あの猫のような動物に足止めされていた傭兵達が起き上がり、武器を取ってエラムに向かっていく。彼らも気付いたのだ。あれが自分達の生命を脅かすことに。ここで止めないといけないということに。
ケトルもエラムと戦っている。
あの魔術師のような女性もそうだ。
みんなが戦っている。必死に、傷付くことを恐れずに。
だから、ミーナはみんなを守りたかった。自分も何かがしたかった。
回復のための魔力を寄越せとエラムの思念が迫る。大雨のように真っ暗で苦しい重圧に耐えて飛んだ。
少しずつ、少しずつ、抵抗を試みる。エラムに魔力を渡さず、遺跡の自動修復をしないように。
無駄だとエラムの思念が嗤う。

(自分は遺跡と同期した。そしてお前も遺跡そのものになった以上、私に逆らうことはできない!)

(わたしは遺跡ではありません。ただのミーナです)

呼びかけに導かれ、ようやく祭壇へ舞い降りる。
肉体は戒めを解かれ、優しく抱きかかえられていた。

「ミーナ!!」

少年の呼び声にミーナの胸が熱くなる。思えば、この人が最初に声を聞いてくれた。ここまで来てくれた。手を取ってくれた。
目を開く。少年が驚きと安堵に声を詰まらせるのを見た。

「ケトルさん……」

やっと応えられたと思った。
少年の顔がくしゃくしゃになる。
ミーナの心がふわふわとした感情で満たされていく。

「なんだか、まだ……夢の中にいるみたいです」