「ああ、レインは頑張っていろんなお茶の勉強をしますから! そんな、『熱心ですね』なんて。……私はいつか、ブライト様も驚くような、美味しいお茶であなたのことをお招きしたいんです……。なんて、なーんていっちゃったら……恥ずかしい……!」
「さて、飲みますかでプモ」
「そだね」
微妙なテンションで、お茶を始めたプーモとファインたちに気づいて、レインが顔を赤くしたままあわててこちらを向いた。
「あ……で、でもね、みんなとお茶したいのは本当よ! べつにブライト様としたいだけとかじゃないから……」
「わかってるよ。それはちゃんとわかってるから」
ファインが笑ってレインにこたえた。
「これ、とっても美味しいよ。いまでもレインのお茶は充分、美味しいよ。すぐにでもブライト、呼べるんじゃない?」
あっさりと簡単にいうファインに、レインは首を横にふる。
「まだダメよ。私のお茶なんか」
「そっかな?」
「ブライト様をお呼びするには、もっともっと何回も練習して、心の準備をして、これなら大丈夫って思えてからじゃないと」
「それにレイン様は、お呼びする前に、プリンス・ブライトから直接お茶のいれ方を習いたいんでプモよね」
「そうなの」
「ふーん……。ブライト、あれで結構、なんでも美味しそうに食べたり飲んだりしてるけどなあ……」
ブライトと気さくに付き合えるファインは、レインのこのやたらと遠回りする行動がちょっと理解できないのだ。
「でもよかったわ。そろそろ起こそうと思ってたの。今日は学校、お休みだけど、お寝坊していいってわけじゃないもの。……って、キャメロットがよく手紙でいってくるわよね」
「そっか。今日って学校、お休みの日だったんだ」
「あれ、ファイン、忘れてたの?」
「うん。さっき顔を洗ってたときも、早くしなきゃ遅刻しちゃうーって思ってた」
「相変わらず、慌てん坊でプモねえ。どうしたら直るんでプモ?」
肩を落としたプーモの後ろで、レインがパンと両手をあわせる。
「だから、こうしたらどう? 今日みたいにお休みの朝はいつもゆっくりお茶をするの。そうしたら、前の日の夜からどんなお茶とお菓子を用意しようって思って、楽しくなって、次の日は休日だって忘れないじゃない?」
「なるほど、やってみる価値はありそうでプモ」
「うん、レイン、それいいね!」
ファインは早速、お茶とお菓子を毎週考えられることに心がときめきだした。
だが、目の前のレインの瞳が妙にキラキラ輝きだしたので、ちょっと用心を始める。
「素敵よね、お茶を大切にするなんて。なんだか、まるで……ブライト様みたい……! 『レイン、君もお茶に詳しくなったの? もしよかったら、今度、一緒に美味しいお茶をいれてみませんか?』なんて……誘われちゃったりして……」
「レ、レイン?」
「始まったでプモ」
「きゅきゅ……」
翌日の朝
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目が覚めたとき、青い空には太陽が輝いていた。
寝ぼけまなこで顔を洗っていると、紅茶のいい香りがしてくる。
先に起きたレインが朝の紅茶をいれてくれているのだ。
ファインが顔をタオルでふいて、小さなテーブルで紅茶にお砂糖をいれているレイン、プーモ、ピュピュとキュキュのそばにいくと、レインが「おはよう」といった。
「ファインが私より起きるの遅いなんて、めずらしいわね」
「そうでプモね。いつも一番に起きて騒がしくみんなに声をかけてまわるのに」
「ぴゅーぴゅー」
「きゅーきゅー」
みんなからいっせいにいわれて、ファインは苦笑いをする。
「ねえ、シェイド」
「なに?」
再び暗がりの帰り道。
ふたりのつながれた手が揺れている。
「ムーンライト・ゴールドって、私たちの中で咲いたんだよね」
「え?」
「ほら、まえに一度、花が鉢の中で咲いたとき、私たち花の光を食べたでしょ。あれが新しい種だったんだよ」
「あ……」
「 とっても甘くて美味しかったけど、ちょっとびっくりしてたんだ」
「ああ。……オレなんか、あのせいでお前の身体になにか起こったんじゃないかって、心配してたんだ」
「そうなの? ううん。全然平気だったよ……それより……シェイドがいきなり……キスした方が……」
「わかったよ、それは……悪かったから」
「悪いなんて思ってないよ。ただ、その……う、嬉しかったんだけど……」
握っている手に力を込めてシェイドが歩調を速めた。
ファインは少し笑った。
たぶん、彼は困っているんだろう。
自分も歩調を速め…むしろ、シェイドを追い越してその手をひっぱるようにして走りだした。
「おい、暗いんだから、無理するなよ!?」
シェイドが手を引かれながら声をだした。
それでもファインは軽やかな足取りでシェイドを連れて走りだした。
END
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長々とお付き合いありがとうございました!
これでエンドとしたいのですが、このあとオマケが続きます。
光の花は次々にうまれると、あるものはゆっくり回転をはじめ、またあるものはフワンフワンと踊るように弾みだす。
そうするうちに、少しづつ花達は空にのぼりはじめた。
ファインとシェイドを包み込んでいた花達は、ゆっくりと風に乗るように高く高くあがっていく。
そして、それは空に浮かぶ月まで、光の道をつくるように空を流れていった。
「あの花達、月にいくの……?」
シェイドの腕のなかで、ファインがささやく。
「そうだな、きっと」
花達は空の星に並ぶように輝きながら、月に吸い込まれるようにしてみえなくなった。