*続きました*
「銀さんは……多情なんですか」
そのうちに、涙で赤くなった目を晋助に向ける新八くん。晋助は悠然と煙管をふかして、そんな新八くんの手首をぐっと強く掴む。
「野郎ほど多情な男も居ねえだろう。あいつはどこにでも心を置いてる。なんでもかんでも背負い込み、しまいには全ての業も自分一人で片付けようとする。……俺とは違う」
「そ……そうですか。高杉さんとは違いますか」
「俺ァ銀時ほど欲張ってねえ。俺が欲しいものなんざ、いつだってひとつしかねえ。だから……それを手に入れるためなら何でもする」
言い切った高杉さんに射るように強く見つめられ、何故なのか新八くんの鼓動はどきっと乱れます。
その視線の鋭さ。怖いのに目を離せない、その強さ。一切の迷いのなさ。新八くんは凄くどきまぎして、思わずかあっと赤らんだ頬を背ける。何故かドキドキして、あまり高杉さんの顔を見れない。
だって高杉さんはすごく傲慢だし自分勝手だけど、そうやって自分の意思を曲げずに遂行していく強さがあるんです。何にも屈しない心がある。そしてやり遂げてしまう力もある。
新八くんは晋助のそんなところを、やっぱり羨ましく思うんです。素直に感嘆の吐息を漏らしております。高杉さんの元に人が集まるのも分かる気がして。
「高杉さん……の、そういうところって、本当に凄いですね。かっこよくて……何か真似できないって言うか」
「てめえ如きに俺の真似ができるはずがあるか。まず決定的に頭が足りねェ(ふう)」
「だ、だからどんだけ僕のことをばかにするの!?いい加減にしてください!(プンプン)」
でも怒りに任せて、ようやくここで晋助の目を見返した新八くんは、ますます心臓を大きく弾ませることになっちゃう。
だって今の高杉さんの目に浮かぶのは、いつものからかうような、小馬鹿にする時のようなものじゃない。新八くんを今見つめる右目は、鋭いのに甘いような蠱惑的な含みがある。
「でも、あの……銀さんにもやっぱり似てますよ。高杉さんは」
だからね、新八くんは囁くように言った。だってそんな目を銀さんもしてる時があるもん。
どこか怖いような、それでいて目が離せないような。肉食の獣が目の前の獲物に照準を合わせている時のように鋭く、油断がなく、だから決して逃げられない強い視線。
でも怖いのに、新八くんは何故なのかドキドキさせられてしまう。銀さんに嫌というほど男の味を仕込まれている新八くんなので、高杉さんの醸し出すこの手の気配にも敏感なのです。
「だって……だって、銀さんもそういう目をしてる時がありますもん。あの、今の高杉さんみたいな……」
「ほう。なら俺にも惚れてみるか?(ニヤリ)」
「はっ!?ほ、惚れっ!?……な、ないです、絶対ないです!何でそこに飛躍するの!」
でも首を僅かに傾けた晋助からそんなことを囁かれたら、新八くんは真っ赤になって戸惑う。だって、何だか今の高杉さんの雰囲気はいつもと絶対違う。
思い違いだろうけど、女の人を口説いてるような、どこか甘い雰囲気になってきたような気がしなくもない(そして思い違いではない)
新八くんはそんな高杉さんを不思議に思って、
「(高杉さん、どうしたんだろう……こんな昼間から酔ってるのかな?)」
って思うけど、別に晋助は酔ってないんで。全く酔ってないです、ただ新八くんを口説いてるだけです(晋助)
「あの……えっと、さっきから近くないですか?もうちょっと離れても話せますけど。むしろ離れた方が上手く話せます(たじたじ)」
新八くんはさり気なくお尻をずらして逃げようとするけど、そうやってずれるたびに晋助も少しずつ迫ってくるので、じりじりじりじり追い詰められてますので、新八くんもたじたじです。手首も絶対離してもらえないから、恋人同士のようなこの距離も崩せないし。
そして、どことなくぎらついているような、こんな気配を新八くんは既に知っている。まるで肉食獣の前に放り投げられた肉塊になったかのようなこの危機感を、新八くんは既に知ってます(的確)。
昨日の銀さんも同じ気配でしたもの。昨日無理やり迫ってきた銀さんも、今の高杉さんのような雰囲気だった。
「(どうしよう。今の高杉さんは……少し怖い)」
って思ってる新八くん萌える〜。晋助も結局は銀さんと同じように怖がられております(同じ穴のムジナ)。
でも新八くんは高杉さんから目が離せないね。
その右の瞳。まるで翡翠が沈められたかのような色をしているその瞳はどこか妖しく、でも美しく。誰もかれもがたちどころに言うことを聞かされてしまうような、その翡翠色の瞳に見つめられれば、まるで金縛りにかかったかのように新八くんは目が離せない。
凄く綺麗で、でも物凄く獰猛。自由で気ままで、決して誰のものにもならない。新八くんはそんな獣を、高杉さんの他にもう一匹知っております(銀さんです)
「……高杉さん?」
沈黙が続くことに焦れて呼びかけるけど、晋助はやっぱり何も言ってくれない。でもスッと手を上げたことに反応すれば、高杉さんのもう片方の手は新八くんの目元に添えられてね。睫毛についていた涙の一雫を、長い指がそっと掬って。
「……あ……」
その指が口元に運ばれ、高杉さんの赤い舌がちらりとその雫を舐めとったのを見て、新八くんはやっぱりひどく赤面する。別にキスされた訳でも何でもないけど、恥ずかしくてたまらなくて。
新八くんの涙を舐めた高杉さんは、ふっと薄く笑った。どことなく隠微な顔で。
しかし晋助っていっつも余計なことばっかり言ってますけど、こんな時だけ黙っているというね。口説くのに慣れてんの?(明らかに慣れてますよ)
「た、高杉さん?!あの!ちょ、あのォ?!」(パニック)(赤面です)
もう新八くんの鼓動の高鳴りは最高潮。何が言いたいんだかね、もう分かりませんね。そしてもう高杉さんの顔を見てもいられずに顔を逸らす……んだけど、耳元にそうっと近付いてくる高杉さんの唇からは逃れられない。
「いくらてめえだって、誰かの“特別”になりてェだろう?」
高杉さんの囁きはまるで甘い毒。耳から入って脳髄にゆっくり浸透し、甘くじわじわと絡め取っていく。新八くんの意識を内側から侵していく。
「……うん。なりたい……です。僕、銀さんの特別になりたい……」
耳元で囁かれた言葉に、どこかぼんやりした目線で頷く新八くん。何たってそれをずっと願ってますからね。銀さんに愛して欲しいって。
けど高杉さんは酷薄な言葉を重ねて。
「生憎だが、お前と違って銀時はお前だけが欲しい訳じゃねえ。想像してみろ。お前を抱いた手で他の女も抱いてるところをな」
「!!……そ、想像したくないです」
「元々女好きな野郎だ。てめえ一人を囲ってて満足する訳がねェだろうが」
「そ、それでも僕……銀さんが好き。銀さんが好きなんです……銀さんしか、」
高杉さんの言葉に新八くんはまたも涙腺が緩んじゃう。早くもぐすぐす言ってます。そんな新八くんを憐れむような目で見つめ(ポーズですね)(ポーズかよ)、新八くんの手首を掴んだ手をするりと上にスライドさせる高杉さん。
あ、いやらしげな動きで(細かい指定)
「てめえは本当に頭が弱えなァ。その割に強情だが……もう諦めろ。てめえの執着はその内に銀時を離れさせる」
お前の依存心が銀時をその内嫌にさせる、と優しくも残酷な声に囁かれ、新八くんはまた涙が溢れてくる。とても悲しくて、でも銀さんのことを諦めるなんてできるはずがなくて。
「でも……あ、諦められな、い………僕、僕……銀さんのことが、」
えぐえぐと嗚咽を洩らす新八くんの滑らかな頬を触り、その手に柔らかく手を重ね、高杉さんはさらに囁きます。
「俺がちゃんと忘れさせてやる。それとも……これ以上そんな泣き顔でいてェか?」
「ひっ、う、うぅ……い、いや……嫌ぁ……」
「かわいそうになァ。てめえの泣き顔は……たまらねえ」
──って、泣いてる新八くんを見つめる晋助がめっちゃ獰猛な目つきじゃんんんん!!もう大好き!美味しそうな獲物を前に舌舐めずりしてる獣でしかないんだもん!かわいそうに、なんて口だけ!最後の『たまらねえ』が真実!(晋助)
ほんとにね、肩を震わせてえぐえぐ泣いてるかわいい新八くんなんてね、この高杉さんにかかれば完全なるお持ち帰り対象です。数時間後には裸の肩を抱かれ、布団に横たわってる対象です。そして晋助は寝煙管でドヤ顔(もう食った後かい)
でも新八くんはひどく混乱しているので、そんな高杉さんの残酷な才気には気付けない。「俺が忘れさせてやる」なぁんて、さらっと口説かれた事にも気付いてないなあ。
そんな劣情を向けられている事にもね。
「俺が今欲しいものを教えてやろうか」
「高杉さん……?」
だから、頬を滑った高杉さんの手がおもむろに顎にかかり、くいと持ち上げられた事に新八くんは僅かに動揺。まるでキスされるような角度に混乱して、
「え?や……やめ、」
高杉さんの胸を軽く押し返すけど、新八くんの力でどうにかなるもんではない。その事に気付き、さらに慌てる新八くん。
新八くんから見た高杉さんは銀さんよか上背がないから深く考えてなかったけど、晋助なんて新八くんよか5キロは重いからね。それつまり筋肉で重いので。
軽く押し返した高杉さんの胸なんてね、硬い胸板の感覚がはっきりありますよ。細身に見せかけても以外と身体の厚みあるしね。つまり新八くんの目の前にあるのは、自分よりずっと完成された大人の男の肉体な訳だ。
新八くんはその事に初めて気付いたかのように動揺。
でも気付いてなかったっつーか、あくまでも自分にこういう事をしてくる男の人は銀さんとしか考えてなかったんだろうな。対銀さんでしか、キスもその先も想像してない。銀さんしか僕のことをそういう風に見ないだろうと。
そんなことないけども。
「へっ?……あ、あの、ちょっと!?」
慌てるけど、絶対に晋助は新八くんを離してくれない。まるで本当にくちづけられそうなほど引き寄せられて、新八くんは慌てる。
「(うそ!いや……)」
嫌がる素振りでも、多分押さえ込まれたら抵抗できないことははっきり分かる。自分が抗い切れる訳はない。しかし慌てまくってるし相手は高杉さんだし、新八くんが咄嗟に上手いことなんて言えないんですよ。
だから混乱を極めた新八くんが無意識に口走った言葉は、たったひとつだけだった。
「──銀さん!!」
「新八ィィィィィィ!!!!」
って、やっぱり来んのかよ銀さんんんん!!凄い勢いじゃねーか銀さん!普段の怠慢さが今だけは嘘のようだよ銀さん!嫁のピンチには絶対に駆け付けてくるよこの男、新八くんセコムとは銀さんのことだよ!!どんだけ愛詰まってんの!?
土煙立つ勢いで猛然と走り寄ってきますのでね、ええ。銀さんってば鬼の形相で自然と木刀抜いてますので。
*とりあえずまだ続くんだけど切ります*
しっかし悪役な晋助は大変萌えるな。もう大好きすぎてね。凄く素敵に立ち回ってくれそう〜晋助だもん!全幅の信頼。