風が冷たくなり、葉もすっかり色付いて秋らしくなった、ある秋祭りの日。
あたしはお囃子の鳴る商店街を乱馬と一緒に歩いていた。




「あーあ、どうせなら遊んで帰りてーなー」

「何言ってんのよ。秋祭りは眺める以外屋台で買い物するくらいしかすることないでしょ?」

「ついてねーよな、こういう日に限っておつかい頼まれるなんて」

「文句言わないの。代わりに好きなものを買っていいって、かすみおねーちゃんが言ってたんだから」

「…なんでおめー、今日はそんなにものわかりがいいんだ?」

「えっ」




ふ、不自然だったかしら。いつも通りにしていたつもりなのに。
久しぶりに乱馬と出掛けることになったから、無意識に楽しみにしてた…?まさか、そんな。
不審な顔をする乱馬の頬を引っ張り、あたしは慌てて話を変える。




「あにふんらよっ」

「早くしないと暗くなっちゃうでしょ!ぐずぐずしてる暇はないのっ」

「いきなりほっぺた引っ張らなくてもいいだろーが!あーいてー…」

「悪かったわね!ほら行くわよ!まずは焼きそば7つ!」

「……で、それは誰か持つんだ?」

「乱馬」

「即答すんなっ」

「ふーんだ!」




わかってる。これはただの照れ隠し。少し前まで特に意識するでもなく普通に接してたのに、乱馬を好きだと認めてからはなぜか挙動不審になりがちだ。
いつも通りが、分からなくなってる。
くだらないことでケンカするのが普通?シャンプー達に追いかけられる乱馬に優柔不断って怒るのが普通?自分の気持ちに気付かないフリをしていたのが、"普通"?




「あかね?」

「!」

「どーしたんだよ、なんか今日変じゃね?」

「ど…どーもしないわよ!いつも通り!」

「そぉかあ?」

「そう!」




焼きそばを買った後はイカ焼きとお好み焼き、焼き鳥を買って、とりあえず頼まれた分の買い物は終了。こんなに沢山、と思っても、乱馬と早乙女のおじさまがいるからすぐなくなっちゃうんだろうなぁ。




「あかね、何か食って帰ろーぜ。何にする?」

「うーん…そうね…」


「「クレープ!」」


「え、え?」

「お、あかねと意見が合うなんてめっずらしー。やっぱり疲れた時は甘いもんがいいよなー」




けらけら笑う乱馬は、荷物を持ったままあたしの前を足取り軽く歩き出した。
焼きそば屋でのやり取り以来、乱馬は嫌な顔ひとつせず、嫌みひとつ言わず、買い物に付き合ってくれた。どういう風の吹き回しかしら?




「…………乱馬こそ、今日はものわかりがいいみたいじゃない」


「んー?何か言ったか、あかね」

「別に。聞こえなかったならいいわ」

「つーか、早く歩けよ。おりゃー腹減ってんの」

「ちょっ…」




乱馬は荷物を持っていない方の手であたしの手首を掴むと、クレープの屋台に向かってまた歩き出す。
─あたしを置いて、先に行こうとはしないんだ?
無意識なのかもしれないけど、そんな些細なことが、なんだかすごく嬉しかった。乱馬にとって、あたしがどうでもいい存在じゃないっていう証みたいで。




「おっちゃーん、チョコバナナひとつ!あかねは?」

「え、あ…じゃあストロベリーで」

「おっちゃん、ストロベリーも追加なー」


「あれ?もしかして天道さんとこのあかねちゃんかい?大きくなったねぇ」


「…あ!田中のおじさん…お久しぶりです」

「なんだよ、知り合い?」

「うん、乱馬がうちに来る前にお隣から引っ越してった人なの」

「へー…」


「噂の許婚君とデートかい?若いっていいねぇ〜!」

「や、あのっ、ええと…!!」

「はい、チョコバナナとストロベリーね!天道さんにはお世話になってるからあかねちゃんにオマケだ!」

「あー!ずっりぃー!」

「あはは…なんかすみません。ありがとうございます…」




田中のおじさんの明るさに圧倒されつつ、あたしたちは賑やかな商店街を眺めながら家路を歩き出す。
あたしがクレープにクッキーのお菓子をオマケで付けてもらったことが、乱馬はよっぽど悔しかったのか、なにやらずっとぶつぶつ呟いてる。




「こんなことなら女になって来るんだった…いやでも女じゃ力入らなくて荷物持てねぇしな…だが女になれば色々得だったよなぁ…」

「さっきからぶつぶつ煩いわよ」

「けっ、いーよなあかねは」

「あたしというより、おとーさんの顔の広さに感謝しなくちゃね?…仕方ないなぁ、クッキー2枚もらったから一枚あげるよ」

「マジでっ!?」




差し出したクッキーに、乱馬はぱくっとかじりつく。
ああ、そういえば乱馬は荷物とクレープで両手がふさがってたんだっけ。
………………ん?



「っ…〜〜!?」

「?」



ふ、フツーにあたしが食べさせてあげた感じになっちゃった…!!ていうか、乱馬は気付いてないみたいだし、あたしが取り乱したら不自然よね!うん!
一拍置いて、気恥ずかしさが込み上げる。
クレープが甘ったるくて喉がかわく。乱馬はあたし以上に甘いものが好き。パフェとか、たい焼きとか、ケーキとか。だからお菓子を食べることに関して深読みすることはないと思うの。だって乱馬はそんなに頭良くないし。ね。
必死で自分を納得させて、少し前を歩いていた乱馬の隣に並ぶ。




「…困ったものね」

「どした?あかね」

「自覚した方が負けみたいで、なんか悔しい」

「は?」

「…と、思っただけ」




友達以上、恋人未満。
あたしと乱馬の関係は色々飛び越えてるみたいでよくわからない。ちょっとしたことでどきどきして、顔を見るのも恥ずかしくなるのも今更だってわかってるのに。
顔色ひとつ変えない乱馬が、羨ましいな。




「あ、なあなあ!たこ焼きも買おーぜあかねっ」

「まだ買う気!?」

「せっかく2人で来たんだから、少しくらい楽しんだってバチは当たんねーだろ」

「え……え、ええええ!?」




ほんと、悔しい。
羨ましいよ。






end