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パラドックス(りん桜)


私の手が冷たい時、彼の手はいつも温かい。



「真宮桜。家まで送る」

「あ…うん。ありがとう」



家まで六道くんが送ってくれることに、なんだか私は慣れてきてしまっているみたい。
霊道の中ではぐれないようにと繋いだ手は、温かい六道くんの体温と同じになる。防寒してる私の手の方が冷たいなんて、なんだか不思議。
大きな彼の手に、私の手はすっかり収まってしまう。



「……」

「……?」



ごくたまに、六道くんが私の手を強く握ることがある。
私の手が冷たいからかなと思っていたけど、そういう時は必ず六道くんの耳が赤い。何も言ってはくれないけど、そんな様子を見る度に、私もなんだか意識してしまう。
この人も、"男の子"なんだよなあ。と。



「…なあ」

「ん?」

「どうして、お前の手は冷たいんだ?」

「心があったかいから、かな?」

「は?」

「リカちゃんがそう言ってたんだよ。でも、そんなことない…と思う」



そもそも心が温かいってどういうことなんだろう。優しいこと?感情豊かなこと?
私には分からないんだ。
自分の心に嫌な気持ちがわき上がって、色々なことが冷めて見えることだってある。そんな時に手が温かくなるの?
関係ないとは言い切れないけど、関係あるとも言い切れないでしょう?



「…真宮桜は、温かい奴だと思うぞ」

「そう、かな」

「オレの方が冷たいだろ」

「…財産的な意味で?」

「……それは、まあ、懐は寒いが…」



ちょっと違うんじゃないか?
そう言った六道くんは拍子抜けした顔で、頭をかいた。その様子が可笑しくて私が思わず笑うと、また繋いだ手をぎゅっと握られる。
大きくて温かいその手を、私も握り返す。



「六道くんは、温かい人だよ」



手も、心も。
その温もりが他の誰かに与えられてしまったら、私の心はまた冷たくなるんだろう。
今、こんなことを考えている私の心はきっと冷たい。
六道くんの優しさに憧れ、頼ってしまうのは温もりを求めているからなのかな。



「………」

「六道くん?」

「あ…す、すまん。そんなこと初めて言われた、から…」

「………」



珍しく照れた六道くんを見て、私はまた彼の新しい一面を知った。
肩が触れるか触れないかの距離で、霊道の動きと共に黄泉の羽織とスカートが揺れ動く。



「…思ったんだが、オレの手が冷たい時は真宮桜の手の方が温かいんじゃないか?」

「ふふ、そうかもしれないね」

「そ…その時は──」

「うん。今度は手袋編むのに挑戦してみるよ」

「違っ……え、おい」

「なんてね」

「どっちだ…」



六道くんの手が冷たい時は、私の手で温めてあげるよ。
そう言葉にはせずに、笑いかけた。





end
久しぶりの2時間クオリティ

nihilism(乱あ)


すきだけどいえない。
いつもケンカばかりのふたり。

あたしが素直になったなら。
アイツが素直になったなら。




「あかね、」

「ん?」

「かすみさんが、風呂沸いたって言ってた」

「乱馬が先に入っていいよ」

「…また課題やってんのか?」

「アンタも同じ課題出されたでしょーが」

「ま、いーや。後で見せてくれよっ」

「いつも人任せなんだから…」

「はは、慣れっこだろ。んじゃ先に風呂もらうなー」

「はいはい」




そっと机の引き出しから日記を取り出して、今日の日付を書く。
今日も朝から乱馬とケンカして、先週やったテストが返却されて、お昼は右京とシャンプーが教室をめちゃくちゃにして、また乱馬とケンカして。放課後には喫茶店でらんまと一緒にケーキを食べてきた。
昨日までの日記を読み返しても、必ず見つける"乱馬"の文字。
楽しい時も悲しい時も嬉しい時も辛い時もここに記してきた毎日はどれも騒がしく賑やかだ。
いつも必ず、乱馬がいる。
それが当たり前になってる。

どんなにケンカをしても、嫌いにはなれない。どんなに嫉妬しても、胸の痛みを消すことは出来ない。
それはやっぱり、あたしが乱馬のことを好きだから…なんだろうなあ。

今日1日の出来事を日記に綴って、また読み返して懐かしむんだろう。その時も、あたしの近くに乱馬がいたら、いいな。



「あかねー、風呂ー」

「はーい!」



一階から聞こえた声に返事をして、机の上を片付ける。
もうすっかり"乱馬"はあたしの生活の一部になってるなあ。分かってしまうからこそ、苦笑する。本人に言ってやるつもりはさらさらないしね。
着替えを持って階段を下りていくと、黒いタンクトップ姿の乱馬に思わずドキッとした。
いつも見てるはずなのに。乱馬ってこんなに筋肉ついてたっけ?
近過ぎて気付けなかったことは、少し意識するだけではっきりと形を為す。



「どした?あかね」

「な、なんでもない!お風呂入ってくる!」

「?」



今更こんなにドキドキするなんてばっかみたい。
乱馬だって"男の子"だもん。あたしやおねーちゃん達とも、おとーさんとも違う。乱馬とおじさまは家族みたいだけど、家族じゃないんだ。……今は、ね。
未来を想像するのはちょっぴり気恥ずかしくて、不安も混じる。
あたしは本当に乱馬と結婚するのかな。



「……少し前のあたしだったら、『絶対イヤ!』の一点張りだったわね…」



男なんていやらしくて汚らしくてしつこくて大っっっ嫌いだったもん(今でもそういう風に思えてしまう人はいるけど)。
お風呂から始まったんだよね、あたしと"乱馬"の出逢いって。
思えば最悪の出逢い方だったし、今でも奴にはムカつくけど、悪い所ばかりじゃなくて良い所も沢山知ることが出来た。日記を開かなくても、思い出すのは乱馬の事。
…自覚するとなかなかに恥ずかしいわ、あたし。




「あかねちゃーん、タオル置いておくわよー」

「へっ!?ああ、うんっ…え、ありがと、かすみおねーちゃん…」

「あまり長く入ってのぼせないようにね」

「う、うん」




湯船に浸かりながら溜め息混じりに息を吐いた。
高鳴る鼓動に振り回されて、周りを見失わないようにしなくちゃ。だって、未来は分からない。
あたしと乱馬がどうなっているのか。その答えは時が来なければ分からないものでしょう?

─だからあたしは、まだこの曖昧な関係に満足してしまっているんだ。




「おいあかね」

「何よ、乱馬」

「ノート貸して」

「…………」



今のところ、は。





end
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