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Happiness Psychology(りん桜)


真宮桜がすきだ。
もちろん、友達としてだけじゃなくて。
いつまでもなかなか縮まらない距離が歯痒く、一歩踏み込めない自分が情けない。何度そう思っただろうか。



「六道くん、もう放課後だよ。今日は依頼きてた?」

「あ…いや、まだ、これから百葉箱を見てくる」

「そっか。じゃあ私も行っていい?」

「…ああ」



2人並んで廊下を歩き、他愛ない話をする。この学校にオレが登校し始めた頃に比べると、もう生徒には見慣れた光景になったのか、周囲の視線はさほどない。
今日は十文字も鳳もいないし、架印やくそおやじも奇襲してこないし、平和な1日だ。
隣を歩く真宮桜は、今何を考えているのかさっぱりわからない。好奇心で仕事を手伝ってくれているのか、同情か。
…オレだからか?
依頼があってもなくても、真宮桜は暇さえあればオレの所に来てくれることが多いと感じるのは気のせいではないはず。
そんな甚だしい自惚れも、曖昧な関係である証拠なのかもしれない。



「依頼あるといいねー」

「そうだな」



もう毎日繰り返しているこの会話。誰にも邪魔されないこの時間が幸せでもある。
真宮桜のペースに合わせて歩くのも随分慣れた。
自分以外の誰かが側にいてくれることなんておじいちゃんが輪廻の輪に乗って以来だったし、女子の歩く速さが自分より遅いことも知ったし、幽霊の見える奴がこの学校にいたことも知った。
高校生になって、彼女と出会って、大切なものが出来た。



「だいぶ寒くなってきたけど、クラブ棟に住んでて大丈夫?」

「…コタツの電気は絶たれたが、なんとか生きてる」

「うわあ…」



羽織りだけではなくコタツ布団を使えばなんとか寒さは凌げる、と思う。あとは六文を抱っこしてカイロ代わりにするしかない。
今夜も冷え込むかと思うとあの寒さを思い出してぞわりと鳥肌が立った。
首に巻いたマフラーに顔をうずめて、ふと気付く。



「でもまあ、…このマフラーもあるから平気だ」

「…え」



真宮桜がオレに編んでくれたと思うだけで嬉しくて幸せで、心が温かくなるから。
自分で言っておきながら気恥ずかしくなって、隣を歩く彼女の顔が見れない。何だか気まずい空気のまま校舎を出る。
靴を履き替えて真宮桜を待っていると、ひやりとした手がオレの手を掴んで引いていく。前を歩く真宮桜のおさげが揺れ、今何が起きているのか懸命に頭を働かせた。



「…お、おいっ」

「早く行こう、六道くん。誰か依頼してるかもしれないよ」

「そ、そうではなくてだな」

「雪も降ってきそうな天気だから急がないと、」

「待っ…おい、真宮桜!」

「──っ」



こちらを向いた真宮桜はいつもと変わらない表情のようだったが少し頬が赤みを帯びていて。
繋いだ手はすっかり熱くなっていた。



「あの、」

「…六道くんが、寒そうだから」

「え?」

「こうしたら、あったかくなるかなって」



真宮桜はそう言って繋いだままの手をぎゅっと握る。
身長差で自然と見上げられ、オレは体温が一気に上昇するのがわかった。心臓が早鐘を打ち、もう何がなんだかわからなくなる。
何も言えず口をパクパクさせていると、また急かすように彼女は腕を引いて歩き出した。
今度は手を繋ぐだけではなく、腕を組んで、だ。



「…な、ちょ…ま、まみ、」

「私も寒いから、もう少しだけ…いい?」

「っ…わ、わかった…」



本当に適わない。
そんなことを言われたら期待するしかないじゃないか。
マフラーでも、赤くなった顔は隠せない。真宮桜に対する想いだけがただただ募っていく。
繋いだ手より、組んだ腕より、心が温かくなる。苦しいくらいの幸せが切なくも嬉しい。こうして側にいてくれることが、この上なく嬉しい。



「ねえ、六道くん?」

「…なんだ」

「そのマフラー、使ってくれてありがとう」

「………」



にこっと微笑む彼女にまた鼓動が大きな音を立てる。
こんなにも愛しいと想う気持ちを、いつかちゃんと伝えたい。まだ不甲斐ないオレだけど、側にいさせてほしいから。



「後で何か温かいもの買ってくるよ」

「…オレもついて行っていいか?」

「!…うん、嬉しい」



─それに、この世界で独りだったオレを見つけてくれた彼女はやっぱり特別な存在であることに変わりはないんだ。





end
相互御礼/夕夏さまへ!
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