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王子様とならず者 38 (月赤)

男達の話は続いている。
柱の陰で、ファインはこの男達についてきたことを心の底から後悔していた。
パーティー会場からは離れてしまったし、こんな人気のないところで柱から出たら、絶対に気づかれてしまう。
この男達が感じのよくない者達だと感じたいま、変に目にとまりたくもない。

(でも、そろそろ動きたいな)

ファインは男達の話に耳を傾けながら、ここから抜けだすタイミングを探していた。

「ところで…」

取引の話が一区切りしたところで、月の国の装束を着た男が声を一段と落としてターバンの男に言う。

「例の作戦はうまくいきましたか?」

ターバンの男がニヤリと笑って相手を見つめ返した。

「うまくいったかどうかなど、もうあなたはご存じなんじゃありませんか? 我々の動きは逐一、あなたのところの部下達が見張っていたようなものですから」

その声には皮肉めいた響きがある。
そう言われても、月の国の男はむしろほがらかに笑って首を横に振った。

「いや、見張っていたなどと、めっそうもない。あなた方、プロの仕事に我々の出る幕はありませんよ。ただ、私は少々、心配性なところがありまして。いつも部下から様子を聞いておくのが癖になってしまってるんです」
「まあ、特殊な依頼でしたからね。そちらが気にするお気持ちもわかりますけれどね。で、どうでした? ご依頼の通りいきましたかね?」
「上々です」

月の国の男は頷く。
ターバンの男は腰に手を当てた。

「ならばよかった。こちらとしても手落ちはなかったと思います」
「大丈夫ですよ。私も部下を使って、事件現場付近の様子を聞いてみましたがね、皆、事件を起こしたのはエクリプスだと信じていました」


柱の陰でファインの瞳が開く。


「荷物を運ぶ馬車を襲い、それをすべてエクリプスとかいう小僧の仕業と見せかける。奪った荷は、我々の方でもらってしまいましたが、それでよかったんですよね?」
「ええ、結構です。私が欲しいのはエクリプスがやったという噂だけですから」

ファインの手が、勝手に小刻みに震えてくる。

ターバンの男が、ふふ、と声をこぼして笑った。

「どうしたんだ?」

月の国の男が聞くと、相手は瞳を妙にキラキラさせて微笑んだ。

「お互い、必要以上のことは聞かないのが約束だが……エクリプスの小僧といい、小生意気なシェイド王子といい、あなたのまわりには、やっかいな少年が多いですな」

月の国の男は、相手の瞳を思わず見つめてから、静かに笑った。

「……ええ、本当に。このふたりは私にとって、手ばかり焼かせるめんどうなふたごのような存在ですよ」



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王子様とならず者 37 (月赤)

どうしようか。
気づかれないうちにこの大人達からそっと離れようか。

すでに心の中で、彼らに助けを求める気はなくなっていた。

けれど、話の内容がショックで、つい耳をそばだててしまう。

男二人は人気のない場所で立ち止まった。
ファインの方は、ちょうど、ちいさな身体なら隠れるのによさそうな柱の陰に息をひそめた。

どの道、いま逃げ出したらその方が目立ちそうだ。

男達が話を終えてどこかへ行ってしまったら、ここからパーティー会場に戻ろう。

頭に白いターバンを巻いた男が、空飛ぶ船を使って運ぶという鉱石の取引の話を始めた。
月の国の装束を着たもう一人の男が、それに熱心に意見をしている。
柱の陰のファインは退屈になってきて、さっきの彼らの言葉を思い出していた。

(シェイド、あんな風に言われているなんて)

確かに、プリンス・シェイドは大人びた雰囲気があった。
彼のことを、まだほとんど知らないけれど、短い時間、接していただけでも、無口で、あまり表情を変えず、いつもどこか遠くをみつめているような、どこか人を寂しい気持ちにさせる感じの少年だという思いを持たせる。

(シェイドって、いろいろ大変なのかな)

月の国にはキングがいない。
キングはなぜいなくなったのか、いま、どこにいるのか、ファイン達、他国の者は誰も知らない。
それは暗黙の了解で聞いてはいけないことのようになっていると、キャメロットから言われていた。
ムーンマリア様の隣で、まだ小さいプリンセス・ミルキーを抱きながら、王子として立派に振る舞うシェイド。

それなのに、自分の城の者に、こんな風に言われるなんて。

このお城は、おひさまの国のお城となにかが違う。
どこか、いつもひっそりとして、秘密の匂いがする。
あちらこちらの、柱や、窓や、ドア達が。
見てはダメ、知ってはダメ、気づいてはダメと、ささやいているような気がする。

秘密の城の、寂しい瞳をした王子様。

(シェイド……)

ファインはいつの間にか、頭の中でシェイドの瞳ばかりを思い浮かべていた。
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王子様とならず者 36 (月赤)

(みんなを探そう)


ファインはあたりに視線を走らせた。


けれども、きらびやかな衣装を着た、人、人、人の渦。

ファインは歩きながら場所を変えてゆく。

レインの青いドレス。キャメロットのとっておきのラベンダー色の衣装。ルルの紺色の、ふっくらとしたパフスリーブのついた服。プーモのフワフワした白い身体。

そういったものが目に入らないか、注意深く進んでいく。

(せめて、ほかのプリンセス、プリンス達と会えてもいいな…)

すると、ふと、黄色に独特の月の国の模様が入った服装の人影を見つけた。

(もしかして、プリンス・シェイド!?)

思わず足が速くなる。

しかし、すぐにそれが別人であることがわかった。
まず、大人だ。

背の高い、ひげのはえた、鋭い瞳をした男。

男は細長いシャンパングラスを持ちながら、誰かと話をしていた。
相手は頭に白いターバンを巻いた、商人か使者のような感じだ。

ファインはその場を離れようとした。けれど、思い直して足をとめる。
月の国の人なら、もしかして助けてもらえるかもしれない。
このお城の中で、はぐれた者はどうしたらいいか。
せめてムーンマリア様やミルキーたちのいる場所を教えてくれるかもしれない。

月の国の装束の男と、ターバンの男はなにやら低い声でひそひそ話をしながら、人混みから離れていく。
声をかけてみよう。
ドキドキと心臓が打ち出したが、しかたがない。
ファインはよくキャメロットに練習させられた、上品に愛らしく「失礼いたします、あの…」という言い方を頭のなかで繰り返した。

そっとその背後に近寄る。

けれど、ふいに聞こえた相手の言葉で足が止まった。

「まったく、我が国のプリンス・シェイドには手を焼いているんです。まだ幼いのに、政治のことにいちいち口を挟んで。難しいことは我々大人に任せておけばいい」

太く低い声が、乾いた笑いを交えてそうつぶやく。

「こどもこどもらしく、ですな」

ターバンの男が含みのある言い方で相づちをうった。

ファインは急に怖くなる。
この人たちは、あまり感じいいの大人ではないようだ。


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王子様とならず者 35 (月赤)

人混みをすり抜けて、ファインは進んだ。

あの視線の方へ。

しかし

「あれ…」

思った場所に着いてみれば、そこに彼の気配はない。

「消えちゃった…」

わかってはいた。彼が人前に姿を現すのを極端に嫌っていることを。

それでも、一瞬、本当に会えるかと思ってしまったのだ。

もしかして、もしかして、自分に興味を持ってくれたかもしれない、なんて。



興味を持ったとしたら、それはサニールーチェにでしょ


頭の中で、そんなことを言いそうな、レインの姿を思い浮かべる。

(そうだよね。そうなんだけど…)

でも、ちょっとだけわかりあえた部分もないかなあ。ほんのちょっとだけでいいから。

いつか、怪我をした彼を心配したとき、一瞬だけ、こっちを見たこととか。
本当は、彼は困っていて、本当は誰かに相談したいとか。
いまも、私に…。


ファインはだんだん、冷静になってきた。

すると、あらためて気がつく。

「みんな、どこ?」

しまった、という気持ちがわいてきた。

(思いっきり、はぐれちゃってるーっ)



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王子様とならず者 34 (月赤)

パーティー会場の中を一行は進む。

先頭は、キョロキョロとあたりを見回しながら、黄金色の髪をしたプリンスを探しているレインだ。
その肩にプーモ。レインの後ろにはキャメロット、ルルと続いて最後にファインが歩いている。

人が多いので、ルルはちょこちょこファインの方を振り向いては、そばにいるかを確認していた。

「ファイン様、どうぞ私の先を歩いてください」

ルルが声をかける。

「んー」

ファインは曖昧な返事のまま、あちらこちらに気をとられていた。

「ねえ、ルル。月の国のお城って、黄色と紺色の組み合わせが多いんだね」

ファインが会場のあちこちにある装飾品を眺めながら言う。

「そうですねえ」

ルルがこたえた。

「やはり月の国は、月と夜を司る国ですからね。輝く月の黄色と、深い夜の紺色が国家の色になるのでしょうね」

それからルルは付け足すように話す。

「我らがおひさまの国は、青い空と燃える太陽の赤が大事にされますものね。レイン様、ファイン様のお色もそれ故に……」

そこから先は、ファインは頷きつつもしっかりとは聞かなかった。
ついつい別のことを考えてしまったからだ。

(エクリプスの帽子の色も、黄色と紺だったな…。ネクタイも黄色、コートは帽子と同じ紺……)

この色合いを見ていると、どうしても思い出してしまう。
彼を思わせる色調。

月の国はなんだか不思議。
キレイだけど、どこか静かで、寂しい気持ちにすらなる時があるお城の様子。
人がこんなに集まっているけれど、賑やかなのはそこだけで、あとは砂漠に囲まれて、夜は満天の星空に包まれる。

月の光が、ほんのり優しい気持ちにさせるけど。

(似てるんだ、全部、全部)

あの人に。


その時、ファインは胸がドキリと跳ね上がった。


見られている!?

感じた。強い視線。

視線の方向に顔を向けると、遠くでチラと紺色の髪が人混みに紛れた。


エクリプス…!

いたの? あなたは。

ファインは思わずそちらの方向に素早く足を向けた。

*********
結局この時間が定ポジなのか;;
会社行ってきます。




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