移り変わる季節。
去年とは全く違う自分の環境。貧乏で、死神の仕事をして、内職をしてやりくりして、常に気を抜くことなく過ごしてきた。
そのうちに真宮桜と出逢い、六文に懐かれ、十文字が現れた。
何もかもが、去年とは違う。




「桜さま、聞いて下さいっ」

「なに?六文ちゃん」

「この間契約黒猫の会長さんから、『だまし神検挙率が君たちのおかげで上がった』ってほめられたんですよ!少しボーナスもらえたので今日の夜はフンパツしておかかおにぎりなんです!」

「へー…それは良かったね。六文ちゃんと六道くん、最近息ぴったりだし」

「えへへ…まだまだ、桜さまとりんね様には適いませんよぉ」

「え?」

「あうんの呼吸、って言うんでしたっけ?ぼく、りんね様の契約黒猫としてもっとお役に立てるようがんばります!」




ニコニコ笑う六文は、真宮桜の膝の上で身振り手振り楽しそうに話をしている。相変わらず造花の内職に追われている俺は黙々と作業を続けた。
すっかり秋めいた季節に、早くなった夕暮れ時。冷たい風がドアの隙間から吹き込む。
近々おばあちゃんに毛布でも借りて来れないものだろうか。…でも、あまり頼りたくはない。頼れる大人が近くにいないことが心細くなり、思わずため息がこぼれる。




「六道くん、私も手伝おうか?」

「あ、いや。大丈夫だ」

「でも…」

「いつもお前に甘えてばかりじゃ、迷惑だろう」

「……別に」

「え」

「私は、六道くんが頼ってくれると嬉しいよ」

「………」




ぽつりと呟かれた言葉に、手が止まる。
オレの事情で"死神の仕事"に巻き込んでしまっていることに少なからず罪悪感があったため、迷いもせず、簡潔に言ってしまう真宮桜に呆気に取られた。オレといて、真宮桜が得をすることなんてあるのだろうか。




「小さい頃神隠しに遭って、霊が見えるようになったけど特に何も変わらなくて。変化のない毎日が当たり前だと思ってたけど、六道くんと逢ってから、自分の世界が広がったというか、変わったというか」

「……不可抗力で巻き込んでるからな」

「ううん、違うの。私、今すごく毎日が楽しいんだ。驚くことや知らないことがたくさん、霊が見えるおかげで六道くんと出逢えてわかったし」

「真宮桜…」

「お弁当とか、成仏料とか、色々あるけど。一生懸命頑張ってる六道くんの手伝いをするのが結構好きなんだ、私」




こんな風に、真宮桜が話をしてくれたのは初めてだ。信頼を寄せられている、そのことが何よりも嬉しい。
その言葉に、その笑顔は反則だ。
赤くなった顔を隠すように右手で覆い、オレは少し俯いた。作りかけの造花が視界に入り、慌てて作業を再開する。




「桜さま、一緒に頑張りましょーね!」

「うん、ありがと六文ちゃん」

「ふふふ…ぼくと桜さまがいれば百人力ですよぉりんね様!」

「……ああ」




今、ここに、六文がいなかったら。
きっと真宮桜といい雰囲気になったんじゃないだろうか。…なんて、邪な考えを頭の隅に追いやり、まだ赤い顔のままそっと横顔を盗み見た。




「だけど私も、結構六道くんに頼りっぱなしなとこがあるから…おあいこ、だよね」

「え?」

「危ない時とか、校内の霊のこととか、おばけ杉とか、助けてもらってばかりで」

「いや、あれはオレの仕ご…と……」



本当はそれだけじゃない。仕事を理由にして、真宮桜にいいところを見せたかったんだ。カッコいいと思ってもらいたいという下心が、根底にはあった。
真宮桜の気を引きたくて、振り向いてもらいたくて、側にいて欲しくて。




「……?六道くん?」

「…オレが、守りたいから」

「え…?」

「お前は、オレが守りたいんだ」

「…───っ…」




十文字にも、誰にも渡したくない。誰にも傷付けさせたくない。
この想いは、嘘偽りのない本物だ。





end