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BHELLO WONDERLAND(銀新)


「……え?お前、泣いたの?野郎の前で泣いてたの?」
「?……え、ええ。だってごく最近まで銀さんとの悩んでて、凄く……辛かったし。でも万事屋でこっそり泣いてる訳にもいかなかったんで、買い物途中によく公園に寄って。そしたら土方さんに会って、その流れで……」

だんだんと銀さんの語気が荒くなり、まるで詰問されているような雰囲気になってきた。怖くて顔を上げられない。おずおずと顛末を語ると、いきなり両肩をぐわっと掴まれて瞠目する。相変わらず凄い馬鹿力。

「その流れェ!?おま、単なる流れで他の男の前で無防備に泣くのかよ!どんなビッチだよ、それ男を落とす時の常套手段じゃねーか!」
「へっ?……な、何を言い出すんですか!銀さんのばか!そんなんじゃないですっ!土方さんは僕が悩んでる時に側に居てくれたっていうだけです!」

銀さんの言い分は、僕にはちんぷんかんぷんだ。はっきり言って意味不明なので、僕は僕の言いたいことを声高に主張させてもらう。
でも真っ赤な顔をした僕の頑とした態度に呆れたのか、それとも諦めたのか、銀さんは僕の両肩からそっと手を外した。はああ、とやるせないため息を大仰に吐き、あとは物も言わずに晴天の空をじっと見上げている。やれやれと言わんばかりに首を振って。
いかにも僕が全部悪いかのような、僕が何も分かってないかのような、明らかに侮蔑を含んだポーズで。

……え、何で?僕って今馬鹿にされてる?何で僕、銀さんにこんな態度取られなきゃいけないの?凄くムカつきそう、てかもうムカついていいんだよね?



「……ああ、そう。もういいや。いや良くないけど、もうてめえのそういうとこは深く言及しねーよ。してもキリねえ」

銀さんのあんまりな態度にカチムカした僕の雰囲気に気付いたのか(さすが銀さんは目聡い)、銀さんはやけにきっぱりと切り捨てた。ついさっきまでぐちぐち言ってたのに、今はこの変わりよう。いつもの事なんだけど。

「でも土方クンはいいとして、いや良くはねえんだけど……高杉の前で泣いたことはねえだろうな」

もういいや、なんて言ったわりに、銀さんの目はまだ少し猜疑深い。だから僕もコクンと素直に頷いておく。

「それはないです」
「あー良かった。何かあいつも結局は同じ穴のムジナな気がすっからよォ。高杉の前で無防備に振舞ってたら、新八なんて間違いなく喰われるから」
「だからアンタはどんだけ高杉さんに対して失礼ですか!親しき中にも礼儀ありですよ!幼馴染みとは言え、信じらんない!」

僕の言葉にホッとした銀さんが、僕を指差してこれ見よがしに笑ってくる(ほんとに失礼過ぎる人だ)。でも明らかに安堵したその様子が嬉しくて、つられたように僕も自然と笑った。


「……あ、でも今まではなかったんですけど、今日だけはちょっと涙腺が緩んじゃって」

だから、これは多分素直に言うべきじゃなかった──って事も、言い出した後ではもう後の祭りなのだけども。

「……え?」

銀さんは一瞬だけ呆けたような顔をして、その後にまたあの忌々しげな雰囲気を放った。僕を怯えさせる『イラァッ』な気配。
銀さんがまた怒り出しそうなのが怖くて、知らずしらず早口になる。

「は、初めてですよ!今日が初めて!高杉さんに色々と辛いことを言われて……僕、堪えきれなくて」
「泣いたの?」

銀さんに端的に問われて、やっぱり僕はコクリと頷いた。

「うん」
「ああ……それで会った時に目ェ赤かった訳ね。高杉にいじめられて泣いちゃったんだ、お前」
「そ、そういう事になりますかね」

銀さんの物言いがまるで女の子にするような感じだったのは腑に落ちないが、僕の変化に気付いてくれていたのは素直に嬉しい。
銀さんはまたやけに長いため息を吐いて、ぶらぶらと再び歩き出した。て言うか、さっきの問答を始めてから僕らはずっと佇んだままだった。何だか二人して大人気ない……いや僕はまだ大人じゃないんだけど、二人して余裕ないなあ。



「アイツ凄え性格悪いからな。バリバリ捻くれてっし、お前のこと泣かすとか余裕だろ。くっそムカつくなあいつ、何で勝手に新八のこと泣かしてんだよ」

歩きながら、銀さんがポツリと洩らす。また高杉さんの悪口。

「だからそういう事を言ったらダメですってば!でも、高杉さんは悪くないんです。僕がもうちょっとしっかりして、毅然としてたら言い返せたし。『僕はそんな銀さんが好きですから』って……」
「って、俺の話かよ」

先ほどの話まで言い及ぶと、銀さんが急に話に食いついてきた。もう銀さんに隠し事をしていたくなくて、僕は素直に話の続きに戻る。


「うん。銀さんの話です。僕だけが銀さんの中で特別な訳じゃないって。銀さんは大切なものが沢山あるから……僕は銀さんの特別な人には絶対なれないって。だから諦めろって、高杉さんからそう言われました」

本当はもっともっと沢山高杉さんと話をしたけど、銀さんに深く話すとツッコミの山になりそうだったので、今は簡単にサラッとまとめる。むしろ詳しく話すとまた泣きそうになるから、僕はもう簡単にしか話せそうにない。

銀さんは黙ってそれを聞き、やっぱり端的に相槌を打った。

「…………そうかよ。あとは?」
「あとは……お、俺が忘れさせてやるって。銀さんのことを」
「は?……あいつが言ったの?お前に?」

思いがけず鋭い視線で食い入るように見られて、僕は顕著に狼狽える。そんな怖い目になる必要もない気もするけど、銀さんは高杉さんと喧嘩ばっかりしてる風だから仕方ないのかもしれない。

「ハイ。どういう意味かよく分からないですけど。多分……僕はまたからかわれてるんです。高杉さんったらいつも僕のことからかうし、馬鹿にするし。今度高杉さんに会った時にでも、どういう意味なのか聞いておきますね」

あ。また高杉さんに会うとか、自分で言ってしまった。もう高杉さんと会わないようにって、銀さんに口を酸っぱくしてあれほど言われてたのに。

言わなくていいことを口走ったのは、いくら僕だって分かる。けれど、ハラハラする僕とは反対に、僕の言い分を聞いていた銀さんはもう何も口出ししなかった。むしろ黙って僕の手首を引っ掴んだ。やっぱり凄い馬鹿力で。


「……お前ちょっとこっち来い」
「え?え?また!?またですか?!」

銀さんの手を振り払うことなんて、とてもじゃないけれど僕にできない。それは惚れた弱み云々なんてカワイイものじゃなく、現実的に絶対無理だ。銀さんの本気の腕力に僕が敵う筈がない。

だから物も言わずにさっきの公園まで引っ立てられ、景観のために植わっている木々の隙間に身体を押し込められても、僕はただ一つも抵抗することが出来なかった。

「銀さん……?」

固い木の幹に背中を押し付けられ、僕はドキドキしながら銀さんの顔を仰ぐ。まだ昼間なのに、緑化推進を看板でうたっている公園の木々の中は少し薄暗い。葉や枝がいい感じに目隠しになっているので、よもやさっきのように口論が始まっても誰かの目を気にする必要はなさそうだ。

でも銀さんは先ほどとは違って、今度は僕を激しく糾弾するつもりはないらしかった。


.

AHELLO WONDERLAND (銀新)






僕の家から万事屋までの、近いような遠いような帰り道。
僕は隣を歩く銀さんを眺めて、そっと囁くように言った。

「神楽ちゃん……凄い怒ってましたよね」
「ああ。うん。でもあいつも、ホッとしてたことはしてた」
「僕らの間にあった微妙な空気のこと、やっぱり神楽ちゃんも気にしてたんでしょうね」
「だな。まあガキなりに何か察してんだろ」

何故なのか言葉少なめに会話をして、僕らはぶらぶらと往来を歩いていく。ああ、こうやってごく自然にまた銀さんと居られるようになって本当に嬉しい。

ちょっと意地悪な高杉さんのことも、優しい土方さんのことも、僕の中ではやっぱり大切な人達には違いない。特に高杉さんは凄く怖い時もあるし、意地悪は意地悪に違いないけど……何だか放っておけない感じはする。変に突っ張ってるというか、あの自信満々さも見てて気持ちいいし。

でもやっぱり、僕は銀さんが特別だ。銀さんだけが、僕の特別な人。


「……なんだかんだ言っても、神楽ちゃんは優しいですからね。銀さんのこと凄い気にかけてたんですよ。僕のせいで最近の銀さんが荒れてる、って決めつけて」
「あん?俺には『銀ちゃんのせいで新八が万事屋来ない!』って怒ってたぞアイツ。ったく、神楽も調子いい奴だよな」
「ふふ。そうですね。でも良かったです、神楽ちゃんが元気出してくれて」

何でもないことを喋りつつ、僕はどこかうっとりした目で銀さんの横顔を見上げた。この角度から見上げる銀さんの顔も男っぽくてかっこいい。
僕は、こんな人が僕のことを好きって言ってくれたことが、まだ信じられない気分だった。ひょうたんから出た駒と言うか、嘘から出た誠と言うか、要はやっぱり信じられない。でも、銀さんは確かに言ってくれたんだ。
何だかさっきは銀さんの口車に乗せられて、僕だけが好き好き言いまくってた印象があるんだけど……そんなのもうどうでもいいや。


銀さんはそんな僕をどう思ったか、チラッと思わせぶりな視線をこちらに投げてから、おもむろに右手を着流しの懐に突っ込んだ。


「あー……まあな。神楽は元気になってたけど。でも俺はあんまり元気でもねーわ、てか今も軽くイラッとしてる」

「え。な、何でです?何かありました?」

けれど、突然言われた事に僕は仰天した。さっきまでののほほんとした気分は即座にぶん投げ、緊迫感を交えて咄嗟に足を止める。銀さんがまだ苛立っている理由が皆目分からない。

「何かじゃねーよ。さっき話してた時さ、お前あのマヨラーのことすっげえ庇ってたじゃねーか。あれ何?高杉の他にも何かあんの」

自分でも言うように、銀さんはやっぱり軽く怒っているみたいだ。ふわふわの天パを片手でぐしゃぐしゃっと乱雑にかき混ぜて、「つか何これ!マジ俺何!?」って自分で自分に突っ込んでいる。でも銀さんが苛立つ理由を聞いて、僕は場違いにもほんのりと嬉しくなった。頬がかああっと熱くなっていく。

だって、銀さんがこんな風に素直に僕に尋ねてくることも、こうやって他の男の人を真正面から気にすることも、本当に初めての事なんだ。今まではずっと銀さんが不機嫌だったし、僕が外出する時に声を掛けても無視される事が多かった。他の誰かに会ってる事すら気付いてなかった。
だから僕にはもう興味がなくなったんだろうと、やっぱり僕の身体しか欲しくなかったんだと、ずっと悲しく思っていたのに。


僕は堪えきれない歓びに頬を赤らめて、銀さんの着流しの袖をちょんちょんと軽く引いた。

「土方さんは……あの、言うほど何もないんですよ。最近何故かよく土方さんにお会いするんで、道端とか公園で話し込んじゃう時もあるって事くらいで」
「は?つか何で最近だよ」
「さあ?最近は江戸も物騒ですからね、真選組も警らを強化してるんじゃないですか?犯罪取り締まり強化月間みたいな」

訝しげに問われて、僕は首を傾げる。だってそれ以外で土方さんが僕に会う理由なんてあるのだろうか。真選組の副長さんが僕に出会う為にわざわざ出歩いてるなんて、どう考えてもあり得ない。

「いや何か腑に落ちねえんだけど。それで何でお前にだけちょいちょい会える訳?」

何故なのか銀さんはひどく忌々しそうな顔をする。僕の説明に到底納得がいかないのか、こちらにまで疑惑の目を投げてくるくらいだ。だから僕だって知らないですってば。



「それは分からないですけど。でも土方さんって……ふふ」
「あ?何だよ、その思い出し笑い」

でも銀さんを宥めようとした僕は、不意に土方さんのことを思い出してしまった。ふと漏らした思い出し笑いに、銀さんが目聡く反応する。ほんと、こういう時はどこかの名探偵も顔負けの鋭さ。

「別に。ただ、土方さんって可愛い人だなあって思って」

僕はまだ笑いながら、土方さんの事を思い出していた。

だって土方さんは本当に優しいんだ。すごく親身になってくれるし、それでいて変に上から目線じゃないし。煙草を逆に咥えて『リバーシブルだから平気だ』とか無茶なことを言い張ったり、すごく可愛いところもある。は、ハンサムだし。
喋ると可愛いところも優しいところも沢山あるのに、土方さんの世間の評価は結構低い。でも遠くから見たり、黙っているだけで凄く冷たく見えて近寄りがたく思うのは、それくらい土方さんの顔立ちが整っているという証だと思う。現に真選組副長という役職込みでは忙しすぎてアレだけど、女の人には凄くモテるみたいだし。

だって、あの迫力ある切れ長の端整な目で見つめられると、たとえ悪いことをしてなくとも何故かドキッとして、何だか落ち着かない気持ちになる。だから僕は、土方さんには洗いざらい心の中を話したくなってしまうのかもしれない。



(やっぱりかっこいい人ってそれだけで得だよなあ)

僕は心の中で土方さんの顔を思い出しつつ、目の前の銀さんににこっと笑いかける。でも銀さんはやはり納得がいかないようで、声を大にして言い募った。

「はああ!?あんなんがカワイイはずがあるか!おかしいから!てめえの目は節穴だよ、何のために眼鏡まで掛けてんだ!ただ単にキャラ付けのためか!?ああん!?」
「いやキャラ付けの為に掛けてる訳でも何でもねーよ!視力矯正の為だよ!……でも本当ですよ?土方さんは強面……っていうか、一見すると冷たく見える感じのハンサムな人だけど、凄く優しい人なんです。泣いてる僕にハンカチ貸してくれたりして」

何だかますます怒っている風情の銀さんには驚くけれど、僕だって負けていない。張り合うように言い返して、この間の土方さんとのエピソードをのんびりと語る。

でも銀さんは今度は怒鳴らず、ピクリと片眉を上げただけだ。

「……ハンカチ?」
「ええ。僕が銀さんとの事で悩んでた時に、そこの公園で会ったんです。その時に」

折しも通り掛かった横手の公園を指差すと、銀さんの顔がますます不快そうに歪んだ。イラァッとした気配が瞬時に流れてきたから、僕が今、何らかの銀さんの地雷を踏んだことは分かる。

けど分かったところでどうしようもないのが、いつだって世の常なんだろう。



.


HELLO WONDERLAND (銀新)

今までのまとめ

*今回から小説になってます*








「──新八!お前、どこ行ってたアルか!心配させて!単なる新八のくせにィィィ!!」

ようやく志村家に二人揃って帰った時、すぐさまに神楽ちゃんが飛んできた。

「あ、神楽ちゃん。来てくれてたの?ごめんね、えっと」

僕はしどろもどろになりながらも、少しこうべを垂れて神楽ちゃんに目線を合わせる。僕をじいっと見つめる、大きな空色の瞳。
神楽ちゃんがこうやって心配して自宅にまで来てくれた事が、とても嬉しい。でも嬉しい反面、神楽ちゃんを不安にさせていた僕と銀さんは些か複雑な心境だ。

だから隣に立っていた銀さんと、物も言わず目配せをし合った僕だけれども。

「ねえ、もう嫌になったアルか?いよいよ銀ちゃんとの関係をキレイさっぱり解消したくなったアルか?何て言うんだヨ、こういうの。ち……痴情のもつれ?」
「いや何か止めて、めちゃくちゃ誤解招きそうな物言い止めてェェェェェ!?てか神楽ちゃんは具体的な何かを知ってるの?!そんな難しい言葉をどこで仕入れてくるの!」

大きな瞳でぱちぱちと忙しなく瞬きして、大慌てで問いかけてくる神楽ちゃんを前に、僕はすぐひっくり返りそうになった。本当に神楽ちゃんは変なところでひどく鋭い。変化球だったり直球だったりと打点の位置はブレるけど、僕の状況をこうやって察してくるあたりがさすがに女の子。


でも、僕らがギャーギャーと言い争っているうちに、するすると淑やかな衣擦れの音が聞こえてくる。僕もよく知っている、むしろ耳に馴染んでいる、穏やかな時の姉上の足音と共に(繰り返す、穏やかな時の)。

「まあまあ、新ちゃん。おかえりなさい。本当にどこ行ってたの?」

玄関の上がり框に立った姉上は、おっとりと小首を傾げている。

「昨日から様子がおかしかったし……神楽ちゃんも銀さんも、本当に心配してたんだから」

『もちろん私もね?』と重ねた後に、姉上は神楽ちゃんを見、銀さんを一瞥して……最後には僕を見た。何だか思わせ振りな視線に僕は少しドキッとして、咄嗟に隣の銀さんを見上げてしまう。

「えっ。神楽ちゃんだけじゃなくて……銀さんも?」
「ふふ。そうよ。新ちゃんがここにも万事屋にも居ないって分かった時の銀さんの慌てようったらなかったわ。『俺が探しに行ってくる!』って慌てて走って出て行って……まあ、何か後ろ暗いような心当たりがあるんでしょうけどね。銀さんには」

僕の質問に答えた姉上が、引き続きおっとりと笑う。銀さんの慌てぶりから何かを推察しているあたりは、さすが姉上としか言いようがない。弟として敬意を払う……と言うかむしろ感服。
でも如何せん、その内容を聞いた銀さんは到底おっとりとはしていられないようだった。

「おいィィィィィィ!!何ですかお前ら、さっきから聞いてれば寄ってたかって俺のことをチクチクと!ソーイングセットかてめーら、もしくは小姑か!神楽も神楽だよ!?姉ちゃんも姉ちゃんだよ!」
「いえ、私は銀さんの姉になったつもりも、小姑になったつもりもないんですけど。止めてもらえますか、神楽ちゃんに続けとばかりに我が物顔で」

神楽ちゃんと姉上の両名に大声でツッコむ銀さんをよそに、当の姉上はいたって涼しい顔をして笑っている。花が綻ぶようににっこり笑って辛辣な事を言う顔は、姉上が美人だからこそ……えっと、その、怖いかも。

「あ、姉上。あのですね、」
「あーあー、もういいや。もうお前らの話はいいや。銀さん腹一杯だからね、色々」

けれど、僕が銀さんを庇うより先に、銀さんの方が話を切り上げてしまった。ぱっぱと手を払って、強引に場を仕切る。そして、やにわに神楽ちゃんを呼んだ。

「神楽」
「ん。何アル?銀ちゃん」

大きな瞳をくるっと回して、神楽ちゃんは銀さんを振り返る。

「お前今日ここに泊めてもらえ」
「ええー!?何で?じゃあお前らはどうするネ、また二人でツイスターゲームやったっていまいち盛り上がんないアルヨ!」

でも銀さんから突然言われた事には不満があるらしく、とても分かりやすくぶすくれた顔になった。頬を膨らませて、僕と銀さんの顔を交互に見ている。
しかしながら昨日に引き続き、ツイスターゲームという発想が咄嗟に出てくる神楽ちゃんの才気には舌を捲く僕だ。いやアホはアホだろうけども、神楽ちゃんの発想力は凄くないか。この娘は本当に天才かもしれない。

まあ、無理な体勢で手足をバタつかせたり、プレイヤー同士の身体が交差して必死になるあたり……昨日のアレはツイスターゲームに酷似している気がする。いや限りなくアホな発想なんだけど。


「バカ神楽。盛り上がんだよ、ある意味ツイスターゲームは二人っきりの方が盛り上がる」

銀さんはそんな神楽ちゃんの額を軽くデコピンする。もちろん、さっき僕に仕掛けてきた時よりずっと優しい仕草で。

「どういう事アルか、銀ちゃん」
「だからそれはな、」

神楽ちゃんをちょいちょいと手招きした銀さんが、ゴニョゴニョと何かを彼女の耳に吹き込む……前に、ハッと気付いた僕はその不穏げな空気に勘付いた。

「って、銀さんんんんんん!!神楽ちゃんに何かおかしな事を吹き込まないでください!」
「えー。ハイハイ」

ツッコミで銀さんの言葉を遮って、僕は大きく息を吐く。
あっぶない。銀さんったら、何を言うつもりだったんだろう。本当に悪ノリの塊のような人だからな、基本。

神楽ちゃんの教えて攻撃を物理的にかわしている銀さんは(具体的には、腕を振り回している神楽ちゃんの頭を片手で押さえてる)、今度は姉上に向き直った。僕を一瞬だけチラッと見てから、人差し指でぽりぽりと頬を掻く。

「つー訳で悪ィんだけど、マジで神楽のこと一晩面倒見てやってくんね?新八と二人で話してェ事があっからよ」
「ええ。私はもちろんいいですけど……神楽ちゃんはいいの?」

先程とは打って変わって銀さんの声音が真剣なことに気付いたのか、姉上も神妙な顔でコクリと頷く。
姉上に促された神楽ちゃんは、本当にしぶしぶと言った様子で銀さんを見上げていた。唇をひん曲げて不満げな表情全開なのに、片手では銀さんの着流しをひしと掴んで。

「うー……仕方ないアル。酢昆布十箱で手を打つネ。でも、それでお前ら仲直りできるアルか?銀ちゃん……もう怖くなんない?」

そのまっすぐな言葉に、僕は胸を衝かれたような感覚を味わった。じんわりと胸を満たす愛しい気持ちがこみ上げてきて、神楽ちゃんに申し訳なくてたまらなくなる。

ああ、そうだ。僕だけじゃなく、神楽ちゃんもずっと銀さんの事を気にしてたんだ。銀さんの荒んだ雰囲気が怖くて、いつものように銀さんに甘えられなくて、遊んでもらえなくて……神楽ちゃんも、ずっとずっと我慢してたんだ。
長らく僕と銀さんの間に横たわっていた、よそよそしいような、どこか他人行儀な微妙な距離。それを万事屋の一員である神楽ちゃんが、気にしていないはずがなかったのに。


「ああ、神楽ちゃんも銀さんのことはずっと気にしてたもんね。本当にごめんね。僕らのことで悩ませて……ほら、銀さんも謝って!」

僕は真摯に神楽ちゃんに謝りつつ、一方では銀さんには厳しい目を向けた。僕から催促された銀さんはキョロキョロと視線を彷徨わせ、どこか困ったような顔でやっぱり頭を掻いている。

「あ?……あー、何かその、ほら、アレだよ。アレ。な、神楽。分かるよな」
「だからアレじゃ分かんないアル。ほんとマダオアルな銀ちゃん、素直にごめんねも言えないなんて。モテないアルヨ、そんなんだと」

けどブツブツと吐き出されてきたお為ごかしの言葉に、簡単にOKを出すなら神楽ちゃんじゃない。平然とマダオ呼ばわりされた銀さんはいよいよガリガリ頭を掻いた。感極まったように叫ぶ。

「だああ!!だから悪かったって!俺もほら……考え事ばっかしてて凄え煮詰まってたから!イライラしちまって……ごめん」

銀さんの『ごめん』は、天邪鬼な銀さんらしく凄く小さな声だった。でも神楽ちゃんには届いたようで、次の瞬間にはもう神楽ちゃんは銀さんの胸にはっしと飛びついていた。まるで仔兎のように。

「ぎ、銀ちゃんすっごい怖い時あったんだからネ!!話しかけ辛くて、そういう時は新八としか話せなかったんだから!単なる銀ちゃんのくせに、何で私にまで心配掛けるネ!!ばか!銀ちゃんのばかばか!!」

銀さんの胸に縋りながら、神楽ちゃんはわあわあと言い募る。ポカポカどころか、最早ドカドカの勢いで銀さんにボディブローを喰らわせている(あの、神楽ちゃん)。でもその声には隠しようもない嬉しさと安堵が滲んでいるから、銀さんも甘んじて神楽ちゃんの拳を受け止めていた。

そして想いがこもった拳をドカドカと受けながら、ポツリと一言呟いた。

「……悪かったな。神楽」

呟いて、神楽ちゃんを抱き寄せる。大きな手でぽんぽんと優しく頭を叩かれて、ようやく神楽ちゃんの機嫌は治ってきたみたいだ。こくこく頷いて、ぐりぐりと銀さんの胸に頭を擦り付けている。

神楽ちゃん、ずっとこうやって銀さんに甘えたかったんだな。神楽ちゃんは銀さんが大好きだからな。……僕もだけど。

「神楽ちゃん……銀さん」

まるで本当の親子のようにも見えてくる二人を微笑ましく思って、僕も柔らかに笑った。よかった。これで神楽ちゃんの不安も解消されたらいいな。
バツが悪そうな顔をしていてもしっかりと神楽ちゃんを抱き寄せている銀さんと、嬉しげな顔で銀さんを見上げている神楽ちゃんは、やっぱり二人とも僕の大事な家族なんだから。


……しかしながら、微笑ましい仲直りの光景もそれはそれ。やっぱり最後はいつだって『うちの神楽ちゃん』クオリティーなのだった。


「銀ちゃんのばか……新八もばか!もう仮面夫婦みたいな、子供を通じてお互いにやり取りするみたいな、結果論として二人の雰囲気の悪さにあてられた私が一番気まずいみたいな、そういうの止めろヨ。お前らの喧嘩に巻き込まれるとか、絶対、絶対にもうやだかんな!」

ケッ、とばかりに吐き出されてきた語句の数々に、僕と銀さんが絶句したのは言うまでもない。散々の絶句の後、綺麗に揃ったツッコミを二人でぶちかましたことも。


「「だからどこまで知ってんの神楽ちゃんんんんんんんん!!」」




.

初恋中毒 (銀新まとめ)

『セフレ的な関係に新八くん側が耐えきれずに一回別れた銀新なんだけど、なんやかんやで色々あって銀さんが自分の気持ちをようやく自覚したり切羽詰まってたり常時煮詰まっていたり、その間にも新八くんが高杉さんと仲良くなったり土方さんにときめいていたり、でもやはりなんやかんやで雨降って地固まる方向に銀さんに無理やり持って行かれ、間男問題とか勘違いとか色々ありつつも結局はいつものように絶対的にラブラブになってしまう銀さんと新八くんのリリカルドリーミング☆ラブロマンス(仮)』


クソ長い仮タイトル改め、
本命タイトル『初恋中毒』にします。いや、別に仮タイトルもふざけてなかったんです(それもどうだよ)




*いい加減長くなったので一挙まとめ*

1.ないものねだり
2.なんでもねだり
3.恋の寿命
4.Boo!
5.悲しくなる前に
6.雫に恋して
7.mist...
8.Amist...
9.Dracula La
10.ADracula La
11.INCUBUS
12.AINCUBUS
13.猟奇的なキスを私にして
14.A猟奇的なキスを私にして
15.ROCK ME BABY
16.AROCK ME BABY
17.いいから
18.Aいいから
19.HELLO WONDERLAND
20.AHELLO WONDERLAND
21.BHELLO WONDERLAND
22.CHELLO WONDERLAND
23.DHELLO WONDERLAND
24.EHELLO WONDERLAND
25.FHELLO WONDERLAND
26.GHELLO WONDERLAND
27.HHELLO WONDERLAND
28.IHELLO WONDERLAND
29.[11]HELLO WONDERLAND
30.[12]HELLO WONDERLAND
31.[13]HELLO WONDERLAND
32.[14]HELLO WONDERLAND
33.[15]HELLO WONDERLAND
34.[16]HELLO WONDERLAND
35.[17]HELLO WONDERLAND
36.初恋中毒
37.A初恋中毒
38.B初恋中毒
39.C初恋中毒




*本編沿いストーリー*

閑話休題@土方さん+新八くん
閑話休題A土方さん→新八くん
閑話休題B沖田くん+新八くん
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