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エトセトラ(翼鳳)

※雨は君色の鳳視点


ばあやが手伝うってうるさいのを無視して、あたしはお弁当箱にウインナーをぎっしり詰めた。
前回は呪いの重箱を使ったせいで失敗しちゃったけど、今回はきっと大丈夫。絶対りんねに食べてもらうんだ。
見た目はともかく、料理なんてちゃちゃっとやれば出来ちゃうものよ。…少し焦げ臭いのは気のせい。



「あれっ、雨…?」



現世に着いた時、空からは雨がざあざあ降っていた。
きょろきょろと学校の敷地を見回すと、百葉箱のあるところに赤い髪の男の子がいて。あたしは心が弾み、飛ぶスピードを上げる。




「りんねーっ!」


「…ん?」
「うわっ、りんね様、鳳ですよっ」


「こんな所で何やってるの?」

「別に何もしてない」

「ふーん…」




相変わらずクールな男。
お姉ちゃんの彼氏とは違うタイプよね、親子らしいけど容姿しか似てないし。




「何か用でもあるのか」

「あ、そーなの!あたし、りんねにお弁当作ってきたんだーっ」

「弁当?」

「うんっ。食べてね!」

「…いや、オレは…」

「はい、どーぞっ」

「だから…」

「それじゃまたねー!」

「人の話くらい聞けーっ!」


「…あの人、弁当押し付けに来ただけみたいですね」




はー、緊張した…!
まだ心臓がどきどきしてる。りんね、食べてくれるよね。美味しい、なんて言ってくれたらどーしよー!いやーんっっ!
恥ずかしい気持ちを紛らわしてくれるように降る雨が、なんだかすごく心地良い。
わくわく、そわそわ、
早くお昼にならないかな。お弁当を食べるりんねをこっそり見たくて、あたしは校舎の周りをうろうろする。い…一応パトロールのついでよ!ついで!

そうこうしているうちに、時計の針が天辺の12を指す。それを少し過ぎた頃、大きな音でチャイムが鳴った。
よし、りんねの教室に行ってみよう……、ん?
渡り廊下の所に、りんねらしき男の子がきょろきょろしながらやって来たのが見えた。まさかまさか、一緒に弁当食べよう、なんて言われちゃったりして!?
期待は膨らむばかりで、あたしは上機嫌に声をかける。




「りんねっ」

「!鳳か。…探してたんだ」

「ほんと!?しっ、仕方ないわねー、りんねが言うなら一緒にお昼食べても…」

「悪い」

「…は?」

「弁当、オレは受け取れない」

「何、言って…」

「…すまん」

「え?ちょっ、いらないってなんで!?ねえ、りんねってば!」




ずし、と重たいお弁当。
なんで?どうして、食べてくれないの?貧乏で食費に困ってるんじゃないの?
雨の中、りんねの後ろ姿が霞んで見える。さっきまであんなに幸せいっぱいの気分だったのに、今はこの天気がうっとおしい。
やめて、雨なんか降らせないで。天気にまで同情されているみたいで苛々する。




「…せっかく、作った、のに」


「あれ?鳳…」

「…っ、なんであんたが来るのよ」

「偶然だ、偶然。……六道の奴、わざわざ弁当返しに来たのか」

「………」

「真宮さんもあんな奴、さっさと見切りつければいいのに…。ホント、六道は気に食わん」

「りんね…あの真宮桜って、女のとこに行ったのかな……」

「………」

「あたし、ホントピエロだね…」

「鳳…」




バカみたいだ。
勝手にはしゃいで、舞い上がって。いつも強気でいられるのに、りんねのこと、真宮桜のこと、考えるだけで弱気になる。
くやしい。
あたしだって、りんねの側にいたい。
それでもやっぱり、あの2人が一緒にいると、間に割って入ることは難しい事に思えて躊躇してしまう。
お弁当を開けて、少し焦げたウインナーを1つ食べた。
……苦い。こんなの、食べれたもんじゃないな。りんねが食べてくれなくて良かったのかも、しれない。鼻の奥がつんとして、涙がポロポロ零れた。




「…っ、ひっ、…うぅ〜…」

「……そんなに不味かったのか、弁当」

「バカっ!…ちが、ひっく、違うわよ…っ」

「泣くのは勝手だが、…ここで六道から手を引いてもらうのは困る」

「はあ?」




目の前で腕を組み、私を見据える男…、十文字翼は、黒く焦げたウインナーを1つつまみ、自分の口に放り込む。
なに、言った?なに、してんの、この男。
さっきの台詞と、今の行動に唖然としていると、コイツは悪巧みでも思い付いたような顔をしてニヤリと笑った。




「鳳、お前…もっと料理の練習した方がいいと思うぞ」

「なっ」

「あ…いや、むしろ下手なままで六道の体調を崩させるってのもアリか…?」

「ちょ…何言ってんの?」

「お前に本気で六道を落とす気があるのか、気になってな」

「………」




ムカつく。腹立つ。
なんなの。
人が傷心中だってのに!
そういえばコイツ、真宮桜が好きなんだっけ?あたしとは利害が一致してるから諦めるなってこと?
そりゃあ、簡単に諦めたくないわ。
でも、だけど、コイツに利用されるのはなんか嫌。




「俺は、絶対に来年の今頃は真宮さんと一緒に弁当を食べている!………はず」

「……妄想?」

「失礼なこと言うなよ!お前だってそれくらいのこと考えたりするだろ!」

「………」

「なんだ」

「…ふふっ」

「!?」

「バカだわアンタ。やっぱりりんねの方が数十倍いい男ねー」

「…フン、お前より真宮さんの方が数百倍素敵な女性だぞ」

「そうかしら?後で後悔しても知らないわよ」

「その言葉、そっくりそのまま返してやるよ」




仲間、っていうのかな、こーゆーの。
いつの間にか隣りに座って、あたしの作ったお弁当食べてるし。何気にちゃっかりしてる。今までそんな奴と、しかも人間と、出逢ったことがなかったから不思議な気分だ。




「お弁当、美味しくないでしょ」

「ああ、不味いな」

「だったら無理して食べてくれなくていいわよ!本当はりんねに…りんねに、食べてもらう予定だったんだから……」

「六道の気を惹きたいなら少しはレパートリー増やしたらどうだ」

「あんたに言われたくない」

「俺は俺なりに頑張ってるからいいんだよ。今日は俺が処理してやるから感謝しろ」

「……っ」




なんなのこの男…!!
上から目線で何もかも知った風な顔してっ、ムカつくー!あたしの想いの大きさはこの男には絶対分からない。いつか必ず見返してやる!
あたしはあたしなりに、りんねを振り向かせてみせるんだから!




「鳳」

「なによっ」

「ごちそーさん。この借りはいつか返せよ」

「うるさい!」




空になったお弁当箱を手渡された時、何故か分からないけど一瞬ドキッとした。あんな真っ黒いウインナー弁当を本当に全部食べてくれるなんて思わなかったから。
…悔しいけど、もっと料理が上手くなりたい。
りんねに渡しても恥ずかしくないくらいに。真宮桜に負けないように。
チャイムの音が、少し雨を弱まらせる。




「負けず嫌いの死神鳳、その顔してる方がお前らしいな」

「…あたし、諦めないもん」

「俺だって諦めないさ。じゃーな」




ひら、手を振って去っていく後ろ姿を眺めて、ハッとする。もしかしてあたし、アイツに慰められてたの?
なんでどうしてあんな奴に。
りんねにお弁当を食べて貰えなかったことはもちろん悔しい。けど、アイツの顔が頭に残って…あ〜〜ムカつく!!!
………でも、ちょっとだけ。




「(…ありがと)」





end

雨は君色(りん桜)


手を繋ぐ。
腕を引かれる。
お姫さま抱っこされる。
お弁当を食べてくれる。
頼ってくれる。
いつの間にか助けられてて、守られてた。
私はどこまで干渉することが許されているんだろう?

窓の外から聞こえてきた雨音で、私は目を覚ます。
昨日も一昨日も雨。
やっぱり今日も、雨。



どんよりした雲から落ちる雨粒は、時間が経つにつれて大きくなって、通学路を歩く私の足元を濡らす。
校門をくぐると、百葉箱のある方に向かって空から女の子が飛んで行くのが見えた。あれって鳳さん…?手に持ってるのは大きな鎌と、小さな包み。
気になった私は、百葉箱が見える所まで小走りに近付いた。
そこには羽織を着た六道くんと六文ちゃんがいて、鳳さんは六道くんに包みを渡していた。もしかして、お弁当かな?
前にも一度、六道くんが鳳さんに貰った重箱弁当を持ってきたことがあったけど、また作ってきたのかな。…気まぐれにお弁当2つ持ってくるんじゃなかった。
踵を返して、私は教室へ急ぐ。どろどろの校庭、水たまりを避けても靴の中は濡れて冷たい。




「おはよう真宮さん。今日もすごい雨だね」

「あ…おはよう翼くん。傘さしても意味ないよね、こんな雨じゃ」

「全くだ。風邪引かないよう気をつけないと。あ、真宮さん、俺のタオル貸すよ」

「え?」

「髪も制服も鞄も濡れてるし、拭いた方がいいよ。傘の意味、なかったんだろ?」

「……ありがとう」




タオルを受け取ると、翼くんはにっこり笑う。だけど、頭の中からはさっきの六道くんと鳳さんのシーンが消えなくて、何故か苦しい。
以前2人が手を握ってたことを思い出したらもっと苦しくなる。
鞄と制服をぱぱっと拭いて、濡れた髪を一度解いた。コームで梳くと、ウェーブがかった髪は真っ直ぐになる。朝のSHRが始まるにはまだ時間があったから、この時間で髪を結び直す。気持ちを落ち着けるには充分だ。
隣の席からカタンと音がして、目の端に赤い色が見えた。それと一緒に、机の上の包みも。




「六道、何だそれ?」

「…貰った」

「弁当?ってことは鳳か」

「………」




…否定しないんだ。
翼くんはやけに嬉しそうな顔をして六道くんを小突いてる。
まあ、そうだよね。いつも生活に困ってるのは事実だから、誰かの助けは有り難いものだろうし。別に私がいちいち世話を焼く必要なんてない訳で。
同情でも好奇心でもなく、ただ、お手伝いしていたかったんだ。
今まで幽霊が見えていても何をするでもなく過ごしてきた私にとって、六道くんのお仕事はとてもすごいものだと思ったから。
ちょっと、寂しいかな。




「…らちゃん、さーくーらーちゃん」

「あっ、ご、ごめんリカちゃん」

「どうしたの?なんかいつにも増してぼーっとしてるねー」

「そんなこと、ないよ。平気」

「でもさー、毎日こう雨ばっかり降ってると気も滅入っちゃうよね」
「あ、それわかるー!私も毎日髪をセットするの大変でねー、」




リカちゃんとミホちゃんの会話を聞きながら、私は鞄から教科書を出す。良かった、教科書は濡れてなくて。
ふと、鞄の中にある2つのお弁当箱を見て、私は小さく溜め息を吐いていた。
…どうしよう、このお弁当。
そぉっと六道くんの方を見ると、ぱちっと目が合って。私は思い切り顔を逸らしてしまった。い、今のはあからさま過ぎたかな…?
一度も話すことのないまま、気が付けばお昼休みになってしまった。




「ミホちゃん、桜ちゃん、お弁当食べよー…って、桜ちゃんは?」

「あれ?ついさっきまでいたのに……どこ行っちゃったんだろ」




授業が終わってすぐ、私は鞄を抱えたまま階段を降りていた。何してるんだろう、私はどこに行くつもりなの?
雨が降っているせいか、廊下を歩いている生徒はいつもより少ない。
渡り廊下を歩くと、いつものベンチが見えてくる。今日も雨は止みそうにないなぁ。お弁当、どこで食べよう…。




「え?ちょっ、いらないってなんで!?ねえ、りんねってば!」




この声、鳳さん?
六道くんも一緒にいるの?
心がどうしようもなくざわついて、危うく鞄を落としそうになる。とりあえず、早くここを離れよう。
来た道を戻ろうとUターンすると、誰かが私の腕を掴む。雨で濡れた冷たい手、それが六道くんだと私はすぐに気付いた。今は気まずい。気まず過ぎる…!
振り向けずに立ち止まったまま俯いていると、今度は前方から近付いてくる足音。




「あ、真宮さ……と、六道?」

「つ、翼くん」

「…悪い十文字。オレは真宮桜に用があるんだ」

「なっ…お前、鳳の弁当はどうしたんだよ」

「返した」

「はあ?」

「え、六道くんっ!?」




そのままぐいと手を引かれて、六道くんは歩いていく。翼くんの姿はもう見えなくて、なんだか少し不安になった。
だけど、不思議と鼓動が高まるのも本当で、自分がよく分からない。
誰もいない廊下を通って空き教室に着くと、賑やかな生徒の声は遠く、雨音が小さく、自分の心音は大きく聴こえた。




「……突然、すまん」

「いや…あ、あの、私に用って…?」

「………」

「それに、昼休みが終わっちゃう前に鳳さんから貰ったお弁当食べた方が…」




鞄をぎゅっと抱きしめて、唇を噛んだ。
今朝のことは思い出す度に心が痛む。六道くんにとっては良いことなのに、変だよね。私の作ったお弁当を食べて欲しい、そんな風に思うなんて。
ふう、と溜め息が聞こえて、ゆっくり顔を上げると、六道くんは少し照れたように頭をかいて私を見る。




「…オレは、……」

「なに‥?」

「ま、真宮桜の、…いつもの、弁当がいいんだ」

「………」

「…その、だから…」

「…お弁当、今日は持って来てないって言ったら?」

「え゛っ」

「鳳さんから貰ったお弁当…食べる?」

「………」

「………」




何言ってんだろ、私。
六道くんがどうしようと自由なのに、意地悪言って困らせて。天気が悪いせいか私も卑屈になってるみたいだ。




「……さっきも言ったろ、オレは…真宮桜のくれる弁当がいい」

「…え」

「ないなら、仕方ないが」

「あ、あるよ!今日はたまたま、作ってきた、から…」




慌てて鞄からお弁当箱を出して手渡すと、六道くんはホッと安心したような顔をした。
なんか、ずるい。
優しい声に、どこか私も安心して。私と六道くんは"ただのクラスメート"なのに、一喜一憂してる自分にびっくりだ。
美味しそうにおかずの唐揚げを頬張る六道くんを眺めながら、私も隣に座ってお弁当を食べる。
誰もいない教室は、いつものベンチよりも静かな空間。そういえば、鳳さんから貰ったお弁当って…もしかしてさっき返してたの?




「…?なんだ、真宮桜」

「う、ううん。別に何も…」

「……誤解するなよ。鳳とは何もない。向こうが勝手につきまとってくるだけだ」

「なんで私にそんなこと?」

「そ、それはっ…、誤解されたくないからに決まってるだろ」




どうして?私に誤解されると困るの?
六道くんの真意は分からない。でも、なんだか、そんな気遣いがすごく嬉しかった。心の中にかかってた雲が、少しずつ晴れていくようで。
チャイムの音が、昼休みの終了を告げる。




「…六道くん、食べてくれて、ありがと」

「あの…ま、また作ってくれる、か?」

「………私が作ったので良ければ」

「それじゃあ、…頼む」

「あはは、わかった」

「何故笑うっ」




手を引かれて、お弁当を食べてくれて、頼ってくれて、いつの間にか惹かれてた。
気が付けば一緒に"死神のお仕事"をすること、一緒にこんな時間を過ごすこと、私にとって大切な意味を持つようになっている。
空になったお弁当箱を2つ、また鞄に入れて教室を出る。次の授業はなんだったかな。




「六道くん。放課後、クラブ棟に行ってもいい?」

「…好きにしろ」

「うん。ありがと」



昨日も一昨日も雨。
やっぱり今日も、雨。
それなら明日は、明日になったら、晴れるといいな。





end

I hope,(乱あ)


「─……っ」

「え。あ、あかね?」




不覚だった。
堪えてた涙が頬を伝う。
一発殴って、バカって言ってやろうと思ってたのに。乱馬の顔を見たら安心した、なんて。
無茶ばかりして、ケガばかりして、あたしの気持ちなんてちっとも分かってない。




「お、オレ、何かしたか?そりゃ、いつもより帰る時間が少し遅くなっちまったけど…」




乱馬は強いから。
あたしの助けなんていらないから。
首を横に振りながら、あたしは顔を両手で覆う。
いくら心配しても、杞憂だってわかってるのに心配せずにはいられない。今回の修行だって、身体のあちこちに絆創膏だけじゃなくて湿布や包帯まで巻いて。
平気な顔して笑っちゃってさ、なんなのコイツ?

あたしは寂しかったよ。すごく。
寂しかったの。
乱馬に出逢う前は、出逢ってばかりの頃は、こんなのなんとも思わなかったのに。
いつから弱くなっちゃったんだろう。こんなに不安で、落ち着かない心。自分じゃ抑えられない。




「…あ〜……ったく、なんで泣いてんだよ、あかね〜」

「ない、てない…っ。てか、うるさい」

「………」

「………」

「……なぁ」

「っ、う、後ろ向いてて!」

「は?」

「早く!」

「…なんなんだよ……。…これでいーか?おい、あか…」




泣き顔を見られるのが嫌で、でも乱馬に触れたくて。正面きってはやっぱり恥ずかしいから、あたしは乱馬の背中にしがみつく。
いやだな、昔のことを思い出すといつも不安になる。大切な人がいなくなるのは、耐えられないくらい苦しいから。
いつもケンカしたり笑い合ったりしてるのに、気が付いたらそれが全て消えてしまう虚無感はもういらない。
─ねぇ、こんなのいつもの"あたし"じゃないでしょう?
こんなあたし、弱くて嫌いになる?もう、側にはいてくれない?可愛くなくて不器用で、弱い女の子なんて、乱馬には相応しくない?
言葉が、喉に詰まる。




「……悪かったよ、心配かけて」


違う。


「でも、こんなケガなんてすぐ治るっつの」


ちがう。


「だから、もう泣くなよ」



ちがう、よ。
乱馬がいなくなることはもちろん嫌だけど、あたしは、乱馬に『いらない』って言われることが怖いんだ。
だってあたしみたいな女の子に魅力なんてあるの?
側にいられる理由なんて、薄っぺらい契約上の許婚であることくらい。
あたしの好きって気持ちは、乱馬にとって重荷になるんじゃないか。意地っ張りでなかなか伝えられない気持ちは、乱馬にとって迷惑じゃない?
足を引っ張るのは嫌だから、怖くても辛抱強く口を噤むことしかできなかった。




「………あかね」

「………」

「…お前に泣かれると困るんだよ」




身体がビクッと跳ねる。
ずるい女だって、嫌な女だって、思われたかな。いらないって、言われるのかな。
もっと融通利く性格なら良かった。そしたら、こうして悩むこともなかったのに。こうして、突き放されることに怯えることもなかったのに。




「…ごめ…なさ、い…」

「………」

「……っ」

「あのな!何か勘違いしてねーか、お前っ」

「…勘違いって、なによ」

「だから、その…」

「…?」

「い、言っとくけどなぁっ、…オレはっ、い、許婚のお前にそんな顔させたくねーんだよ!」

「……」

「だ、だからっ……、その、謝んのは、オレの方……っえ!?おまっ、〜〜…ったく、」




赤くなってあたしの目を真っ直ぐ見る乱馬に、不安な心がゆっくり溶けていくようだった。
無意識に涙がぼろぼろ零れて、乱馬はぶっきらぼうにあたしの涙を拭う。大きい手が頬に触れて、気が付けば乱馬に抱きしめられていた。




「…あんた、ケガしすぎよ」

「仕方ねーだろ。守りてぇもん守るためには」

「………」

「べ、別にあかねの為とかじゃねーし…見栄張ってるわけでもねーからなっ!!」

「………」

「…ちったあ何か言えよ」

「……弱い許婚でごめんね」

「はあ?バッカじゃねーの、少しは弱味も見せてくれねーとオレの立場がねぇだろ」

「なっ」

「お前んな事で悩んでたのか?」

「………」




乱馬にとって些細なことでしかないなら、あたしの考え過ぎだったのかしら。不安は少し小さくなっただけでまだ消えない。
弱いあたしでも、いいの?
おずおず顔を上げれば、乱馬が右手で口元を覆う。




「……はー…ほんっとお前その顔は反則…」

「ひ、人の泣き顔見てそんなこと言うなんて最低…っ」

「誰も面白い顔なんて言ってねーだろ、むしろその逆……」

「今言ったじゃない『面白い顔』って!デリカシーなさすぎよ!!」

「ばっ、バカ、話を最後まで聞けっ!」

「うるさーい!!」




全部ひっくるめて好き、
そんな言葉は今の乱馬に全く期待してないけれど。
ちょっと夢見るくらいはしてもいいよね?






end

猫飯店組

捏造子供達第三弾!
お待たせしました(`・ω・´)…え、待ってない?いいんです自己満ですから←
10日まで行っていたアンケート結果は以下の通りです(とりあえず上位5つ)

22票:リンス
15票:ミスト
7票:アンニン
7票:レイン
6票:ソープ


沢山の投票ご協力有難うございました!
結果をふまえて子供の名前決定です^^


長男(画像右上)
リンス(凛洲)14歳
中2


長女(画像左上)
ミスト(簾杜)11歳
小6


次女(画像右下)
レイン(苓韻)10歳
小5


三女(画像左下)
アンニン(杏仁)8歳
小3




※名前漢字は当て字ですので深い意味はありません

ムースとシャンプーを足して割って掛けて引いてやっとできました…、作業遅くてすみません…!;
色彩センスが欲しいぃぃ(泣)

朗らか昼下がり(りん桜←翼+速)


いつものお昼休み。
ミホちゃんが生徒会の集まりに行ってしまったため、私はリカちゃんと一緒にお弁当を食べていた。




「いいなぁ桜ちゃんのお弁当、春巻入ってるーっ」

「1つあげようか?」

「いいの!?じゃあ私の唐揚げと交換しよー」

「うん」




今日は百葉箱に依頼があったのか、隣の席の六道くんはクリームパンを食べていた。後でどんな依頼か聞こうっと。
そうして賑やかな教室で楽しく昼食を食べていた時だった。




「桜ちゃーん」

「ん?どうしたのマリちゃん」

「隣のクラスの速田くんが呼んでるよ」

「速田くん?」




ドアの所にはマリちゃんの言うとおり、陸上部の速田くんがいた。
六道くんじゃなくて、私に何か用なのかな?生霊のことは解決したし、バナナも沢山貰っちゃったのに。なんだろ?
お弁当はそのままに、私は席を立って廊下に出た。




「よ、真宮。悪いな突然」

「ううん。どうかしたの?」

「実は…その、国語辞書貸してくれねぇか?他のクラスの友達、みんな冷たい奴らで貸してくれなくてさ」

「分かった。国語辞書ね、ちょっと待ってて速田くん」

「ああ」




昼休み前の授業が現代文だったから丁度良かった。席に戻って机の中から辞書を取り出して、私はまた速田くんの所に行く。
その時一瞬、六道くんと目が合ったような気がした。




「はい、速田くん」

「サンキュー真宮、助かった。次の休み時間になったら返しに来るな」

「うん、それじゃ」




席に戻るとリカちゃんとマリちゃんから追求の嵐。
そういえば速田くんは陸上部のエースだから、人気あるんだよね。
ぼんやりそう思いながら私はリカちゃんに貰った唐揚げをかじった。目の前の2人はなんだかすごく楽しそう。別に速田くんとは知り合いなだけで、特に何かある訳でもない。でも、六道くんや翼くんのこともよく聞かれるよなぁ。
お弁当をしまって携帯のメールをチェックしていたら、つかつかと翼くんが私の所にやってきた。




「真宮さん、さっきの男子は…」

「速田くんのこと?国語辞書借りにきたみたいだよ」

「いや、そうじゃなくて…」

「?」

「アイツと…、仲良いの?」

「つい最近、速田くんの先輩の依頼を受けた時に話したくらいだよ。その時六道くんも一緒にいたし。なんで?」

「あ、いや、聞いてみただけだよ。あはははは」




?変な翼くん。
次の授業は化学。教科書を出して、リカちゃんと一緒に理科室へ行こうと立ち上がる。ふと、視線を感じて隣の席を見ると、六道くんが黙々と造花を作っていた。
……、ちゃんとご飯食べてるのかな?




「さーくーらーちゃーん」

「あ、今行くー」




少し気がかりだったけど、私は教室を後にして理科室に向かった。六道くんは授業をサボったのか、結局理科室には来なかった。声掛けてくれば良かったかも。
授業中はずっと、何故か分からないけど六道くんのことが気にかかって仕方なくて。
最近暑いし、体調崩したら大変だし、食べ物もすぐ悪くなっちゃう季節だし、…いや、もしかして依頼でもあったのかな?考えすぎ?




「真宮さん、さっきの化学式どうなった?」

「…え、あ、えっと、…私はこうなったよ」

「なるほど…、じゃあこれは?」


「ねーリカちゃん…十文字くん、積極的だねぇ」
「うん。さらっとかわす桜ちゃんも凄いよね…」
「六道くんがいたら面白くなりそーなのに、どーしたんだろ?」
「さあ…?」




チャイムが鳴って、今日の授業は終了。
ミホちゃん達より先に教室に戻ると、六道くんの姿はない。気が付けば教科書を鞄に詰めて、帰りのHRなんて無視して、私は走り出していた。




「あれー?桜ちゃん、帰っちゃったのかなぁ」

「え?真宮さんいないのか?」

「うん。十文字くんも心当たりないのかー…。いつもよりぼーっとしてたし、何かあったのかもね」


「すんませーん、真宮いる?」

「あ、速田くんだ」


「…真宮さんなら帰ったぞ」

「え、マジで?仕方ねぇな…、じゃあこの国語辞書、真宮に返しといてくれよ。助かったって」

「ああ、わかった」

「それから、バナナ早く食っちまえって伝えといて」

「バナナ?」

「おう。俺これから部活だからさ。んじゃな!」


「速田くんってさっぱりした性格してるよね〜」
「ああいう所がモテるんだろーね。足も速いし」


「……俺の知らん所で何があったんだ真宮さん…!?」




百葉箱の所に着いてから、速田くんに辞書を貸していたことを思い出した。まあいいや、明日でも。
息を切らしながら百葉箱の中を見ると空っぽ。さっき教室で感じたのと同じ空虚感が胸に広がる。
どこにいるんだろ、六道くん。
そもそも、どうして私は六道くんを探しているんだろう?何故か、とても不安で。
今日はまだ喋ってないから?
ううん、きっと違う。そんなことじゃない。わかりそうでわからない。
トボトボといつものベンチに向かうと、羽織を着た六道くんがそこに座って眠っていた。




「………」




新緑の季節。
いつか見た六道くんの寝顔。
ほっ、と、心がようやく落ち着きを取り戻す。
ベンチの端に座って六道くんを見るけど、疲れているのか起きる気配はない。
小鳥の鳴き声や風の音、それから校舎にいる生徒の声が遠くに聞こえて、この空間だけ違う場所にあるみたいだ。
いつもならすぐ家に帰るけど、今日はもう少しここに座っていたい。




「………ら…」


「…?」


「…さく、ら…」


「え……」




いきなり名前を呼ばれたことにびっくりしていると、うっすら目を開けた六道くんはまだ寝ぼけているのか、私の右手首をぎゅっと掴む。
温かい大きな手に、動きが止まる。




「……ん、」

「…っ…ろ、六道、くん?」

「う………?……」

「………」

「…っえ、な、ま、まみっ……!?」

「あ、あはは…。おはよー…」

「わ…悪い」

「いや…少し驚いただけだから」




六道くんは私の手をぱっと離して俯く。
私もなんだか気まずくて、座ったまま膝の上に手を置き、六道くんとは反対に空を見上げた。木洩れ日から差し込む光と、葉の間から見える空がとても綺麗。
おずおずと顔を上げた六道くんは、少し眉を寄せて私を見る。




「…あの」

「?」

「…オレ、なんか言ったか」

「何かって…寝言?」

「まあ…」




私の名前を呼んでた、って言うべきかな…。
「桜」って呼んでくれたこと、たとえ寝言だったとしても嬉しかったんだ。今までよりもっと仲良くなれた気がして。
そんな思いを言葉にするのはもったいない。
でもね、




「いい夢でもみてたの?りんねくん」

「な…!?おまっ」

「ふふっ」




私も一度でいいから、六道くんの下の名前で呼んでみたかったんだ。






end
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