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Puberty(乱あ)


くっそマジ有り得ねぇ。このオレ様がこんなに心を乱されるなんてこと、今までにあったか?…ないよな。
あかねを見てると触れたくなる。抱き締めて瞳にオレを映して、キスしたりそれ以上のこともしたいって。まあ、そんなことは所詮妄想でしかなく、実際はキスどころか手を繋ぐことさえ出来ていない訳で。どうにかこうにかならないかと思うだけでどうもならない訳で。



「ちょっと乱馬、邪魔なんだけど」

「あ、あー…悪ィ」

「さっきからボーっとしてるけど、どうかしたの?」

「べっ別に、どうもしねーよ」

「?そう」



人の気も知らねーでコイツはまた短いスカート穿いてるし。
そういえば今日はさゆり達と映画を観に行くとか言ってたな。いっそ女になってオレもついて行こうかと思ったがそれは流石に嫌がられそうだ。五寸釘や九能みたいなストーカーじゃねぇんだから。
…しっかしあかねの奴、無自覚でミニスカートにニーソックスってタチ悪過ぎだろ。いや、似合ってるけど、似合ってるからこそ心配とゆーか…何とゆーか…。普段なら気にならないことが無性に気になって仕方がない。
本音を言えば、遊びになんて行かせたくない。




「あかね、こっち向いてっ」

「?、あ!なびきおねーちゃんってばまた写真撮ってるしー!やめてってばもうっ」

「大丈夫よ、悪いようにはしないから。友達待たせてるんでしょ?早く行ってやんなさい」

「わ、わかってる!行ってきまーす!」




パタパタと慌ただしくあかねが家を出て行き、さっきまで悶々としていた気持ちがやっと落ち着いてきた。
そろそろ頭やべぇんじゃねーの、オレ。




「ら・ん・ま・くーん」

「げっ…」

「なによその態度。失礼ねー」

「何だよ、何企んでやがる」

「企んでなんてないわよ。さっきの写真ポラロイドだから特別にタダであげようかと思ったのに」

「えっ」




さっきのあかねの写真?
ごくり、と思わず唾を飲んだ。
欲しい。けど、あからさまな態度を取るのはなんだかプライドが許せねぇ。だ、大体あんな不器用で寸胴な女、写真でどう見ようと変わるはずない。
だがオレは忘れていた。なびきの写真の腕が相当なものだということに。




「いらないの?いらないならプレミア価格で誰かに売っちゃおーっと。九能ちゃん辺りなら高く買ってくれそうだしね」

「なっ?!ま、待てなびきっ」

「あら、欲しいの?」

「要らねえとは言ってねー」

「じゃーあかねに報告しなくちゃ」

「うおおおおいなびきさーん!」

「言っておくけど、口止め料は取るわよ」

「いくらだよ」

「そうね…」




オレが尋ねるとなびきは右手の人差し指を立てた。




「……100円、か?」

「んなわけないでしょ、0が一つ足りないわ」

「1000円かよ…」

「それくらいどーってことないでしょ」

「おい」




なびきから写真を受け取り、千円札を渡す。
今月の小遣いはもうすっからかんだ。なびきの前で物思いに耽るのはもうやめよう。
写真の中のあかねは、この寒いのに大丈夫なのかってくらい薄着に見えた。いくらコートを着たって言ってもこれじゃ寒いんじゃねーか?つーかなんでオレはこんなにあかねの心配してんだ?
あかねのことだから危ない奴は撃退しそうだけど、スカートじゃ無理じゃね?いや待て、だから心配しすぎだろオレ。お茶漬け、じゃない落ち着けオレ!




「どうした乱馬。お前物凄い顔しとるぞ」

「うるせぇよクソおやじ」

「どーせまたあかねくんのことでも考えてたのであろう」

「なんでわかっ…」

「む。まことか乱馬」

「か…カマかけやがったなてめぇ!」

「貴様が隙だらけになっている証拠じゃい!」




おやじに掴みかかってぎゃあぎゃあ騒いでいると、玄関のドアが開く音がして居間に足音が近付いてくる。
コップに入っていた水をおやじにかけたと思った瞬間、居間の障子戸が開いてそこにいたあかねに水がかかった。
間を置き、ぽたぽた水が床に滴る。




「あ、あかねくん…」

「よ、よぉ、忘れ物か?」


「……冷たいわよバカッ!!!!」


「ぶわっ冷てっ!」
「ぱふぉっ」




ばっしゃともう1つのコップに入っていた水を掛けられ、オレとおやじは女とパンダに変身する。
文句を言ってやろうと顔を上げた時、水で服が肌に張り付いているあかねの姿に思わず卒倒しそうになった。あ、あぶねぇあぶねぇ。




「もうっ!マフラー忘れたから取りに来たのにびしょ濡れじゃないの!早く着替えなきゃ。さゆり達待たせてるのにーっ」


「あ、おいあかねっ」

「何よ!あたしは今らんまに構ってる暇はないんだからね!」

「スカートじゃなくてズボン穿いてけよっ」

「は?なんでよ」

「お前の太い足を晒しちゃまず…うがぁっ!?」

「大きなお世話よ男女!」

「て…っめぇ〜!人が忠告してやってんのに!」

「その姿で言われても説得力ないわ。あたし着替えるから覗かないでよ、変態!」

「っんだとぉ〜!?」




バタンと閉められたあかねの部屋のドアを、思い切り開ける。タオルで顔や髪を拭いていたあかねはオレを見てぎょっとしたかと思うと、次の瞬間椅子を投げつけた。
それはもちろんオレの顔面にクリーンヒット。




「な、な、な、なんで入ってくるのよスケベ!あんた最近おかしいわよ!」

「お、おかしいのは誰のせいだと…!」

「きゃああ鼻血!鼻血出てるっ」

「あかねが椅子ぶつけたせいだろーがっ」

「あんなの正当防衛よ!ほらティッシュ!あ〜…ゆか達に遅れるってメールしなきゃ…」




女の姿で鼻血出すとか、すっげー情けねぇ…。
ため息を吐きながらティッシュで鼻を抑えていると、あかねもため息を吐く。そりゃあ、オレのせいで予定が狂ってしまったから当然だろう。




「ぁ…わ、悪ぃな」

「ホントよ!はいゴミ箱」

「おう」

「……らんま」

「ん?」

「それ、なに」

「え、写真…あ゛」

「写真?」




今日のオレは本当におかしい。自分でも挙動不審過ぎると思う。
慌てて写真をポケットに押し込もうとするが、あかねにその手を掴まれる。
触れたところから鼓動が速くなり、鼻からまた止まりかけていた鼻血が出る。うわ、これはヤバい。色んな意味でヤバい。




「うあぁティッシュ!あかねティーッシュ!」

「あたしはティッシュじゃない!ったく何なのあんたは!」

「ティーッシュ!」




騒ぎながらも鼓動は煩くて、早く着替えろとか、迷惑かけてごめんとか、言いたいことは色々あるのに混乱して言葉が出て来ない。




「ねぇ、ゴミ箱とティッシュあげるからそろそろ部屋から出てってくれない?」

「…し、思春期なんだよわりーか!」

「はあ?」




女になっても中身が変わる訳じゃない。
あかねを見てると触れたくなるし、抱き締めて瞳にオレを映して、キスしたりそれ以上のこともしたいって。まあ、そんなことは所詮妄想でしかなく、実際は鼻にティッシュを詰めた女の姿をしている今はそんな雰囲気にすらなるはずもなく。




「いや…しばらくほっといてくれ…」

「だから部屋から出てけって言ってんの!」




思う事はただ一つ。
思春期って怖ぇ。






end!
10万打企画/ひろなさまへ

交錯する道標(乱あ)


「じぎゃくぎょくぅ?なんじゃそりゃ」

「"時逆玉"じゃ!これを飲むと過去に遡ることができる…という代物でな」

「うさんくせぇ〜…」

「ふふふ…何とでも言うがいい!これでわしは過去に戻って女の子のハーレムを作るんじゃーい!」

「頭大丈夫か?ジジイ」



頬杖をついて煎餅をかじりながら、ぴょんぴょん浮かれている八宝斉のジジイに顔をしかめる。手に持っている緑色の小さな丸薬は、きっとまたババアの所からくすねたものなんだと思われる。
どーせまたパチモンだろ。馬鹿馬鹿しい。



「乱馬!人を小馬鹿にしていられるのも今のうちじゃぞ!わしがこの時代に戻って来た時にはハーレムになっているはずじゃからな!はーっはっはっは!」

「言ってろ言ってろ」

「あら、八宝斉のおじいさんどうかしたの?」

「おぉあかねちゃん!」

「今から過去にタイムトリップして来るんだってよ」

「ええ?」

「待っとれよあかねちゃん、わしが過去から帰ってきたら目一杯いたわっとくれ〜!」

「気色悪ぃことぬかしてんじゃねぇっ!」

「ぐぇっ」

「あ」

「あ?」



ジジイを殴り、ぽーんと飛んだ丸薬が、それを見上げたオレの口の中に収まったと思った、次の瞬間。

─ごっ くん。

ぱちくり目を瞬き、自分の喉を通過していった感覚に背筋が冷えると同時に気が遠くなっていくのがわかった。



「わ…わしの時逆玉がぁ〜!!」

「乱馬!?乱馬ってば、乱馬!らん……」



ジジイとあかねの声が小さくなる。目に浮かぶ世界はぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐる。
頭の中がおかしくなりそうだ。



「……ぃちゃん、おにいちゃん、こんなところで寝てたら風邪ひいちゃうよ」

「──……え…?」



ハッと気が付くと、オレは公園のブランコに座っていた。目の前には赤いランドセルを背負って膝に擦りむいた跡をつけたショートカットの男…いや、女の子。
見覚えがあるこの顔は、いつだったかアルバムで見た……



「あかねー、早くしなさい。東風先生の所に行くわよー」

「待ってかすみおねーちゃん、今行く!バイバイおにーちゃんっ」


「え、あ…」



………。いやいや、なんで小さいあかねが?夢だろこれ、夢。
ぱたぱた走っていく女の子は、風林館高校の水色の制服を着た人と一緒に通りを歩いて曲がり角に消える。
…するとやっぱりあれはかすみさんか…?
公園内を見回すと、遊具の色がいつもと違う。周りの木々も少し低い。頬をつねってみると、痛くはない。なーんだやっぱり夢じゃねーか、やけにリアルな夢。そうそう、眠って目が覚めたら夢だったーってことだろ。うん、よし。寝よう。
しかし目を瞑っても全く眠くならない。むしろ目は冴えるばかり。



「しゃーねぇ。とりあえず夢なら夢で街の探検でもしてみっか」



オレの知っている街と何が違うのか、ちょっとした間違い探しみたいで少しわくわくした。あの角の家は空き地になってる、今より少し古びているような商店街は知らない店が何軒かあって、少し期待して見に行った猫飯店は影も形もなく空き店舗があり、オレの知らない"空間"が存在していた。
あかねはこんな街を見てきたのか。夢だとわかっているのに、ふとそんなことを思う。あの丸薬が本物だったとしたら、本当にタイムトリップしてきたのだとしたら、オレは"今"にとても影響を及ぼす存在だ。
どきどきと冷や汗が背中を伝ったと思った瞬間、ぱしゃっと水をかけられる。いつも玄関先に水まきをしてるあのばーさん、昔っからこうなのか…。



「あー…どうすっかな…」



女になった自分の体にため息を吐く。お湯がないと元に戻れねーし、どこで手に入るとも限らねぇ。そういや、さっきかすみさんっぽい人が東風先生って言ってたよな?小乃整骨院は確かこっちの方…。
オレはこそっと小乃医院の勝手口から入り、台所でちょうど湯を沸かしてあったやかんの中身を半分ほど被った。東風先生はまだ診察室だろう、ひやひやしながら水を注ぎ足してオレはまた勝手口から外に出る。
あーっぶねぇ!でも男に戻れて良かった…。
門の前でほっと一息吐いていると、中からさっき会ったあかねとかすみさんが出て来た。



「あかね、足大丈夫?」
「うん。家に帰ったらもう一回自分でもやるから」
「そう…─っくしゅん!」
「かすみおねーちゃん、風邪?なんか顔色悪いよ…あたし、東風先生呼んでこよっか?」
「いいの。大丈夫よあかね。大丈夫…」
「かすみおねーちゃん!」

「!あっ…ぶね…!!」



思わず倒れ込んだかすみさんを支え、今にも泣きそうな表情の"あかね"と目が合った。



「さっきの…おにーちゃん…?」

「よ…よぉ、また会ったな」



事情を説明するのは後回しに、とりあえずかすみさんを家まで運ぶことにした。
なんだか変な感じだ。



「あたし、天道あかね。うちは道場やってるのよ」

「へ、へぇー。すげーな」

「今日はお父さんが出掛けてて、なびきおねーちゃんも友達の家にお泊まりだから、あたしとかすみおねーちゃんだけなの…」

「……そっか」

「でも、看病がんばる!あたしだってやればできるのよっ」

「おー、頑張ってみろよ」



やる気が空回りしそうだけどな、とは言わないでおく。やっぱりこの子はあかね本人だろうな。あんま深く考えるとわけわかんねーから、夢とかタイムトリップとか考えるのはやめとこう。
家はやっぱり天道道場の天道家で、あかねに導かれるまま中に入ってかすみさんを部屋に運ぶ。"今"よりなんか…家の中が広く感じた。



「かすみおねーちゃんを運んでくれてありがとう、おにーちゃん。お礼にあたしが夕飯作るから食べてって!」

「え!?夕飯って…作れるのか…?」

「まっかせといて!」



その自信が不安だ…!
あかねが台所に消えると、皿の割れる音や何かがこぼれる音が聞こえてきて、予想通りの展開に頭が痛くなってきた。やれやれと立ち上がって台所に足を踏み入れると、あかねが包丁で野菜を切ろうとしているところ。
オレは思わずあかねの腕を掴んでそれを止めた。



「あ、あのー…さ、オレも手伝いたいなー、なんて…」

「…いいけど、邪魔しないでよねっ」

「つーか、何作るんだ?」

「おかゆと野菜炒め!」

「………」

「だから今ニンジン切るの」

「…あ!ちょっとかすみさんの様子見てきたらどうだ?その間に片付けといてやるから…」

「わかった!見てくる!あ、スポーツドリンク持っていってあげよーっと」




とたとた歩きながら、あかねが台所を出て行く。今のうちに食べれるものを作らねーと…!!
オレは鍋に水と米を入れて火にかけると、あかねが割った皿やこぼした調味料などを急いで片付け、野菜を切った。あとは普通のメシを炊かねーと。かすみさんが昔も今も台所の調理器具や調味料の位置を変えずにいてくれたことがありがたかった。やっぱすげーなかすみさん。
それに比べてあかねはあんまり変わってないような…今より素直、な、ような…。




「あれが中学高校でひねくれちまうのかなー…」

「なに?」

「うおっ!?な、なんだよびっくりした…」

「あーっ!あたしが野菜切りたかったのにぃ」

「えーと…あのな、あかね。オレはお前に重要な任務を与えよう」

「任務?」

「そう!このゆで卵の殻をきれいにむくことだ」

「あたしやるー!」

「よし、任せたからなっ」




いつもより素直なおかげで扱いやすいあかねは何だか不思議な感じだ。昔はこんなに可愛げがあったんだな、なーんて。
やっと安心して料理を作り終える頃には、すっかり日が沈んでいた。




「かすみおねーちゃんが、今日はおにーちゃんに泊まってもらいなさいって」

「へっ?」

「明日になったらみんな帰ってくるし、おねーちゃんも元気になるって」

「あ、ああ」

「ありがとねっ」




にこっと笑ったあかねは、幼いこともあいまってかすごく可愛く思えた。
おそるおそる手を伸ばして頭を撫でると、また嬉しそうに笑う。なんか今すっげーあかねに会いたい。オレと同じ歳の、"あかね"に。どうやったらこの夢が覚める?それともこれが現実?
その境界線が自分の中で曖昧になっていることに戸惑いつつ、美味しそうに箸を運ぶ目の前のあかねを見ながら目を細めた。




「なあ、」

「ねぇおにーちゃん、明日になったら料理教えて!あたしもかすみおねーちゃんにご飯作ってあげたいの」

「え…うーん…教えてやってもいいけど、台所に立つときは深呼吸して落ち着くことが大切だからな。特にお前は」

「う…わかったわよ!」




あかねと"あかね"の姿が被る。
視界がぼやけて、霞んで、もう一度まばたきすると天井が見えた。



「………あ、れ…?」

「乱馬!良かったやっと起きた…!薬の効き目が切れたのね」

「あかね…」

「心配かけんじゃないわよ、バカッ」

「いてっ!寝起きの人間殴んじゃねぇ!」




あかねはふんっと踵を返して台所に向かう。
帰ってこれたのか、と思ったらもう外は真っ暗だ。一体どのくらい過去にいたんだろう?いや、そもそもオレは本当に過去へ行ったのか?全部夢だったんじゃないのか?
ふと、あかねがあの丸薬を飲んで気を失っていたオレを介抱してくれていたことに気付き、そっと台所を覗き込む。
一体奴は何を作るつもりなんだ…。

まな板の前で包丁を持ったあかねは、目を伏せて深呼吸をひとつした。
あれってもしかして?




「──……、なによ。乱馬」

「あ、いや…お前っていつもそんな風に深呼吸してたっけ」

「してたわよ。もう癖みたいなもんね」

「…いつから?」

「いつって…小学生の頃からかしら」

「……」

「全く…かすみおねーちゃんが旅行に行ってて忙しい時に…それがどうかしたの?」

「…んにゃ、別にー」

「何ニヤニヤしてんのよ、気持ち悪いなぁ」

「あかね、夕飯作るの手伝ってやろーか」

「は?」




オレの知らないあかねの過去に、一時でも関わった証。
気付いてなくても、それでいいと思った。

オレとあかねの出逢いは、あの雨の日が一番最初なのだから。






end.
10万打企画/利香さまへ!

もどかしくも照れ隠し(りん桜)


「あの、六道くん?だ、大丈夫だから」

「嘘を言うな。腫れてるし、痛いだろ。…オレのせいだから世話くらい焼かせろ」


「……俺、今なら六道を呪える気がする…」
「わわ、落ち着いて十文字くん!」
「何するつもりかはしらないけど、修学旅行に来てまであの変な粉とか撒き散らさないでよね!」



賑やかなホテルのロビー。
六道くんは私の荷物を持って、私の身体を支えてくれていた。
何故こんな状況になったかというと、事が起こったのは約数時間前に遡る。



『うわーい京都ー!やっぱり清水寺に来ると京都って感じ〜』

『もー、リカちゃんはしゃぎすぎよー』

『ねぇねぇ2人とも、向こうに御守り売ってるみたいだよ』

『えっ本当?あたし絶対恋愛成就買う!今年こそ彼氏ゲットするんだからっ』

『すごい気迫…、ミホちゃんは?』

『そうだなぁ…学業か金運…あ、でもやっぱり恋愛もいいよね…』

『せっかくの修学旅行だもん、青春を謳歌したいよね!桜ちゃんもやっぱり恋愛成就の御守り買うの?』

『え?…私、は…』

『ふふ、今六道くんと十文字くん、どっちを思い浮かべたのかな〜?』

『ちょっ、リカちゃん!』



見学先の清水寺でリカちゃんとミホちゃんと一緒に自由行動をしていた時、ふと同じ班の六道くんと翼くんの姿が見当たらないことに気付いた私はきょろきょろ辺りを見回した。
後ろの方でいつも通り翼くんが六道くんに何かつっかかって話している様子が見え、私達に気付いた翼くんがこちらに向かって駆け寄ってくる。



『真宮さんっ、おみくじやらない?』

『あ、私やりたーい!十文字くん奢って〜』
『私もー』

『だ、だから俺は真宮さんに…ええい分かった買ってやる!』

『ありがとー十文字くん』
『やったぁ』
『翼くんありがとう』
『悪いな』

『はっ?!おい待て、何故六道の分まで…っ』



ちゃっかりした六道くんの分も含めて渋々5人分のお金を払った翼くんは、微妙そうな顔をしておみくじを引く。
私達もそれぞれおみくじを引き、巫女さんから運勢の書かれた紙を受け取った。



『中吉だー。失物が見つかる、だって!こないだなくしたイヤホン見つかるかなぁ』
『私は大吉!金運がいいみたい。やったー』
『俺は末吉…、これって吉より良いんだったか?あ、真宮さんはどうだった?』

『私もミホちゃんと同じ大吉だったよ。悪いことも良いことに変わる…みたいなことが書いてあった。六道くんは?』

『……結んでくる』

『お前なー、結んでくるじゃなくて、見せろっつってんだよ!』

『あ゛』

『……フッ、凶なんて本当にあるんだな』

『ええ〜!?六道くん凶だったの!』
『早く結んできた方がいいよ!』

『ああ…』



よほどショックだったのか、六道くんはおぼつかない足取りで木におみくじを結ぶ。
その後みんなで地主神社に行って買い物を済ませ、階段を下りていた時、六道くんが一段足を踏み外した。



『六道くん危ないっ─!!』

『っえ─…』

『真宮さん!』



咄嗟に六道くんの腕を掴んだ私は、六道くんの体重を支えることが出来ずそのまま一緒に階段から落ちてしまった。
次の瞬間鈍い音がして、地面に打ち付けた膝と、捻ったらしい左足首が痛んだ。



『ぃ…たた…』

『真宮桜!大丈夫か!?』

『六道くんは?』

『人の心配してる場合かっ!オレは平気だ。お前の方がケガしただろ』

『え』

『…真宮桜が巻き添えになるとは……。ぼーっとしてた、すまん』

『真宮さん大丈夫かい!?六道きっさまあぁぁぁ!!!!』
『十文字くんうるさーい!恥ずかしいから黙ってて!』
『足くじいたの?歩ける?桜ちゃん』

『う、うん。だいじょっ……!』


思っていた以上の痛さに思わず笑顔が引きつった。まだ見学する所があるのに、この足じゃ無理かもしれないなぁ…。
情けない自分に溜め息をひとつ吐くと、身体がふわりと浮いた。



『真宮桜はオレが運ぶ』

『………へっ?六道くん?』

『サトウ先生なら清水の舞台の所にいるよ、六道くん』
『無理しちゃダメだよ桜ちゃん!』
『そこ代われ六道ー!!真宮さんをお姫様抱っこするのは俺だあぁぁ!』
『十文字くーん、恥ずかしいこと大声で言わないでよ』
『あの2人結構お似合いだよねぇ?』
『似合ってない!というかつり合わないだろう!』




そしてサトウ先生に治療を受け、私は擦り傷と捻挫と診断され、見学もなんとか無事に終え、ホテルに着き、バスを降りてからまた六道くんに抱きかかえられて今に至る。
他のクラスの人がチラチラこっちを見ているのがわかって、正直すごく恥ずかしい。



「あの…ろ、六道くん!サトウ先生がホテルの人に松葉杖を借りてきてくれるらしいから、もういいよ?」

「なら来るまで、な」

「う…」



顔が近くて、六道くんの心音が聞こえて、なんだかますます緊張してくる。
こうやってもらうことは、今までも何度かあったけど、それとは全然違う。いつもより、近くに感じるのはどうしてだろう?ついと見上げた六道くんの顔が少し赤くて、照れくさいけど、私だけじゃないって分かった気がして嬉しかった。
おみくじに書いてあったのってこのことかな?



「足…ほんと、悪い」

「そんなに謝らなくていいよ、事故だったんだから」

「………」

「そーだ。私のおみくじ、六道くんにあげる」

「?」

「そしたらきっと、運勢も良くなりそうじゃない?」

「…そんなものなのか?」

「気の持ちようだよ」

「まあ…そうかもしれんが、それは後でいい」

「どうして?」

「も……もう少し、こうしてたいだけだ」

「…………あ、そ、そう…。わかっ、た」




六道くんのせいだ。
やっと落ち着いてきてたのに、六道くんがそんな事言うから。
また顔が熱くなってくる。
手に持っていた大吉のおみくじは、きっと握り締めた手の中でぐしゃぐしゃになっているだろう。






end*
10万打企画/るみさまへ!

欲張りな僕等(りん桜)


「よっ、六道」

「速田」



昨夜のパトロールが長引いたせいで寝不足だったオレは、いつ授業が終わっていたのかよくわからないまま、やって来た速田をぼんやり見上げた。
この寒いのに元気な奴だ。




「相変わらず眠そうな顔してんなー。あ、なあなあ英語の教科書持ってねーか?」

「…いや、すまん」

「そっかー…あ!真宮、英語の教科書貸してくれよ」

「いいけど…。速田くん、最近忘れ物多くない?」

「部活に打ち込んでるから勉強する暇がねーんだよ。んじゃあ借りてくなー」

「うん」




ちゃっ、と片手を挙げて、速田は風のように去っていく。…流石は陸上部エースといったところか。
オレもいい加減教科書くらい揃えないとな…。
ちく、と何故か心に違和感。




「真宮さん!」




十文字は嬉々として真宮桜に話しかける。オレの存在はもちろん無視だ。…何故か苛つく。
真宮桜は困ってないのか?
真宮桜は、十文字のことが好きなのか?
それじゃあオレのことは?
恋愛なんてばかばかしい。ばかばかしいはずなのに、こんなにも心の中をかき乱す。




「これ、昨日仕事先の近くにあった土産物屋で見つけて買ったんだ。真宮さんにあげようと思って」
「わあ…、ありがとう翼くん。この白いキツネのマスコット、可愛いね」
「あ、それオコジョなんだ…」
「ふーん?そーなんだ」


「いーなぁ、桜ちゃんばっかり!」
「十文字くん、私達にはないの?」

「…まあ待て。そう言われると思ってクラスのみんなにクッキー買ってきた」

「わあっ!さすが十文字くんっ」
「おいしそ〜!」




きゃあきゃあ騒ぐ女達に囲まれて十文字は嬉しそうだ。
オレはあくびをひとつしながら、また机に突っ伏す。周囲の音が、さっきよりよく聞こえた。
しきりに十文字に話しかけるリカやミホとは違い、真宮桜は『ああ』、とか、『うん』、とか、相槌ばかり打っているのがわかる。




「まーみやっ!さっきの授業、ノート取ったやつ見せてくれー」
「あ、俺も俺も」
「おい田中!増島!貴様ら真宮さんに絡むんじゃない!」
「なんだよ十文字、別に友達なんだからいーじゃねーか」
「真宮は今フリーって聞いたしな」
「う…」

「おぉぉ…!!桜ちゃんモテモテ!あーん羨ましいっ」
「いやー。増島と田中は明らかに十文字くんをからかってるだけでしょ、あれ」
「あの…増島くん、田中くん、ノートこれでいい?」

「あ、サンキュー!」
「助かるよ真宮!」
「なっ、お、俺にも見せてくれ真宮さん!」
「桜ちゃんのノート綺麗だもんねー。私も見習わないと」
「ってゆーか、十文字くん必死すぎだよぉ」




うるさくて寝れやしない。苛々は益々募っていく。何故だ、どうして、こんなに何もかもが面白くなく感じるんだ?
こんな気持ちのまま教室に、いや、真宮桜の隣の席にいることが苦痛で、オレはそっと教室を出て屋上に向かう。羽織を着ていれば、他の奴には見つからないしな。
頭をがしがし掻きながら、大きくため息を吐く。
ひんやりとした廊下を1人歩き、屋上へと続く階段に腰を降ろした。




「……わけがわからん…」




こんなに苛々する理由も、こんなに胸が痛くなる理由も、こんなに真宮桜に触れたくてたまらなくなる理由も、何もかもわからない。
天井を仰ぎ見、チャイムの音を聴いた。

キーンコーンカーンコーン、

聴き慣れた鐘が授業の開始を知らせる。
屋上…は、ここより寒いだろうか。日が出ているから暖かいか?一眠りするならクラブ棟に戻ろうかとも考えたが、六文がうるさい気がしたから止めておくことにする。
ぼーっとそのまま仰ぎ見ていると、ぱたぱたと足音がひとつ、こちらに向かって来ているのが聞こえた。




「…あ、やっと見つけた。六道くん」


「─…真宮、桜……?」




いつもと変わらない笑顔で、真宮桜は階段の上に座るオレを見上げた。
少し治まりかけていた感情が、再びじりじりと胸を焦がす。




「私も授業、サボっちゃった」

「…次数学だぞ。いいのか」

「六道くんだって、また授業サボってるじゃん」

「………」

「こーゆーのもたまにはいいかなって思ったんだ」




いつも授業ばかりじゃ息が詰まるし、真宮桜はそう言って苦笑した。
気を遣って来てくれたのだろうか、それともただ本当にサボリたかっただけなのか。真宮桜の気持ちがわからない。
きっと今のオレは情けない顔をしているんだろう。
隣に座る真宮桜の動き1つひとつに、ドキドキして頭がうまく回転しなくなる。




「……あ、の」

「ん?」

「どうしてここにオレがいるって、わかったんだ」

「ああ。だってこの間も屋上にいたでしょ」

「この間…って」

「結構六道くん、霊と会うときは高いところにいるなーって思ったから」

「…言われてみれば、そうかもな」




真宮桜のくすくす笑う声が、心地良く響く。
心の奥に蠢いている感情が、理性と相対してますますこの2人きりという状況に緊張してくる。
触れてしまいたい、でも、拒まれたら?
ぎこちなく視線を逸らしながら、真宮桜の他愛ない話に耳を済ませる。




「それでね、翼くんったら何故か速田くんにつっかかって勝負を持ちかけちゃって、明日の昼休みに100M競争するらしいよー。面白そうだよね」

「ああ」

「……六道くん?なんか、機嫌悪い…?」

「別に…」

「(私、なんか変なこと言ったかな?)」




十文字や速田が友達なのは知ってる。だけどそこにオレもいるのかと思ったら、悔しいような、友達で満足したくないような思いが湧き上がる。
オレは一体どうしたいんだ?
衝動に任せて真宮桜の肩を引き寄せ、背中に回した腕に力を込めた。




「……っ」

「ろ、六道くん…?」




渡したくない、誰にも、渡したくない。
朝からずっと治まらないこの苛々は、強い独占欲だったのだとようやく理解した。目の前にある白い首筋にそっと唇で触れると、真宮桜の身体が少し強張ったのが分かる。




「…なあ」

「…っ…、なに?どうかしたの、六道くん…?あの、えっと…」

「嫌なら…」

「え?」

「嫌なら、逃げていい」

「え!?何、ちょっ……待っ、──っ!」




柔らかな肌に吸い付くと、そこだけ赤く色付いた。首元にあるそれは、端から見れば何か一目瞭然だろう。罪悪感と悪戯心がせめぎ合い、赤くなった所を一舐めすると、真宮桜は震える手でオレのジャージを握りしめた。
そんな様子を愛おしいと思ってしまう辺り、オレは相当惚れ込んでしまっているのかもしれない。
もう"友達"だけじゃ、満足出来ない。
逃げなかったってことは、嫌われていないと取っていいんだろう?




「…悪い」

「ず、ずるいよ六道くん」

「?」

「わ…私が逃げないって、最初から分かってたんでしょう?」

「……最初から逃げるつもりなかったんだろ、それ」

「………」




本当の真偽はわからない。
首を押さえながら、真宮桜は不満気にオレを見上げた。
もしかしたら全て計算だったんじゃないかと一瞬思ったが、そんな罠なら乗ってやろうじゃないか。
気持ちが分からないなら、ゆっくり聞いていけばいい。


オレは独占欲の証のようなキスを、真宮桜の首元にもう一度だけ落とした。






end.
10万打企画/吟子さまへ!

メランコリーエモーション(九な)


あたしは変人?
いいえ、常識人だわ。
あたしは淡泊?
そうね、厄介事には極力関わりたくない。
あたしは狂っているのかしら。
それは誰にも分からない。




「おいなびき。てめーまたオレとあかねの写真売ってやがったな」

「そう?気のせいじゃないの」

「んなワケあるかっ!昼休み、中庭で何か集まってただろ。いつまでもオレの目を誤魔化せると思ったら大間違いだぜ」

「あ、あかね」

「え゛っ!?」




乱馬くんが後ろを振り返った隙にあたしは踵を返してその場から立ち去る。
ほんと、つめが甘いんだから。
ぱたぱた廊下を走り、教室へ向かう為に角を曲がる、曲が、ま、曲がろうとしたけど遠回りしようかしらね、うん。はた迷惑だわ、昼休みに人気のない廊下で告白だなんて、せっかくの近道を使うことが出来ないじゃない。一体誰よ告白しただのされただのやってる奴は。
気付かれないように、そぉっと様子を窺ってみる。
女の子の顔は見えないけど…告白してる相手ってあれだわ、あれよね、なんで九能ちゃん?
人は見かけによらないものねぇ。感心感心。
もの好きもいるってことか。




「す、すまん。気持ちは嬉しいが僕には既に愛する乙女がいるんだ」




堂々とフタマタかけてるくせによく言うわ。
乱馬くんとあかねならともかく、九能ちゃんの色恋沙汰に興味なんてない。遠回りして教室に戻ろうかしらね。
そう思って一歩踏み出した時、信じられない言葉が聞こえてきた。



「─それってやっぱり、天道なびき先輩ですか?」

「……え」




ぴたり、と、足が止まる。
ちょっと待て。どうして九能ちゃんがあたしを好いてることになるの?ただの商売人と顧客の関係なのに。
こんなことなら乱馬くんをからかう前にさっさと教室に帰れば良かった。気付けばあたしは、何故か九能ちゃんと女の子の間に割って入ってしまっていて。




「なんっ、て、天道なびき!?何故ここにっ─」

「あのね、言っておくけど九能ちゃんがあたしを好きだなんてあり得ないから。逆にあたしがコイツを好きってゆーのも絶対あり得ないから。安心しなさいお嬢ちゃん」

「は……」




言うだけ言って、ポカンとする女の子があっけに取られたまま、こくんと頷いたのを確認したあたしは、そのまま堂々と教室に向かう。
全く疲れるわー、嫌になる。自分が関わって利益のないものに興味なんかないっての。普通に話してるだけなのに、どうして年頃の女子ってすぐ恋愛方面に結び付けたがるのかしら。
さっさと教室戻って家に帰って、部屋の片付けでもするか。
頭の中を整理しながら、気持ちの整理もして、あたしはひとつ深呼吸した。さっきから違和感のある想いを紛らわせる為に。




「好き、だなんて。ある訳ないじゃない」




自分でさえ"恋"がどんなものなのかよくわかっていないのに、そんな想いを理解することなんて無理だ。
綺麗に掃除された教室の黒板に、白のチョークで大きく【馬鹿】と書く。いつだったか九能ちゃんとこの字の誤字について口論になったなーとしみじみ思った。こんなのあたしらしくない、そう思うのに文字を消すはずの手は黒板消しを持ったまま動かない。




「天道なび…」




聞こえた声にハッとして教室の入り口を見ると、息を切らした九能ちゃんがあたしを見ていた。
黒板の字を、慌てて消す。




「じゃーね九能ちゃん、あたし帰るから。あの子と仲良くしなさいよ」

「天道なびき。今消した文字、間違っているぞ」

「は…?」

「馬鹿とはこう書くっ!」

「なんで鹿がやまいだれなのよ、馬鹿はまだれよ、まだれっ!」




部首くらい覚えておきなさいよね、あれから進歩してないってどーゆーこと!
不覚にも九能ちゃんのペースに乗せられていることに気付き、平静を装いながら鞄を持つ。どーせ女好きの九能ちゃんだから、今日はさっきの後輩の子と帰るんでしょうね。
……だから?
自問自答しながら、また頭の中が、心が、ごちゃごちゃになっていく。




「…お前なんか大嫌いだ」

「……そう」




ボソッと呟かれた言葉は、昔と同じ。だけどあたしは昔のように返せない。
ただ、受け止めるだけ。
だから九能ちゃんが嫌いなのよ。人の気持ちに気付こうともしないで、ずけずけ物を言って無意識に傷付ける。それはあたしも同じかもしれないけど、九能ちゃんみたいにいい加減じゃない。




「ぼくは、まだ誰かと正式に付き合うつもりはない」

「はいはい、おさげの女とあかねのどちらかをモノにするんでしょ」

「貴様の方は、そういう話を一切聞かないが」

「あたしが求める人が身近にいるとでも?」

「どういう奴が好みなのか聞いたことがないからわからんな」




だってそもそも教えるつもりがないもの。
あたしの理想は、お金持ちで、容姿端麗で、あたしのワガママを聞いてくれて、計算高くない少しバカな人。とにかく贅沢できること前提ね。そんな人、身近になんているわけがない。
いるわけ…が、ない。いたとしても目の前の男は嫌だ。




「九能ちゃん、あの子のことフッたんだ」

「おい、話がかみ合ってないぞ」

「あーあ、 せっかく人が後押ししてあげたのに」

「余計なお世話だっ!…貴様が、あんな顔をしていたのが悪い」

「え?」

「あれを見て放っておける程、ぼくは心無い人間ではないからな」




九能ちゃんはあたしの頭に軽くチョップする。そんなにさっきのあたしは情けない表情をしてたのかしら。
しかめ面のまま額を押さえて九能ちゃんを見上げると、初めて見えた、優しげな瞳。
こんな顔もするんだ、コイツ。




「…優しい九能ちゃんって気持ち悪いわね」

「相変わらずよくそんな風に悪態つく言葉が出てくるな」

「仕方ないでしょ、本当のことだもの」

「フン、ぼくはただ張り合いのない天道なびきと話をするのはつまらないと思っただけだ」

「あっそ」




それでも、九能ちゃんがあたしを気にかけてくれたことは初めてで、なんだか新鮮だ。
昔より1%くらいは、好きになれたかもしれないわね。





end.
10万打企画/たかみさまへ!
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