男は答えない。にやにやと下卑た笑みを浮かべるだけである。
少年がなおも質問をしようとした時、荒々しく扉が開かれた。
「オメェ遅ッせェんだよ愚図がァ! 寝てるガキ一人仕留めんのにモタモタすんじゃねェ!!」
ずかずかと足音も荒く、見るからに粗暴な男が入室してくる。暴力を振るうのが楽しくて堪らないといった顔つきで、狭い室内に構わず棍棒を無意味に振り回している。
少年と目が合うと、
「ハハッ、ハハァー!」
眼光炯々として笑う。
(新手――!)
「それが、こいつ喰ってなかったンだよッ!」
言い訳めいた調子で叫び、組み敷かれた男が身を起こそうとする。その力を利用して少年は布を解きつつ飛び退き、懐から取り出した呪符を窓に叩き付けた。
瞬間、爆音と閃光が轟き窓側の壁に大きな穴が開く。
濛々たる土埃が男二人の怒号と罵声を飲み込む中、少年は室外へと身を踊らせた。