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日隠しと山神の夢


日隠しの布を巻く日だった。
窓からの明かりが薄暗く、外を覗けば日隠しの布が高い位置までかかっていた。

わたしは山神の嫁になる日だった。
山神を捉えた、と町の衆が集まってきた。山神だと召し出されたのはトシヤだった。トシヤは顔を青くして俺は山神じゃないと否定した。
そう、トシヤが山神なわけがない。トシヤはわたしより遥かに背が高く、山神ではない。
サトアキだ、サトアキが俺を置き去ったんだ、とトシヤが叫ぶ。わたしもトシヤは山神ではないと言い張った。
しかし仮婿としてトシヤとの婚礼の宴が催されることになった。
日隠しの布が明かりを遮る中、トシヤがわたしの隣に座った。
サトアキが山神だと、俺は思うんだ。
わたしもサトアキが山神と考えていた。あの日会った山神との相似点がサトアキには多い。
だけれどもサトアキはいなくなってしまった。
わたしが山神の嫁になることを知っていて、トシヤに山神を預け姿を消した。
トシヤはわたしを気遣い、嫁にもらうのは構わないという。山神にはなれないとは言うが。
そのとき白酒が運ばれてきた。婿を出す家は白酒を振る舞うのが慣例だった。ひとくち含み、トシヤが言う。これは俺のうちの酒じゃない。
わたしは思わず立ち上がり、姿を探した。上座はからのまま、日隠しの布はすっかり家を覆ったままだった。
サトアキ。
回された腕にわたしは呟いた。サトアキはごめん、と囁いた。山神だと知られることを恐れていたんだ。
そんなの、とわたしは思う。関係ないんだ、サトアキが山神とか山神じゃないとかではなく。

わたしはサトアキと一緒にいたかった。

回された腕に力がこもり、近い視線が絡んだ。小さな山神はゆっくりと、しかし確かに俺の嫁、と囁いた。
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