今日は4日1日。
嘘をついてもいい日。



「あかねー!乱馬くんがあたしの下着盗んだみたいなんだけどっ」

「くぉらなびき!見え見えのウソついてんじゃねえっ!!」


「早乙女くん、知ってるかね?頭にワカメエキスを塗ると髪がふさふさになるらしいよ」

「はっはっは、天道くん、君こそ知ってるかね?お師匠さまが今日は大人しくしてらっしゃるのを」

「またまたぁ、早乙女くんったらそんな話はすぐウソだってわかっちゃうよ」

「うむ、そんなことがあったら天地がひっくり返ったとしか思えんな!ちなみにワカメエキスの効果はなかったぞ?」

「あっはっはっは(試してたのか…)」




朝からずっとこんな調子。誰が一番信憑性のあるウソをつけるか競い合っているようで、あたしの見る限り今のところはなびきおねーちゃんが優勢かな。
いくらエイプリルフールだからって、今日みたいな日は逆に本当の情報が入りにくいから困ってしまう。
友達から有名人を見たっていうメールも来るし、朝も九能先輩と小太刀があたしと乱馬にパーティーの招待状を届けにくるし。楽しい日なのはわかるけど、あたしも何かウソをついてみたいなって思うけど、なかなかいいものは浮かばない。



「あかね!聞いたか?今日はダチョウが飛来すんだってよ!」

「へー…」



ダチョウが飛ぶわけないじゃない、なんて言うとノリが悪いとか反論されそうだから黙っておく。どうせ騒ぐのは午前中で、午後にはちゃんとネタばらししなくちゃいけないんだから。
そう思うと、午後まであと30分くらい。何かいいウソはないかしら…。せめて乱馬だけでも驚かせてみたい。




「えーと、あとな、おやじに髪が生えたんだぜ!」

「……乱馬」

「ん?」

「あたしと、祝言挙げてみる?」

「……………え、?」

「だから、祝言」




乱馬はちょっと赤くなって、あたしを見た。
エイプリルフールだから、からかうつもりで言ってみたんだけど、言った自分も恥ずかしい。ここで余裕がないことがバレたら台無しだ。
あたしは精一杯平静を装う。



「ばっ…エイプリルフールだからって冗談もほどほどにしとけよな」

「そのわりには動揺してたみたいだけど」

「うっせぇ」


「うおおぉぉ!!かすみー!今夜は赤飯だー!!」
「あたし招待状出してくるわね!ご祝儀もらわなきゃっ」
「あかねくん…よくぞ決心してくれた!乱馬、女性に言わせるなんて情けないぞ!」


「え!?ちょっとおとーさん!なびきおねーちゃん!」

「ワケ分かんねーこと言ってんじゃねぇくそおやじ!今日はエイプリルフールだっつったろ!」




ついてもいいウソと、そうではないウソを見極めるのはとても難しい。
騒ぐみんなを宥めることの大変さを知って、エイプリルフールは危険な日だということを改めて知った。



「乱馬くん、あかねのこと嫌いなの?」


「…あんな凶暴女、好きになれっつーのがムリだろ」

「あたしだってあんたみたいな奴、大っ嫌いよ!」


「はいはい、お熱いことで」


「「は?」」


「ん?だって乱馬くんは『あかねのことを嫌いになれない』んでしょ?で、あかねも乱馬くんが『大好き』って言ってたじゃない」


「……おい、なびき」

「…何がなんだかわからなくなってきたわ…」


「エイプリルフール様々、ね。仲が悪いなんて言わせないわよ、お2人さん♪」




まんまとなびきおねーちゃんの策にかけられたあたし達は、少し気まずい空気の中で、早くエイプリルフールが過ぎることを願うばかりだった。

だって今日は、何をしても天の邪鬼に思われてしまうもの。
─そう強がって。





end.