熊が出るかもしれないから山道は騒がしく行く。けもの道には木の実がなっている。食べられるの?
仲間はひとり、またひとりと消えて行く。アレを喚び出すためのニエなのか、それとも裏切りなのか。反旗を翻されてもこちらの負けはない。アレに対抗できる存在は自分ひとりなのだから。
甘えたい、甘えよう。案内人のひとりに我が儘を言うけれど、全てが叶えられるわけじゃない。私は全能じゃないもの。
だってこの通り、お腹がへった。
お腹空いたーっ、と心底思って目が覚めた。朝メシはがっつり食ってやったぜ。
寒ーい。
寒ーい。
春だー、って気候だったのに、雨は嬉しいが冷たい。
雨の日は少ないから降るのはいいけど土に水貯まらないよ。
ブログ内の検索機能を使って旅人証についてを探したがこの日以外の書き込みはないようだった。サーチエンジンで検索もかけてみるがざっと見た限り関係のあるサイトは引っかかってこない。友人と交わしたメールに旅人証という話題があっただろうか、少なくとも記憶にはなかった。なんだってこいつはよくわからないものばかりに手を出すのだろう。会ったこともない友人の想像はきつねかひょっとこの面を被っている姿だ。職業が縁日の目かずら売りだとしても驚かない。薬の行商人のほうがしっくりくるが、何であれ友人はそんなものだ。そのうち連絡はくるだろう。
そう考え接続を切ったところに着信がきた。確認するとまたもや知らないメールアドレスだったが件名が付いていた。
【件名:旅人証についてお伺いします
本文:アドレス xxxx の友人です。
突然メールしてごめんなさい。
旅人証について何かご存知ではないでしょうか。】
おばさんが一度顔を出し、ちらっと確認するとまた引っ込んだ。
お茶淹れるわね、と言い残していったので次に顔を見せるときにはくだんの和菓子を出してくれるだろう。頂きものかはわからないけれど、段取りの良さはおばさんの強みだ。
おばさんはカレンダーの旅人証という文字に気がつかなかったのだろうか。一度は部屋に入っているに違いないのだけれど、手掛かりは見て見ぬふりをしているのかもしれない。
携帯を取り出しメールを再確認する。【旅人証を受け取りに行ってきます。】本文はその一行だけ、絵文字も何もない。アドレスは数字の羅列で、誕生日と自宅の電話番号を組み合わせたらしい。個人情報だだもれじゃないか、と思ったが友人のメールアドレスを知る人など数少ない。
とりあえず、友人名義で登録しようと受信画面からアドレス表示へと移動したところでおや、と気づいた。Cc.でアドレスがもう一つある。名前が表示されないので私の知っているものではない。
さて、と私は友人のベッドに座った。どうやら手掛かりにたどり着いてしまったらしい。おばさんに伝えるつもりはないが、一週間の音信不通は気にはなる。事件に巻き込まれていないとは言い切れない。いくら男勝りでも友人は年頃の女なのだ。
おばさんは決して警察に相談はしないだろうし、このアドレスの人物が旅人証について何か知っているのならば、連絡をとるくらいはしてもいいだろう。
私はメールアドレスから新規メールを開き、ゆっくりとメールを打ち始めた。私はどうしても友人のようにメールの早打ちが出来ないので内容は簡潔にした。
【件名:旅人証についてお伺いします
本文:アドレス xxxx の友人です。
突然メールしてごめんなさい。
旅人証について何かご存知ではないでしょうか。】