ガーデンの奥のほうにムーンライト・ゴールドの鉢があった。
近づいてみると、それはしっかりと蕾を閉ざしているままだった。
シェイドはそれに、どこかほっとするような、寂しいような、複雑な気持ちになった。
じっと、その花をみつめる。
月明かりの下でほのかに青い光を放つ葉と茎と蕾。
しばらく心奪われたようにそれを眺めていた。
それからシェイドはスッと膝をついて蕾にふれた。
「お前はちっとも咲かないな」
その声は、苦笑いしているようで優しかった。
だが
「シェイド?」
ふいにかかった声にビクリとする。
彼はサッと人の気配を感じとった。
クレソンさんとともに作り上げたガーデン。
そこまできて、シェイドはようやく、ほっとする安心を感をじた。
たいていの花ばなはひそやかな眠りにつき、咲いたままの花は、月夜を眺めるようにじっとしている。
シェイドはそんな花の一つ一つをみながら、ガーデンの奥へと足を進めた。
シェイドはそんな従順な生徒達を鼻で笑った。
自分もあそこにいたのだ。
そして、明日になればまたそこにいるのだろう。
彼は校舎に背を向けると、花壇に向かって歩きだした。
この学園の中で、もっとも大切にしている場所へ。
しばらく中庭を歩き、彼はふり返ってみた。
そこには、木々の闇に沈んで、屋根ばかりが月に明るく照らされた学園の男子寮と女子寮がみえた。
それはあまりにひっそりとしていて、人の気配がない。
みんな行儀よく、規律を守って眠りについているのだろう。
宵闇に木々の薫りが漂っている。
シェイドは誰もいない中庭を歩いていた。
校則で、この時間の外出は許されていない。
けれど、いまはどうしても外にでたかった。
かつてのエクリプスのように、窓から屋根をつたって中庭に降り立った。