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側で笑って(犬かご)


かごめは桔梗の生まれ変わりだけど、桔梗じゃない。かごめはかごめだ。
桔梗はもう、この世の"もの"ではなく、さまよっている。
おれは優柔不断で、かごめには辛い選択ばかりさせて。弥勒や珊瑚が言うように、かごめの優しさに甘えちまってる。
どっちつかずな自分が情けなく思う。




「かごめ様、毒消しの薬草を取って頂けますか」

「わかった。ちょっと待ってて法師さま」

「かごめちゃん、この人もちょっと診てくれない?」

「はーい」




妖怪どもに襲われた村で、かごめ達は村人の手当てに奔走していた。
薬のにおいがつんと鼻につく。おれと七宝はその様子をぼーっと見ていた。…する事がねぇからな。




「のう犬夜叉、かごめはいつも人気者じゃな」

「ああ?」

「弥勒や珊瑚がかごめを頼るのはいつもの事じゃが、どんな村に行ってもすぐかごめは村人達に好かれるではないか。あ、鋼牙や妖狼族の連中も慕っておったのう」

「……何が言いてーんだ七宝」

「い、言ってみただけじゃ」

「ほー」

「うぎゃっ!痛いではないか犬夜叉!!いきなり殴るなっ」

「うっせーんだよお前は」


「犬夜叉、意地を張って七宝に八つ当たりするのはおやめなさい」

「スケベ法師に言われたくねぇ」




べそかく七宝を抱きかかえた弥勒は、おれを見てため息を吐いた。
なんだよ、文句あんのかっ
いつもいつも、言われる事はわかってる。おれだってかごめを悲しませたい訳じゃない。笑顔でいて欲しい。できることなら、おれの側で…と願ってしまう。
桔梗を忘れられないおれに、そんな事を思う資格はないかもしれねぇけど。




「かごめちゃん、ありがと」

「ううん。珊瑚ちゃんはケガしてなかった?」

「あたしは平気だよ。かごめちゃんこそ大丈夫?」

「あ、うん。すり傷くらいだしね」


「かごめ様ー」
「かごめさまっ、おとうは大丈夫なの?」
「あたしのとうちゃんは?」




村の子供達はかごめの周りに集まっていく。
かごめはお人好しだから、仕方ねー。これもいつもの事じゃねーか。いつもの事。いちいち気を張ってるのもバカらしい。
とは言いつつも、やっぱり視線はかごめを探してしまう。




「犬夜叉…お前という奴は本当に……」

「なっ、なんだよ」

「いえ、私は七宝のような目に遭いたくはないので黙っておきます」

「言いかけて止めんじゃねぇよ胸くそ悪ぃなっ」


「犬夜叉のくせに生意気じゃのう、弥勒」

「こら七宝。そんな本当の事を本人の前で言ってはいけませんよ」

「おまえらな…」




「─じゃあさ、かごめ様!おらが大きくなったら嫁に来んか?」
「お前ずるいぞっ!ぼくだってかごめ様みたいな人がいい!」

「え、えー?(プロポーズされてるよ、私…)」




なんでぇかごめの奴。へらへらしやがって。ガキ共相手にいい気になんなっつの。
おれだって子供に向かって見栄張るほど焦ってねーし。




「いけませんよ子供達。かごめ様は私がお嫁にもらうのですから」

「え゙、弥勒さま?」


「法師さま…あんたって人は…!!」
「─っ、くぉら弥勒っ!てめーふざけんのもいい加減にっ…」



「法師さまがかごめ様と?えー、やだなぁ」
「ぼくのとこにお嫁に来てよ、かごめ様!」




〜〜…!!
いらいらいらいら、ああもう、自分の頭ん中はぐちゃぐちゃだ。かごめが誰の嫁になるって?
お前らよりもおれの方がかごめといた時間は長いんだ。まだ知らないことだってあるかもしれねぇけど、おれの方がずっと、ずっと……だあああ!ずっと何だってんだよおれ!




「かごめ!」

「ん?なによ犬夜叉」

「いいからっ、こっち来い!」

「もー…」




「あ、かごめ様ー…」

「やれやれ、犬夜叉も相変わらず心が狭い。珊瑚、私達は子供達と向こうで遊びましょう」

「そうだね。…法師さま、ふざけるのも大概にしといてくれよ」

「………はい」




かごめはいつものようにおれの隣に腰掛けた。ただそれだけなのに、ホッとする。そのまま互いに何を言うでもなく、沈黙が続いた。
…呆れてんのかな、かごめ。
何故おれはこんなに余裕がないんだろう。あったらあったで、それも想像できねーが。




「犬夜叉」

「……、な、なんだ」

「もしかして子供達相手にイライラしてた?」

「すっ…するわきゃねーだろ!」

「ふーん?『お嫁に来てよ』、だって。かわいいなぁ」




くすくす、楽しそうにかごめは笑った。慈愛に満ちたその眼差しは、まるで母親みたいに見える。
この時代、かごめや珊瑚くれーの女は嫁ぎ話の一つや二つあってもおかしくはない。でも、かごめはこの時代の人間じゃないし、珊瑚も退治屋の生き残りとして行動を共にしているから、ましてや"結婚"なんてこれっぽっちも考えてねぇんだろう。




「…かごめは、嫁に行きてぇのかよ」

「そりゃー、いずれはね。でも…今はいいの。犬夜叉と、こうしていられるだけで」

「なっ…」

「もし私が婚期逃したら犬夜叉に責任とってもらおっかなー」

「おい、どーいう意味だそれ」




かごめはにっこり笑う。
きっとおれは今ムキになって赤くなってるに違いない。
桔梗を思えば今も胸は痛むけれど、かごめの存在はおれの中でどんどん大きくなっていく。大切なんだ。誰よりも。ワガママな考えだけど、かごめにはおれを見ていて欲しい。
鋼牙とか弥勒とか、他にかごめへ色目使う奴は許さねぇ。




「ねぇ犬夜叉、手、繋いでもいい?」

「…好きにしろ」




独占欲はいつだっておれの思考を支配する。大切なものはすぐ側にあるのが当たり前なんだ。
昔とは違う、今だからこそわかること。
長い眠りから、
"独り"から救ってくれた、
側にいてくれるこの少女を、
おれは絶対に守る。

かごめにいて欲しい。笑っていて欲しい。
おれは欲張りだから、いつも迷惑かけてばかりだけど。甘えてばかりだけど。それは仕方ないと受け入れなきゃ、この気持ちは制御出来ない。
ごめん、口では言えない謝罪は心の中で。




「あ、そーだ!後で薬草取りに行くの、手伝ってね」

「かごめ」

「ん?」

「…ありがと、な」

「何よぉ今更」

「別に、特に意味はねーけど」

「そ。機嫌直った?」




……はあ、おれって本当にかごめの笑顔には弱いんだな。
適わねーよ、全く。
もう少し余裕になるためには、何が必要なんだろうか。度胸?自信?考えられるものは沢山あるけれど。
今はいらねーや。
かごめがいるから、な。




「かごめの方がよっぽど大人じゃなぁ…」


「あら、七宝ちゃん」

「!てめーどっからわいて来やがった!?」

「みんながおらを忘れとったんじゃないか馬鹿者ぉっ!」

「あのなあっ」


「もー、ホント大人げないったらありゃしない…」







end!
謝謝企画・あかねさまへ!

子供の特権(乱あ)


年の数茸。
食べるとキノコのサイズどおりの年になってしまう不思議なキノコ。
それを食べてしまった良牙くんと乱馬は、キノコを巡ってケンカばかり。あたしはおねーちゃん達に協力してもらって、ようやくこっそりキノコを16cmまで栽培した。
それを食べて、16歳に戻った良牙くんはまたすぐ旅に出てしまった。乱馬は相変わらず、ぶつくさ言ってるけど。




「あー…ひどい目に遭ったぜ…」

「良かったわねー、無事16歳に戻れて」

「なんでこそこそ隠す必要があんだよっ!ホントに戻れねーかと思ったじゃねーか」

「キノコがあるといつまでも良牙くんとケンカして戻れるもんも戻れないでしょ」

「…そりゃ、そうかもしれねーけど…」




何が不満なのか、乱馬はあたしをじっと見る。…いや、睨む?
まーだあたしが小さかった乱馬のことお尻ペんペんしたことでも怒ってんのかしら。乱馬って結構根に持つタイプなのよね…




「あっかねちゅわ〜ん!わしが採ってきた松茸食わせてやるぞいっ」


「おじいさん!?」

「松茸だぁ〜?今の時期にあるわけねぇだろ」


「あったもんはあったんじゃい!あかねちゃん、あーん」

「いや、あたしいらない…」


「遠慮することないぞい、まだまだ沢山あるんじゃー♪」

「きゃ…!?─んぐっ」




八宝斉のおじいさんはあたしに飛びつくとキノコを口の中にひょいと入れた。
驚いたあたしは、思わずそれを飲み込んでしまった。




「じじいっ!てめーいい加減にしやがれ!!大丈夫かあかね!?」


「う、うん。大丈…っ…」


─ドクン、ヒュッ



「ん?どうしたんじゃあかねちゃん?」

「あ、あかねー!!?」


「…っえ…!?な、何これぇっ」




一際大きく心臓が鳴ったかと思うと、突然周りの物が大きく見えて、服がだぼだぼ。
あたし、身体が縮んじゃったの!?もしかしておじいさんが採ってきたキノコって年の数茸だったのーっ!?




「じじい…てめぇ年の数茸採ってきやがったんだな…!?」

「し、知らんぞっ!わしは知らーん!!」

「あ!こら逃げんなー!!」




あたしはただただ呆然とするばかり。まさか自分が小さくなるなんて。
も、元に戻れるわよね!?
ドキドキと嫌な汗が背中を伝う。このままじゃ思うように動けないし、とりあえず着替えなきゃ…。でも、この身体じゃ階段を登るのもひと苦労だ。




「…乱馬ぁ」

「ちくしょーあのじじい久しぶり出てきたと思えば余計な事しやがって…、待ってろあかね。かすみさん呼んでくる」

「え、あ、…うんっ」




…あれ、なんか乱馬、優しい…?てっきり何かからかわれるかと思ったのに。なんだかちょっぴり嬉しくなって、あたしは改めて家の中を眺めた。
昔からずっと住んでる家だからか、お母さんがいた頃を思い出した。そう、今くらいに小さい時、よく池の鯉を眺めたっけ。それから道場でお父さんから柔道を教えてもらい始めて…懐かしい。みんな懐かしい思い出。
とたとたと2つの足音が近付いて来る。




「あらあら、今度はあかねちゃんが小さくなっちゃったのね。今服を持ってくるわ。乱馬くん、あかねと一緒に待っててね」

「へーい」

「ありがと、かすみおねーちゃん」

「キノコもかすみさんがやってくれるとさ。育つまでもう少し辛抱しろよ」

「…うん」




ぽんと頭を撫でられると、乱馬がすごく大きく見える。普段だってあたしが見上げてるのに、今は見上げるとのけぞって転んじゃいそう。
悔しいなぁ。乱馬もこんな気持ちだったのかしら。




「しっかし、あかねも小さくなるとはなー」

「仕方ないでしょ!おじいさんが持ってくるなんて、思わにゃかっひゃもん…っにゃにふんのよっ!」

「いやー、小さい子供ってほっぺた柔らけーなと思って」

「いひゃいかあはにゃひにゃはいよぉっ」

「あー何て?聞こえねー」

「〜っ、りゃんまにょぶゎぁかあぁっ」

「わー!バカ泣くなっ!悪かったって、な。」

「う〜…」




伸ばされたほっぺたがヒリヒリする。もーほんっと大人げない。なんなのコイツ!
乱馬はあたしを抱っこして、必死にあやす。子供扱いされるのが悔しくてたまらない。涙が止まらない。




「あかね〜…、悪かったって。調子乗り過ぎた。ごめん」

「ばかばかばかばかばかっ」

「……おう」

「乱馬のいじわるっ」

「……へーへー」

「小さくなったあたしより、乱馬の方が子供みたいねっ」

「お前なあ…、ここぞとばかりに好き勝手言いやがって…」




ぐしぐし文句を言うあたしを、乱馬が呆れたように胸に押し付けた。苦しいけど、乱馬の顔が見えない。腕にも力が入らないし。
乱馬は、小さくなったあたしのこと…どう思ったのかな?




「あかねちゃーん、お洋服持ってき……、ふふ、乱馬くんったらお兄ちゃんみたいね」


「あ!ち、ちち違っ、こ、これはっ…」

「んもうっ、離して乱馬!」

「お、おう」




あたしはかすみおねーちゃんに連れられて、隣の部屋で着替えを手伝ってもらった。
そういえばこの服、昔あたしがお母さんに買ってもらったお気に入りの黄色いワンピースだ。…かすみおねーちゃん、覚えててくれたんだね。




「似合うわ、あかね」

「へへ…ちょっぴり複雑だけど、またこの服が着れるなんて思わなかったな」

「乱馬くんにも見せてきたらどう?」

「え、う…うん…」




居間に戻ると、乱馬はTVを見ていた。あ、そういえばあのドラマの再放送やってたんだっけ?
あたしに気付いたのか、乱馬がこちらを振り向く。




「お、来たながきんちょ」

「あんたケンカ売ってんの?」




少しくらい、可愛いとか、褒めてくれたっていいじゃない。
いい気味だとでも言いたそうに乱馬はあたしを見てにやりと笑う。元に戻ったら一発殴ってやんなきゃ気が済まないわね。…って、なんであたしの思考はいつも暴力的なのかなー‥




「あかね、んなとこつっ立ってちゃドラマ終わっちまうぞ?」

「え?」

「この再放送見たいって言ってたじゃねーかよ」

「そ、そうだけど…」

「ほらっ」

「わあっ!?」




軽々とあたしの体は乱馬に抱き上げられたかと思うと、目の前にはTVの画面。あたしの後ろには乱馬。
こ、これってあたし、抱っこされてる…!?
ぐるぐると頭の中が訳わからなくなっていく。あたしも小さくなった乱馬を抱っこしたりしてたし、そんな深い意味はないのよね、きっと!
そう、あたしが変に意識してどうすんのよ。乱馬にからかわれるのがオチじゃない。
開き直ってドラマに意識を集中させるも、今度は眠たくなってきた。さっき泣いたせい?




「…あかね?眠いのか?」

「んー…、へいきー」

「やさしーオレ様が録画してやったから寝てもいいぞ」

「なによそれー」

「後で部屋に連れて行ってやるから子供は寝てろ」

「あたし、子供じゃないもん」

「今は、子供だろ?」

「……こどもじゃ、ない、も…」

「…え、ちょ、寝たのか?」




睡魔に襲われて意識がぼんやりしてくる。
乱馬の声が遠く聞こえる。
背中あったかい…な…



「たく、小さくなってもあかねはあかねだな」



─当たり前でしょ、身体が縮んだだけだもの。



「…可愛い、って、言ってやりゃーよかったかな…」



─え?乱馬、なんて…?

ふ、と意識はそこで途切れた。ふわふわ、あたしが見た夢はお母さんとの思い出で。懐かしくって、悲しくって。幸せだった。


 * * *



すやすや眠るあかねは昔も今も可愛い、と思う。オレが知らない頃の幼いあかねは高校生よりもあどけなくて、身に着けた黄色いワンピースがよく似合っていて。
ちょっとからかいすぎたか、と泣きじゃくるあかねを思い出して反省した。
早く、キノコ育たねーかな。

いつも見慣れた、
あかねの笑顔が見たい。

だってオレ達は"兄妹"じゃなくて"許婚"。
認めたくねーけど、いーかなって思う心の奥の自分が見え隠れしてる。


そっとあかねの身体を持ち上げ、2階へ向かう。こんなに軽いと変な感じだ。
仕方ねーから、元に戻るまで面倒見てやるよ。オレも面倒見てもらったからな。また縮んで、あんな思いすんのはこりごり。だから、あかねはオレが守ってやんなきゃ。
…い、一応だ!一応っ!
特に深い意味はねーぞっ
そう自分に言い聞かせて、あかねの寝顔をもう一度だけ盗み見る。鳴り止まない鼓動は聞こえないフリ。

さて、じじいが帰ってきたらどう懲らしめてやろうか。




「…らん、ま…」

「え?」




あかねの寝言にいつも以上に反応してしまうのはなぜ?
知りたいけど、知りたくないから考えるのはやめた。幼くなってるあかねを相手にケンカなんてみっともねぇ。
拍子抜けしちまうよ、バーカ。




「…ん〜…」

「人の気も知らねーでこのアマ…」




でも、いいか。
それが無垢で純粋な子供の特権。
あかねの特権。







end!
謝謝企画・恵美さまへ!

Act like a baby?(乱あ)


俺が思うに、あかねは甘えるのが下手なんだよな。3姉妹の末っ子なら、もう少し素直でもおかしくねーのに。
…あ、早雲おじさんに稽古つけてもらうようになってから意地っ張りな性格になったのかな。




「…好き勝手想像するのは自由だけど、ひとりっこのあんたに言われたくないわね」

「いーじゃねーか、オレは甘え上手だから」

「乱馬の場合は八方美人って言うのよ。いっつもシャンプーや右京達みんなにいい顔してるんだから」

「ばーか。いい顔はみんなにしてるけど、甘えんのはあかねだけだろ」




本を読んでいるあかねを後ろから抱き締めているオレは、そっと耳打ちした。あかねがどんな表情をしてるかは分からないけど、照れてるのは確実だ。
襲っちまいたいくらい可愛い、と思ってるけど、今は抱き締めてキスするだけでいいと思う。
昔に比べたらなんて大きな進歩だろうか。




「……わ、わかったわよ!本を読むのは諦めたから、離して?」

「なんで」

「なんでって…、く、くすぐったいの!乱馬の髪が首にあたるからっ」

「へ?それだけ?」

「それだけ、って?」




一瞬だけ、どきりとした。
また前みたいに変態扱いされたり、『嫌い』なんて言われたらとほんの一瞬で頭の中が不安だらけになって。
つーか、『くすぐったいから』って、何だその理由。




「あー…もー、なんなんだお前は」

「なによぉっ」

「っとに可愛くねー」

「うっさい!」




あかねが振り向くと同時に唇を塞ぐ。ホントに可愛いから、可愛くねー。
矛盾だらけだって?上等だ。
こんなに必死な自分が情けないとも思うけど、仕方ねぇだろ、あかねはオレのもんだから、他の奴になんて絶対譲らんっ!
ゆっくり唇を離せば、憂いを帯びた視線が絡み合う。




「……あかね?」

「…も、ばか…っ」

「え」

「いきなりでびっくりしたでしょっ」

「あ、え、…あー…」




いつまで経っても、こういう反応は初々しい。
一生懸命に平静を装おうとしてるけど、緊張してるのは一目瞭然。意地っ張りだなー、相変わらず。
でもまあ、素直過ぎないところがあかねらしい。




「もー、猫化した時とさほど変わらないじゃない…」

「オレは猫じゃねー」

「猫よ、猫。大きな甘えん坊のね」




くるりと向きを変えて、あかねがオレを見上げて向き合う。
ちょっと悪戯な笑みをしたかと思うと、腕を伸ばしてオレの頭を撫でやがった。




「な、なにすんだよっ」

「いや?」

「……そ、そんな事は、ねー‥けど………っそうじゃなくてだな!」

「乱馬が甘えるならあたしも甘えたっていいでしょ?」

「は?」

「だから、その…ね、乱馬にぎゅってしてほしい、なー‥なんて」

「………っ」




─冒頭の言葉、撤回してもいいだろうか。あかねは甘えるのが下手なワケじゃないんだ。ただ、いつも我慢してるだけ。
今は部屋に2人きりで邪魔する奴がいないから、きっとこんな積極的なんだ。うん、絶対、そうだろ。
あかねに甘えられたい、って思っていたけど、実際甘えられると困惑してしまう。
ちくしょー、誘ってやがんのかこの女はっっ




「乱馬?」

「だあっ!もーなんなんだおめーはよぉっ」

「わっ」




愛しくて愛しくてたまらない。
両想いになって分かる、仕草とか表情とか、全てが愛しい。
誰かを好きになることは、簡単なようで難しく、距離を縮めることだって容易く出来ないくらい臆病になる時があって、大切にしたいと思うからこそ、独占したいって思っちまうんだろーな。

側にいるから、感じる温かさ。あかねといると、しっかり感じ取れてる気がする。
幸せ、ってこーゆーのを言うのだろうか。





「な、あかね」

「…ん?」

「今日は一緒に寝よーか」

「え゛」

「はは、ジョーダン。本気にしたか?」

「ば、ばか…っ」

「へいへい、悪かったなー」

「…………でも、……」


「『でも、』?」


「あ、あたしは…乱馬、……すき、だもん」

「………」


「……聞いてんの?」


「〜〜っ…聞いて、るっ」





ああ!いきなりそんな事言うなんて不意打ちにも程があるっての!!
オレは顔が真っ赤なのをあかねに見られないよう、ぎゅーっと抱き締めた。冷静に考えれば、オレがバカだって言われてんだけど、もういっぱいいっぱいで、余裕なんてない。




「ふふっ、乱馬変なのー」

「う、…るせぇっ」

「あたし、甘えるの、結構上手でしょ?」

「………オレの方が上手い」

「意地っ張り」

「あかねに言われたくねぇ」





甘えるのが上手いか下手かなんて、さして問題じゃない。
こうして一緒に話して、触れて、色んな事を経験して、成長していけたら。
オレは"許婚"だからあかねを好きになったんじゃない。あかねだから、好きになったんだ。




「乱馬、誤解しないでねっ。一緒に寝るの、…嫌だとか、そういうんじゃなくて……」

「わーってるよ、そんくらい。心配すんな」

「…うん」




ホッとしたあかねの表情。
オレだけじゃなくてあかねも必死なんだと思ったら、このまま離したくなくなっちまった。
いつもは言わねーけど、オレもたまには言ってやらねぇとな。





「あかね」

「なに?」


「…オレも、あかねのこと、すき」







end!
謝謝企画・柊夜さまへ!^^

忘れない思い出(真+あ)

※真之助語り


"あかね"、から手紙がきた。
俺にしては珍しいよな、封筒に書かれた名前だけでどんな人だったか思い出せるんだから。




「おい真之介、夕めしの支度はどうした」

「あんた誰だ?」

「しぃ〜ん〜のぉ〜すぅ〜けえぇ〜!!」

「あ、じいちゃんだ」

「相変わらずその物忘れの激しさは治らんな…。あかねちゃんがいた頃とは大違いじゃい」

「何故そこであかねの話になるっ、夕めしなら今出来るから待ってろ」

「あかねちゃんから手紙がきたのではないのか」

「そうだった!手紙!」


「おーい真之介、夕めし……ダメじゃコイツ」




俺は慌てて立ち上がり、机の上に置いた手紙を掴む。
じいちゃんの事をすっかり忘れて、ハサミで丁寧に水色の封筒を開けた。中には手紙と写真が数枚。

一枚目の写真にはあかねと、あかねに似た女の人が2人写っていた。裏面には"かすみ・なびき・あかね"と書いてある。あかねの姉さん達かな。
もう一枚にはどこかで見たことがあるような黒い子豚とにっこり笑うあかねが写っている。
何はともあれ、元気そうで何よりだ。




「えーと何々…」




手紙の内容はとりとめないものだった。あかねの近況や、流幻沢で起こった出来事についての話とか。
俺は学校に行ってないから、友達と呼べる奴はいない。けど。

文の終わりに追伸があった。
"乱馬も真之介くんに宜しくって言ってたわ。良かったらうちの天道道場にも遊びに来てね"



「…乱馬…?誰だったっけ…」



乱馬、乱馬……俺はまた忘れてしまったんだろうか。うーん、誰だ?
ひらりっと封筒からまた写真が落ちた。そこに写っていたのは、あかねと…おさげ髪の男。ちく、胸に何かが刺さった気がした。





『乱馬を助けに行く!!』

『あたしの許婚なの!!』





ヤマタノオロチが暴れたあの日、あかねが必死になって助けようとした、奴……だっけ。
ああ、確かそうだ。同年代の人間と会ったのは初めてだったんだよな。小さい頃からじいちゃんと一緒だったし。
あかねは小さい頃に俺と会ってた、そう言っていたのを聞いたけど、自分の中にその記憶がないのはなんだか悲しい。
あかねに会った記憶なら、覚えていたかったのに。




「真之助、その写真の裏にも何か書いてあるぞ」

「ん?」

「ああ、こないだの奴じゃな。オロチ退治では世話になったのう」

「……ああ。そうだな」




あかねとおさげの男が写った写真の裏。
"乱馬・あかね"と書かれた隣に、あかねとは違う汚い字で"忘れんなよ、真之助"と書いてあった。
乱馬…そうか、こいつが乱馬。あかねの許婚。




「─よし、覚えたっ」




忘れない。忘れるもんか。
あかねには告白出来なかったけど、今、あかねが幸せなら。乱馬といて幸せなら、俺も嬉しい。
近いうちに、あかねの家を訪ねてみようか。

乱馬に言ってやりたいんだ。あかねの許婚だから。
『あかねのうまいめし、毎日食ってやれよ』って。本当は俺が毎日食いたいけど…俺とあかねは"友達"だもんな。




「なあじいちゃん、今度さ」

「あかねちゃん家に行くんだろう?」

「え」

「あの乱馬と良牙って2人にも宜しく言っておけよ」

「り…良牙って、誰だ?」

「…もーわしは何も言わん」




オロチ退治の事は珍しく覚えてるけど、良牙なんて奴いたっけ?
うーん…知らんな。
俺はすっかり冷めたみそ汁の事を思い出して、もう一度火をおこした。めしを食ったら、返事を書こう。

元気そうで良かった。
今、あかねは幸せか?…ってな。




end

近付いて、近付いて(ムシャ+乱あ)


『おらはシャンプーが好きなんじゃ』




ムースは何故私を好いているのか、分からない。
女傑族の村に生まれたからには、掟が何よりも大事だと分かているものではないか?
私の恋路、邪魔する権利ないはずね。
それに、人のこと好きなんて言うくせにいつも私を怒らせてばかり。ホントにしょーもない男。
もっと乱馬を見習うよろしね。
幼なじみとして情けない、男として見れるわけないある。




「へー、なら"男として見てやりたい"とは思ってるんだな」

「何言うか乱馬!私は、あんな奴なんとも思ってないあるっ」

「あーそうかい」

「私が好きなのは…ムースじゃなくて乱馬ね」

「うそつけ。オレの事、今は前みたいな好きとは違うだろ」

「…違くないある」




"違う"と認めてしまえば、私が日本にいる理由はなくなてしまう。
乱馬があかねと祝言を挙げてから、私の気持ちにはケリがついていた。いつも見てたから、2人が互いを想っていたことはちゃんと分かってたね。
でも、今はムースが、ムースだけが、あの頃と変わらずに乱馬へ勝負を挑み続けている。
嬉しいような、悲しいような、哀れなような、私はこの気持ちが何なのか分からないまま、今までと変わらずこの街で毎日を過ごす。




「シャンプーも意地っ張りだよなぁ」

「それを乱馬が言うか!?」


「2人とも、そのくらいにしておきなさいよ。ただでさえ暑いのに」


「あかね、それ違う。乱馬が余計な事を言うからね」

「あのな…」

「どっちでもいいわよ。はい、麦茶でよかった?」

「え、ああ…いただくね」




冷たいコップをあかねから受け取る。……こんな風に私が天道家の居間で茶なんて飲むようになるなんて思わなかったから、少し違和感。
ケンカはしても、仲は良いのか、相変わらず。
私が取り入る隙なんてどこにもない。




「ムースの話、してたの?」

「ああ。まだオレに挑む気満々なんだと」

「ふーん…、やっぱりそうなんだ」


「『やっぱり?』」

「?どういう意味あるか」


「え?だって、シャンプーは強い男が好きで、村の掟もあって乱馬を好きになったんでしょう?幼なじみでシャンプーを見てきたムースなら、乱馬よりも強くなりたいって思うのも当然じゃない」

「そりゃーそうかもしれねーけど、ムースはシャンプーにフラれまくってんだぞ?」

「だからだと思うわ」

「何を言いたいあるか?」




ムースなんて眼中に無かった。昔から私の方が強い事もあったからか、私の中でどこか見下してたね。

乱馬の方が強い、
乱馬の方がカッコいい、
乱馬の方が、
乱馬の方が…

でも、胸の奥に閉じ込めた本音を言えば、ムースは優しい。と、思う。
私を困らせるけど、傷つけたりはしない。乱馬とあかねの祝言の時も、何も言わず飲茶を差し出してきたムースは……いい奴だと、思えたから。




「ムースがね、『シャンプーが振り向いてくれなくても、シャンプーが惚れた男はおらが倒しておきたいんじゃ』って、この間図書館の帰り道で会った時に言ってたのよ」

「え…」


「…おい、そんな事があったなんて聞いてねーぞ」

「だってわざわざ言う必要ないかなって思って…、乱馬はひろし君達とラーメン食べに行ってたじゃない」

「だ、だからってなぁ!…ムースだったからまだいいもののっ」

「何おかしなヤキモチやいてんのよ」

「ばっきゃろー、ヤキモチじゃねぇやい!」

「じゃーなんで拗ねるのよ」

「知るかっ」


「……そこの2人、いちゃつくなら私が帰ってからにしてもらえるか」


「どこがいちゃついてるよーに見えるのよ!」
「そんな余裕あるわけねーだろ!?」


「……」




私から見れば、今のがいちゃつくじゃなかったらなんなんだとしか言えないのだが。
あかねと乱馬の左手に輝く指輪が、なんだかとても胸を痛めた。
いつだって涙は堪えてきた。私が泣いて乱馬を困らせても意味はないから。……寂しい、ってこんな気持ち?




「そーだ、あのねシャンプー」

「おいあかね!まだ話終わってねーぞ!」

「うっさいわねー、今はシャンプーが来てるんだから騒いでばかりいられないでしょ!ばーか」

「こんっのアマ…!!」




夫婦、って言葉が信じられないくらい"いつもと同じ"乱馬とあかね。
羨ましいと思ってしまうのはどうしてなのだろうか。




「これね、あたしが福引きで当てた水族館のチケットなんだけど…良かったら貰って」

「急にどうしたあるか」

「この間、そこの水族館に行ったばかりなんだ。すっごく綺麗な所なのよ。本当はムースに渡そうと思ったんだけど……シャンプーにあげるわ」

「べ、別に私は…」


「素直に貰っておけよ、たまには息抜きして来いって」

「そーよ、遠慮しないで」




白い封筒の中にはイルカの絵が描かれたチケットが2枚入っていた。有効期限は今月一杯。
…チケット、使わないのはもったいないあるな。
でも誰と行く?

─ふと、一番に浮かんだのがムースだったことがなんだか悔しかった。




「私、帰るね」


「頑張れよ、シャンプー」

「乱馬に心配されるほど、私はヤワな女じゃないある」


「…そー言うと思ったぜ。ったく」

「また来てね。ムースとおばあさんに宜しく」



「あかね…、その、……っ、乱馬と別れたら教えるよろしね!」

「え」


「ばーか、別れねーっつーの」

「え!?」


「…お前ら2人、付き合ってらんないね。再見!」




精一杯の照れ隠し。
本当は、2人が結婚してほっとしてるなんて、言わない。あかねを憎いと思ったのは確かだし、乱馬を恨んだのも本当だし、私はそんなに"いい奴"じゃない。
よくわからないこの心のモヤモヤは、苛立ちにも似て、寂しさにも似ている。

天道家からの帰り道、自転車のペダルを踏んで感じる風は優しい。この街が好きだと思うようになったのはいつからだったか、今は思い出せないね。
チリリン、自転車のベルは軽快に鳴る。




「シャンプー!こんなとこにいただかっ」

「…ムース」

「?どうしただ?おらの顔になんかついとるのか?」

「な、なんでもないある!」

「ならいいんじゃが…」




思いがけなく感傷に浸っていたなんて、私らしくないね。
まだまだ、私はムースに弱みなんて見せない。見せられない。…見せたくない。もしかしたら、今では力で適わないのかもとすら不安になる私がいて。
ムースなら、と思うこともあるから余計に。
…私は、ちゃんとムースに向き合えてるのか?自分で思う以上に、"想われる恋"には臆病なのかもしれない。




「今度の定休日、暇あるか」

「ん?乱馬に勝負を挑みに行こうかと思っておったが…」

「ムースが乱馬に勝つ、無理に等しい。時間のムダ遣いね」

「なんじゃとう!?」

「だから…」

「…だから…?なんだというんじゃ」




2枚のチケットが入った封筒に触れるとカサッと音がする。
…男として見てやりたい、違う。男として見てるから、逆に距離を置いてしまう。
ムースは乱馬と違うから。昔から知ってる筈なのに知らないことが沢山見えてきて、戸惑いが生まれる。私は一体どうしたいのだろうか。
わからない。
わからない、けど。




「その…水族館、」

「すいぞくかん?」

「チケットお前にやるね」

「え…!?」

「好きに使うよろし」




封筒ごとムースに手渡す。
あかねには悪いけど、私が今更ムースへの態度を改めるなんて無理ある。私のプライド。
『すっごく綺麗な所なのよ』
あかねの言葉が頭の中で反芻する。水族館、か……そういえば行ったことはなかったかもしれない。




「シャ…シャンプー!今度の定休日、暇かのう?」

「……暇、ある」

「な、なら!おらと水族館に行かんか!?チケットがあるだ」




思いがけなく手に入ったんじゃ、ムースはそう言って屈託なく笑った。
甘えてしまう。私は嫌な女ね。いつも利用してばかりいたのに、ずっとずっと私を追うこの男はなんて一途なんだろう。
村の掟なんて関係ない、ムースはそれを伝えたいのだろうか。
これじゃ、私の方が子供みたいね。




「──…っ」

「行かんか…のう…?」

「…誰も、行かないとは言てないね」

「へ…?」




ちょっとずつ、近付いていけたら。ムースに対して見栄を張ることもなくなるだろうか。幼なじみから変わっていけるのか?
私、難しいことはわからないが…今は昔と違って向き合ってやりたいと思えるある。
だから、まだ一歩は小さいけれど、もう少しこの国で、この街で、過ごしていきたい。ひいばあちゃんや…ムースと。




「シャンプー、おらな、シャンプーが好きじゃ」

「もう聞き飽きたある、そのセリフ」

「おらはシャンプーとずっと一緒にいたいんじゃ。嘘ではないからなっ」

「馬鹿ムース…それもわかてるね。何年一緒にいると思てる」

「そうじゃなー…長すぎて覚えとらん」

「私もね」




幼なじみ。
掟は関係なくても、やっぱり特別な間柄ではある私達。
これからゆっくり、互いに成長していけばいい。





end
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