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ラ イ バ ル(乱+良+ム)



オレのライバルは早乙女乱馬。
おらのライバルは早乙女乱馬。

─なら、早乙女乱馬のライバルは?





「……あのな、お前ら」


「なんだ」
「なんじゃい」


「話があるっつーから何かと思えば…ライバルがなんたらかんたらって、何が言いてーんだよ」


「オレ達が聞きたいのはだな、」
「お前のライバルが誰か、じゃ」


「はぁ〜?」





訳わかんね、
乱馬はそう言って寝転ぶ。この野郎、オレ達が話してんのにとことん図々しい奴だな。

まあ落ち着くんじゃ良牙。とりあえず乱馬が一番にライバルと思っとる奴を聞き出すのが先決じゃい。





「で、誰なんだよ?お前の一番のライバルって。オレか?ムースか?」


「うーん…違う、な」


「ならばパンスト太郎じゃ!」


「違う」


「じゃあお前の親父さん」


「んな訳ねーだろ」


「ならば八宝斉かのう」
「あ、九能か?じゃなかったらハーブ!」


「ハズレハズレー」


「ならば誰なんじゃっ」


「あのなぁ、どうしてそんなに聞きたいんだ?」


「乱馬の一番のライバルになれば、あかねさんだって」
「シャンプーだって少しはおらを見てくれると思うたからじゃ」





いつもオレ達は乱馬に軽くあしらわれて、やられてばかり。乱馬と常に対等な立場にいる訳じゃない。
どんなに強くなっても、先を行く奴なんだコイツは。

乱馬は溜め息をついておらと良牙を見る。うぬう、またコイツは人をバカにしておるなっ





「…オレのライバルは、まだちゃんと決着つけてねー奴だよ」

「「決着?」」


「そんな奴おったのか?」

「いるんだなー、これが。結構手強そうでよ、良牙は知ってるはずだぜ」

「………あ…」





オレには思い当たる節が1つ、あった。そうだ、あかねさんが必死になって助けようとしていたアイツ。
─真之介だ。

のう良牙、そやつは強いのか?

オレも実力は把握しきれねえが、確か乱馬と互角に渡り合ってた気がするぜ…。
物忘れが多い奴だけど、あかねさんのことは真剣で、基本的にいい奴だからオレも乱馬も拍子抜けしちまうんだ。悔しいけどな。





「あんまり、真之介のことは敵にはまわしたくねぇんだよな」


「何故じゃ?」

「あかねさんが困ってしまうからに決まってるだろ!」

「ん?ならば天道あかねはそやつが好きなのか?」


「………さーな、オレが知るかよ」


「んなことあってたまるかあぁぁ!!!」

「貴様が取り乱してどうするんじゃアホっ!」





す、すまんムース。だからといって殴るこたないだろうが!

ええいうるさいっ!その真之介とやらはどこにいるんじゃ!





「おい良牙、ムース!さっきからなんなんだよ、言いたいことがあんならハッキリ言えよな」


「こっちのセリフじゃ!シャンプーの心をもてあそびおってタラシ男が!!」

「こらっムース!!貴様まで取り乱してどうすんだ!」


「……何がしたいんだおまいらは」





ぐ…すまぬ、良牙。目が覚めただ。
しかし結局のところ、ライバルでもライバルであらずとも乱馬は変わらんのではないか?

どうだろうな、でもアイツが真之介の登場で自分の立場に危機を感じたのは本当だ。………ううっ、あかねさん…!





「もう話が終わったんならオレ帰るぞ」

「ま、待て乱馬っ」

「なんだよ良牙、まだあんのか?」

「…お前、あの時真之介に勝つ自信はあったのか?」

「……」





あの時?まーたお主ら修羅場があっただか。懲りないのう。

勘違いするなよ、オレではなく乱馬と真之介だ。
途中であかねさんが発作を起こした真之介をかばったことで、決着は着かなかったんだがな。





「どうなんだ、乱馬」

「……何があろうと勝つに決まってるだろ」

「ほう、言う時は言うんだのう」


「ば、う、うるせーっ」





乱馬はオレとムースに背を向けてどかっと座る。
おいムース、今なら…

今なら隙だらけじゃな、倒すのも容易いこと。
こやつはおら達をライバルとは思っておらん、良くて稽古相手くらいと思っておるはずじゃ。この機会にたっぷりとライバルだと認めさせてやろうではないか!





「乱馬、覚悟──」


「良牙、ムース」

「「え」」



「やっぱさっきの訂正。」


「な、何をだ?」

「お前らはライバルじゃねーってやつ」


「ど、どうしただ急に…」


「んー、考えてみれば真之介だけじゃなくてもそこそこ強いからな、お前ら2人」

「そこそこって貴様なぁ!」





…こういう奴じゃ、良牙。乱馬は絶対何も考えなしに言うとるぞ。

何故オレはこんな奴に勝てないんだ…!!





「大体、ライバルなんて何人いてもいいんじゃねーの?ほら、良牙だってじじいや九能はライバルだろ」

「あのじいさんも入るのか…」

「で、ムースの場合はばばあだろ?」

「ぬ…確かに認めてもらわんといかんな」



「自分で努力すれば、周りはちゃんと見てくれんじゃねーかな」





おかしい、どうしてオレ達が乱馬に励まされているんだ。当たり前の事を言われているだけなのに、改めて気付かされたことが悔しい。

騙されるな良牙、乱馬はおなごにフラれたことがないからあんなセリフが言えるんじゃ、違いない。





「だからそーゆーワケで、2人ともオレを見習うことだなっ」

「…貴様はいつもいつも一言余計なんだー!!!」

「はあ!?」

「おらだって言ってみたいもんじゃそんなセリフ!」

「ちょ、いきなり暗器振り回すんじゃねぇよ!!」



「問答無用じゃー!!」

「ん゛〜…獅子咆哮弾!」



「ひいいいいっ!てめーらいい加減にしろー!!!」








オレのライバルは早乙女乱馬。
おらのライバルは早乙女乱馬。

─これはきっと、絶対、変わらない。







end

想像出来る(乱あ)


長い時間を一緒に過ごしてきたから、それは必然だと思ってる。
義務とかそういうんじゃなくて、本当に、本当に大切だと、好きだと思うから、絶対だ、って確信。




「らんま、お湯」

「ん…おぉ、わりぃな」

「どうかしたの?さっきから眉間にしわ寄せて」




じじいに水をかけられて一悶着あり、その後居間でごろごろしていたオレは、ゆっくり体を起こしてあかねからやかんを受け取った。
オレとあかねは親が勝手に決めた許婚。それでも、惹かれたのは確かで、つまんねぇ意地の張り合いして、カッコ悪ぃ嫉妬して、喧嘩して、その度に仲直りして。
素直じゃなくて可愛くねぇ、ずん胴凶暴不器用女、なんて事はただオレの気持ちを悟られないための言い訳だった。
お湯を浴び、男に戻ったオレはあかねの問いに答えることなく、ただ、黙っていた。
気持ちが、思考がまとまらない。




「……?なによ」

「いや、別にー‥」




今では数年後の自分を想像してしまう。
オレはあかねと結婚して、子供もいて、おやじとおじさんは相変わらず‥おふくろもこっちに呼んで、かすみさんは東風先生と結婚でもしてんのかな、なびきはなびきで金持ちとかと付き合ってそうだよな、九能とか?いやまさか。
でも、…そんな未来になったらいいな、と思う。
天道家に来なければ、あかねに出逢わなければ、考えもしなかっただろう。
思い返せば、"女"として意識したのはあかねが初めてだ。ウっちゃんの事は男だと思ってたし、シャンプーには出会った時から敵意剥き出しで命を狙われてたし。




「あかね」

「ん?」

「…やっぱり何でもねーや」

「あのねぇ…何なのよさっきから!」

「ちょっと考え事を」

「へー、珍しいわね、乱馬がそんなに悩むなんて」

「オレにだって悩みくれーあるっつの」




そしてそれは主にお前の事なんだぜ、とは言わないが。
ふざけた体質を何とかしたいのは本当だし、色々なことにケリを着けなきゃならねぇから、自分なりにけじめがつくまで、あかねとはもう少しこのままで。




「ねぇ乱馬」

「んあ?」

「5年後のあたし達って、どうなってると思う?」

「…また唐突だな」




あかねもオレと似たような事を考えてた事が何だか可笑しかった。
変だよな、互いに気持ちを伝えてないのに未来が想像出来るんだ。どうなるかなんてその時が来るまでわからないのに。




「あたしは何となくだけど、かすみおねーちゃんは東風先生と結婚してて、なびきおねーちゃんはお金持ちのボーイフレンドがいそうだなって思うの」

「お…そ、そっか」

「……あたし達はどうなってるんだろうね?」

「さーな…オレは一応想像出来るけど?」

「へぇ、出来るんだ……ふーん…」

「何だよっ」




本当に?ってあかねに疑いの眼を向けられる。言えないけど、本当だから否定はしない。
いつか、叶えたい未来の姿。
ふいにあかねがオレの背に寄りかかった。




「………いいな」

「あかね?」

「…乱馬が思い描いてる未来に、あたしがいたら…いいな、って……」

「え…!?な、ななっ、何言ってんだよ!当たり前じゃねーか許婚なんだしっ…」

「そ…だよね…」

「あの、え、ちょ、あ‥あかねっ、さん…?」




ずし、とかかる重さと、聞こえてくる寝息。この女寝てやがる…っ!
ちくしょー、いきなり素直にぽつぽつ話すから驚いたじゃねーか。まさかあれ寝言か?……違う、と願いたいけど。
嗚呼、今更ながらすっげー恥ずかしい事言った気がする。おやじとおじさんがいなくて良かった…




「あら、あかねちゃん寝ちゃったのね」

「か!かすみっ‥さん…!?え、あの…」

「2人とも仲がいいのね、大丈夫よ、なびきも友達と遊ぶって出掛けてるから」

「そーじゃなくて……っ!」




ふふふ、とかすみさんは上機嫌に買い物へ出掛けて行った。ご丁寧にお茶と茶菓子を置いて。
一体いつから聞いてたんだ?やるせない溜め息がひとつ、出る。




「…ん……」

「ったく‥人の気も知らねーですーすー気持ちよさそうに寝やがって」




あかねがオレに寄りかかっていることによって温かくなる背中。春の陽気に身を任せ、オレもゆっくり目を閉じた。

たった一時でもいいから、未来の夢が見れたらいいなと思いながら。






end

In a tearoom(ムーあ)


「それでのう、シャンプーは決闘を申し込まれても全て返り討ちにしたんじゃ」

「へー、昔っからホント強いのね」

「当然じゃいっ!おらが嫁にするおなごじゃぞ」

「はいはい、聞き飽きたわよそのセリフ」




カラン、とコップの中の氷が揺れる。おらの前には天道あかね。
出前の帰りに会うたが、今日は乱馬の奴はおらなんだ。あかねは何も言わんが、きっとシャンプー達じゃろう。




「なあ、聞いてもよいか?」

「ん?」

「そ、その……乱馬と、こういう店にはよく来るのか?」




こういう店=喫茶店。
猫飯店に入り浸っているおらにとって、何だか新鮮な気分じゃ。
洋風、とでもいうんじゃろうか、まあとにかく、猫飯店とは全く違うのだ。




「来るわよ、たまにだけど」

「ほぉ」

「でも乱馬の目当てはここのパフェだから、来る時は女同士よ」

「仲が良いんじゃなぁ…」

「ど こ が !?普段のあたし達見てたら分かるでしょ?」

「おらにはじゃれ合ってるようにしか見えん」

「な…っ」




見えん、よなぁ…。おらからしてみれば羨ましいことこの上ない。
乱馬を真似てシャンプーをからかえば容赦なく水をぶっかけられるし、優しくアピールすれば気色悪いと一蹴され、プロポーズをしてもよく見ればシャンプーではなくポストだったりタヌキの置物だったりサルの干物だったり、なんじゃい、おらは苦労しとるのう。




「素直になれんのは分からんでもないが…おらを見習って少しは努力したらどうじゃ」

「前向きさは見習ってもいいけど、しつこいのもどうかと思うわよ」

「なんじゃい天道あかね」

「ムースだって、きっとシャンプーからしたら意識されてると思う」

「……は?シャンプーが、おらを?」

「そりゃあ、流石に乱馬みたいな特別扱いはないけど…幼なじみだから、ムースにしか見せない表情とかあるでしょう?」

「…ある、んかのう…?」

「あるわよ、きっと」

「……だといいんじゃが」




アイスコーヒーをストローでくるくるかき回し、あかねを見ると笑っておった。つられるようにおらも笑う。
いつか、シャンプーを連れてまた喫茶店に来てみたいのう。




「ムースの頭の中にはシャンプーの事しかないのね」

「当然じゃ!な、笑うとこではないぞっ」

「いいんじゃない?その時はここのコーヒー無料券、あげるわ」

「き、聞こえとったのか、今の」

「そりゃあね」




情けない…口に出しとったとは不覚じゃ。
ふと、視線を感じたかと思えば乱馬が店の天井にひっついていた。堂々と来ればいいものを…小心者じゃな早乙女乱馬。




「天道あかね」

「なに?」

「乱馬に会うたら『シャンプーは絶対に渡さん』と伝えてくれんか」

「うん、わかった」




少し残っていたコーヒーを、ストローをとって一気に飲み干した。シャンプーへの想いを語ったことで気分がスッキリしたせいか、天井に張り付いてこちらの様子を窺う乱馬を見たせいか。
立ち上がり、コーヒーの代金を机に置く。




「まだ出前があるじゃろうし、おらは行くだ」

「そう。あたしはもう少しいるわね」




あかねは苦笑しておらを見た。乱馬に気付いたみたいじゃな。
おらは店のアンケート用紙の裏に、備え付けてあったペンを使って文字を書いた。
《許婚が気になるんなら、捕まえておかぬと奪われてしまうぞ、乱馬。》と。




「これも一緒に渡して欲しいだ」

「何を書いたの?」

「秘密じゃ」

「あ、ちょっとムース!お金はコーヒーの分だけでいいのよ?」

「おらはどっかのおさげ男と違って優しいから奢ってやるんじゃ」

「…じゃあ有り難くごちそうになるわね」




天道あかねは一途な奴じゃ。早く乱馬がそれに気付けば…否、気付いているのに動けずにいるのか。そこまではわからん。
女は気難しいからのう。




「再見」

「うん、またねムース」




たまに、たまーになら、今度はおらが天道あかねの話を聞いてやろう。
言葉で交わした訳ではないが、シャンプー、乱馬をそれぞれに思っている間柄としての仲間じゃからな。

互いの恋が上手くいけばいい、そうおらは願っとるだ。







end

インモラル(パンあ)


気に食わない。
この女があのオカマ野郎の許婚だからだろうか。




「乱馬はアンタなんかに負けないんだから」




信じて疑わない、強い瞳がオレを見据える。




「ぐふっ、どうかな、オレは強いぜ」

「…あそ。でも乱馬の方が強いわ」

「大した自信だな」




憎いのは八宝斉のじじいであって、オカマ野郎なんて眼中になかった、のに。
オレ様の名前をああも連呼した罪は重い。絶対許せねぇ。




「どうして…わざわざ乱馬を怒らせるの?」

「お前には関係ない」

「……男ってみんなそうよね、『関係ない』って言えば女は黙ると思ってる。女なんてもんはおしとやかにしてればいいって思ってる。」




こいつはいきなり話し出した。オレではなく、自分自身に言い聞かせるように。
あの乱馬ってオカマ野郎がよっぽど好きなんだな。




「フン、女はバカな生き物だな」

「アンタみたいな奴に言われたくないわよ、バーカ」

「オカマ野郎は返り討ちにしてやるぜ」

「乱馬に負けてアンタが泣くのが目に見えてるわね」




何故こんなに信じられるのか、それが不思議だ。圧倒的に力を見せ付けた筈なのにまだオカマ野郎が来ると思ってる。まあ、来て貰わないと困るのだが。
パンストを手に、オレは部屋を出た。
引き止める声は、ない。




「早乙女乱馬……ぐふっ、徹底的に叩きのめしてやるぜ、あの許婚の前でな」




心の奥の奥に蠢く違和感が、恋であると。嫉妬であると。
オレが気付く事は無かった。







end

(パンスト太郎があかねを連れ去って乱馬を挑発したって事で^^(分かりにくい←)

恋占い再び(乱あ)

日が延びて桜の蕾が開き始めた季節。
やっとのことでシャンプーとウっちゃんを撒いた俺は、どうやって未だ怒っているだろうあかねの機嫌をとるか考えていた。
喧嘩の発端は俺があかねのケーキを食った事だったりするが、シャンプーとウっちゃんが来たことで更に状況が悪化したと言っていい。今回ばかりは、流石に俺も悪かったからなー…




「お兄さんっ、あんたは運がいいっ。お土産にぴったりのサクラもちがございますよ」




声に振り向くと、"手作り和菓子"の旗を持ったじいさんがいた。半信半疑で話を聞くと、以前あかねが言ってたサクラもちの恋占いの話と全く同じだった。
あの運命の人がわかるというサクラもち。
あかねが作ったやつを食った俺だけど、結局額に桜のマークが出たのか、ペケマークが出たのかは分からず終いだったんだよな。

……もし、俺が作ったサクラもちをあかねに食わせたら、どうなるだろう?




「ま、本当にあん時のじいさんかどうかもわかんねーし、こんなのインチキに決まってんだろ」




そうは言いながらも、道場の屋根の上でぺたぺたと作ったサクラもちを1つ、眺めてみる。
うん、あかねが作ったやつに比べりゃ我ながら美味そうに出来たじゃねーか。………これからどうするつもりだ、俺。
それに、本物かどうかも分かんねーし…誰かに試してみるしかねーよな。




「おーい親父っ」

「なんだ乱馬」

「これ、食わねーか?」




サクラもちを1つ、親父に向かって投げるとそのまま親父の口の中に消える。我が父ながら…パンダでも人間でも食い意地張ってんのが悲しいぜ……
ぐっと、親父の顔を見るとそこにはあのペケマーク。

じゃあ…やっぱりあのじいさんはあかねが言ってたのと同一人物ってことで……サクラもちは本物。




「ふむ…ちぃと甘さが足りぬな」

「食ってから文句言ってんじゃねぇクソ親父っ!」




親父を思い切り蹴って居間から池に飛ばすと、パンダが現れる。顔のペケマークは既に消えていた。
怒った親父を無視して、俺は再び屋根に上がる。よ…よし、今度はあかねに食わせてみるか……。いや、別に運命の人がどうとかじゃなくて、今日は良牙もまた旅に出たみたいだから邪魔者がいないし……って、夜這いに行く訳じゃねーんだよ俺は!!
そう、ただ…サクラもちをあかねに渡して食ってもらえばいいだけで…、待てよ、もしあかねの顔にペケマークが出たら?




「………悪い方向に考えるもんじゃねーな」




ごろんと、寝転んで空を見上げる。占いなんて信じてねぇ、口ではそう言ってもやっぱり気になる。
俺があかねのサクラもちを食った時、「見たくない」と言ったあかねの気持ちが今なら分かる。親の決めた許婚ってだけの関係だけど、相手を意識してるから余計に、だ。

あの時、俺の顔に桜の花びらが出ていたら……気持ちに、素直になれただろうか。
…そうでもないか、自分でも想像つかねーもんな。




「乱馬、あんたこんなトコで何やってんのよ」

「あかね…」

「かすみおねーちゃんが、もうすぐ夕飯出来るからって」

「………怒ってねーの?」

「…あのね、あたしだっていつまでも引きずったりしないわよ!どっかの誰かさんと違って、食い意地張ってないもん」

「相っ変わらず可愛くねーな」

「はいはい、勝手に言ってれば?………何よその顔は」

「べ、別に…」




拍子抜け、したんだ。
あかねの事だから真っ先に殴られるか飛ばされるか、って一応覚悟してたのに……いつまでもガキなのは俺の方?まさかそんな。




「って乱馬!これから夕飯だっていうのに何でサクラもちなんて持ってるのよっ」

「あ、いやこれはー…その、あ、あかねに、だな…」

「は?あたしにくれるっての?」

「あー…まあ、いや、うん…」

「なによ」

「後悔しねぇ?」

「あの…言ってる意味がさっぱり分からないんだけど……」




頭に?マークを浮かべ、あかねは俺を訝し気に見た。ここでそのサクラもちがあの恋占いのものだなんてバラしたら絶対怒るに決まってる。
でも、…あかねの顔にペケマークが出るなんて事、あってたまるか。運命の人はあかねじゃなきゃ、──嫌だ。




「…食ってみ?」

「今?」

「おう」

「何でそんなに汗かいてんのよ」

「ななな何でもねぇしっ」




夕飯前なのに…、
とか言いながらも、あかねは俺の隣に座ってサクラもちを口に運んだ。うわ、やっぱりなんか怖いっつーか…不安になる。あかねが見れない。




「うーん…美味しいけどもう少し甘くってもいいくらいね。ちょっと乱馬、聞いてる?」




背中を向けたままの俺を不思議に思ったのか、あかねが俺の顔を覗き込む。あーダメだ。もー無理。運命なんて自分次第だろ?こんなもんで決められてたまるか!
俺はあかねの顔をまともに見ないように、素早く腕を引いてあかねに口付けた。




「……っ」

「ん、…っふ…」




ゆっくり目を開けると、あかねの顔にはペケマークも桜の印もない。ほっとしたような、残念だったような。
甘い香りが桜の花びらと共に、ふんわり漂う。




「な、な、いきなり何すんのよっ」

「…甘かったろ?」

「……!!バッカじゃないの!?スケベ!」

「なんだよー」




悪態をつくのは相変わらずだけど、平手打ちが飛んでこないだけ有り難い。死ぬほど恥ずかしい事をしたと今更ながら、かああっと体が熱くなる。
平静を装って、あかねをからかっても鼓動はいつまでも治まらない。




「あかねー、乱馬くーん、夕飯……何やってたのあんた達?」

「げっ」

「な、なびきおねーちゃん、何でもないの!今行くから!」

「怪しいわねー」

「何でもねぇっ!!」




なびきにサクラもちの事がバレたらそれこそ一大事だ。内心どぎまぎしながら、俺とあかねは屋根から降りる。




「あら?あかね、おでこに花びら付いてるわよ」

「え?あ、ホントだ」




なびきの手鏡を覗くあかね。俺はその場でぎしっと固まった。
ま、まさかまさか、バレた…!?あかねには桜の印が出たって事なのか……!??




「買い物帰りに公園で桜を見てた時についたのかなぁ」

「ああ、あそこの桜、結構綺麗に咲いてるもんね」

「せっかくだから、この花びらでしおりでも作ろうかしら」

「いいんじゃない?」



「………」




思わず溜め息が出た。期待してなかったけどやっぱりそう上手くいくわけねーって事だよな?
ま、これでよかったのかもしれない。




「ねぇ乱馬」

「…ん、なに」

「さっきのサクラもち」

「………なんだよ」



「あたしには甘すぎるみたい」





ほんのり赤い顔をしたあかねと、真っ赤になる俺。
甘い甘い、サクラもちの余韻はまだ唇にしっかりと残っていた。







end
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