*長くなっててごめんなさい*
1.ないものねだり
2.なんでもねだり
3.恋の寿命
4.Boo!
5.悲しくなる前に
6.雫に恋して
7.mist...
8.Amist...



そんな訳でして、新八くんは銀さんとのいざこざ、つか銀さんに危うく犯られかけた翌日は万事屋に出勤して来なかったんです。いや当たり前なんですけど。銀さんとどんな顔して会えばいいのか分からなかったんです。
けれど新八くんのことだから、無断欠勤とかできるはずない。だから朝になって万事屋には電話を掛けて、電話に出た相手が神楽ちゃんだったことには心底ホッとした新八くんです。


『ふぁーい。もしもし。万事屋ヨ〜(むにゃむにゃ)』
『あ、神楽ちゃん?よかった……おはよう(ホッ)』
『んにゃ?お前、新八アルか?新八ィ、お前昨日どーしたんだヨ、何で急に帰ったアル?昨日は銀ちゃんもおかしかったネ。この世の不条理を一気に抱え込んだような顔してたアル。イライラしててバカみたい、どっかの女にフラれてきたぐらいであんなんなってたらキリないのに』(←決めつけ)
『不条理?ふ、フラれ?あ……そう。そうなんだ……(何となく察し)』

『新八帰ってから私一人で銀ちゃんの面倒見てたアルヨ。お前も銀ちゃんもほんと困ったもんアル』
『えっと……ごめんね、昨日は急に帰って。今日も具合悪いから一日休むね。銀さんにも伝えておいて』
『具合?新八、どっか悪いの?銀ちゃんに代わる?銀ちゃんと話す?まだ寝てるけど、叩き起こして来てやってもいいアル。……おーい、銀ちゃああああん!!新八から電話ー!起きてー!!(既に大声で呼んでる)』(←受話器は押さえましょう)
『はっ!!??いや、その、銀さんはいいよ、銀さんには代わらなくていいから!!とりあえずごめん、もう電話切るねっ!!』

プツッ。ツーツー。
新八くんらしくなく、電話もガチャ切りですよ。だって新八くん、どうしても銀さんとは話せなかったのです。そしてあまりに屈託のない神楽ちゃんに、銀さんと自分との間に漂う微妙な雰囲気にムカムカしているであろう神楽ちゃんに、これ以上嘘を重ねることも心苦しかったのです。

そしてところ変わり、万事屋。神楽ちゃんの大声で叩き起こされ、銀さん凄え不機嫌そう。低血圧MAXで寝巻きの腹をボリボリと掻きながら、居間にのっそり現れます。

「あー頭痛え……くっそ、昨夜呑み過ぎた。てか何だよ神楽の奴、朝っぱらからうるせーんだよ。下のババアから苦情来たらどーすんだ、また家賃払えとか言われっぞオイ」

いつも通りの二日酔いでしたっていう(銀さん)。

でも仕方ないのですよ、昨日はあと少し、あと小一時間も神楽ちゃんの帰りがズレていたらば、確実に新八くんと何かしてた訳ですからね。物凄いひっさびさにあの身体を抱いてた訳ですから、何だかんだ嫌がっていてもアレは絶対にヤれたって、新八だってしまいにはアンアン言ってた筈だってと、そしたらぐちゃぐちゃのとろっとろに……って、そんな妄想ばかりが昨夜は頭を駆け巡ってた訳ですからね、銀さんだってもう酒でも呑んで辛い現実を紛らわすしかできなかったんですよ。

さらには外に呑みに行くのももう面倒くさいので一人宅飲みで、しかも所々で、

「あああ、くそっ!俺いくつだっつの!?中坊か俺!」

とか、

「ふざけんなよ、何で俺だけが我慢だよ?我慢大会かよ、慣れてねーのによォォォ」

とか、一人酒の合間にブツブツ言ってますからね、ワンカップ片手に愚痴ってますので、そりゃあ押入れから顔を覗かせたおねむの神楽ちゃんにも、

「銀ちゃんうるさいっ!!たかだか女の一人にフラれたくらいで黙って酒も呑めないアルか!そんなんなら外に行ってマダオあたりと呑んで来い!!」

などとね、ちょいちょい罵られてますよ(お父さん)。これは完全にどっかの女に失恋してきたのだと、どっかの女に乗っかれなかった鬱憤アルなと、そんな風にのっけから決め付けられてますよ(だから鋭いよ神楽ちゃん)。

だから銀さんも今朝は機嫌悪いんだけどね。その上神楽ちゃんに、

「あ、銀ちゃん起きてきた。何か新八ネ、今日も具合悪いって。休む言ってたアル」

と告げられた時はさらに機嫌悪くなり、

「は?……何で?」(一段低い声)

みたいな。より一層の気怠さとイライラが増しました。

「さあ?何でって言われても、新八理由言わなかったアル。あ、具合悪いとか何とか言ってたような気もする」
「あ?具合?嘘つけオイ、絶対ェ仮病だろ。……何で電話俺に代わんなかったんだよ、神楽」(ますます低い声)
「だから知らないアル。銀ちゃんにも電話代わらなくていいって新八言ってたもん。てか銀ちゃんめんどくさいアル(心から)」
「(プチッ)……はああ?!何で新八の分際で仕事休んでんだよ!?生理休暇か!仕事なめてんのかあいつは!(イライラ)」(←だからその発想がおかしいってば)

「仕事どころか、人生なめきってる銀ちゃんにだけは誰も言われたくないアルな。……ねー銀ちゃん、新八に変なこと言ってないよネ?何か万事屋に来にくいようなこと、してないよネ?(じー)」(←神楽ちゃんも大概新八くんっ子です)
「はっ!?……し、してねーよ!何だよ変なことって!すすすする訳ねーだろ、てめ、ふざけんな神楽!」

神楽ちゃんは訝しげに銀さんに視線投げております。てかこの前新八くんに聞いた内容そのままを反転し、今度は銀さんに聞いてるだけなの。でも新八くんと違い、思い当たりのある銀さんは凄え動揺。目線なんて右往左往しっぱなし。
けども、

「(銀ちゃんだから素直に言う筈ないアル)」

って神楽ちゃんも分かってますので、そうやって察してあげられる点はさすが女の子だし、銀さんよかある意味全然大人ですので、そこまで深くは追求せず。あとは適当に自分で用意してきた卵かけご飯をかっ込みながら、もぐもぐと忙しなく口を動かしてます。

「新八ね、昨日帰った時も変だったアルヨ。慌ててたし……私、心配だから今日は新八ん家行ってくるネ。銀ちゃんは?」
「は?何がだよ(むすっ)」

銀さんは当然まだ不機嫌。すんげえむすっとして、ソファに荒っぽく腰を下ろす。そんな銀さんをじいっと大きなお目目で見つめる神楽ちゃん。

「銀ちゃんは行かないの?新八、会わなくていいアルか?」
「ああ?行く筈ねーだろ、てめーだけ行って来い。何で俺が新八なんか(ペッ)」
「うん。じゃあ私と定春だけ行ってくるアル」


でも素直に頷いて、もぐもぐと良い子にご飯をかっ食らってる神楽ちゃんの様子を見てるうちに、銀さんはソファの上でだんだんもぞもぞしてくる。座りが悪くなってくる。視線がキョロキョロし始める。そのうちにぽりぽりと頬掻いてる。

「……。……オイ、神楽。あー……あの、さ(チラッ)」
「何アルか。私忙しいネ。ご飯食べたら新八んとこ行くもん(もぐもぐ)」
「だからホラ……あのよォ、ほら、アレじゃん?アレっつーか……アレだろ?」
「アレじゃ分かんないアル」
「だーかーらァァァ……お、俺も新八の顔見に行ってやってもいいかな?みたいな〜。お前だけだと心配だしィ?みたいな〜……(ごにょごにょ)」
「別にいいアル、銀ちゃんはどっか行ってて。めんどくさいから私にもう話しかけないで(蔑んだ瞳)」
「てめっ神楽コノヤロー!!誰のおかげで大きくなったと思ってんだ!俺も行くっつってんだよ!(ガシャン)」


っておい、銀さんすげー天邪鬼!どんだけですかね、神楽ちゃんにまで素直になれないなんて。でもそうやってギャーギャー言い合ううちに朝ご飯も終わり、二人と一匹で志村家に行ったのですよ。むしろ駆けつけた勢い。
そしたらね、お妙ちゃんが玄関に出てきて。

「え?新ちゃん?万事屋に行ってないんですか?確か……今朝もいつも通りの時間に出てましたけど」

って。凄く不思議そうな顔で小首を傾げてたんです。つまり新八くんはお妙ちゃんには何も言わずに、あくまでもいつも通りに出勤する風を装ってどこかに行っちゃったんです。律儀にも万事屋には電話を掛けて休みを伝え、しかし家にも居にくいからどこかに一人で行ったという(新八くんらしい)。

もちろん、この事実を知った時の銀さんのムカつきようと言ったら。

銀さん「はあああ?!新八のやつ、万事屋来てねーぞ!家にも居ねえ、万事屋にも来てねえ、マジどうなってんだアイツ!」
お妙ちゃん「変ですねえ。どうしたのかしら、新ちゃん。昨日も何か塞ぎこんでたみたいで、お夕飯もろくに食べなかったんですよ(おっとり)」
神楽ちゃん「ねえアネゴ、新八何も言ってなかった?銀ちゃんに何か言われたとか、銀ちゃんに何かされたとか、チクってなかったアルか?」
銀さん「いやいや待って、あの、神楽ちゃん?おかしくねーか、何で俺が悪いこと前提なの」

お妙ちゃん「ええ。そうなのよ神楽ちゃん、私には何も言ってくれなくて……でも新ちゃんもあれかしらね?お給料もくれない銀さんにはそろそろ愛想が、(チラッ)」
銀さん「……。さーて、帰ろっか神楽(くるっ)」


何か皆して薄々分かってんじゃん。お妙ちゃんも神楽ちゃんも、銀さんのせいで新八くんがずる休みした事に気付いてんじゃん!でも銀さんそれに全力で気づかないフリじゃん、全力で知らぬ存ぜぬを決行じゃん、ほんと何ですかねこの男は好き!(着地点)
でも新八くんは志村家にも居ないし、万事屋にも当然来てないし、銀さんは内心ですごく不安ですよ。塞ぎこんでたっていうお妙ちゃんの証言もあるし、ご飯も喉を通らない様子の新八くんのことが、とにかく心配になっちゃう。


「(やっべ。昨日のアレ……新八の奴、やっぱ怒ってんのかな。まあさすがにいくら新八でも怒るか。それで俺とも顔合わせ辛くなったんだろうな)」

だから同じく心配げな神楽ちゃんを志村家に残し、

「オイ、俺ちょっと新八のこと探してくる。てめえはお妙とここに残ってろ、神楽」
「えっ?嫌アル!私も行く!!」
「いいって、もし俺が見つけられなかったら自動的に新八もここ帰ってくんだろ!その時のためだから!」

いやいや言って暴れる神楽ちゃんをお妙ちゃんに託して、もう居ても立っても居られず、一人で猛ダッシュで志村家を出て行くのでした。
でも『もし俺が見つけられなかったら〜』とか神楽ちゃんには言い訳しつつ、

「(俺が新八のこと見つけられねえ訳ねーよ)」

って銀さんは確信してるけどね。絶対見つかるし、俺なら見つけられる。俺と新八だから。もし俺が見つけられなかったら他の誰にも無理だから。

……って、あの、愛ですか?(愛です)
すごく新八くんが好きなのだと、新八くんの存在が大切なのだと、銀さんはこの時ほど強く実感した事もなかったです。




一方、その頃の新八くんは。

「はあ……」

土手で膝を抱え、一人で流れる川をみながら黄昏てました(まだ陽も高いけど)。何となく万事屋に行きたくなくて、でも自宅にも居られなくて、ここに来てしまった。銀さんにも会い辛いし。
仕事をずる休みしてしまったし、神楽ちゃんにも姉上にも心配させてしまったことを悪く思いつつ、昨日のことを考えると一気に頬が熱くなり、一人でかああっと顔を紅潮させてる新八くん。

「(だいたい昨日のは何なの!?僕は銀さんとちゃんと話したかったのに……あんな……)」

昨日のことを思い出すと恥ずかしくて恥ずかしくて仕方ない。でもどこか切羽詰まったような、余裕の全くなかった昨日の銀さんを思い出すと……何故なのか、胸がぎゅうってなる。余裕なさげに自分を欲しがっていたあの態度。凄く不機嫌で凄く怖くて、でも一方では不貞腐れてるただの子供のようにも見えて。
まるで銀さんのもののように扱われてすごく嫌だったのに、あの大きな手のひらが自分の身体をなぞったことを思い出すと、何故なのか身体が火照ってしまう。だってドキドキした。

自分を見る目の鋭さが肉食の獣みたいで、いつもの銀さんじゃないみたいで、すごく怖くて……すごくドキドキした。

「(たぶんあのまま神楽ちゃんが帰って来なかったら、銀さんに流されて……さ、最後までさせちゃったんだろうな。僕のばか。ばかばかばか!本当に堪え性のない……)」

一人で膝を抱えて、内心できゃあああってなってる、内心ではゴロゴロ転げまわる勢いの新八くん(クッソかわいい)。でもね、そうやって恥じらう一方で、

「(銀さん……もうずっと前から僕のことしか考えてないって言ってた。それはどういうことだろう。もしかして……)」

と、期待とときめきに胸を高鳴らせてしまう乙女新八くん。それでも悩む。あのまま流されて銀さんに奪われたかった気持ちと、何とか踏みとどまれて良かったと思う気持ちが半々ずつ自分の中にあって、そのどっちつかずの気持ちには心底悩んじゃう乙女なのです。乙女心は千々に乱れております。

そしたらね、スッと土手に差し込む影がある。そうやって体育座りで悶々としてる新八くんの後姿を認めて、すいと近付いてきた男がある。煙管をふかして、悠々と。

「……よォ。てめえは何してんだ、こんな所で」


って晋助!やっぱりこんな時は来てくれるよね、ありがとう大好きだ!(晋助が来ると一気にお前の主観が)



*続く*