朝食の席は、穏やかだった。
いや、好奇心や不安を、気遣いのオブラートで包んだ穏やかさだったから、穏便といったほうが近い。
食事のはじめに、月の国のプリンス・シェイドは言ったのだ。
昨晩の事件は、いま極秘に調査しているから、どうか解決までいましばらく待ってほしい、と。
行儀の良いふしぎ星のプリンス・プリンセス達は、それでその件については何一つ質問しなくなった。
代わりに、楽しい話題ばかりを持ちだして、朝食の席を華やがせた。
ファインだけが、笑顔を忘れたようにそこに座っていた。
もちろん、食事は美味しい。
本当に。
こんがりと焼き上がり、表面に粉がかかったようなプチパンは、優しい味がしてとても気に入った。レインの勧めもあり、ついついお代わりをしてしまう。
けれど、それだって、楽しい気持ちで笑うまでのパワーにはならない。
一方、シェイドは笑っていた。
目の下にうっすらとクマが見えるが、それでもアウラーやティオ達の愉快な話に興味津々と言った様子だった。
この席で、唯一、ファインの気持ちが揺れたのは、最後のお茶をいただいた時だった。
カップから漂う香を感じた瞬間、胸がドキリとした。
エクリプスの香りがする。
なぜかハッキリとそう思えた。
カップに口をつける。
静かな月明かりの香り。でも、どこか気持ちが高鳴ってくる、不思議な香り。
鼻の奥が勝手にツンとして、涙が出そうになった。
プリンス・ブライトがこのお茶を、とても素敵だと言った。彼はとてもお茶に詳しい。
「ハーブティーだね。この香り、初めてだよ。味も少し酸味があっていいね。とても美味しい」
「よかった」
シェイドが微笑んだ。
「このハーブは、僕が作った品種なんだ。城のハーブ園で育てた。自分でもお気に入りなんだ」
そう言った彼の顔が、少し照れくさそうに一瞬緩んだ。
その一瞬の笑みだけが、プリンス・シェイドの本当の笑顔だ、とファインは感じた。
朝食が終わった。
それぞれが部屋に戻る中、ファインはシェイドに呼び止められた。
「大変申し訳ないのですが、10時に応接間に来ていただいてもいいですか?」
もちろん、食事は美味しい。
本当に。
こんがりと焼き上がり、表面に粉がかかったようなプチパンは、優しい味がしてとても気に入った。レインの勧めもあり、ついついお代わりをしてしまう。
けれど、それだって、楽しい気持ちで笑うまでのパワーにはならない。
一方、シェイドは笑っていた。
目の下にうっすらとクマが見えるが、それでもアウラーやティオ達の愉快な話に興味津々と言った様子だった。
この席で、唯一、ファインの気持ちが揺れたのは、最後のお茶をいただいた時だった。
カップから漂う香を感じた瞬間、胸がドキリとした。
エクリプスの香りがする。
なぜかハッキリとそう思えた。
カップに口をつける。
静かな月明かりの香り。でも、どこか気持ちが高鳴ってくる、不思議な香り。
鼻の奥が勝手にツンとして、涙が出そうになった。
プリンス・ブライトがこのお茶を、とても素敵だと言った。彼はとてもお茶に詳しい。
「ハーブティーだね。この香り、初めてだよ。味も少し酸味があっていいね。とても美味しい」
「よかった」
シェイドが微笑んだ。
「このハーブは、僕が作った品種なんだ。城のハーブ園で育てた。自分でもお気に入りなんだ」
そう言った彼の顔が、少し照れくさそうに一瞬緩んだ。
その一瞬の笑みだけが、プリンス・シェイドの本当の笑顔だ、とファインは感じた。
朝食が終わった。
それぞれが部屋に戻る中、ファインはシェイドに呼び止められた。
「大変申し訳ないのですが、10時に応接間に来ていただいてもいいですか?」