すきだけどいえない。
いつもケンカばかりのふたり。
あたしが素直になったなら。
アイツが素直になったなら。
「あかね、」
「ん?」
「かすみさんが、風呂沸いたって言ってた」
「乱馬が先に入っていいよ」
「…また課題やってんのか?」
「アンタも同じ課題出されたでしょーが」
「ま、いーや。後で見せてくれよっ」
「いつも人任せなんだから…」
「はは、慣れっこだろ。んじゃ先に風呂もらうなー」
「はいはい」
そっと机の引き出しから日記を取り出して、今日の日付を書く。
今日も朝から乱馬とケンカして、先週やったテストが返却されて、お昼は右京とシャンプーが教室をめちゃくちゃにして、また乱馬とケンカして。放課後には喫茶店でらんまと一緒にケーキを食べてきた。
昨日までの日記を読み返しても、必ず見つける"乱馬"の文字。
楽しい時も悲しい時も嬉しい時も辛い時もここに記してきた毎日はどれも騒がしく賑やかだ。
いつも必ず、乱馬がいる。
それが当たり前になってる。
どんなにケンカをしても、嫌いにはなれない。どんなに嫉妬しても、胸の痛みを消すことは出来ない。
それはやっぱり、あたしが乱馬のことを好きだから…なんだろうなあ。
今日1日の出来事を日記に綴って、また読み返して懐かしむんだろう。その時も、あたしの近くに乱馬がいたら、いいな。
「あかねー、風呂ー」
「はーい!」
一階から聞こえた声に返事をして、机の上を片付ける。
もうすっかり"乱馬"はあたしの生活の一部になってるなあ。分かってしまうからこそ、苦笑する。本人に言ってやるつもりはさらさらないしね。
着替えを持って階段を下りていくと、黒いタンクトップ姿の乱馬に思わずドキッとした。
いつも見てるはずなのに。乱馬ってこんなに筋肉ついてたっけ?
近過ぎて気付けなかったことは、少し意識するだけではっきりと形を為す。
「どした?あかね」
「な、なんでもない!お風呂入ってくる!」
「?」
今更こんなにドキドキするなんてばっかみたい。
乱馬だって"男の子"だもん。あたしやおねーちゃん達とも、おとーさんとも違う。乱馬とおじさまは家族みたいだけど、家族じゃないんだ。……今は、ね。
未来を想像するのはちょっぴり気恥ずかしくて、不安も混じる。
あたしは本当に乱馬と結婚するのかな。
「……少し前のあたしだったら、『絶対イヤ!』の一点張りだったわね…」
男なんていやらしくて汚らしくてしつこくて大っっっ嫌いだったもん(今でもそういう風に思えてしまう人はいるけど)。
お風呂から始まったんだよね、あたしと"乱馬"の出逢いって。
思えば最悪の出逢い方だったし、今でも奴にはムカつくけど、悪い所ばかりじゃなくて良い所も沢山知ることが出来た。日記を開かなくても、思い出すのは乱馬の事。
…自覚するとなかなかに恥ずかしいわ、あたし。
「あかねちゃーん、タオル置いておくわよー」
「へっ!?ああ、うんっ…え、ありがと、かすみおねーちゃん…」
「あまり長く入ってのぼせないようにね」
「う、うん」
湯船に浸かりながら溜め息混じりに息を吐いた。
高鳴る鼓動に振り回されて、周りを見失わないようにしなくちゃ。だって、未来は分からない。
あたしと乱馬がどうなっているのか。その答えは時が来なければ分からないものでしょう?
─だからあたしは、まだこの曖昧な関係に満足してしまっているんだ。
「おいあかね」
「何よ、乱馬」
「ノート貸して」
「…………」
今のところ、は。
end