テロルはヒートアップする二人にデコピンを食らわせた。ミーナが額を擦り、リャオが卓に沈む。
「……なんかオレの方だけ威力乗せてないかヨー?」
突っ伏した体勢のままぼそぼそ呻く。
「あんたはちょっと悪ノリしすぎなのよ。……おかげでミーナの気晴らしにはなったみたいだけど」
ミーナに聞こえないように囁くと、リャオは倒れたまま軽く手を振った。テロルは細く息を吐く。
「でも筋肉がカッコイイって言ったのは本気ヨー」
「うわ台無し」
サイードが堪り兼ねたように吹き出した。
「なんにせよ、主役のお帰りだわ」
酒場の扉を開くケトルの姿を認め、ミーナが足早にそちらへ向かった。
「たかだか鎧の新調に出掛けてただけなのに、ミーナは大袈裟ヨー」
「まるで、新婚の、ようだ」
「それ聞いたらまたミーナが騒ぎ出すからやめてよね……」
テロルが若干青ざめていることにも気付かずに、渦中の二人は立ち話に興じている。
ケトルの所作の節々にはミーナへの気遣いが感じられた。脈が無いわけではないのだろう。それを見て取り、テロルは思いっきり顔をしかめた。
「ほーんと、さっさと告白でもなんでもすりゃあいいのにね」