ミーナが筋骨隆々とした巨漢に易々と持ち上げるのをケトルは見た。大の大人よりも遥かに背が高く、腕の太さは子供の胴回りくらいある。眼光からその感情を読み取ることは出来ない。鎧に身を包み、巨大な戦斧を携えた姿は歴戦の戦士のようだった。
懸命にもがこうとするミーナの爪先が石畳を離れた。巨漢はミーナをぶら下げたままローブの男の前に進む。
ローブの男は怒りを押し殺した表情で言った。
「プリンセス……随分と手間を掛けさせてくれましたね。おとなしくしていればいいものを」
「わたしは、あなたのしようとしていることに協力する気はありません」
苦しそうにミーナが答える。
ローブの男は溜息を吐いた。
「貴女のワガママにも困ったものだ。おい、サイード。そのまま抑えておけ。逃がすなよ」
「はい」
のそりと、巨漢が首肯する。