今日は4日1日。
罪のない嘘をついてもいいとされる日。



「こほん。実はね桜ちゃん、ミホちゃん!私、彼氏が出来たんだよ!」

「ええ?」

「リカちゃんったら…その嘘はベタすぎだよー」

「えへへ、バレた?UFOと交信したっていうのと迷ったんだけどねぇ」

「UFOって…。あ、そっか、今日がエイプリルフールだからか」



春休み真っ只中。
終業式ぶりに会ったミホちゃんとリカちゃんと3人で新学期の買い物を済ませ、私達は最近人気のカフェでお茶を飲んでいた。
それにしても、まさかリカちゃんの口から彼氏が出来た、なんて聞くとは思わなかった。結局彼氏はウソらしいけど、私は内心びっくりしてた。
…そうか、今日はエイプリルフールか。
いつも誰かの嘘を聞く立場で、自分から嘘をついたことはなかったかもしれない。
でも、小さな嘘を考えるとなると結構難しいな。

帰り道、なんとなく立ち寄ったクラブ棟。六道くんはパトロール中かな、それとも内職中?もしかしたら向こうの世界に行っているかもしれない。
その時はお土産にと買ってきたパンだけ置いて帰ろう。



「真宮桜?」



声に振り向くと、六道くんがいた。ちょうどパトロールが終わってきた所みたい。
私は上りかけていた階段を下り、六道くんの元に駆け寄った。



「久しぶり。お仕事お疲れさま」

「ああ。どうかしたのか?」

「えっと…近くまで来たから、差し入れ持ってきた」

「差し入れっ…!?」




袋を差し出すと、六道くんの周りにキラキラしたものが浮いているように見える。
喜んでもらえたみたいで良かった。
ふと、リカちゃんが言っていたエイプリルフールの嘘を思い出した。ベタだけど、六道くんはどんな反応するだろう?




「あー…あのね、六道くん」

「ん?」

「私、その…彼氏が、出来たんだ」

「…え………彼、氏……?」

「……?」

「な、まさか十文字じゃ……ほ、本当か…?」

「うん、嘘だよ」

「………」

「………」

「………嘘、なのか」

「うん。今日はエイプリルフールだから」

「…はぁ〜…」




六道くんは脱力してその場にしゃがみ込む。なんか思ったより驚いてた…?
私もしゃがんで六道くんを見るけど、俯いているから顔が見えない。




「六道くん…?」

「心臓に悪すぎる」

「え」

「…そういう事を言う真宮桜はいやだ」

「─…ご、ごめん」

「許さん」




リカちゃんの真似をしてエイプリルフールに便乗してみたの、やめておけば良かったかなあ。
六道くんを驚かせるつもりが、まさか傷つけてしまうなんて思わなかっ……、



「…あの、六道くん?」

「嫌だったら突き放せ」

「………」



怒らせてしまったと思っていたのに、気が付けば私はふわりと六道くんに抱き締められていた。
だってさっき『いやだ』って、言ってたのに。どうして?
身動き出来ずにいると、六道くんが小さな声で呟く。



「…今日は嘘をついてもいい日なんだろう?」



嘘、だった?
私に対して怒っていたことが?それとも、『いやだ』って言ったこと?それとも、私がエイプリルフールだと明かしてからの出来事が全て?
そうだとしたら策士すぎるよ、六道くん。



「ど、うして、六道くんは…」

「お前がしょーもない嘘なんてつくからだ」

「エイプリルフールに便乗しただけなんだけど」

「オレは心臓が止まるかと思った」

「………それも、嘘?」

「嘘で言えたら苦労しない」




こんな風に抱き合ってるなんて、まるで恋人同士みたい。
だけど、なぜか私の言ったことが嘘だと分かって心底安心した様子の六道くんが、少しかわいいと思った。
エイプリルフールは嘘をついても許されるっていう定義があるからこそ、楽しいものなのかな。嘘か本当か分からなくなるのは困るけど、それを探るのもまた1つの楽しみ方だろう。

もう一度だけ『ごめんね』って言ったら、六道くんが微笑ってくれるといいな。





end.