「あの男は妖精郷の力を手に入れて、何をするつもりなんだろう?」
「そこまではわからないわ。……でも、どんな尊い目的を掲げようともあたしは認めないでしょうね。既に何十人も死んでるんだから」
彼女の目差しは遺跡の奥を――あの男がいる方向を見据えていた。
ケトルは身震いを覚えた。恐怖心からではない。心が昂るような感覚だった。
「さあ、これであたしの知る限りと推理できる限りを話したわ。魔力も回復したし、そろそろ行きましょう」
テロルが立ち上がり、マントを払う。その声は歌うようでもあった。
「儀式の決行は今夜という情報は掴んでいたわ。異種族の力が強まるのは満月の夜だもの。日付けが変わる時……今日と昨日と明日が混ざる瞬間に異界の扉を開くつもりね」
「魔法使いの人達ってそういうの好きだよな」
「大事なことなのよ」
マントを羽織ったテロルが髪をかき上げる。ネコモドキが意外と軽やかな動きでその頭上に飛び乗った。
躊躇いがちにケトルは口を開く。
「……あいつ、さ。ミーナに『お前が生まれた意味は自分の道具になることだ。お前はそれだけのために存在するんだ』みたいなこと言ったんだよ」
ぽつりとこぼす。
テロルが視線で先を促す。聞いていてくれることに安堵する。
「他人のことを何て思っているんだろう、許せない……って、思った。
おれも、テロルと同じ気持ちだよ。あいつの目的がなんだろうと受け入れられないと思う」
「そう」
「だからミーナを助けたい。こんなところに居させたくない。
……駄目かな?」
「いいんじゃない?」
テロルが軽く笑う。
「あたし達はエラムの計画を阻止するために。
あんたはミーナを助けるために。
戦う理由なんてそんなもんでしょ」