「ちおりん、豆まきするわよ!」
「どこでだよ。まさかうちじゃねぇだろうな」
「にゅふん、あたしの家よん!」
そういうことになった。大体いつも通りである。
このパターン化に馴れないと、ふとした瞬間に「なんでオレ、土曜日の朝っぱらからルカに引っ張られて豆まきしてんだろ……?」ってなるから、感覚を麻痺させることも時には必要なんだと思う。
さてルカの家は隣である。塀の向こうでは既に豆まきが始まっているようだった。ちなみにこいつ、ひどい時はブロック塀を乗り越えてやってくることもある。
梅の香りが漂う庭に足を踏み入れると、いきなりつぶてが飛んできた。
「ぎゃははは! 油断してたべ!」
枡を片手に馬鹿笑いしているのは、ルカの弟のトビトだった。
痛くはない。大豆だし。だが腹が立つので文句のひとつでも言ってやろうとしたが、それより先にルカが動いた。
「トービートー!」
ルカが瞳を燃え上がらせ、キッとトビトを睨み付ける。
「よくも不意討ちかましてくれたわね! おかげでちおりんの盾になって『ルカ……オレを庇って……トゥンク』とかそういう展開に持ち込めなかったじゃない! やり直しを要求するわ!!」
何言ってんのこいつ……。
トビトも半歩後退りしていた。
「いっ、言ってる意味はわかんねーけど……」
「奇遇だなトビト。オレもだよ」
トビトはなんとか踏みとどまったようだった。
「姉貴が投げてほしいなら、お望み通りそうしてやんべ!」