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早乙女あおいの1日


ジリリリリ!
うるさい目覚ましをベッドから蹴り落として、あたしはゆっくり体を起こす。
カーテンを開けると青空がとても綺麗。
今日も1日頑張るぞーっ!



「ゆーまー!そーまー!起きなさーい!」

「うっせーなぁ、とっくに起きてるよ。あおいねーちゃんが一番最後」

「なっ、ウソ言ってんじゃないわよ!そんなに寝癖ついた頭して」



勇馬はあくびをひとつすると、階段を降りて洗面所に向かう。あたしも急いでその後を追いかけた。
勇馬の時間に合わせてたら絶対遅刻しちゃうもん!



「おねーちゃん、おはよー」


「あ、おはよう湊馬。もう準備出来たの?」

「うん。おかーさんとおばーちゃんのお手伝いしてるんだ」

「朝から湊馬は偉いなぁ…」

「早くじゅんびしなよ、おねーちゃん。そろそろ朝ごはんだよ」

「りょーかい。しっかりしてるなぁほんと…」

「湊馬に構ってねーで、時間見ろよ。あおいねーちゃん」

「あー!!やっばい急がなきゃ!」


「あらあら、あおいちゃんに勇ちゃん。おはよう」

「おはよーばーちゃん」
「のどかおばーちゃんおはようっ!」



バタバタ廊下を走って洗面所に行き、顔を洗って歯を磨いて髪を整えて、また急いで部屋に戻って制服に着替える。
準備が終わる頃には、いつも家を出る時間の10分前。



「あおい、鞄にお弁当入れておくね」

「ありがとお母さん!いっただきまーすっ」

「オイオイ、少し落ち着いて食えよ、あおい」

「お父さんうるさい!早くしないと遅刻しちゃうの!」

「うるさいってなぁ…。ん、あかねー、おかわり」

「あおいは中学生だから忙しいのよ、そこら辺察しなさいよね乱馬」

「大体、もう少し早く起きれば済むこったろ」

「昨日は宿題が沢山あったらしいわよ?あたし、あおいの勉強見てあげたもの」

「はあ?稽古もしたってのにか?」

「乱馬が思ってるより頑張り屋さんなのよー」



お父さんとお母さんのやり取りを恥ずかしく思いながらも聞き流して、あたしはご飯を必死で平らげ、牛乳を一気飲みした。
よし、今から出れば間に合う!



「…早食いしてっと太るぞ、あおいねーちゃん」

「……」

「あ、もうお腹に肉ついてきたって言ったっけ?」

「…勇馬、あんたねぇ!!」

「いってぇ!何すんだよ!」

「うるさいっ!とーぜんの報いだわ!」


「あおいおねーちゃん、時間だいじょうぶ?」

「ああっ、いけない!行ってきまーす!」



落ち着きなく、朝は過ぎていく。中学校までの道を大急ぎで走っていると、前方には首に黄色いスカーフを巻いて辺りをキョロキョロ見回している先輩の姿。
もうすっかり見慣れてしまった。



「おはようございます、響先輩」

「おっ!?おおおおおはよう早乙女っ」

「また迷ってたんですか?中学校はこっちですよ」

「いや、迷っていたわけでは…」

「遅刻しちゃいますよ、先輩。早く早く!」



響氷牙先輩は極度の方向音痴。家族全員、いや、お母さん以外みんな方向音痴らしい。手を引いて学校に行くのも、小学生の頃からの習慣みたいなものだ。
そのせいか、友達から『付き合ってるの?』なんて聞かれたりすることもある。実際、そんなものは噂でしかない。だってあたしと響先輩は幼なじみだから。



「わ、悪いな早乙女、毎朝毎朝…」

「先輩は親譲りの方向音痴なんですから、新たな道を開拓してどっかに行っちゃったりしないで下さいね」

「え…」

「あかりさんとほのかちゃんが寂しがっちゃいますよ」

「………すまん、こんなふがいない奴がお前の先輩なんて相応しくないよな…!!」

「なんでそうなるんですかー…もうっ、自己嫌悪に陥るのは教室に着いてからにしてくださーい」



ぐずる先輩に呆れつつ、学校に着いたあたしは響先輩を先輩と同じクラスの人に預け、遅刻ギリギリで自分の教室に入った。
息を切らしながら席に着いて鞄の中身を机に移していると、朝の学活が始まる。
隣の席から視線を感じて顔を向けると、リンスがあたしを見てニコニコしてて。毎度のことながら溜め息をついた。



「……なによ、リンス」

「ん?今日もあおいは美人だと思ってな」

「どーせ誰にでも言ってるくせに」

「あおいにしか言わんっ。大体、我より強い女なんてお前くらいだろーが」

「はいはい、耳タコ耳タコ」

「村の掟に従い、我は必ずお前に勝って祝言を挙げるからな!!」

「あーもー、うるさーい!」


「うるさいのはお前らだー。そこの2人、廊下に立ってろ」


「「………」」



担任にビシッと指を指されたあたしとリンスは、しぶしぶ廊下に出る。今時廊下に立たされるなんて信じらんない!ただでさえ今日も遅刻ギリギリで学校に来て疲れてるのに。
キッとリンスを睨むと、こいつは怯むことなく、いや、懲りることなく、へらっと笑う。
つきまとわれる原因は小学生の頃に手合わせしたことらしいけど、時間が戻せるなら今すぐその手合わせの申し出を拒否しておきたい。お父さんとお母さんに相談したら、リンスの性格はリンスの両親の遺伝だろうって言ってた。
リンスと響先輩の両親とは昔からの仲だって聞いてるけど、お父さん達の学生時代も大変だったのかなぁ。



「聞いてるのか、あおいっ」

「聞いてる聞いてる」

「我はお前に告白しとるんだぞ!」

「耳タコ耳タコ」

「ええい!今日こそお前に勝って嫁にするからなあぁ!!」


「─黙ってられんのかお前らは!」


「先生、騒いでるのはリンスだけです。あたしは静かにしてましたー」

「フッ、我に背中を見せたが最後!隙あ…どわっ!!?」



ドスンと、リンスが背中を床に打ちつけた鈍い音が廊下に響いた。
すでに"日常茶飯事"となっている出来事に、先生も、クラスのみんなも、またかとリンスに哀れみの目を向けていた。



「ったく…ダテに毎日稽古してないわよ。無差別格闘早乙女流をなめないでよね」



あたしはいつも稽古をつけてくれるお父さん─早乙女乱馬─に感謝しながら、目下の男を睨みつけた。
その後もしつこくつきまとうリンスを撒いて、友達に励まされ、帰りにまた迷っている響先輩を見つけ、引きずりながら家路を歩く。
前方に見えた風林館高校の制服を着た2つの背中に、ぱあっと心が明るくなった。



「颯くん!楓ちゃん!」


「あれ?あおいちゃん。今帰り?」
「疲れた顔してるわ。大丈夫?」


「平気です!今日は…というか今日も…ちょっと色々あって遅くなっちゃったけど」


「まあ…、無茶してはダメよ。何かあったらうちに来てね」
「僕も楓も歓迎するよ。もちろん親父達もね。ええと、そっちの人は響氷牙くんかな」


「あ、先輩のこと忘れてた」

「忘れるなっ!ってか、この2人って小乃医院の…?」

「そうですよ。あたしのイトコです。知りませんでした?」

「風林館の制服…ってことは高校生?」


「僕ら、今あおいちゃん家に行こうとしてたんだよ」
「コロッケのおすそ分けを持って行くように母から言われてたの」


「そうなんですか!?じゃああたしも響先輩を送り届けてすぐ帰ります!先に行って待ってて下さいっ。行きますよ先輩ー!」

「え、な、待っ…」


「気をつけてねー」
「もうあんなに遠い…すごいなーあおいちゃん」



颯くんと楓ちゃんは双子の兄妹。お母さんのおねーちゃんの子供だからあたしとはイトコの関係になる。
やっぱり風林館の制服って可愛いな。あたしもあの高校に行きたい。小乃兄妹はあたしの憧れだから、というのもあるんだけど。



「あ、おにーちゃん!」


「ほのか!」

「…ほのかちゃん、そっちは家と反対方向だけどどこか行くの?」


「あはは、迷っちゃった」


「………」

「すまん、早乙女」

「…謝らなくていいですから、先輩はほのかちゃんの手をしっかり握ってて下さいね」

「あ、ああ」

「ありがとーあおいちゃん!」

「こらほのか!学校から帰ったなら家でおとなしくしてろって言ってるだろ」

「だって暇なんだもん!」



方向音痴な兄妹も困ったものだわ…、なんて呆れてる場合じゃない。急いで帰らなきゃ!
そう時間はかからずに、響家に着いたあたしはインターホンを押す。すると中からエプロンを身に着けた、響先輩とほのかちゃんのお母さま・あかりさんがホッとしたような顔をして出迎えてくれた。



「おかえりなさい、氷牙、ほのか。いつもありがとうあおいさん」

「た、ただいま…」
「ただいまー!」

「ああ…いえ、もう慣れてますし…」


「本当にありがとう。2人とも良牙さまに似てすぐどこかに行ってしまうから…。あかねさんと乱馬さまにもご迷惑かけて申し訳ないわ」


「良牙さん、きっともうすぐ帰って来ますよ!お土産を沢山持って」


「ふふ、そうね。さ、氷牙、ほのか、そろそろ夕飯にしましょう?あおいさんも食べていく?」

「あ、私は帰ります!今日はイトコも来てるので!それじゃっ」

「ええ。またいつでも来て下さいね」
「さ、早乙女!」

「─え?何ですか響先輩?」


「あ、ありがとう、な」


「いつもの事ですしね。どーいたしまして。じゃあ失礼しまーす」



トレーニングがてら走って家に向かう。今日は帰ったらご飯食べて、宿題やって、…稽古は明日の朝につけてもらおう。
毎日が充実していて、大変だけどすごく楽しい。



「おぉ!おかえり、あおい」
「今日も元気でなにより!なあ天道くん」
「おねーちゃんおかえりなさーい」
「やっと帰って来やがったか、あおいの奴」
「なあなあとーちゃん聞いてくれよ!最近またほのかとレインがしつこくてさー、ミストを見習えっての」
「あおい、すぐ夕飯にするから手洗ってらっしゃい。乱馬!お酒は後よっ」
「のどかおばあちゃん、私と颯もお手伝いするわ」
「あら。ありがとう楓ちゃん、颯くん」
「こっちはうちと違って大家族だしね」



毎日賑やかな我が家。苛々することもあるけど、みんな大切な家族だ。
あたしはお母さんに返事をして洗面所に向かう。
居間と違って静かな空間に深呼吸をひとつ、ふたつ。今日も1日なんやかんやあったけど楽しかったなぁ。



「よし、明日も頑張ろう!」



縁側から見えた庭で、鯉が一匹ぴしゃんと跳ねた。






end
‐‐‐‐‐
捏造チルドレン・早乙女家長女の話でした。
ムシャ一家の話も書きたい…

後ろ向き主義(りん桜)


気付けばいつも側にいた。
振り向けば笑顔を見れた。
いつだって助けてくれた。
出逢った時から、今もずっと。



「六道くん、もう放課後だよ。そろそろ起きて」

「ん〜…」



重い瞼をゆっくり開け、教室の明かりに目を細めた。
オレの体を揺すっていた真宮桜は、むくりと体を起こしたオレを見てくすくす笑う。真宮桜にはいつもカッコ悪い所や情けない所を見られているせいか、最近こいつの前で見栄を張るのは半ば諦めつつある。
あくびをひとつして横目で真宮桜を見ると、何気ない横顔にどきっとした。
気が付けばオレはいつもこいつの機嫌を窺っているような気がする。何故かと自分に問えば、嫌われるのが怖い、というのが本音。何が起きても平気なフリをしているが、真宮桜の些細な行動に一喜一憂してたりするオレは、いつの間にか惹かれていたんだな、と思う。



「そーだ六道くん、これからクラブ棟に行ってもいい?」

「…好きにしろ」



いつものやり取りなのに、まだどこか緊張してる自分がいる。仕事が入れば、真宮桜と一緒にいられる…こんな下心がバレなければいいんだが。
嬉しいのに、ぶっきらぼうな言葉しか出てこない。
今までのことを思うと、こういう時に限ってリカとミホや十文字が邪魔しに来て、六文がやって来て、霊が現れたと思えば鳳が来て、架印が来て、おばあちゃんが来て、何故か魔狭人も来て、あのくそおやじまでもが現れる──…それはなんて安直で混沌とした想像だろう。有り得ないとも限らないから恐ろしい。
こんなオレを、真宮桜はどう思っているだろう?



「…?なに、六道くん。私の顔に何かついてる?」

「あ…いや、何でもない」



ハッキリ聞くことが出来ない情けない自分。だけど他の誰かが真宮桜といるのは見たくない。もやもやとした自分の中の醜い欲望、独占欲、本当に情けない。
でも真宮桜自身を大切にしたいんだ。いつか、彼女の気持ちがオレに向いてくれたら。…そう願うから。




「……何かいいことでもあった?」

「え?」

「さっきまでの六道くんは起きてからずっとしかめっ面してたのに、今すっごく優しい顔してたように見えたから」

「なっ…」

「ふふ、」

「〜〜…お前のせいだろう…」

「ん?」

「いや、えっと…」

「きっと六道くんに思われる人は幸せなんだろうなぁ」

「…………は?」




一瞬耳を疑った。
少し拗ねている(?)ような口調で話す真宮桜は困ったように笑う。何故そんなことを言うんだ?
オレが考えていたのは真宮桜のことだったと言うべきか?
だけど、もし勘違いだったら?
心臓がばくばくと煩い。



「だって六道くんは優しくて頑張り屋でいい人だし」

「…よくそんな恥ずかし気もなく言えるな…」

「そお?」



"友達"だから言えるのだろうか。真宮桜はオレを友達としか思っていないのだろうか。
初めはそれでも良かった、満足してた、けど。



「オレは、お前に思われる奴の方が羨ましい」

「……え………?」



今はもう、それだけじゃ物足りない。
いつも側にいて欲しい。
いつも笑顔を見せて欲しい。
いつだって助けてやりたい。
出逢った時から、今もずっと、これから先も。



「─…さく、ら」



名前を呼べば、ほんのり染まった彼女の頬。
オレの側に、いてくれないか?
もし今そう告げたら、真宮桜はどう答えてくれるのだろう。

情けないオレは、まだ訊ねることが出来なかった。





end
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