から動けない。
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「ファイン」
「なに?」
シェイドは言葉を選ぶようにゆっくりと、けれどハッキリといった。
「あの花は消えた」
え、とファインが声をだす。
「消えた…って?」
「なくなってたんだ。今日、クレソンさんと一緒に花の手入れをしていたら。鉢の中に咲いてた花は影も形もなかった」
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「どうした? こんな時間に……」
シェイドに問われてファインは困ったような顔をする。
「うーん……なんていうか…なんとなく」
「なんとなく? なんとなく寮を抜け出してきたのか?」
「じゃあ、シェイドはどうしてここにいるの?」
「え……」
ファインにたいして怪訝な声をだしたのに、相手にも同じ質問をされるとこたえにつまる。
「オレはその、月がキレイだったから」
「外にでてみたくなったの?」
「まあな」
「それで……また、あの花をみたくなったの?」
「え?」
「ムーンライト・ゴールド!」
ファインの声に明るい調子が戻った。期待を込めた様子で彼の返事を待っているようだ。
シェイドはファインに花のことについて伝えなければと思った。