「ネズミだと!? 魔法使い連盟の者か!? それともフェンデルク王国の間者か!?」

「知らないヨー」

「火を持って来い! 燻せ、燻せ、煙で追い立てろ!」

「落ち着いて、下さい。方角、的に、俺達が見た侵入者とは別の――」

にわかに騒然とする中、ケトルはもがくように進み、その先にあった通気孔の蓋を抉じ開け通路に飛び降りた。慣れない着地に両足が痺れる。

「でも、燻製にされるよりはマシだっ」

篝火が焚かれた通路を、ただ、走る。
不意に首の後ろにぞわりとした感覚が生じたと思うと、後方からこの場にそぐわない歓声が迫り来る。

「アハー! 見つけたヨー!」

アーモンド型の眼を愉しげに輝かせた少年が切迫。急速に距離を詰めて来る。その腰には二本の剣があった。

「人のことをネズミ呼ばわりしたのはおまえか!」

ケトルは恐怖に駆られ、よろけ、壁に手を突き――ガチッ――どこかで水の流れる音がした。